All Chapters of あなたの「愛してる」なんてもういらない: Chapter 221 - Chapter 230

273 Chapters

221話

ざあざあ、と雨の勢いは増している。 下山した方が絶対に良い天候だ。 だけど、お父様の話を聞いて下山なんて出来るはずがない。 私は、苓さんと一緒にゆっくりと、だけど着実に先を進む。 お父様達が休憩していた場所から、本当にそれ程離れていなかった事が幸いした。 歩き始めて、20分。 20分程で、お父様と。お祖父様と一緒に登っていた人達数人の姿が確認出来た。 「──お父様!」 雨の音に掻き消されてしまって、私の声はお父様には届いていないのだろう。 私は、ふらつく体を苓さんに支えてもらいながらお父様達へと近付く。 「お父様っ!」 「──茉莉花!?それに、小鳥遊くんも一緒か!」 私の声がようやくお父様に届き、お父様が顔をこちらに向ける。 「2人とも、無事で良かっ──」 お父様は私と苓さんの姿を見て、怪我が無い事を確認したのだろう。 ほっと安心したような表情を浮かべる。 けれど、私と苓さんの後ろに御影さんの姿がある事を確認して、顔を顰めた。 「どうして彼が茉莉花と一緒に居る?」 お父様の視線が、まるで射るように鋭く冷たく細められる。 御影さんに問う声も低く、重い。 私と苓さんの後ろを着いて歩いていた御影さんは、びくりと肩を震わせた。 そして、気まずそうにお父様から視線を逸らしつつ言葉を返す。 「──いえ、たまたま……お会いしまして……」 「──そうか。これ以上は茉莉花に着いて来なくて結構だ。……茉莉花に小鳥遊くん。状況を説明する、こっちへ」 「分かりました、お父様……」 「はい、藤堂社長」 御影さんをその場に残し、お父様は私と苓さんを手招いて開けた場所まで誘導した。 ◇ お父様が居た場所には、数人の人が居た。 そこには苓さんのお兄様、圭吾さんの姿もある。 その場に残っていたのは、藤堂の系列会社の社長や、本社の役員などが数名。 皆の顔は真っ青で、疲弊している。 勿論お父様もその例に漏れず、疲弊しているのがひと目で分かった。 だけど、お父様からお祖父様の身に何が起きたのか。 それを説明してもらわないとならない。 私は、震える手を握りしめてお父様に問う。 「それ、で……お父様。お祖父様に一体何が起きたのですか……お祖父様は今、どこに?」 「茉莉花……」 お父様はぐっと辛そうに顔を歪めた後、顔をとある方向に向
last updateLast Updated : 2026-02-01
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222話

「──っ、お祖父様を引き上げる事は、出来ないんですか!?救助、は……っ」 「私たちもすぐに救助隊に連絡した。……だが、1番近い救助隊は既に他の登山者の救助にあたり、不在だった……。今、山頂付近に待機していた救助隊を呼んで、待機している所だ」 「──っ、お祖父様……っ、お祖父様はあの崖から!?」 私は、お父様が先程示した方角に体を向け、走り出そうとした。 「──茉莉花っ!」 だけど、私が駆け出そうとした瞬間、お父様に腕を掴まれ止められてしまった。 「──何故止めるのですか、お父様!お祖父様の近くにっ」 例え、崖下に落下してしまっていても。 私はお祖父様の近くに行きたかった。 私のその気持ちはお父様も分かってくれている筈なのに。 「……辞めておけ。見ない方がいい」 それなのに。 お父様は辛そうなお顔で、私に向かって首を横に振る。 「なっ、何で──」 「お祖父様はお怪我もしている……。それに、雨が激しくなっていて、二次災害が起きる可能性がある。我々のような素人は、崖の近くに行ってはならない。小鳥遊くん、茉莉花をしっかり掴まえておいてくれ」 お父様は苓さんに顔を向けてそう告げる。 苓さんはお父様の言葉に頷いた。 「分かりました、茉莉花さんが危険な目に遭わないよう、私が守ります」 「──ああ、頼む」 お父様は疲労を隠し切れないような表情で、俯くとぼそりと呟いた。 「……茉莉花の母、羽累(はる)があんな事になって……、そこでお祖父様まで……これ以上私たちから家族を奪わないでくれ……」 ぐしゃり、と歪んだお父様の顔と、震える声。 私が声を詰まらせていると、お父様のスマホに電話が掛かってきた。 お父様はスマホの画面に表示された文字を見てはっとすると、苓さんに向かって声をかけた。 「──すまない、小鳥遊くん。茉莉花を頼む。救助隊からだ。少し話してくる」 「分かりました」 苓さんはお父様の言葉に頷く。 お父様は安心したように少し表情を緩めると、私と苓さんから少し離れて電話の応対をしに行った。 どうして、お祖父様が事故に。 お祖父様は登山経験が豊富だ。 天候が崩れても、お祖父様は焦らず慎重に行動をする方なのに。 例え、子供の帽子を拾おうとしても、滑落の危険がある場所へそう簡単に近付く事なんてしない人なのに。 そんな言葉が
last updateLast Updated : 2026-02-01
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223話

