桐山昭彦。海外帰りの薬学博士。明成バイオテクノロジーの創業者。静奈はまさにその会社に勤めている。彰人は冷笑した。あの女も、大したタマだ。明成バイオに入社して一月も経たないうちに、社長直々に庇わせるとは。その手腕、実に見事なものだ。研究室。静奈と研究開発チームが昼夜を分かたず改良を重ねた結果、彼らの抗がん剤は98%という驚異的な腫瘍抑制率を達成した。臨床チームから上がってきたデータも完璧で、患者の使用過程でいかなる事故も発生せず、有害事象もすべて制御可能な範囲内だった。昭彦は社内でシャンパンを開けた。「皆の尽力に感謝する。我々はがん治療の歴史を塗り替えた!すでに規制当局には実験データを提出済みだ。承認が下り次第、すぐにでも発売できる。これは我が社に計り知れない収益をもたらすだろう!」社内は興奮の渦に包まれた。抗がん剤の開発成功は彼らの会社が業界トップ企業へ躍り出ることを意味するだけでなく、無数のがん患者に治癒の希望をもたらすことをも意味していた。明成バイオが抗がん剤の開発に成功したというニュースは瞬く間に業界に広まり、大きなセンセーションを巻き起こした。多くの製薬企業が、提携を求めて接触してきた。明成バイオは設立してまだ数年の若い企業であり、医薬品の生産・販売網はまだ成熟していない。実力のある企業との提携は彼らにとっても必要不可欠だった。この期間、昭彦は押し寄せる訪問者との面会に追われ、文字通り猫の手も借りたいほどの忙しさだった。会社がまさに絶頂を迎えようとしていた、その矢先だった。突然、十数名に及ぶ患者の家族が、明成バイオの社内に雪崩れ込んできた。先頭に立つ女性が、息子の服の袖をまくり上げ、爛れた皮膚を露わにした。「この悪徳企業め!あんたたちの薬のせいで、うちの子はこんな姿にされたんだ!」他の患者の家族たちも、憤りを露わに叫んだ。「抗がん剤だと?真っ赤な嘘だ!臨床試験のデータは捏造されたものだ!」「明成バイオは患者をモルモット扱いしてるんだ!この薬を飲んだせいで、病状は好転するどころか、悪化してる!」「私たち、がん患者から金を巻き上げるためなら、どんな汚い手でも使うんだ!」報道陣も、その場に殺到していた。現場の様子を撮影し、リアルタイムで中継している。警備員が入り口で必死に制
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