All Chapters of あなたの「愛してる」なんてもういらない: Chapter 231 - Chapter 240

273 Chapters

231話

「──事、件……?事故じゃ、ないんですか……?」 お父様の言葉に、私は唖然としてしまう。 まさか。 ただの、事故じゃなかったの? 誰かが、わざとこんな事をした可能性が、あるの──? 色々な感情が胸に込み上げ、頭がぐらぐらする。 そんな私の手を苓さんが握ってくれて。 私を支えつつ、お父様に顔を向けた。 「事件性があるって事は、何か証拠が……?」 「──いや、はっきりとした証拠が出ているわけではない。だが……あの時間帯……、奇妙な事に複数の救助隊が別案件に動いてしまっていた」 「……だから茉莉花さんのお祖父様の救助に時間がかかったんですね?」 「その通りだ」 苓さんとお父様の会話に、私は驚く。 救助隊があの時、複数出払っていた──? 苓さんとお父様の言う通りなのだとしたら。 それは、もう──。 「お祖父様の救助に行けないように……細工していたって事、ですか……?」 どうして、何で。何のために……お祖父様を。 私の頭の中が、混乱していた──。 ◇ お祖父様の病室には、見張りをつけて私たちは場所を移動した。 誰にも話を聞かれる可能性がない、個室の料亭。 お祖父様を救出してから何もお腹に入れていない事を思い出したお父様は、一旦話をする場所を変えよう、と私たちは病院を後にした。 そこで注文を済ませ、室内には私とお父様、そして苓さんの3人だけになる。 お父様がグラスの水を一口飲み、喉を潤してから口を開いた。 「茉莉花。今回の一件が事故ではなく、事件の可能性が出て来た以上、これからは1人での行動はなるべく避け、ボディーガードを常に傍に付けておくんだ」 「……もし、事故を装った事件だとしたら……。犯人に心当たりはありますか……?」 私はお父様に問う。 だけど、お父様は首を横に振って肩を竦めた。 「誰かの恨みを買うような真似はしていない。……と、思いたいが……私たちの会社は大きい。知らない所で恨みを買っている場合もあるだろうな……」 「では、今の所は……相手方の目星はついていないって事……そう言う事ですよね?」 「ああ。情けない限りだが……」 お父様の言葉が静かな室内に落ちる。 それまで、私とお父様の会話を黙って聞いていた苓さんが、口を開いた。 「──私がお話してもいいですか?」 「小鳥遊くん?何か知っている事が
last updateLast Updated : 2026-02-06
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232話

「──羽累の?」 「お母様の!?」 私とお父様の声が、被る。 苓さんがお母様の事件まで調べている事は、知らなかった。 苓さんがご友人の警察関係者に調べてもらっているのは、志木チーム長の同僚の件だと思っていたから。 その同僚の方は、誰かを故意に車で轢き、逃げた──。 そう、聞いている。 そして、苓さんはその件に関して調べると言っていたはず。 それなのに、どうしてそれがお母様のひき逃げ事件の事にまで──。 そこまで考えていた私の頭の中で、お母様の件と、志木チーム長の元同僚の件。 2つの点と点が、繋がった。 繋がって、しまった──。 「もしかして……お母様を轢いて逃げたのって……」 私が呟いた言葉に、苓さんは重々しく頷いた。 「……恐らく、その元同僚が関わっていたんだと思います」 「──なら!その人に話を聞けば……っ!」 私が見を乗り出した所で。 苓さんは首を横に振った。 「彼に聞く事は、出来ないです。……彼は、もう亡くなっていますから……」 「──そんな」 苓さんの言葉に言葉を失う。 力が抜けたように椅子に座り直した私の隣で。 今まで黙って話を聞いていたお父様が、口を開いた。 「……キナ臭いな」 「……藤堂社長も、そう思いますよね」 「ああ。もしかしたら、羽累を轢いた彼は……」 苓さんは真剣な表情でお父様の言葉に頷き、答えた。 「ええ。多分、口封だと思います……」 「──えっ」 苓さんの言葉に、私はつい声を漏らしてしまう。 誰かが、お母様の命を狙っていて──。 そして、それを無関係な人にやらせた、と言う事? 「そんな……っ、そんな事……あってはならない事ですっ」 人の命を、そんな風に軽く扱うなど、あってはならない。 「だが……小鳥遊くんの言う通り、それがまかり通っている。……この業界では、そう言った噂を時折聞く」 「……っ、なんて事を……っ」 お父様の言葉に、私は深く俯いた。 どうして。 誰がお母様を。 それに、お祖父様を狙っているの。 「……容疑者死亡で、真相は分かりませんが。……友人が調べた所、容疑者は生前かなりの額の借金をしていたそうです」 「……金のために、その依頼を受けた可能性があるな」 「ええ。社長の仰る通りです。……今後は、社長が言っていた通り、本当に身の回りに注意を払
last updateLast Updated : 2026-02-06
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233話

