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All Chapters of 血と束縛と: Chapter 1131 - Chapter 1140

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第32話(17)

 駐車場に車が入り、御堂に丁寧に礼を述べて和彦だけが車を降りる。ここで、一人の男がこちらに向かってくるのに気づいた。 駐車場に敷かれたアスファルトから立ちのぼる陽炎を蹴散らす勢いでやってくるのは、南郷だ。 本能的な危機感から、ゾクリと寒気がする。和彦は車のドアに手をかけたまま、軽くよろめいていた。それに気づいた御堂が車中から声をかけてくる。「佐伯くん?」 その御堂も南郷に気づいたらしく、すぐに車から降り、和彦の傍らに立った。 目の前に立った南郷は、珍しく怒気を露わにしていた。鋭い視線を向けた先は、御堂だ。「――勝手に先生を連れ出して、どういうつもりだ、御堂」 自分に向けられたわけでもないのに、南郷の低く抑えた声を聞いて、和彦の身は竦む。一方、凄まれた御堂のほうは表情を動かしもせず、淡々と応じた。「ずいぶんな言い方だな。〈佐伯くん〉が散歩に行きたいと言うから、護衛のために同行しただけだ」 本当かと問うように、南郷がこちらを見る。和彦が頷くと、忌々しげに舌打ちした南郷が、再び御堂と向き直った。 荒々しく凶暴な空気を振り撒きながらも、和彦の前では悠然として、言動も最低限紳士的に振る舞っている男にしては珍しく、余裕がなかった。 御堂はあえて挑発するように、南郷に冷ややかな笑みを向けた。「長嶺会長のために、君が佐伯くんを大事にしているのはわかるが、こちらの事情も斟酌してほしいな、南郷。彼は、わたしの友人である長嶺組長にとっても、大事な人だ。つまりわたしにとっても、大事な人というわけだ」 南郷と御堂が視線を交わす。まるで、眼差しで切りつけ合っているような迫力に、完全に和彦は呑まれていた。同時に、総和会会長の側近である南郷と、ここまで対等に言い合える御堂とは何者なのか、改めて気になった。 いつの間にか御堂の秀麗な横顔に見入っていたが、ふいに南郷の手が肩にかかって我に返る。「先生、こんな暑い場所にいつまでもいたら、体によくない。中に入ってくれ」 南郷の手にわずかに力が入る。ギリギリのところで激情を抑えているのだと察した和彦は、逆らえなかった。御堂に頭を下げてもう一度礼を言うと、南郷に促さ
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第32話(18)

**** 御堂に関して、賢吾と電話で話した。 別に、御堂が言っていたことは本当なのか確かめたかったわけではなく、ただ、御堂が話してくれなかったことについて、知りたかったのだ。特に、第一遊撃隊隊長という地位について。 賢吾と話しながら、和彦は思い出したことがある。梅雨が明ける前の頃に起きた、英俊と会うことになってからの、一連の騒動だ。 総和会の隠れ家で南郷とともに過ごしたあと、本部に賢吾が迎えにきてくれたのだが、同じ屋根の下に守光がいる状況で激しく求め合う最中、その賢吾が物騒なことを言っていた。 総和会会長と第二遊撃隊隊長に対して、ささやかな嫌がらせを仕掛けた、と。 御堂と顔を合わせたときの南郷の剣幕を思い返すと、〈嫌がらせ〉という表現が符合する気がした。御堂自身、賢吾に唆されて、嫌がらせをしたくなったと言っていたぐらいだ。賢吾と御堂の間で、策略――というほど露骨でないにせよ、何かしら共通認識があるのかもしれない。 賢吾は、今の総和会の中で、第一遊撃隊は不遇の扱いを受けていると教えてくれた。看板だけが残り、隊員すらバラバラになっていた状況で、ようやく隊長の御堂が復帰し、これから隊として本当の瀬戸際なのだとも。しかし御堂は、南郷にはないものを持っているという。 血統と人望だ――と告げた賢吾の声は、冷ややかな嘲笑を含んでいた。 いろいろと聞こうと思っていたのだが、すっかり怖気づいた和彦は、賢吾と長々と話す気力をなくしてしまい、電話を切った。 退屈などという気持ちはどこかに消え、ただひたすら、閉塞した本部の空気がつらかった。おかげで、休みが明けるのが楽しみなぐらいだ。 今ならいくらでも患者からの予約を受け付けられそうだと思いながら、和彦は二階でエレベーターを降りた。御堂たち第一遊撃隊の詰め所は二階にあると、朝食の片付けにやってきた吾川に確認している。 総和会本部には基本的に、曜日というものはない。守光の居住スペースがある四階以外では絶えず人が動いている。活気があるというより、粛々と自分たちの仕事をこなしているという印象があり、そこに緊張感も加わる。 今日が日曜日だ
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第32話(19)

