Semua Bab あなたの「愛してる」なんてもういらない: Bab 211 - Bab 220

273 Bab

211話

◇ 深夜。 ロッジ内は静まり返っていて、外も静かだ。 今は冬。夏と違い、虫の声も聞こえない。 「──変な時間に、目が覚めちゃった……」 私はぱちり、と目を開けると周囲を見回す。 ロッジは広く、人数分のベッドがきちんと揃っている。 お父様とお祖父様は、寝酒に飲んだ1杯のアルコールが良く効いているのか、すうすうと深い眠りに落ちているようで、私が起きた事にも気付く気配が無い。 そして、離れた場所で眠る苓さんと、苓さんのお兄様のベッドに視線を移した。 苓さんも、苓さんのお兄様──圭吾さんも、身長が高いから小さめのベッドはとても窮屈そう。 だけど、圭吾さんはぐっすり眠っているようで、身動ぎ1つしない。 私は変に冴えてしまったので、少し外でも散歩をしようか、と思って防寒着を羽織り、そっと静かにベッドから降りた。 「──茉莉花さん?どうしたんですか……?」 「苓さん」 どうしよう、私の身動ぎした音で、起こしてしまっただろうか。 私が慌てて苓さんの傍に向かうと、苓さんは寝起き独特のとろんとした目で、私を見つめている。 私は、他の皆を起こさないように小声で苓さんに告げる。 「目が冴えちゃったので、少しだけ外を散歩して来ますね?」 「──うん……、うん?」 とろり、とした苓さんの甘い声が、私の言葉を聞いた後、普段の芯のある声に変わる。 そして、バチリと目を開けた苓さんは、慌てたようにベッドから起き上がった。 「1人で外に出るなんて、危険です。俺も着いて行きますから、待ってください」 「──えっ、でも悪いです。すぐ近くを歩くだけなので、苓さんは気にせず──」 「参加している人達の素性は分かっていても、女性1人で外に出るのは危険です。それに、外は暗いんですから何かあったら大変です」 「苓さん──」 苓さんは、小声で話しつつ、防寒着を羽織るとベッドから降りた。 そして、私の手をしっかりと握ると笑って見せる。 「それに……深夜の散歩って何だか特別な感じがしませんか?俺と深夜のデートをしましょう」 少し悪戯っぽく笑う苓さんが、とても格好良くて。 私の胸はきゅんっと高鳴った。 手を繋いで、外に出る。 外に出ると、こんな時間だしもう殆どの人が寝ているのだろう、と思っていたけど意外とまだ起きている人も多いらしい。 設営されたテントから
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212話

ゆっくり、寝ている人達を起こしてしまわないよう注意しながら少し離れた場所までやってきた私たち。 開けた広場のような場所には、いくつかベンチが設置されていて。 そこには私と苓さんのように深夜の散歩を楽しんでいる男女が座っておしゃべりをしていた。 「茉莉花さん、俺たちも座りましょうか?あまりロッジから離れるのも危ないですしね」 「そうですね。周囲も暗いから、そうしましょう」 ライトは持って来ているけど、あまり離れた場所に行くのは危険だ。 足元が暗くて見え辛いため、急に目の前が崖になっている場合もある。 足を踏み外してしまえば、命の危険もあるのだ。 私と苓さんは手を繋いだままベンチに座り、薄暗いから、と少しだけ体を寄せあった。 苓さんと触れている箇所が、ぽかぽかと暖かくて。 「──ふふっ、何だか特別な感じがしますね」 「ええ。俺も、こんな体験が出来て嬉しいです」 苓さんが優しく笑いかけてくれる。 笑い合っていると、苓さんがふと笑みを消して顔を近づけた。 「苓さ──んっ」 一瞬だけ触れた苓さんの唇。 掠め取るようなキスに、私の顔は見る見るうちに真っ赤になってしまう。 こ、こんな場所で……! 誰が見ているか分からないのに! 私が自分の口を手で押さえてじとっとした目を向けると、苓さんは「降参」と言うように両手を胸の前に上げてみせた。 「すみません。……だけど、辺りは暗いですし、周囲にはあまり良く見えていないと思いますよ」 「だ、だけど……っ」 「それに、ここにいる人達も俺と茉莉花さんのようにキスしてる人達も居ますし」 「──えっ」 苓さんの言葉に、私はぎょっとして周囲を確認しようとした。 だけど、苓さんが慌てたように私の顔を手のひらで覆い、固定してしまう。 「見ないであげたほうが……。俺たちも、他の人に見られたら恥ずかしいでしょう?」 「そ、そうですね……周囲は気にしないようにします」 確かに苓さんの言う通りだ。 私は苓さんの手に自分の手を重ねて、苦笑い混じりに答える。 あまり不躾にじろじろと観察するものでも無い。 「外に長居して、風邪を引いてしまったら大変ですし、少ししたら中に戻りましょう」 「そうですね。気分転換も出来ました。苓さん、ありがとうございます」 「とんでもない。俺も茉莉花さんと深夜のデートが出
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213話

