カーテンの隙間から、薄い朝の光が差し込んでいた。 時計の針は午前十時を指している。 沙耶はベッドの上で、天井を見つめたまま動けずにいた。 目を閉じても、開けても、何も変わらない。 世界が色を失って半年――離婚してからの時間は、まるで止まったように感じていた。 キッチンの時計の針の音だけが部屋に響く。 冷蔵庫の中には、コンビニで買ったペットボトルの水と、食べかけのヨーグルトがひとつ。 冷えた空気と、しんとした静けさ。 人の声が、恋しかった。……けれど、怖かった。 あの人の声が、まだ頭の奥に残っている。 ――「お前なんか、誰にも必要とされない」 ――「俺がいなきゃ何もできないくせに」 その言葉は呪いのように、今も沙耶を縛りつけている。 六畳一間のアパートの中、彼女は息をするだけで疲れていた。 洗濯物は畳まず、郵便物は玄関に積まれたまま。 誰かに会う約束も、電話をすることもない。 時間だけが、音もなく流れていく。 「……このまま、消えてしまえば楽なのに。」 ぽつりと呟いた声が、静まり返った部屋に落ちる。 涙は出なかった。ただ、胸の奥がずっと重かった。 携帯の画面には、友人からの未読メッセージ。 “久しぶりにご飯でも行かない?” 沙耶は数秒見つめたあと、画面を伏せてため息をついた。 “もう誰かと話す元気なんてない” 心の中でそう呟いた瞬間、自分でも嫌気が差した。 ――何も変わらない。 ――このままじゃ、何も取り戻せない。 その夜、外に出たのは、気まぐれだった。 部屋にいるのが怖くなった。テレビをつけても、音が心に入ってこない。 上着を羽織り、ふらりと街へ出た。 夜風が肌を撫でる。街の明かりが、ぼんやりと滲む。 繁華街のネオンはまるで別の世界の光のようだった。 笑い声、香水の匂い、キャッチの声。 すべてが自分の知らない現実だった。 そのとき、ふと目に留まった。 ――「ラウンジスタッフ募集」 店の前に貼られた小さなポスター。 “経験不問、未経験歓迎。女性の新しいスタートを応援します。” 新しいスタート。 その言葉が、胸の奥に小さく響いた。 「夜の仕事なんて、私にできるわけない」 そう思いながらも、手は止まらなかった。 電話番号をメモする手が、わずかに震えていた。 翌日、意を決して電話をかけ
Last Updated : 2025-10-05 Read more