「第一遊撃隊は再起動したばかりだから、隊員が集まれるような場所――、まあ、事務所や詰め所だね、それを、まだ持ってないんだ。当分の業務は、ここで何もかも行わないと。大所帯の第二遊撃隊は、あちこちの物件を管理しつつ、人を配置してあるから、上の連絡所はこざっぱりしていたな。うちは、あそこまでするには、まだまだ時間がかかる」 さらりと第二遊撃隊の話題が出て、和彦はわずかに顔を強張らせる。そこに二神が、冷たいお茶を運んできた。二神が応接室を出て、ドアが閉まるのを待ってから、和彦は切り出した。「――昨日、あれから大丈夫でしたか?」「昨日……、ああ、南郷のことか。わたしはむしろ、あれから君が南郷に八つ当たりでもされたんじゃないかと、それが心配だったんだが」「ぼくのほうは、何も」「さすがにあの男でも、主の大事な人に対しては、最低限の礼儀は心得ているか」 それはどうだろうと、これまでの南郷の言動を思い返した和彦は、苦い表情を浮かべる。もちろん、昨日会ったばかりの御堂に、何もかも打ち明けられるはずもなく、曖昧な返事で誤魔化した。「……昨夜、長嶺組長と電話で話したんです。第一遊撃隊について、まったく聞いたことがなかったものですから。よく考えてみれば、疑問に感じなかったのが不思議ですよね。南郷さんの第二遊撃隊があるなら、第一遊撃隊はどこに、と」「わたしも半ば引退するつもりだったし、周囲には、長嶺会長とわたしの関係が不穏だとも思われていたみたいだから、第一遊撃隊には誰も触れたくなかったんだろ。実際、活動はしていなかったわけだし。その間に、しっかりと第二遊撃隊――南郷は力をつけていったということだ。いろいろ聞いてはいたけど、まざまざと見せつけられると、複雑な心境だ」 そういう御堂の口調は淡々としていた。本心を読み取ることはできないが、色素の薄い瞳は冴え冴えとした光を湛えており、触れてはいけないと思わせる凄みがあった。 この人は何かに似ていると考えて、すぐに和彦はあるものを思い浮かべた。日本刀だ。鞘に収まっている限り、手を伸ばすことにためらいは覚えないが、美しい刀身を現したとき、冷たく光を反射する様に鋭い切れ味を想像
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第32話(20)