翌朝。 昨夜、苓さんと深夜のお散歩から帰った私は、その後すぐに睡魔がやって来て、ぐっすりと眠った。 私が目を覚ますと、お父様もお祖父様も既に起きていて。 音を立てないよう、静かに出発の準備をしていた。 私が起きた事に気付いたのだろう。 お祖父様がにこやかな笑顔で近づいて来る。 「茉莉花、おはよう。良く眠れたか?疲れていないか?」 「お祖父様、おはようございます。しっかり眠れました!疲れも大丈夫です」 「そうかそうか、それは良かった。わしらは一足先にロッジを出ようと思っている。茉莉花は苓と一緒だろう?もう少しゆっくりしてから出発しなさい」 「分かりました。お祖父様も無理はしないでくださいね?足元をしっかり見て、疲れたらこまめに休憩を取って下さい」 「はははっ、茉莉花も祖母さんにそっくりだ!分かったよ、怪我をしないよう、気をつけて上るからな」 お祖父様は笑いながら、くしゃりと私の頭を撫でて、お父様と一緒に先にロッジを出て行った。 これから先は、ルートも険しくなる。 お父様も、お祖父様も。どうか怪我なく無事に登頂出来ますように。 私はそう願いつつ、苓さんが起きるのを待った。 ◇ 「藤堂さん。苓はまだ起きないみたいだね。俺も一足先に出発するよ」 あれから少しして、苓さんのお兄様圭吾さんが起きて。 まだ眠っている苓さんを起こしてしまわないように静かに出発の準備をしていた。 そして、準備が整うと、圭吾さんはリュックを背負い、先に出発する旨を伝えてくれた。 「分かりました。ここから険しくなるので、お兄様も気をつけてくださいね」 「ああ、ありがとう。藤堂さんも気をつけてくれ。……それと、苓は低血圧で朝が弱いから……迷惑をかけたらすまない」 「──えっ、そうなんですか?」 私が驚いていると、圭吾さんは苦笑いを浮かべて頷いた後、迎えに来たお友達と合流してロッジを出て行った。 苓さんと2人だけ残されたロッジ。 私は、自分も出発の準備をゆっくりとしつつ、周囲の様子も確認した。 早朝にお父様とお祖父様は先に出発して。 そして、その少し後に圭吾さんも出発した。 他のロッジに泊まっている人達の半数は、もう出発しているようだった。 だけど、まだ寝ていて、ゆっくり目の人もいる。 同様に、外のテント泊をしていた人達も、ゆっくり起きて準備を
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214話

