「俺は林北斗(はやし ほくと)。愛している人に、想いを伝えたい」眠れない深夜、桐島霜乃(きりしま しもの)はラジオをつけた。そこから聞こえてきたのは、緘黙症のはずの夫、林北斗の、低くて心地よい声だった。霜乃は北斗と結婚して三年になる。最初の二年は何とか会話もできていたが、三年目に入ってからは、ほとんど口をきかなくなった。ここ三ヶ月は、たとえ向き合っても、北斗は一言も発さない。「君と会うのは三年ぶりだね。明日、会えるのを楽しみにしているよ」ラジオから流れてくる内容は、明らかに霜乃に向けたものではなかった。「愛してる、明希」北斗の声にこれほどの感情がこもっていたことは、かつてなかった。告白はあっという間に終わり、続いてパーソナリティの羨望と称賛の言葉が流れた。しかし、霜乃はベッドにもたれたまま、長く呆然としていた。彼女は家族の縁談で北斗と知り合った。一目惚れだったが、北斗は常に冷淡で、初対面のときに彼の母が横で説明してくれただけだった。「霜乃、理解してあげてね……北斗は緘黙症なの」昔のことを思い出して、霜乃は彼の母に電話をかけた。「霜乃?こんな夜中にどうしたの?」鼻の奥がツンとし、声に涙がにじむ。北斗の母はすぐに察し、少し慌てた様子になった。「どうしたの?北斗が何かした?明希が戻ってきたこと、知ってたかね?」霜乃は言葉に詰まる。どうやら、知らなかったのは自分だけのようだった。「ごめんね、霜乃……三年前、本当のことを言えなかった。北斗の緘黙症は、元カノの明希がいなくなった時から始まったの。どうにもならなかったから、無理にでもお見合いさせて……笑っちゃうでしょ?あの上京市の林家の跡取りが、言葉を話せないなんて。でも霜乃、安心して。私がこの子のことはしっかり見てるから」霜乃は自分がどうやって電話を切ったのか覚えていないし、どうやって孤独な夜を過ごしたのかも思い出せなかった。あの頃の霜乃は、病気についてたくさん調べた。その発症原因の項目には、こう書かれていた。「外的な重大なショック」霜乃には意味が分からなかった。林家の人々に遠回しに聞いても、誰も答えてくれなかった。その後、霜乃は様々な方法を試した。心理カウンセリング、電気治療、美食療法、チャクラヒーリング。スタンドアップコメディにも連れ
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