「ここが片付いたら、すぐに挨拶にうかがうつもりだったのに……。わたしが義理を欠いたと、陰口を叩かれるかもしれませんね」「お前のことを、そんなふうに言う奴はいやしない。不義理どころか、孝行息子だと喜んでるだろう。――会長も」 御堂の凛とした声と、綾瀬のしわがれた声とのやり取りに、和彦の左右の耳は少し混乱していた。綾瀬の独特の声を聞いたばかりで慣れていないため、集中していないと、単語を聞き逃してしまいそうだ。 和彦は、この世界で『会長』と呼ばれる人物は守光しか知らないが、二人の様子からして、どうやら別の人物のことを指しているようだ。 部外者の人物が聞いていい会話ではないのかもしれないと、一人でうろたえる和彦に、ふと綾瀬が視線を向けてくる。男らしい顔が、露骨なまでに好奇の色を浮かべた。「長嶺会長お気に入りの医者が、どうしてこんなところに……?」 和彦は弾かれたように立ち上がり、説明しようとしたが、それを御堂に制された。「不思議ではないでしょう。佐伯くんは、長嶺組――というより、長嶺家の所縁の人です。そしてわたしは、長嶺組長とは昔馴染みですよ」「……お前と彼が親しいなどと、これまで聞いたことはないが」「昨日、初めて会ったばかりです」 澄ました顔で御堂が答え、綾瀬は面喰ったようにわずかに目を丸くする。しかし次の瞬間には、皮肉っぽく唇を歪めた。「なるほど」 意味ありげに頷いた綾瀬が、改めて和彦を見る。このときにはもう、和彦に対する好奇の色は払拭されていた。「初めまして――と言いたいところだが、実は俺は、花見会の席で君を間近で見ている」「そうなんですか……。申し訳ありません。あのときは初めてのことばかりで緊張していて、人の顔もまともに見られない状態だったものですから」「そりゃそうだろうな。前には長嶺会長、隣には南郷がいれば。もっとも、それにしてはやけに落ち着いて見えたが、そうか、緊張しすぎて現実味が乏しかったというところか」 まさにその通りだったので、苦笑して和彦は頷く。する
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第32話(21)

「ぼくはあくまで、オマケ程度の存在ですから。誰もぼくを意識していないでしょう。でも、相対することになると、やっぱり受ける威圧感が違うというか……。怖いし、圧倒されます」「わたしは平気だろ」 これまでの自分の言動を思い返し、和彦は勢い込んで御堂に言い訳する。「御堂さんのことは、最初に会ったときに何も知らなかったせいで、意識しなくて済んだというかっ……。それに物腰も柔らかくて、ぼくに対して気軽に接してくれますし。それがありがたくて、決して軽んじているわけじゃ――」「わかってるよ。そんなに必死に言われると、わたしが脅しているようだ」 楽しげに笑う御堂を、和彦はついまじまじと見てしまう。さきほどの綾瀬とのやり取りといい、あくまで御堂は自然体だ。総和会のほんのわずかな部分を知っているに過ぎない和彦だが、それでもこう思うのだ。 御堂は、総和会の中では、異質の存在だ。 もうすぐ総和会に取り込まれてしまうであろう和彦自身、異質といえるかもしれないが、少なくとも御堂は、力を持ち、その力を振るう術を心得ている。 和彦の胸の奥で、不快な感情の塊が蠢いた。「――……御堂さんはやっぱり、長嶺組長たちと同じ世界の人なんですね。ぼくなんて、見ただけで臆してしまう人たちを相手に、対等に……、それ以上に渡り合っているんですね」「君はほんの一年半前まで、まったく別の世界で生きていた人だ。育ちもいいと聞いている。最初から組と近い環境にいたわたしとは違うよ」 だが今、和彦は御堂と同じ世界にいながら、まったく違う立場にいる。比べることすら失礼な、純然とした差がある。 ここでようやく和彦は、不快な感情の塊の正体がわかった。男の身でありながら、〈オンナ〉としてこの世界にいることへの引け目を、御堂に感じているのだ。 他の誰でもなく御堂にそんな感情を抱くのは、賢吾を昔から知っている人物だからなのか。秀麗な美しい見た目をしているからなのか。和彦が抗うことすらできない南郷と、張り合える立場にいるからなのか。理由はいくらでも思いついた。「佐
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第32話(22)