ぽすんっ、と苓さんの寝ているベッドに倒れ込んでしまった。 だけど、私の腕を掴んでいた苓さんの腕が、今は私の腰を両腕でしっかりと抱き込み、ぎゅうぎゅうと抱きしめられる。 「れ、苓さん……っ、起きてくださいっ」 「んー……茉莉花さん、いい香りがする……」 「──ひっ」 すり、と苓さんの鼻先が私の首筋に撫でるように触れた。 ぞわぞわとした感覚が私の背筋に走り、私の体がぴくりと跳ねてしまう。 私の腰に回っていた苓さんの手が、若干不埒な動きをしている。 このままだと、流石に不味い事になってしまう──。 私は、顔を真っ赤に染めつつ、苓さんをぺちぺちと片手で叩いた。 「苓さん、苓さんっ!もう私たちが最後ですよ、 起きてくださいっ」 「──うん……?最後……」 ふにゃり、と蕩けていた苓さんの声。 その声が返ってきた数瞬後。 苓さんがぱちり、と目を開いた。 ようやく苓さんが起きてくれた──。 そう思って、ほっとしたのも束の間。 私の視界がぐるり、と反転した。 「──ひゃっ」 「おはようございます、茉莉花さん」 いつの間にか、下にいたはずの苓さんが私に覆い被さるようにしていて。 私の顔の横に、苓さんの逞しくて筋張った腕がある。 ベッドに押し倒されている──。 そう理解した瞬間、私の顔は真っ赤になってしまった。 「れ、苓さんっ!」 「朝から茉莉花さんに起こしてもらうのって、こんなに幸せなんですね」 にっこりと笑みを浮かべた苓さんが、本当に嬉しそうで。 もうしっかりと目が覚めているのだろう。 私は苓さんの胸に手を当てて、離れてくれるようにぐっと押した。 けど、苓さんは離れる気配がなくて。 逆に、肘をベッドに着いて私と距離を縮めた。 「ちょ、ちょっと苓さん……っ!」 「キス1回だけさせて下さい、茉莉花さん」 苓さんはそれだけを言うと、私の返事を聞く事なく、そのまま唇を重ねた。 1回だけって言っていたから、軽く唇を合わせるだけだと思ったのに──。 「──んっ!んうぅっ!」 苓さんの唇は噛み付くように私の唇を塞ぎ、驚いて開いてしまった私の唇の隙間からするり、と苓さんの舌が入り込んだ。 私がびっくりして強く苓さんの胸を叩いても、全然離れてくれなくて。 それからたっぷり数十秒。 苓さんに翻弄されてしまった私は、苓さん
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215話

◇ 「まさか、苓さんがあんなに朝に弱いとは思いませんでした」 「すみません。昔から朝は弱くて。中々目が覚めないんですよね。ああ、でも……今日みたいに茉莉花さんが起こしてくれたら、すんなり起きれそうです」 「……毎回あんな風にキスされたら、私の体がもたないのでお断りします」 「ええ……。茉莉花さんは、寝室は別々がいい派ですか?俺は一緒のベッドで眠りたい派ですよ」 にこにこと楽しそうに笑みを浮かべつつ告げる苓さんを、私はじとりとした目で見つめたあと、軽く小突いた。 出発の準備が整った私たちがロッジを後にしたのは、それから小一時間程経ってからだった。 ◇ 外に出て、登山を再開した私たち。 昨日の晴天は嘘のように、今日の天候はとても悪かった。 私は空を見上げつつ、苓さんに話す。 「──天気があまり良くないですね。雨が降り出したら、危険です。天気が崩れたら、無理はせずに登頂を諦めましょう」 私の言葉に、苓さんも空を見上げつつ頷く。 「そうですね……。山の天気は変わりやすいって聞きます。俺は登山に慣れていないので、茉莉花さんの判断に従います」 「ありがとうございます、苓さん」 私も、登山のプロと言うほどでは無い。 だけど、登山に慣れていない苓さんより、ほんの少しだけ慣れている。 私の判断に任せる、と言ってくれた苓さんにほっと安心する。 登頂を目前にしながら、諦めるなんて事は普通ならばしたくないだろう。 富士山の山頂から臨む景色は、とても雄大で厳かで。 綺麗なものだから。 だけど、そう言った感情に流されず、危険な時は全面的に私の判断を優先して、従うと言ってくれた苓さん。 彼の心の広さと、状況判断の正確性に感謝した。 苓さんは、登山ルートを見上げつつ、どこか不安そうに呟いた。 「藤堂会長と、藤堂社長も……大丈夫ですよね」 「お祖父様とお父様ですか?」 苓さんが2人の心配をしてくれているとは──。 私は苓さんに安心してもらいたくて、笑みを浮かべつつ答えた。 「心配して下さって、ありがとうございます。お祖父様とお父様は、私より登山経験があるベテランですから!」 苓さんに安心して欲しくて、私は続ける。 「私よりも状況判断能力が高いし、判断が早いので、天気が崩れたらすぐに登山を中止すると思います」 私が笑顔で伝えると、そこで
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216話