◇ それから、どれくらい時間が経っただろうか。 私と苓さんがお父様に合流してから、1時間以上が経って。 ようやく救助隊が到着した。 救助隊によってお祖父様が滑落した崖下から引き上げられた。 すぐにお祖父様は開けた場所で待機していた救急隊員によって応急処置が行われ、ドクターヘリで近くの病院に運ばれた。 ドクターヘリが出動するくらいだ。 お祖父様の容態は芳しくないのかもしれない。 「小鳥遊くん。君も一緒に来てもらってもいいだろうか?茉莉花を支えてやってくれ」 「はい。もちろんです」 お父様と苓さんがそんな事を話していたけど、私はお祖父様の事で気が気じゃなない。 早く病院に駆け付けたかった。 病院への移動の手配。 それと、仕事の調整。 お父様には色々としなければいけない事がある。 私も、お父様を手伝わないといけないのに。 それなのに、頭の中がぐちゃぐちゃで。 藤堂家の跡取りとしてしっかりしなくちゃいけないのに。 こんな風に混乱している場合じゃないのに。 それなのに、頭の中がぐちゃぐちゃで。 「茉莉花さん。社長──お父様が、病院への車を手配して下さいました。車は駐車場に来てくれるみたいです、歩けますか?」 「苓、さん……」 優しく声をかけられて、私は苓さんを見上げる。 私を最大限気遣ってくれているのが、苓さんの表情から。 態度から。仕草から分かって。 私は自分の情けなさに泣きたくなってしまった。 「ごめんなさい……。私が、お父様と話さなきゃいけないのに……っ、全部苓さんに任せて……っ」 「いいんです。こんな時に、無理に冷静になろうとしなくていいんですよ茉莉花さん。茉莉花さんの隣には俺がいます。辛い時は、俺に頼ってくれていいんです」 苓さんの優しい言葉に、視界がぶわりと滲む。 「情けない、とか思わなくていいんです。茉莉花さんが大好きなお祖父様が大怪我をしたんですから、動揺するのは当たり前です」 「で、でもお父様は……っ、お父様だって同じように動揺しているはずなのにっ」 お父様に比べて、私はただ狼狽えるだけでどうしようもない。 お父様と一緒に、お父様の負担を私が背負わなくちゃいけないのに。 「茉莉花さんのお父様は、茉莉花さんより長く藤堂で生きています。……こういった辛い場面も、茉莉花さんより多く経験している。
last updateLast Updated : 2026-02-02
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224話