「茉莉花、茉莉花大丈夫か?帰るぞ?」 「──っは、はいっ!」 私は、お父様に肩を揺すられてはっと顔を上げた。 いつの間に食事が終わっていたのか──。 それに、私もいつの間に食事をしていたのか、全く覚えていない。 ご飯を食べたはずなのに、それすら覚えていなかった。 それだけ、苓さんとお父様が話していた会話内容は衝撃的で。 料亭の出口で、先に迎えの車を手配してくれていた苓さんが、私を心配そうに見つめているのが分かる。 「茉莉花さん」 「苓さん、ありがとうございます……」 苓さんに手を差し出され、私はいつもの通り、何も考えずに彼の手を取る。 苓さんは私の手を優しく握ってくれると、外へ向かうために歩き出した。 料亭の外で、苓さんとお父様と少し待っていると、苓さんが手配した車が到着した。 それに乗り込み、私たちは今日泊まる予定のホテルへと向かった。 お祖父様がここの病院に入院している以上、この場を離れる事は、出来ない。 私たちを乗せた車がホテルに到着するまで、車内は沈黙していて。 空気が重かった。 ◇ ホテルに到着した私たちは、一旦お父様の部屋に集まる事になった。 ホテルの部屋は3人とも別々だけど、こんな事があった直後だからか、部屋は近い場所に用意されていた。 お父様の部屋に入り、私と苓さんは隣合ってソファに座った。 私たちの正面に、お父様が座る。 「まずは……私は、週明けにはすぐに東京に戻る予定だ。茉莉花はここに残り、お祖父様の様子を見ていてくれ。そして、容態が安定したら東京の病院に転院出来るよう、対応を頼む」 「──!分かり、ました」 「もし可能なら、小鳥遊くんも茉莉花に着いてやってくれないだろうか?」 お父様が苓さんに顔を向け、そう告げる。 すると苓さんは深く頷いて、答えた。 「勿論です。茉莉花さんと一緒に居ます」 「ありがとう。君がいてくれて本当に良かった……」 「そのように言って頂けて、嬉しいです。……藤堂社長、今後ですが……藤堂会長への面会希望は全て断る形で大丈夫ですか?」 「ああ。今は我々以外の人間を疑ってかからないとならないからな。……もし、御影ホールディングスの彼が来たとしても、断ってくれて構わない」 「分かりました。そのようにしますね」 御影ホールディングスの彼。 それは、きっと御影さん
last updateLast Updated : 2026-02-07
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234話