「ああ……危惧していた通りの事が起きちゃいましたね……」 私は、雨粒が地面にぽつぽつと落ち、黒い染みが出来ていくのを見下ろした。 「ええ……こんな降り出しが早いとは」 苓さんも残念そうに空を見上げ、手のひらに落ちる雨を見て眉を下げている。 次第に雨足が強くなってきて、私と苓さんは焦り過ぎないよう、足元に注意しながら開けた場所まで移動した。 そこで、リュックの中に入れていた雨具を取り出し、急いで羽織る。 折りたたみ傘も取り出すと、苓さんと一緒に一本の傘に入った。 周囲には、私たちと同じように一時的に雨宿りのために開けた場所に避難して来た人が多い。 「茉莉花さん、この後、どうしますか?」 苓さんの言葉に、私は悩む。 「……この先は、足場も悪くなります。雨で滑りやすくなっているので、滑落の危険性も上がりますね……。この雨が一時的なものじゃなくて、暫く振り続けるようだったら、中止しましょう」 私の言葉に、苓さんは「分かりました」とすぐに頷いてくれる。 5分、10分と。 苓さんとお喋りをしながら雨の振り方を確認していた。 雨は弱まる事もなく。 そして、止んでくれる事もない。 それどころか、雨足は次第に強くなっていく一方で。 私は苓さんを見上げ「中止にしましょう」と声をかけようとした。 その時──。 「茉莉花、小鳥遊部長。涼子を見なかったか?」 些か息を荒らげ、この開けたスペースに、御影さんがやって来た。 ◇ 御影さんは、激しく雨に降られたのだろう。 雨具を着込んでいたが、それでも強い雨に、髪の毛や顔はびっしょりと濡れてしまっていた。 髪の毛を乱雑にかきあげながら、御影さんは私たちの周囲を見回している。 「涼子──?涼子がいないんですか?」 「ああ。取引先の社長と立ち話をしていたんだが……話を終えて、涼子が待っている場所に戻ったら、居なかったんだ。……茉莉花の所にでも来ているんじゃないか、と思ったんだが……」 「残念ながら、涼子の姿は見ていないです……。苓さんは見かけました?」 私の問いに、苓さんも首を横に振って「見ていない」と御影さんに言葉を返す。 御影さんは、急にどこかに行ってしまった涼子に苛立ちを覚えているのか、イライラとしながら溜息を吐き出した。 「くそっ、勝手に行動するな、と言っておいたのに……。どこをふ
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217話