五合目駐車場に戻ってくると、そこには既にお父様が手配してくれていた病院へ向かう車が到着していた。 「茉莉花さん、お父様は先に行ってくれ、と」 「そうですか。分かりました、先にお祖父様の病院に向かいましょう」 苓さんがスマホを確認しながら私に告げる。 多分、直接お父様と連絡を取り合ってくれているのだろう。 お父様との連絡のやり取りを、全て苓さんに任せてしまっているこの状況が、とても恥ずかしい。 「お父様は、もう少ししたらここに向かうそうです。まだ、救助隊の方と色々やり取りが残っているそうで。病院に着いたら、手続きを任せたい、と。……大丈夫そうですか、茉莉花さん?」 「──大丈夫です。めそめそしていて、すみません。もう、大丈夫です」 「分かりました。では、向かいましょう」 苓さんはそっと気遣うように私の頭を撫でてくれて。 繋いでくれている手を、元気づけるようにぎゅっと握ってくれた。 私は、苓さんの手を握り返して頷いた。 ◇ 茉莉花と苓が駐車場に停まっていた車に乗り込むのを、御影は離れた場所から見つめていた。 彼らに着いて行った御影は、御影の祖父に何が起きたのかを知った。 「確か、藤堂会長は登山上級者だと、昔本で読んだ事がある……。そんな彼が、滑落……?今までこのチャリティー登山では、こんな事故が起きていなかったのに……?」 何かが、御影の中で引っかかる。 顎に手を当て、考え込んでいると茉莉花と苓を乗せた車が駐車場から出て行くのが見えた。 「……俺も、会長の病院を突き止めて行かねば」 御影はスマホを取り出し、電話をかける。 ドクターヘリが向かった病院を調べるよう指示を出し、電話を切った所で御影の名前を呼ぶ声が聞こえた。 「直寛……っ、直寛!心配して来てくれたのね!」 どん、と体に軽い衝撃。 御影は自分の腰に抱きつく女の頭頂部を見て、冷たく目を細めた。 「涼子……足の怪我は大丈夫なのか」 御影の声に、涼子が頬を赤く染めたまま、顔を上げた。 「うん、もう大丈夫。あの時はすっごく痛くて……泣いちゃった。恥ずかしいわ……」 「そんなに痛かったのに、今は走れるんだな」 「えっ?……う、うん。今は、もう……しっかり足首も固定してもらったし……。えっと、もう下山するんだよね?帰ろ?」 「──いや。俺は急ぎの仕事が入った。1人
last updateLast Updated : 2026-02-02
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225話

涼子を置き去りに、御影はぐんぐんと車のスピードを上げる。 先程、置き去りにした涼子をバックミラーで確認した御影は、物凄い形相で御影の車を睨み付ける涼子に背筋がぞっとした。 まるで、あの形相は般若のようだ──。 「あんな恐ろしい女だったとは、な……。茉莉花の清らかさが引き立つ」 幼い頃から涼子に騙されていた御影だったが、1度違和感を覚えてしまえば、涼子の態度には粗が目立った。 涼子はもう御影を騙し切っていると安心しているのだろう。 だからこそ、茉莉花の目の前でわざと怯える際の演技も杜撰だ。 それに、御影が居ない場所では先程のように本来の性格を顕にするのだ。 「……どうにか藤堂家に話をつけて、茉莉花との婚約を考え直してもらわないとならんな……」 御影は、ハンドルを握りながら考え込む。 「藤堂会長を助ける、か……?いや、だが藤堂社長がその辺りはしっかりと手配しているはず……。それなら、どこを突くか……」 だが、それにしても──。 「やはり、小鳥遊が邪魔だな……。あの男さえいなければ、茉莉花を取り戻すのは簡単なのだが……。小鳥遊建設はどうとでも出来るが、本家はうちや藤堂とも肩を並べるくらいの大財閥だ。小鳥遊は三男だから重要なポストにはついていないが……あれを消したら本家が動く……」 どうしたものか、と考えつつ運転をしていた御影のスマホに、着信が入る。 御影が応答すると、調べるように指示をしていた者から茉莉花の祖父が搬送された病院名が告げられた。 「俺もその病院へ一旦向かうか」 御影は、途中でナビをセットし、茉莉花の祖父が入院している病院へ車を走らせた。 ◇ 私と苓さんは、病院の駐車場に到着するなり、急いで車から降りる。 「茉莉花さん、手を……!」 「は、はい!」 苓さんに手を差し出され、私が苓さんの手を握ると、苓さんが走り出す。 苓さんは救急搬入口に向かうなり、すぐに藤堂の名前を出してくれた。 「ただ今緊急手術中です。手術室はあちらのエレベーターで2階に上がっていただき、通路を右に。突き当たりが手術室です」 「──ありがとうございます!行きましょう、茉莉花さん!」 受付から欲しい情報を全て得た苓さんが、私の手を引き、駆け出す。 病院内では走らないように、と怒るような声は今の私たちにはかけられなかった。 エレベーターで
last updateLast Updated : 2026-02-03
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226話