 ゆったりとシートに座っている賢吾の姿を認め、車に乗り込んだ姿勢のまま和彦は固まる。「どうして――」「ドアを閉めて、シートベルトをしろ、先生」 笑いを含んだ声で賢吾に言われ、素直に従う。賢吾が乗っているのだから当然だが、前に座っているのは長嶺組の組員たちだった。総和会の送迎にいまだに慣れない和彦としては、何日ぶりかのほっとできる感覚だ。 いくらか期待を込めて、賢吾を見遣る。「もしかして――」「夜までという約束で、総和会から先生を〈借りた〉んだ。少しつき合ってくれ」 こちらが尋ねたかったことを先回りしたように、賢吾が言う。和彦は落胆を隠しきれなかった。「……そうか」 夕食でも一緒にとるつもりなのだろうかと思い、あえて行き先は尋ねなかった。 車が発進し、薄闇の気配が感じられる街並みを眺めていた和彦だが、次第に隣の男のことが気になってくる。珍しく、話しかけてこないなと思ったのだ。 何かが、いつもと違う。 和彦はドアのほうにわずかに体を寄せ、警戒しつつ賢吾をうかがい見る。賢吾は、唇をわずかに緩めていた。しかし、何も言わない。 明るい繁華街を通り抜けて車が進んだ先は、独特の雰囲気がある一角だった。人気がないわけではないが、にぎわっていると表現するのはためらわれる。どんな店が並んでいるかは、出ている看板で一目瞭然だ。「降りるぞ、先生」 賢吾に声をかけられ、和彦は目を見開く。「ここで?」「風俗街なんて、お上品な先生は滅多にくることはないだろう。社会勉強だ」 賢吾に体を押され、仕方なく和彦は車を降り、賢吾もあとに続く。 否応なくいかがわしい看板が視界に飛び込んでくる。つい物珍しさからまじまじと見つめてしまうが、どういう店なのかわかると、途端に目のやり場に困る。「――ここはうちのシマじゃないから、下手に組の者は連れて歩けねーんだ」 落ち着かない和彦と肩を並べて歩きながら、賢吾がそんなことを言い出す。護衛の重要性をそれなりに理解している和彦はぎょっとする。「それ……
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第32話(23)

 急に引き返したくなったが、賢吾が引き戸を開けて玄関に入り、こちらを見る。手を差し出されると、逆らえなかった。 狭い玄関の横に受付窓があり、賢吾は何も言わず折り畳んだ万札を差し出すと、年配らしい女性の手が受け取った。玄関の正面にある勾配の急な階段を上がると、廊下には三つのドアが並んでいる。宿とは言っていたが、それらしい設備は見当たらず、民家と変わらない。宿泊施設としての営業許可など取っていないのだろうが、利用者が気にするとも思えなかった。 賢吾とともに部屋の一つに入る。三畳ほどの広さしかない和室で、スペースの大半を、すでに敷いてある布団が占めている。それ以外には、スタンド照明と小さな鏡台があるぐらいだった。 布団の傍らに置かれたスタンド照明をつけた賢吾が、襖の前に座り込み、手招きをする。この場ではとにかく賢吾に従うことにした和彦は素直に従い、賢吾の隣に座る。次の瞬間、この階に自分たち以外にも人がいるのだと知った。 襖の向こうから激しい衣擦れと、忙しい息遣いが聞こえてくる。ハッとして賢吾を見ると、唇の前で人さし指を立てた。隣の部屋とは壁ではなく、襖で仕切られているだけなのだ。 驚いたことに、賢吾が静かに襖を開ける。思いがけない行動に、制止することすらできなかった。 ふわりと和彦の頬を撫でたのは、むせるような熱気と妖しい空気だった。顔を背けながら咄嗟に賢吾の腕を掴む。そんな和彦の耳にはっきりと、男の掠れた喘ぎ声が届く。さらにもう一人、低くしわがれた声も――。 まさかと思いながらも、開いた襖の間から、おそるおそる隣の部屋を覗き込む。まっさきに和彦の目に飛び込んできたのは、布団の上に横たわり、大きく両足を広げられた御堂の姿だった。その両足の間で、人の頭が蠢いている。何をしているかは明らかだった。 激しい動揺のため、和彦の心臓の鼓動は狂ったように速くなり、息苦しくなる。意識しないまま口元に手をやり、荒い呼吸を繰り返す。そんな和彦の肩を抱き寄せながら、賢吾も隣の部屋を覗く。いや、〈覗く〉という表現は正しくないだろう。襖は数十センチ開いており、二人の姿はまったく隠れていないのだ。「うっ、あぁっ――」 御堂がゾッとするほど艶めかしい声を上げ、腰を捩る。すると
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第32話(24)