「矢田主任。奇遇ですね」 こんな所で会うなんて。 矢田主任達は朝早くに出発していなかったんだ、と考える。 矢田主任は、私と苓さんの傍に御影さんが居る事に気付き、慌てて挨拶を口にした。 「あっ、御影専務もご一緒だったんですね!?大変失礼しました!」 「いや……構わない」 矢田主任の言葉に、御影さんは愛想笑いを浮かべつつ頷いた。 御影さんはそわそわとしているようで、この場に涼子がいないから探しに出たいように見える。 だけど、事情を知らない矢田主任は、私に向かって話を続ける。 「それにしても本部長。まさかこんな風に天候が崩れるとは思いませんでした……。せっかくの富士登山なのに……。このまま登山を続けるのは危ないですよね?」 「ええ、そうですね。矢田主任が言う通り、このまま登山を続けるのは危ないです。登山上級者ならともかく……初心者ばかりですよね?」 「ええ……そうなんです……」 「だったら、無理は禁物です。滑落の危険もありますし、下山しましょう」 そこまで話しつつ、私は周囲にいるメンバーに顔を向けた。 そこであれ、と気づく。 矢田主任と普段行動を共にしている志木チーム長がいない事に気付いた。 私が不思議に思っていると、私の変化に気付いた苓さんが「どうしました?」と声をかけてくれる。 「ええ……いつも一緒に居る志木チーム長が見当たらないな、と思って……。矢田主任、今日は彼と別行動なんですか?」 私が矢田主任に聞くと、彼女はぎょっとしたように目を丸くした。 「え!?さっきまで一緒に居たんです!あれ!?志木チーム長!?」 「どこまで一緒だったか覚えていますか?」 矢田主任の顔色の悪さに、私も落ち着かなくなってし
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218話

ぐしぐし、と泣いている涼子は怪我をしているのだろう。 しきりに「足が痛い」「歩けない」と御影さんに訴えている声が聞こえる。 「痛い、と言ってもな……。下山は自力でしてもらわないと困る。担いでなんて行けないぞ?」 「うっ、うぅ〜、直寛ぉ……」 それだけ痛みが酷いのだろうか。 だけど、涼子の足を見てみても、凄く腫れているようには見えない。 志木チーム長と一緒に歩いて来た事を見ると、骨折もしていないだろう、と言う事が分かる。 「下山するにも、多少の痛みは我慢して歩いてくれ、涼子」 「うぅっ、痛い……、のに……こんな痛いんじゃあ、歩けないわ……」 涙声で訴える涼子の声を聞いたのだろうか。 ここは、雨宿りで一時的に人が多かった。 そのため、周囲に涼子を心配して人が集まってくる。 「こんなに痛そうにしているのに、歩かせるのは可哀想だ」 「確か、救助隊がいたはずだろう?」 「各ポイント毎に配置されていたはずだ」 「救助隊を呼んであげよう」 そんな風に話し、スマホで救助隊を手配しようとし始める周囲の人々に、私は慌てて口を開いた。 「ちょ、ちょっと待って──」 軽い怪我で、救助隊を手配するなんて。 もし、万が一。もっと大きな事故が発生したら彼らの初動が遅くなってしまう。 実際、涼子は先程まで自分の足で歩けていたのだ。 だから救助隊を呼ぶ必要は無い。 そう言って止めようとした私の声は、あっさりと他の男性の言葉にかき消されてしまった。 「繋がりました!すぐに対応してくれるみたいですよ、安心してください、お嬢さん!」 「うっ、うぅ……ありがとうございます……っ」
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219話