私と苓さんが1番早く到着したのだろう。 手術室前には、私たち2人以外には誰も居なかった。 「……肌寒いですね。茉莉花さんこれを羽織っていて下さい」 苓さんが私を心配してくれて。 着ていた上着を私に羽織らせてくれた。 とても有難いけど、でも苓さんも寒いんじゃあ、と心配になってしまう。 「苓さん、とても有難いですけど……これじゃあ苓さんも風邪を引いちゃいます。私なら大丈夫ですから──」 「いえ、俺も大丈夫です。茉莉花さんは女性なんだから、体を冷やしちゃ駄目ですよ」 苓さんはそう言って微笑むと、上着のチャックをじぃーっと上まで上げてしまう。 「ありがとうございます……苓さんも、寒くなったら遠慮しないで言ってくださいね?」 「ええ、ありがとうございます」 私と苓さんは、不気味なほど静まり返る廊下で、互いに寄り添い合い、自然と手を繋いだ。 私と苓さんが病院に着いて、どれだけの時間が経った頃だろう。 私たちが変わらず廊下で立ち尽くしていると、病院の廊下を慌ただしく駆けて来る音が聞こえた。 「もしかして、お父様……?」 「そうかもしれません」 私と苓さんが後ろを振り向くと、想像していた通り、息を切らせてこちらに走ってくるお父様の姿を確認出来た。 「茉莉花に、小鳥遊くん!」 「お父様!」 「藤堂社長!」 お父様の後には、秘書の上尾さんも居て。 お父様は額を軽く拭いながら言葉を発した。 「お祖父様の……、手術室は、まだ……?」 「はい。私たちが病院に着いてからずっと手術中のままです」 「そうか……相当時間がかかっているのか……」 お父様がぐっと拳を握る。 私と苓さんが手術室のランプを見上げた時。 お父様の秘書の上尾さんがそっと近付いて来た。 「お嬢様に、小鳥遊様。お体が冷えては大変です。上着を……」 「ありがとうございます、上尾さん」 「すみません、ありがとうございます」 上尾さんは、私たちの分の上着を持ってきてくれていた。 彼から手渡された上着を苓さんから借りた上着の上からそのまま羽織る。 苓さんも上尾さんから上着を受け取り、羽織っているのを見てほっとした。 こんな肌寒い廊下だもの。 苓さんが風邪を引いてしまうかも、と心配していたけど、上尾さんのお陰で大丈夫そう。 さっきまで、私と苓さんしかいなかった廊下は
last updateLast Updated : 2026-02-03
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227話