 綾瀬の肩に担ぎあげられた御堂の片足が、爪先までピンと張り詰める。御堂の欲望を深々と口腔に含んだ綾瀬は、内奥に挿入する指の数を増やし、卑猥な動きで内奥を解す。スタンド照明のほのかな明かりの下でも、御堂の内奥が妖しく色づいているのはわかった。発情の色だ。「はあ、はあ、あっ、も、う……、綾瀬さん――」 御堂の手が、綾瀬の髪を撫で回し、掻き乱していく。ひくつく内奥にしっかりと指が根本まで挿入された次の瞬間、御堂が大きく息を吐き出して、小刻みに腰を震わせた。少し間を置いて、綾瀬がゆっくりと頭を上げる。「……味は変わってないな」 綾瀬が発した言葉に、御堂は怒ったように目元を険しくする。「そういうことまで、しなくていいのに……」「お前の味を確認しておきたかった」 綾瀬が御堂に覆い被さる。ここでやっと、綾瀬の腕の部分の刺青も見ることができたが、立派な羽の一部だった。一体どんな生き物なのだろうかと考えているうちに、綾瀬の刺青を愛撫するように、御堂がてのひらを這わせる。 賢吾や三田村の刺青を撫で回す自分の姿が思い出され、和彦は目を背けたくなるような羞恥に襲われるが、一方で、目が離せない。御堂を見ていながら、自分が知らない自分の姿を見ていると思ったのだ。つまり、男たちが知る、和彦の姿だ。 御堂の両足を押し広げるようにして、綾瀬が逞しい腰を割り込ませる。二人は間近で見つめ合い、唇を重ねた。淫靡な湿った音が、やけに大きく聞こえる。 貪るように唇を吸い合い、差し出した舌を大胆に絡めながら、下肢では御堂が、綾瀬の腰に両足を引っかける。余裕のない動きで綾瀬が、張り詰めた欲望を御堂の内奥の入り口に押し当てた。 見ている和彦のほうが息を詰め、賢吾の膝に手を置く。賢吾はその手をきつく握り締めてくれた。「あううっ」 内奥の入り口をこじ開けるようにして、綾瀬の欲望がわずかに押し込まれると、御堂が苦しげに声を上げる。動きを止めた綾瀬が、御堂の乱れた灰色の髪を掻き上げた。「――……久しぶりすぎて、俺の形は忘れたか」「
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第32話(25)

