病室に入って、扉を閉める。 窓から差し込む太陽の光に照らされているお母様は、本当にただただ普通に眠っているように見える。 肌色も良く、頬も赤く染まっていて。 今にも目を開けて「茉莉花」と私の名前を呼んでくれそうなお母様だけど。 お母様が私の名前を呼べなくなって、もう随分と長い月日が経っている。 私はゆっくりお母様に歩いて行くと、そっと手を取った。 「お母様、先日お祖父様に苓さんとお付き合いしている事も、報告したんです」 私がお母様に話しかける間、苓さんは優しい瞳で私を真っ直ぐ見つめてくれている。 「お父様も、お祖父様にもご報告出来たし……あとは、お母様がお目覚めになって……そうして下されば……」 苓さんと私は、そう遠くない未来。 結婚するだろう。 その時、お母様の意識も戻ってくれていれば──。 そう願わずには、いられない。 「茉莉花さん……」 苓さんがお母様の手を握る私の手に、そっと自分の手を重ねてくれる。 温かくて、私たちの手をすっぽりと包んでしまう程の大きな苓さんの手のひら。 私は苓さんを見上げて、そっと彼に寄りかかった。 苓さんは躊躇いなく私の肩に手を回すと、私の体を支えてくれた。 「いつか、直接お母様に苓さんの事を紹介したいです……」 「きっと、すぐですよ。茉莉花さんのお母様は、きっとすぐに目を覚ましてくれます」 「ええ、そうですよね……。きっとそうです、すぐに目を覚ましてくれますよね」 私と苓さんは、暫く無言でお母様を見つめ続けた。 お母様のお見舞い時間いっぱいまで部屋で過ごした私と苓さん。 そろそろ面会時間終了の時刻に近づいている事に気付いた私は、苓さんに顔を向けた。 「苓さん、すみません……。少しだけ待っていてもらってもいいですか?」 「──?分かりました、お母様の病室で待っていたら大丈夫ですか?」 「ええ、お願いします。すぐに戻ってきますから」 私がそう言いつつ、バッグからハンカチを取り出したのを見て、苓さんも察してくれたのだろう。 「分かりました」と頷いてくれた。 私は苓さんを残して病室を出ると、急いでお手洗いに向かった。 ◇ 茉莉花さんが部屋を出て行って、数秒。 俺のスマホに着信が入った。 「──っ!」 その番号を見て、俺は素早く電話に出る。 〈対象が病院に現れました〉
ปรับปรุงล่าสุด : 2026-01-17 อ่านเพิ่มเติม