病院の廊下は、重苦しい空気が流れていた。 そんな中、ずっと点灯していた「手術中」のランプが消えた。 「──っ!」 長い長い時間、この廊下に居たような気がする。 ランプが消えた瞬間、私は勢い良く立ち上がる。 私の動きに反応したお父様も、ランプが消えた事に気付き、立ち上がった。 そして、少しして執刀医が手術室の扉から出て来た。 「藤堂帝熾(とうどう ていし)さんのご家族ですね。手術は成功し、一先ず一命を取り留めたものの、油断を許さぬ状況です」 「──先生、ありがとうございます!」 「いいえ。息子さんですね、詳しいお話をいたしますので、こちらへどうぞ」 先生の話を聞き、ほっとする。 お父様は執刀医の先生から詳細を聞くために、別室に移るようで。 「──茉莉花、少し先生から話を聞いてくるよ。待っていてくれ」 お父様から話しかけられ、私は頷いた。 先生の後に続き、お父様が移動する。 歩いて行く背中を見つめていると、手術室の扉が再び開く音がして、ガラガラとベッドが移動する音が聞こえた。 「──お祖父様!」 振り返ると、お祖父様がベッドに寝かされ移動している最中。 私たちの前で一旦ベッドを止めてくれた。 私がお祖父様のベッドに駆け寄ると、苓さんとお父様の秘書の上尾さんも同じようにベッドにやってくる。 お祖父様は、頭を強く打ち付けたのだろう。 頭には厳重に包帯が巻かれ、腕には細い管が何本も繋がっていた。 「──〜っ」 「茉莉花さん」 お祖父様の痛々しい姿に、言葉が出ずその場に崩れ落ちそうになってしまう。 する
last updateLast Updated : 2026-02-04
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228話

気まずそうに私たちからふい、と視線を逸らす御影さん。 どうして、わざわざここに──。 私も、苓さんも。そして上尾さんも御影さんの姿に驚いていた。 だけど、ここで言葉を交わしている時間は無い。 私は、御影さんに軽く頭を下げてからお祖父様を追う。 【特別室】と書かれたプレートが掲げられている個室に、お祖父様のベッドが入って行く。 お祖父様がベッドから個室のベッドに移動され、病院の方にお礼を告げた。 「執刀医の医師からご説明を受けている最中かと思いますが、麻酔が効いていて暫くお目覚めにならないと思います。……また、救助が遅れたため、脳への酸素が一時止まっておりました。油断ならない状況ですので、何かございましたらすぐにコールボタンを押してくださいね」 「──分かりました。ありがとうございます」 私が病院の方に返事をし、頭を下げる。 病室から病院の方が退出し、私たちだけになる。 一時、脳に酸素が行かない状況──。 それは──。 「心肺停止……に、陥っていた、と言う事……?」 お祖父様の心臓が、一瞬だけだとしても。 止まった、と言う事だ。 そんな酷い状況になっていたなんて、と私の視界は再び滲む。 真っ直ぐ立っているのがとても辛くて。 「茉莉花さん。一先ず座ってください」 「そうです、お嬢様。1度お体を休めてください」 苓さんと上尾さんが、私を気遣ってくれる。 そして、苓さんが小さな丸椅子を用意してくれて。 私は有難くその椅子に座らせてもらった。 「苓さんに、上尾さん……取り乱してばかりで本当にすみません……」 「そんな事ないですよ。大切な家族
last updateLast Updated : 2026-02-04
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229話

