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第2話

Author: エンエン
霜乃が病院で目を覚まして最初にしたことは、北斗にメッセージを送ることだった。

【離婚しよう】

送った直後、北斗がドアを押して病室に入ってきた。

手には二つのギフトボックス。今日モールで見かけたあのブランドのものだった。

彼はそれらを棚の上に置き、何も言わず霜乃のベッド横の椅子に腰を下ろした。

北斗はスマホを取り出した。霜乃が送ったメッセージを見たはずだったが、その表情には波一つなかった。

息が詰まるような沈黙の中、霜乃のスマホが鳴った。北斗からのメッセージだった。

【このブランド、君が好きだったよね。君に似合いそうなドレスを二着選んだ】

【退院したら、このブランドを家に呼ぶよ。店ごと買ってもいい】

【明希は医者なんだ。医者にとって手は命、だから……あんなに動揺した。怒らないでくれ】

霜乃はうつむいたまま、次々と届くメッセージを見つめ、ふいに涙が溢れた。

堪えきれず、声を発した。

「あなた、あの人とは普通に話せるのに、どうして私とは話せないの?目の前にいるのに、どうしてメッセージなの?

わざとでしょ!?これってモラルハラスメントじゃないの!?」

顔を上げた霜乃の頬には、すでに涙の筋がくっきりと刻まれていた。声はかすれ、喉が詰まる。

北斗の顔は、相変わらず静まり返った水面のようだった。しばらく沈黙が続いたのち、彼は俯いてスマホを打ち始めた。

【ごめん、俺は緘黙症なんだ】

打ち終えた北斗は、ポケットから一枚の書類を取り出し、霜乃に差し出す。サインを促しているようだった。

霜乃が目を落とすと、それは現在住んでいる家の不動産権利譲渡書だった。

【これは補償だ】

その時、突然スマホの着信音が鳴り響き、北斗の顔が強ばる。彼は素早くスマホを手に取り、通話に出た。

通話音はまったく漏れてこなかったが、霜乃には相手が誰か分かっていた。

次の瞬間、北斗が口を開く。

「すぐ行く」

明希からの電話だった。霜乃の胸の奥で、答えが確信へと変わった。

……

霜乃はもう迷わなかった。スマホを開き、離婚するために必要な書類、手続きなど

の情報を検索する。

訴状、双方の身分証明書、婚姻届受理証明書を用意し、別居の証明にはさっきの不動産登記事項証明書を見つけ出した。

必要なものは全て用意できた後、霜乃の胸の奥で、長く詰まっていた息がすっと吐き出された。

後三十日この関係が終わるのだ。

……

【午後三時、市役所で、名義変更。】

入院して一週間後、霜乃は北斗から一通のメッセージを受け取った。

この一週間、北斗からは一切連絡がなかった。電話も、メッセージも、顔を見せることもなかった。

霜乃は徐々に、ひとりの時間に慣れ始めていた。

午後三時半、霜乃は予定より少し遅れて到着した。だが、珍しく北斗はすでにロビーで待っていた。

時間に厳しい彼が、遅刻に何一つ文句を言わない。表情に焦れや苛立ちも見えなかった。

霜乃が近づくと、VIPカウンターのスタッフがすぐに駆け寄ってきた。

北斗は花束まで用意してくれていて、その隣にはベルベットの小箱が置かれていた。きっとジュエリーだろう。

スタッフが椅子を引こうとしたが、北斗はそれを制し、自ら椅子を引いて霜乃に勧めた。

その行動に、霜乃は少し驚きながら、静かに口を開いた。

「そんなこと……しなくてもいいのに」

北斗はかすかに笑みを浮かべ、ゆっくりと首を振った。

そして、口を動かし、何文字だけ絞り出した。

「……気にしないで」

北斗にしては、珍しいほどの優しさと意思表示だった。

手続きはあっという間に終わった。

【先に帰ってて。俺、まだ仕事がある】

その言葉を見た瞬間、霜乃の中で奇妙な違和感が広がっていった。膨らんで、膨らんで、やがて限界に達した。

霜乃は建物の外でタクシーを呼び終えた直後、バッグを忘れたことに気づき、急いで引き返した。

そして――目撃してしまった。北斗はまだロビーに立っていた。今度は、さっきよりも大きな薔薇の花束を抱えていた。そこへ、明希が建物の正面から入ってきた。北斗はすぐに彼女の元へ駆け寄り、ふたりは抱き合い、北斗は彼女の頭を優しく撫でた。

「林社長、新しい不動産のご購入は、こちらへどうぞ」

「別荘をご希望とのことですね。先ほど名義変更されたマンションのおかげで、購入制限の枠が空きましたので、今は購入できますよ」

「奥様、お足元にお気をつけください」

明希は北斗の肩に頭を預け、ふたりは幸せそうに笑い合いながら、建物の奥へと消えていった。

真夏の七月。けれど、霜乃の体は、これまで感じたことのないほど冷えていた。震えるほどの寒さ、立っていられない。背中も、額も、冷や汗でびっしょりだった。

ああ、自分は排除された側だったんだ。
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