「ああ。体調には気をつけるよ」 お父様との話はそこで終わり、私と苓さんはそれぞれ自分の部屋に戻った。 部屋に戻った途端、私は今日の疲れがドッと訪れてしまい、すぐに眠りについてしまった。 本当は、苓さんに言われた事を整理したかったけど、疲労が溜まり、それどころじゃなくなってしまった。 普段よりも大分早く眠りについてしまった私は、変な時間に目が覚めてしまった。 ふ、と意識が浮上して目を開ける。 すると、室内は真っ暗で物音1つしない。 私の呼吸音だけが聞こえる広い室内で、私は寝返りを打ってもう一度目を閉じた。 暗くて、静かな空間でじっとしていると、何だか良くない事を考えてしまいそうで。 それに、悪いイメージばかりを想像してしまって、落ち着かなくなってしまう。 だけど、1度目が覚めてしまったせいで、もう1度寝入るのは難しそうで。 「──眠れなくなっちゃった」 こんな変な時間に目が覚めてしまうなんて、と私はベッドの上に起き上がると、窓の外を見やる。 外はまだ真っ暗で、今が何時かそれも分からない。 私はベッドサイドにあるナイトライトをつけた。 薄っすらと室内が微かな明かりで照らされ、暗闇に目が慣れてきた。 私は自分のスマホを探すと、それを持ち上げて電源を付ける。 すると、そこに表示された時刻に驚く。 「まだ4時前なのね。……日が昇るまで、まだまだ時間がかかりそう……」 こんな時間だ。部屋を出るのも、あまり良くない。 それに、お祖父様が狙われた今、私も誰かに狙われている可能性だってある。 「朝になったら、お父様が関東に戻ってしまうのよね……戻ってしまう前に、お父様に聞いておかなきゃいけない事を整理しておこう」 昨日は、あまりの出来事に情けなく方針してしまったから。 苓さんとお父様の会話だって、ぼんやりとしか覚えていない。 「お母様を轢き逃げした犯人が、志木チーム長の元同僚の方だって言う事は分かったけど……。もう亡くなってしまっているのよね……」 それに、借金があったと言っていた。 その同僚の方は、お金のためにお母様を轢いたのだろう。 だけど、何のために──? 「それに、どうして志木チーム長は前の会社を首になってしまったのかしら……」 あの時の志木チーム長の口振りから、不当解雇をされたのだろう事は分かっている。 それに
last updateLast Updated : 2026-02-07
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235話

早朝。 ロビー。 私は、苓さんとお父様と合流してからお祖父様の入院している病院へ向かった。 「茉莉花。私はお祖父様に挨拶をしたら、そのまま会社に戻る。お祖父様の事は頼むぞ?」 「分かりました、お父様。後のことはお任せください」 「ああ。頼むぞ」 お父様は、私の頭をぽん、と叩いてから車から降りる。 お祖父様の病室に向かう道すがら、お父様と苓さんはこれからの仕事内容について話している。 病室に到着した事で、お父様と苓さんの会話が途切れた。 その際に、私はお父様に考えていた事を聞いてみる事にした。 病室に入り、苓さんが扉を閉めた所で私はお父様に向き直る。 「お父様。お聞きしたい事があるのですが、よろしいですか?」 「私に聞きたい事?ああ、勿論だ。何でも聞きなさい」 お父様はお祖父様が昨日と変わらず眠っている状態なのを寂しそうに見つめた後、私に顔を向けて頷いてくれた。 私は、お父様に向かって問う。 「……お父様。昨日は恨みを買うような真似は、と言っておりましたが……。本当に藤堂は……私たちは他家の恨みを買っていないのでしょうか?」 「──どう言う意味だ?」 お父様の眉が顰められ、お父様の鋭い視線が私を射抜く。 私はぎゅっと拳を握り、お父様を真っ直ぐに見返した。 「──藤堂、いえ……。私たち個人に恨みが向けられる事は……なかったのか。……そう、思いました」 「私たち個人……」 「はい。その……私も、今まで己の行き方に……藤堂の名に恥じぬよう、生きて参りました。けれど──」 私の頭の中には、涼子の顔がぷかりと浮かんだ。 涼子のあの態度は、苓さんによって嘘だったと分かった今。 どうして涼子は、幼い頃からそんな事をしたのか。 最初は、御影さんと仲良くなりたかったのかと思ったけど、それにしてはやり方が徹底している。 きっと、彼女だけの考えじゃあ無い。 それなら、彼女に「そうするよう」誰かが指示をしたのだろう。 誰が、何のために──? 「私や、お父様。お祖父様個人に……逆恨みをされていたら……。そうしたら、誰かが私たちを執拗に狙う理由となりませんか?」 「──逆、恨み……?」 私の言葉に、お父様は一瞬ぽかん、としたけど。 すぐに何か心当たりがあったのか……はっ、と目を見開いた。 「いや……まさかな……」 そして、ぽ
last updateLast Updated : 2026-02-08
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236話

