このとき初めて、南郷が不愉快そうに顔をしかめた。和彦の前では、悠然と物騒な笑みを浮かべることが多い男が、やっと本性を現したのだ。南郷から漂う粗暴さや荒々しさにそれでなくても気圧される和彦だが、そこに敵意が加わると、自分に向けられたわけでもないのに身が竦む。「手を離してもらおうか。その先生は、うちの大事な客人だ」「ゴキブリが取り澄ました言葉を使うな。こいつは、長嶺の男たちのオンナ、だろ」「そしてあんたは、そんな先生の番犬だったな。ここまで来るぐらいだ。よっぽど心配してのことだろうが、生憎、大事に大事にしているぜ。――なあ、先生?」 南郷に片手を差し出され、怯む。南郷の意図を察して、一瞬反発心が芽生えたが、和彦にはその手を払いのけることはできない。 鷹津と南郷が初めて顔を合わせたときから感じていたが、この二人の男はおそろしく気質が合わない。鷹津と賢吾も関係としては最悪だが、まだ互いの利害のすり合わせを行える程度には、話ができる。 しかし、相手が南郷となると、鷹津は普段の狡猾さすらかなぐり捨てようとする危うさが漂う。利用もできない敵だと、鷹津はそう南郷を認識しているのだ。 どちらの男に対する感情なのか、自分でも判別できないが、和彦は心の中で呟いた。怖い、と。 傍らの鷹津を見て、肩にかかった手をそっと押し返す。「大丈夫だから、帰ってくれ。ここで揉めてほしくない」「と、先生が言っている」 茶化すように言った南郷を鋭く一瞥した和彦は、声を潜めて鷹津を諭す。「……あんたが刑事の肩書きを失うと、ぼくが困る。あんたにはまだ――、ぼくの番犬でいてもらわないと」 鷹津はそっと目を細めると、何も言わず身を翻して立ち去った。入れ替わるように和彦の傍らに立った南郷が、鷹津の後ろ姿を見送りながら、皮肉げに呟く。「よく躾けられた番犬だ。ああいう厄介な男を上手く手懐けられる秘訣を知りたいもんだ」「あまり……、あの人を挑発するようなことを言わないでください」「言う相手が違うな。俺が仕えているのは、オヤジさんだ。あんたが命令できるのは、あの刑事に対して
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