私用スマホが鳴るなんて、珍しい──。 そう思って、私がスマホを取り出すと。 そこに表示されていた名前に、更に目を見開いた。 「──お父様?」 「えっ?」 私の呟きに、苓さんも驚いたように私の顔を見る。 どうしたのだろうか。 今はお父様もお祖父様と一緒に登っているはず。 雨が降ってきた事で、私達が気になったんだろうか──。 そう、疑問に思いつつ、私はお父様の着信に答えた。 「もしもし、お父様ですか?」 〈茉莉花か……。──……っ〉 「もしもし?もしもし?」 お父様は、私の名前を呼んだきり、押し黙ってしまう。 お父様の周囲から、人の叫び声や慌ただしい足音が聞こえてきて、私は眉を顰めた。 「お父様、周囲が騒がしいですが……何かあったのですか?」 私は隣に居る苓さんについつい顔を向けてしまう。 お父様は、いつもハキハキとしていて。 言葉に詰まる事も、言い淀む事も無い。 それなのに、お父様は私の名前を呼んだきり、黙り込んでしまって。 お父様の周囲から聞こえるざわめく声が、何だか不安を煽った。 私の様子がおかしい、と気付いたのだろう。 苓さんが「茉莉花さん?」と小さく声をかけてくれて、私の手を握ってくれる。 御影さんも何かを感じたのか、怪訝そうな顔で私の様子を見つめ、その場に立ち止まったままだ。 〈──茉莉花〉 「はいっ、お父様!どうかされたんですか?」 お父様が私の名前をもう一度呼ぶ。 私はお父様の声に答え、訪ねた。 私と手を繋いでくれている苓さんの手を少し引っ張ると、私の意図を汲み取ってくれた苓さんが少し身を屈め、近付いてくる。 私は、お父様との通話が苓さんにも聞こえるようにスマホの位置を調整しながら、お父様の言葉を待つ。 すると、スマホの向こう側からお父様の深呼吸するような音が聞こえて。 〈茉莉花……落ち着いて、聞いてくれ……〉 「は、はい……」 〈──父が、……っ、お祖父様が……滑落した……〉 「ぇ……」 〈今、捜索中なんだが……。救助隊が出払っていて、すぐに救助にあたれない──〉 お父様の声が、聞こえているはずはのに。 それなのに上手く言葉の内容が理解できない。 それどころか、耳元のスマホからお父様の声が聞こえているはずなのに、どんどんお父様の声が遠くなっていくような気がして──。 「茉
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220話

「──はい、はい。今、そちらはそう言う状況なんですね……?」 苓さんの、落ち着いた低い声が聞こえる。 苓さんは、私からスマホを受け取り、お父様と話をしてくれている。 私たちは、下山をしようとしていた。 だから開けた場所の入口付近に居たのだけど、苓さんが電話をしつつ、私を支えたまま場所を移動したのだ。 私が座れるような場所に移動した苓さんは、私を手頃なベンチに座らせると、私と手を握ったままお父様と話を続けてくれていた。 「分かりました。……今から、茉莉花さんとそちらに向かいます。ええ、はい。大丈夫です。では、失礼します」 苓さんはそう言うとお父様との通話を終えた。 苓さんからスマホを戻されたけど、私の手は震えてしまっていて。 取り乱した状態の私を見て、苓さんは私のスマホを預かっていても大丈夫か聞いてくれて。 私が頷くと、苓さんは私のスマホを自分の服にしまった。 「ま、茉莉花?それに、小鳥遊……どうした?何があった……?」 御影さんの言葉に、苓さんが答えてくれた。 「御影専務。……速水さんは下山しましたけど、御影専務は彼女についてあげなくていいんですか?」 「……涼子には救助隊が着いているだろう。彼女も子供じゃない。1人で帰るくらい出来るだろう」 「──はっ、随分と冷たい事を言うんですね?彼女は御影専務の婚約者でしょう?」 「……正式に涼子との婚約を発表した訳じゃない。まだ、ただの恋人ってだけだ。……それより、小鳥遊。茉莉花のお父様──藤堂社長からは何の用で連絡があった?」 御影さんは、苓さんに支えられている私をちらりと見て、苓さんに視線を戻した。 「茉莉花がこんな状態になるって事は、相当な理由があるだろう。……もしかして、社長がお怪我をしたのか?」 「……あなたには、関係ない」 苓さんは御影さんに冷たい視線と言葉を浴びせると、私に顔を向けた。 苓さんの表情は、いつも通り優しい。 「茉莉花さん、歩けそうですか?茉莉花さんのお父様達も、少し登った所で休憩をされていたそうです。雨が降っていて足場は悪いですけど、茉莉花さんはお父様と合流した方がいいです」 「苓、さん……。お祖父様は……」 「今はまだ、救助隊が到着するのを待っている状態らしいです……」 「わ、分かりました……お父様に合流して……お祖父様を待たないと……」
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