「藤堂社長……。まさか、何か心当たりがあるのですか?」 お父様の様子に、最初は驚いたように言葉を失っていたような苓さんだったけど。 はっとして、すぐにお父様に言葉を向ける。 「何か知っている事があれば、教えてください……!茉莉花さんも……、茉莉花さんも長年速水涼子と言う女性に逆恨みをされていたんです……!」 「──速水、か」 苓さんの言葉に、お父様がはっとした顔になり、忌々しげに呟いた。 その様子が、どこかおかしくて。 藤堂は、速水家とは殆ど関わりが無いはずなのに、どうしてそんな顔をするのか──。 「お父様……?何か知っているのですか……?」 私の言葉に、お父様は気まずそうに1度視線を逸らしたが、すぐに私と苓さんに視線を戻した。 「……少し話が長くなる。まずは椅子に座りなさい」 お父様は、病室にある丸椅子に腰を下ろし、私と苓さんにも座るように促した。 私と苓さんが腰を下ろしたのを見ると、お父様は自分の顎に手をやり、頭の中を整理するように言葉を選びながら話してくれた。 「茉莉花が、御影家のあの男と婚約を破棄するに至った理由を……調べた」 「──えっ」 「すまないな。茉莉花は私と……お祖父様に取って大事な子供……孫、だ。茉莉花がどうして婚約を破棄したい、と言い出したのか。その理由を知りたかった……。その……茉莉花は、幼い頃から……彼に懐いていたから、な……」 お父様は気まずそうにごほん、と咳を1つ零しつつ告げる。 ちら、と苓さんを気遣うような視線。 だけど、視線を受けた苓さんはひょい、と肩を竦めて答えた。 「気にしていません。過去は過去、ですから。今、茉莉花さんとお付き合いしているのは俺ですし」 「──はは。そうだな。……それで、調べて行くうちに……御影 直寛が速水家の娘と良い仲だと、知った」 「そう、だったのですね……お父様も、お祖父様も涼子と御影さんがお付き合いしている事をご存知だったんですね……」 「ああ。茉莉花と速水家の娘が同じ学校に通っていた事は知っていたが……。まさか、そんな近くに居るとは思わなかった。藤堂、と言うより……私が速水家とは関わりを持ちたくなくてな……」 「──お父様が?速水家と関わりたくないとお考えだったとは……知りませんでした」 「ああ。私の個人的な理由からだ……。だが、速水家がこのように私
last updateLast Updated : 2026-02-08
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237話

「速水家──いや、速水朱美(はやみ あけみ)に、学生の時に言い寄られた事が、ある」 「速水家の──!?」 お父様から思いも寄らなかった事を聞かされ、私と苓さんはぎょっとしてしまう。 苓さんはお父様の言葉を聞いて、考え込むようにして話し出した。 「速水朱美って言えば……速水商事の一人娘、でしたよね……?男兄弟がいなくて、婿養子を取ったって……」 「ああ。良く知っているな、小鳥遊くん」 「ええ。昔から様々な企業の事は調べていますから……。だけど、藤堂社長が速水商事の一人娘に言い寄られていたなんて……。その……良く逃げられました、ね……」 苓さんが苦笑いを浮かべつつそう話す。 お父様も困ったように眉を下げて笑い、後頭部をかいた。 「その時、私は既に茉莉花の母──羽累とお付き合いをしていたからな……。速水家との縁談も組まされそうになったが……。私は藤堂の跡取りだろう?それに、婚約者の羽累もいるし……丁重にお断りしたんだが……」 言葉を濁すお父様に、苓さんはぴんと来たのだろう。 眉を顰め、嫌そうに呟いた。 「──まさか、既成事実を作ろうと画策されたんですか?」 「……まあな。良く使われる手だ。だが、私は羽累の機転のお陰でそれを免れた。……その後にすぐ速水 朱美は今の夫と結婚したから、私への執着も無くなったんだろう、と思い……今まで気にした事は無かったんだが……」 そこでお父様は一旦言葉を切ると、藤堂家当主としての厳しいお顔に変わる。 「万が一、昔の因縁がこんな大それた事をしでかす原因になっているならば……その因縁を解消しなくてはならないな」 「茉莉花さんも、長年彼女の娘である速水 涼子に謂れのない恨みを向けられていると思います」 「ああ。そうだろうな……。まるで蛇のような女だ……」 頭を抑えたお父様は、疲れたように溜息を吐き出した。 その後、私に向き直り申し訳なさそうな顔をする。 「すまない、茉莉花。私のせいで茉莉花は傷付いたんだな……。私の考えが甘過ぎたせいだ。不甲斐ない私を許してくれ」 そう最後まで話したお父様が、私に向かって頭を下げた。 その姿に、私はぎょっとして慌ててお父様に駆け寄る。 「や、やめてくださいお父様!お父様が頭を下げる必要は無いです!それに、私は御影さんと婚約が解消出来て良かったと思っています。じゃないと
last updateLast Updated : 2026-02-09
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238話

