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第31話(26)

 このとき初めて、南郷が不愉快そうに顔をしかめた。和彦の前では、悠然と物騒な笑みを浮かべることが多い男が、やっと本性を現したのだ。南郷から漂う粗暴さや荒々しさにそれでなくても気圧される和彦だが、そこに敵意が加わると、自分に向けられたわけでもないのに身が竦む。「手を離してもらおうか。その先生は、うちの大事な客人だ」「ゴキブリが取り澄ました言葉を使うな。こいつは、長嶺の男たちのオンナ、だろ」「そしてあんたは、そんな先生の番犬だったな。ここまで来るぐらいだ。よっぽど心配してのことだろうが、生憎、大事に大事にしているぜ。――なあ、先生?」 南郷に片手を差し出され、怯む。南郷の意図を察して、一瞬反発心が芽生えたが、和彦にはその手を払いのけることはできない。 鷹津と南郷が初めて顔を合わせたときから感じていたが、この二人の男はおそろしく気質が合わない。鷹津と賢吾も関係としては最悪だが、まだ互いの利害のすり合わせを行える程度には、話ができる。 しかし、相手が南郷となると、鷹津は普段の狡猾さすらかなぐり捨てようとする危うさが漂う。利用もできない敵だと、鷹津はそう南郷を認識しているのだ。 どちらの男に対する感情なのか、自分でも判別できないが、和彦は心の中で呟いた。怖い、と。 傍らの鷹津を見て、肩にかかった手をそっと押し返す。「大丈夫だから、帰ってくれ。ここで揉めてほしくない」「と、先生が言っている」 茶化すように言った南郷を鋭く一瞥した和彦は、声を潜めて鷹津を諭す。「……あんたが刑事の肩書きを失うと、ぼくが困る。あんたにはまだ――、ぼくの番犬でいてもらわないと」 鷹津はそっと目を細めると、何も言わず身を翻して立ち去った。入れ替わるように和彦の傍らに立った南郷が、鷹津の後ろ姿を見送りながら、皮肉げに呟く。「よく躾けられた番犬だ。ああいう厄介な男を上手く手懐けられる秘訣を知りたいもんだ」「あまり……、あの人を挑発するようなことを言わないでください」「言う相手が違うな。俺が仕えているのは、オヤジさんだ。あんたが命令できるのは、あの刑事に対して
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第31話(27)

「最初に話していたのは、賢吾だった。あんたのために、いい番犬をつけてやったと。次に話していたのが、南郷だ。あの刑事は、先生に狂っている性質の悪い犬だと、おもしろいことを言っていたが――、今日見て、納得した。確かに、刑事の肩書きを持ちながら、総和会本部の前で張り込むなど、正気の沙汰じゃない。しかもそれが、職務に駆り立てられてのものじゃなく、あんた個人のためだ」 守光の口ぶりからして、すべて南郷から伝わっているようだ。自分の口からの説明が省けるということは、しかし和彦には救いにならない。「……ぼくが、マンションにも本宅にも姿を見せないため、心配したようです。普段は、用がなければ連絡も取り合うこともないので、正直、今日のような行動は予想外で……」「仮にあの刑事が、うちの者に小突かれたと訴えたら、我々は何もできん。素直に取り調べを受けるしかないんだ。領分を弁えない者には、総和会の力など通用しない。当然、駆け引きもできない。そういう手合とは関わりを持たないのが一番だが、賢吾には賢吾の考えがあるんだろう。しかし、今は状況が変わっている。あんたは長嶺組組長だけではなく、総和会会長であるわしのオンナだ。わしの言うことにも従ってもらわないと困る」 守光の言うことは、理解できる。鷹津の存在に危惧を抱いて当然のことだ。視線を伏せて守光の話を聞いていた和彦だが、次に言われた内容に、ハッと守光の顔を見つめていた。「――あの男を手放すんだ」 和彦は大きく目を見開く。「手切れ金なら、こちらで用意するし、話もつけよう。あんたは何も心配せず、長嶺の男たちにとって善きオンナであり、ときには息抜きとして、安全な男たちと関係を持てばいい」 全身が熱くなったのは、羞恥からなのか、それ以外の感情からなのか、あえて和彦は考えなかった。「それは――」「あんたの番犬は、あんた恋しさに、さらに狂うだろう。それは、わしらだけでなく、何よりあんたにとって危険だ」 動揺と混乱によって、頭の中が真っ白になる。だが、長い時間ではなかった。石を投げ込まれた湖面が大きな波紋を広げたあと、何事もなかったように静けさを取り戻すように、和彦はすぐ
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第31話(28)