「失礼する……」 重々しい空気の中、御影さんが呟いて病室に足を踏み入れる。 ベッドに横たわるお祖父様を、御影さんが痛まし気な目で見た。 そして、次に私に顔を向けると、軽く頭を下げてから口を開く。 「藤堂会長の無事を祈る」 「ええ……ありがとうございます」 御影さんの気遣いは、有難く頂く。 それに、お祖父様を気遣ってくれているのは恐らく本心だろうから。 「……藤堂会長に、何が遭って……こんな事になったんだ……?」 御影さんが、ぽつりと呟く。 その言葉に、私は答える事はせずに彼から視線を逸らした。 そんな私の態度が気に入らなかったのかもしれない。 御影さんはむっと不機嫌そうに眉を寄せ、もう1度口を開いた。 「──茉莉花」 「……御影専務」 私を支えてくれていた苓さんが、低い声を発する。 彼は私の肩を抱き寄せたまま、御影さんに顔を向けた。 その表情は驚くほど冷たく、声も冷たい。 「あなたには関係ない事です。……藤堂会長のお体を気遣って下さったのは有難いですが、それだけです。どうぞ退室してください」 苓さんの言葉に、御影さんははっ、と彼を小馬鹿にするように鼻で笑った。 その不遜な態度に、私はむっとする。 「小鳥遊……なぜお前が答える必要がある?お前も俺と同じ部外者だろう。まさか、もう茉莉花の婿気取りか?会長がこんな事になって大変な時にふざけた態度は止めろ」 腕を組み、苓さんを見下すように話す御影さん。 彼の不躾な態度に私が言い返すより早く、違う声が割り込んだ。 「婿気取りじゃなく、彼はもうお祖父様に認められた茉莉花の婚約者。その立場はもう藤堂の婿と言っても過言では無い。それよりも、君のその態度は何だ?君こそ部外者だろう」 「──お父様!」 いつの間に来たのだろう。 お父様は、扉を開けた状態で廊下に立っていた。 そして、苓さんに向かって失礼な事を言う御影さんをぎろり、と睨め付けてきっぱりと御影さんを拒絶した。 お父様の声と、私が「お父様」と呼んだ事に御影さんは焦りを顔に浮かべ、慌てて背後に振り返った。 「と、藤堂社長……!すみません……会長が心配なあまり、生意気な口をききました……」 「私への謝罪は結構だ。苓くんに謝罪したまえ」 「──っ」 御影さんの顔が、屈辱に歪む。 お父様は、苓さんの事を敢えて「苓く
last updateLast Updated : 2026-02-05
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230話

「私の父──藤堂会長への見舞いの言葉は有難く頂くよ。だが、これからは藤堂の家で話をしたい。……君は、部屋を出て行ってもらいたいが、いいか?」 お父様は御影さんに冷たい表情のまま顔を向けると、淡々と告げる。 御影さんも、お父様が戻ってきた以上、これ以上の長居は出来ないと判断したのだろう。 悔しそうに私を一瞥した後、気を取り直すようにため息を1つついてから顔を上げた。 「分かりました。……では、またお見舞いに参ります。本日は、ここで失礼いたします」 「……うむ。気をつけて帰ってくれ」 またお見舞いに来る、と言う御影さんの言葉がひっかかったけれど。 ここでその事について問う必要も無い。 お父様は御影さんに頷いてから、彼が退出するのを見送った。 御影さんが部屋から出て行き、秘書の上尾さんが廊下を確認する。 左右を見て、御影さんが居ない事を確認すると上尾さんはお父様に頷いた。 「社長、彼は帰られたようです」 「そうか、分かったありがとう」 「では、私も外で待機しておりますので、何かあればお呼び下さい」 「ああ、分かった」 上尾さんはそう言うと、私と苓さんに視線を向けてから頷き、病室を後にした。 病室には、私たち3人とベッドで眠るお祖父様だけが残っている。 重い空気の中、私はお父様に向かって口を開いた。 「お父様……、先生は何て言っていたのですか?お祖父様は無事に目を覚ましてくれそうですか?」 「──茉莉花」 お父様は、私の座る丸椅子の前までやってくると、片膝を着いて私の手を握る。 お父様の表情は険しく、硬い──。 「……お祖父様の目が覚める可能性は……半々、だそうだ。……手術が成功したとは言え、重体なのは変わりない。……それに、お年だ。機能も衰えているし……体力も、我々に比べれば無い……。命が助かっただけ、奇跡だ……」 「──っ、そんなに、酷いのですか?重体、だなんて……。もう、お祖父様が目を覚まさない可能性すら、あると言うのですか?」 声が震え、視界が滲む。 まさか、こんな事になるなんて誰が想像しただろうか。 今朝、ロッジを出る時のお祖父様は、あんなに元気だったのに。 登頂を楽しみに、ロッジを出立されたと言うのに──。 私が両手で顔を覆うと、お父様は私の手を握る力を込めた。 「……お祖父様の生きる気持ちの強さは、
last updateLast Updated : 2026-02-05
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