私の言葉に、お父様は恐る恐る、と言う様子で頭を上げると「本当か?」と不安そうに口にした。 不安そうにしているお父様に、私は笑顔を浮かべて強く頷いて見せる。 「ええ、本当です。御影さんの事はもう何とも思っていませんから、安心してくださいお父様。──それより、これからの事を考えましょう?」 「そう、だな……。ああ、茉莉花の言う通りだ。速水家にこれ以上藤堂の家が荒らされないよう、対策を講じなくてはならないな」 「その準備、是非私にもお手伝いさせてください、藤堂社長」 お父様の言葉に、苓さんが1歩足を踏み出し、近付いて来る。 そして、お父様に向かって硬い表情で告げた。 苓さんがまさかそんな言葉を言うとは思わなかったのだろう。 それは、私も同じで。 お父様も、私も驚きに目を見開いたまま、苓さんを見つめる。 他家が、家同士のいざこざに介入するなんて。 そんな事が相手に知られてしまえば、小鳥遊家にも迷惑がかかる。 お父様はその事を憂慮したのだろう。 苓さんの言葉に、首を横に振ろうとした。 だけど、お父様が断る事を読んでいたのだろう。苓さんは更に言葉を続ける。 「私は今、茉莉花さんとお付き合いをしています。それに、その事も既に多くの人間に知られています。……小鳥遊の三男ですから、継ぐ家はありません。周囲は皆私が茉莉花さんの婿養子になるだろう、と思っているかと」 「──万が一、君がこちら側についても、速水が手を出さないと?」 「……ええ。速水家には注意しておくよう、長男には既に伝えております。……私の存在が小鳥遊の不利益になるようであれば、私を切り捨てろ、とも話しておりますので、小鳥遊は気にせずとも構いません」 きっぱりと言い切る苓さん。 苓さんは、これ程の覚悟をしてくれていたのだ。 もしかしたら、小鳥遊の家と疎遠になってしまうかもしれないのに。 それなのに、苓さんはお父様の。お祖父様のために、動こうとしてくれている。 私は、苓さんの手を握りお父様に向かって口を開いた。 「──お父様。私からもお願いします。私たちを陥れようとしている家から、3人で藤堂を守りましょう?」 ぎゅっ、と苓さんの手を握ると、苓さんも優しく握り返してくれる。 優しく肩を抱き寄せられ、私は今まで感じたことの無いほど、力が漲るような心地になる。 苓さんが側に居
last updateLast Updated : 2026-02-09
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239話