 ほっとしかけた和彦だが、守光の話はこれで終わりではなかった。穏やかな表情のままこう切り出したのだ。「――さて、ささやかとはいえ、総和会会長を危険に晒したことに対して、あんたに罰を与えねばならない。しかもあんたは、危険の元凶を庇った。わしに恥をかかせたんだよ」 全身から一気に血の気が失せた。まっさきに和彦の頭に浮かんだのは、一体どんな痛みを与えられるのかということだった。 和彦が見せた恐怖の表情を堪能するように、膝同士が触れるほど側に寄ってきた守光が、顔を覗き込み、さらに手を伸ばしてくる。頬を撫でられて、総毛立った。痛みを予期して、奥歯を噛み締めて耐えていると、守光は低く声を洩らして笑った。「あんたを痛めつけたりはしない。大事で可愛いオンナだ。相応しい罰というものがある」 守光の手が頬から肩へと移動し、そっと引き寄せられる。和彦はおずおずと座布団から下りると、肩を抱かれるまま守光へと寄り添う。優しくあごを持ち上げられて、唇が重なってきた。 体を強張らせたまま、守光の意図が読めず戸惑う和彦は、視線を伏せることすらできなかった。優しいとも厳しいとも、冷ややかとも表現できる守光の双眸を、魅入られたように覗き込む。守光にしても、和彦の両目を見つめていた。 自分の中には何もないというのに、と自嘲気味に考えていた和彦だが、ここで異変に気づく。肩を抱いていた守光の手が今度は背へと下り、ついには腰の辺りにかかる。帯を解かれながら、唇を吸われる。ぎこちなく口づけに応えているうちに、着物を肩から滑り落とされていた。 羽織を脱いだ守光に、深く胸に抱き寄せられる。和彦は片手を取られ、着物の上から守光の高ぶりに触れさせられた。この瞬間、まるで初めて触れたように激しくうろたえ、守光に訴える。「ぼくに対する怒りは当然だと思います。ですが、心臓に負担をかける行為は、まだ控えてくださいっ……。何かあったら――」「それは承知している。いい機会だから、あんたに罰を与えると同時に、オンナとしての嗜みを教えるだけだ」 再び守光に唇を塞がれ、口腔を舌でまさぐられているうちに、半ば条件反射として和彦も応える。舌を絡め合い、唾液を啜り合いながら、溶け
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第31話(29)

 和彦は、自らの手で着物の下から守光の欲望を引き出し、初めて舌を這わせる。「――賢吾と千尋の味を、あんたはその柔らかな舌で知っている。そしてとうとう、わしのも味わうというわけだ」 感嘆しているのか揶揄しているのか、守光の口調からうかがい知ることはできない。和彦にわかるのは、守光がひどく興奮しているということだった。 守光の体への負担を考えると、制止すべきなのだ。だが当の守光は頓着せず、むしろ和彦の戸惑いに愉悦を覚えている節すらある。南郷にしても、守光を諌めるどころか、積極的に和彦の欲望を煽り、守光を目で楽しませている。 長襦袢をたくし上げられ、突き出した腰を震わせて内奥を嬲られている様は、さぞかし浅ましく、淫らだろう。相手が守光でなければ、和彦は泣き出しているかもしれない。 守光と南郷によって与えられる屈辱と羞恥は、甘い毒だ。たまらなく嫌なのに、体の奥から官能が溢れ出てくる。「わしに教えてほしい。普段どうやって、わしの息子と孫を甘やかしているのか」 守光の指に髪を梳かれ、たったそれだけの刺激が、ゾクゾクするほど心地いい。そこに追い打ちをかけるように、南郷が内奥で指を蠢かす。 和彦は熱い吐息をこぼすと、震える舌で守光の欲望を舐め上げてから、先端に唇を押し当てる。 焦らすように軽く吸い上げてやると、千尋はすぐに息を乱し、切なげな声で和彦を呼ぶのだ。賢吾は常に余裕たっぷりで、和彦の好きなようにさせるが、高ぶりを覚えると、やや強引に頭を押さえつけてくる。 二人の長嶺の男の好みを、和彦は唇と舌を駆使して実践してみせた。守光は何も言わない。ただ、まるで子供でも褒めるように頭を撫でてきた。 この時間が延々と続くのかと思ったとき、和彦は顔を上げて息を詰める。さんざん南郷の指で蕩けさせられた内奥に、硬く滑らかな感触が押し当てられた。すでに体に馴染みつつある感触だ。「心配しなくていい。痛い思いはさせん。――さあ先生、続けてくれ」 守光の欲望をゆっくりと口腔に含んでいくと同時に、内奥に道具を含まされる。下腹部に広がる苦しさから呻き声を洩らすと、南郷の片手が前方に回され、欲望を握り締められる。被虐的な状況にありながら、和彦の欲望は
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第32話(1)