 二人の体の位置がわずかにズレたおかげで、和彦はやっと、綾瀬の右肩から右胸にかけて彫られた刺青を見ることができた。 立派な羽から、鷲の姿を想像していたが、鳥というにはあまりに異形だ。さまざまな生き物の特徴を併せ持っているのだ。漠然と、ある空想上の生き物の名が頭に浮かぶ。 鳳凰、と声に出さずに唇を動かしていた。「ああっ――、あっ、あっ、んあっ……」 背後から果敢に突き上げられるだけではなく、両足の間をまさぐられて、御堂の嬌声がますます大きくなる。そんな御堂を、綾瀬が言葉で嬲る。「隠居している間、どれだけの男を咥え込んだ。お前なら、若い連中も喜んで相手になってくれただろう。それとも、いつもお前に忠実に仕えている二神だけか?」「……下衆な、話題ですね」「俺は昔から、下衆だろう」「少なくとも、マシな、下衆でしたよ」 綾瀬が体を震わせて笑う。笑い声はまるで、雷の轟のようだった。 会話を続ける余裕がなくなったのか、御堂の息遣いが切迫してくる。自ら求めるように腰を揺らし、綾瀬がそんな御堂の腰をしっかりと抱え込む。 御堂の体が一瞬強張ったあと、布団に精を迸らせる。その直後に、綾瀬が唸り声を洩らし、乱暴に腰を突き上げた。最後の瞬間を、御堂の中で迎えたのだ。 背後から御堂の体を抱き締めるようにして、綾瀬が覆い被さる。御堂は息を喘がせながら、綾瀬の手に自分の手を重ねた。張り詰めていた空気が一気に緩み、乱れていた二人の息遣いが少しずつ静まっていく。 これで行為は終わりかと思われたが、身じろいだ綾瀬が、愛しげに御堂の肩に唇を這わせながら、汗に濡れた紅潮した体を撫で回していく。「久しぶりだからな。じっくり堪能しておかないと。どうせお前、しばらくは忙しくて、相手なんてしてくれないだろ」 綾瀬の言葉に、疲れ切った様子の御堂は唇だけの笑みを浮かべた。「いざとなったら、こちらの予定なんて蹴散らすくせに」「我慢強いだろ、俺は。お前に待てと言われたら、いくらでも待ってやる。だから、こんなときぐらい――」 綾瀬の片手が、御堂の両足の間
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第32話(26)

** 帰路につく車の中で、和彦はまだ呆然としていた。そのくせ、興奮による頬の熱さだけはしっかりと意識できていた。 頬にてのひらを押し当てていると、隣に座っている賢吾がようやく口を開く。「――少しは落ち着いたか、先生」 ハッとして頬から手を離した和彦は、内心激しくうろたえながらも、努めて平静を装い、囁くような声で応じる。「平気だ……」「だったら、さっきの〈あれ〉について、説明をしていいか」 和彦の脳裏に、つい十分ほど前に目にした光景が一気に蘇る。肌に触れた熱気や、艶めかしい息遣いすらも、思い出すのは容易い。肌がざわつき、ジャケットの上から自分の腕をそっとさすった。 頷いて返すと、賢吾は正面を見据えたまま話し始めた。「秋慈は、清道会の現会長の親類だ。御堂の家自体は、まっとうな堅気だったんだが、親類がやっている商売に対して、あまり危機感がなかった。面倒見のいい親類の家、という認識だったんだろう。だから、息子が出入りすることにも寛容だし、その息子がどういう目に遭っているのかも、気づかなかった」「……どういう目に遭って、とは?」 当時のことを思い出したのか、賢吾はわずかに目を細めた。「秋慈が高校生の頃、清道会には、北の地方のある組の若頭が滞在していた。地元で揉め事を起こして、ほとぼりを冷ますためだそうだが、客分として身柄を預かったんだそうだ。清道会会長――当時は組長だったが、昔、その若頭がいる組の組長と五分の兄弟盃を交わした縁で、大層なもてなし方をしたようだ」 和彦が戸惑いの表情を浮かべると、聡い男はすぐに察したらしく、薄い笑みを浮かべる。「五分の兄弟盃というのは、兄弟とはついているが、上下なしの対等ってことだ。この間柄で問題を起こすと、解決するのはいろいろと難儀する。片方に、従えと命令できるわけでもないからな。――秋慈は、その若頭に手を出された。力ずくだったのか、合意のうえだったのかは、俺も知らない。とにかく、周囲が気づいたときには、若頭が秋慈にのぼせ上がった状態で、自分の組に連れ帰るとまで公言していた。いくら極道の世界でも、高
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