「こ、婚約……」 「パーティー、ですか……?」 私と苓さんの声が、重なる。 私たちが唖然としていると、お父様は自分の顎に手を置き、うんうんと頷いている。 「ああ、そうした方がいい。そうだ、小鳥遊くん。君のご両親に連絡をしても大丈夫だろうか?両家の顔合わせ──顔合わせと言っても、藤堂からは私だけしか参加は出来ないが……。顔合わせしたい事を伝える」 「え、ええ……。私の結婚については、両親は好きにしなさい、と昔から言われておりますから……ご連絡をしていただいて大丈夫です」 「そうか、分かった。私が向こうに戻ったら小鳥遊本家に連絡を入れておく。向こうに戻ったら、小鳥遊くんは藤堂に顔を出してくれ」 とんとんと話を進めて行くお父様。 苓さんは、お父様の話に呆気に取られつつも、頷いた。 「分かりました。向こうに戻りましたら、ご自宅にお邪魔します」 「うむ、頼む。……では、私はそろそろ向こうに戻る。茉莉花、お祖父様を頼んだぞ?」 「わ、分かりましたお父様。道中、お気を付けて」 「ああ。茉莉花も、小鳥遊くんもな」 こくり、と頷いて病室を後にするお父様。 私と苓さんは、お父様を見送った後、お互い顔を見合せてしまった。 突然お父様から婚約発表パーティーの提案をされ、驚いてしまった。 確かに、苓さんといずれは……。そう考えてはいたけれど。 「は、話が急過ぎて……びっくりしてしまいました……」 私がそう呟きつつ苓さんを見上げると、苓さんも困ったように眉を下げて笑った。 「俺も、です。まさかこんな事になるなんて……」 「──?」 苓さんは本当に困ったような様子で。 慌てるような、気まずそうな、何とも言えない表情で後頭部をかいている。 私は、苓さんとの婚約発表について、驚きはしたけれどそこまで気にする事では無いかな、と思っていた。 これから先も、ずっと苓さんと一緒に居たいし、そうなって欲しいって。真剣に考えていた。 だから、このタイミングで婚約発表パーティーを、と仰ったお父様には、驚きはしたけど困りはしない。 だけど、苓さんの様子は何だか……。 私には困っているように、見えた。 「苓さん……」 どうしてだろう。 まだ、婚約発表をしたくなかったのだろうか。 それとも、苓さんはこの先の人生を、私とはまだ望んでいなかった──? そん
last updateLast Updated : 2026-02-10
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240話

苓さんが私の肩を掴み、必死に訴えてくる。 苓さんの気持ちを疑った訳じゃない。 確かに、苓さんは私を想ってくれている。それははっきりと分かる。 でも、じゃあ……何故苓さんは困っているのだろう? 私が眉を下げて苓さんを見上げると、苓さんはぐっと唇を噛み締め、迷うように視線を彷徨わせた。 「違う、んです……。……だって、婚約発表パーティーをしたら……」 「──?パーティーをしたら?」 「……っ、俺が……考えていた……っ、プロポーズが、出来なくなっちゃうじゃないですか……っ!」 苓さんは、声を荒らげて私から顔を背ける。 そう叫んだ苓さんの顔は、どこからどう見ても真っ赤で。 逸らした苓さんの顔が、耳が。首筋までもが。真っ赤に染まっている。 まさか。 苓さんがそんな事を考えてくれていたなんて──。 私は、苓さんが口にした言葉を理解するなり、じわじわと胸がむず痒くなるような心地になった。 そして、苓さんにつられて自分の頬も熱くなっていくのを感じる。 私は急いで自分の頬を両手で覆い隠すと、ちらりと苓さんを見上げる。 「ちょ、茉莉花さん……今は見ないでください。情けない顔してると思うので……っ」 「情けなくても苓さんは苓さんですよ。私はどんな苓さんでも大好きですから」 「──ああもうっ、俺は茉莉花さんの前では格好よく見せたいのに……っ」 「ふふふっ、大丈夫です。苓さんはいつでも格好いいですよ?」 ねぇ、お祖父様。 私はそう口にしながらお祖父様に顔を向ける。 悲しいけど、お祖父様の病室で沈んでばかりはいられない。 お祖父様が目覚めた時、静まり返った部屋じゃあ、きっとお祖父様は悲しむ。 それなら、楽しい雰囲気で。 笑い声が絶えない空間だったら。 お祖父様は楽しい事がお好きだもの。 もしかしたら、楽しい雰囲気につられて目を覚ましてくれるかもしれないから。 私がお祖父様に顔を向けると、苓さんも僅かに頬を染めたままお祖父様に視線を向ける。 「藤堂会長にも、情けない所を見られちゃいましたね……。情けない所ばかり見られていたら、茉莉花さんを任せられないって言われてしまいそうです。気をつけないと……」 「ふふふっ、大丈夫ですよ!ここだけの話……お祖父様もお祖母様には頭が上がらなかったんですから」 私は苓さんの耳にこっそりとそんな言葉
last updateLast Updated : 2026-02-10
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