 守光の体調は安定している。和彦は、病院の検査結果に目を通し、賢吾からの又聞きではあるが医者の診断も聞いたが、問題はないようだ。つまり、医者である和彦が側についている必要はないということになる。しかし守光は、何も言わない。 守光に請われて生活を共にしている身としては、もう体調の心配もないようなのでお暇したいと、堂々と切り出すことはできず、和彦は相変わらず、総和会本部とクリニックを往復する生活を送っていた。 正直、長嶺の本宅とは違い、気が休まらない環境だ。こういう状況になって初めて、自分はこれまで、賢吾にずいぶん自由に過ごさせてもらっていたのだと痛感する。 もっとも、物騒な男たちに目をつけられる以前は、さらなる自由を享受していたのだが――。 慣れていくものだなと、ウィンドーの外を流れる景色を眺めながら、和彦はふっと苦笑を洩らす。「――どうかしましたか、先生」 微かな気配を感じ取ったのか、ハンドルを握る人物が声をかけてくる。 クリニックへの送迎は、長嶺組では担当する組員が決まっていたため気心も知れており、帰宅途中に買い物につき合ってもらったり、夕食を一緒にとるなどしていたのだが、総和会では日によって顔ぶれが変わる。長嶺組の組員たちとは雰囲気も違い、話しかけるのもためらわれ、和彦は必要最低限のことしか口にしない。 総和会は、そんな和彦の様子に思うところがあったのか、それともたまたまなのか、今日の迎えの車の運転手は、和彦の親しい人物だった。「君に運転手を務めてもらうのは久しぶりだと思って。緊張しなくていいから、ありがたい」「緊張なんて……。気をつかわずに、自由に振る舞えばいいのに」「そうは言うけど、長嶺組の組員たちと違って、総和会の人間は気軽に話しかけてくれない。君ぐらいのものだ」 ああ、と声を洩らした中嶋が一人で納得したように頷く。「それは、仕方ないですよ、先生」「何が仕方ないんだ?」「先生はもう、総和会内での大物です。一介の構成員は恐れ多くて、気軽に話しかけるなんて……」「……大げさだな。そこ
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第32話(2)

 シートに座り直し、再び外の景色に目を向ける。外はまだ明るく、日没までの時間を考えると、このまま帰宅するのは惜しい気がした。ここのところ一切寄り道をせず、おとなしく総和会本部に戻っていたのだが、今日は運転手が中嶋ということもあり、思いきって切り出してみた。 「帰りに寄りたいところがあるんだけど、いいかな?」 「どこでもおつき合いします」 「だったら、書店に……」 「ついでに、外で夕飯も済ませませんか」  意外な申し出に和彦は目を丸くする。決まり事というわけではないが、総和会本部に滞在するようになってから、夕食は守光の住居で規則正しく済ませるようになっていた。多忙な守光は同席しないことのほうが多いが、その代わり、吾川が食事の相手を務めてくれるのだ。 「……連絡を入れておかないと――」 「大丈夫です。本部から言われたんですよ。今晩は、先生と外でゆっくり過ごしてこいと。そろそろ先生の息抜きが必要だと判断したのかもしれませんね」 「ああ、だから君なのか」 「そういうことです」  許可が出ているなら、気が楽だ。和彦は久しぶりに晴れやかな笑顔を浮かべ、どこで食事をするか、さっそく中嶋と相談を始めた。** 総和会本部の建物が見えてきても、和彦は上機嫌だった。書店で欲しい本を購入できたし、中嶋の勧めで入ったイタリアンレストランの料理も美味しかった。一杯だけグラスワインを飲んだが、指先までアルコールが行き渡ったようだ。  何日ぶりかに味わった夜の街の空気が、気分を高揚させてくれる。熱帯夜であったとしても、まとわりつくようなむし暑さすら、気持ちよく感じたぐらいだ。  感じる解放感が強ければ強いほど、自覚する。守光の庇護下で遠慮がちに過ごすことに、自分は窒息しかけていたのだと。  無意識のうちにため息をこぼしていたらしく、中嶋が声をかけてきた。 「疲れましたか、先生」 「あっ、いや……。せっかくの夜遊びだったのに、もっと気楽に楽しみたかったなと思ったんだ」 「夜遊びといっても、まだ宵の口ですよ。先生が本部に滞在中の身でなければ、もっと連れ回したんですけど。さすがに今夜は、事情が
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第32話(3)

「先生には、この建物の中でも寛いで過ごしていただくことが、我々の望みです。言っていただければ、部屋にお好みのアルコールをご用意いたします」 十分よくしてもらっていますと、モゴモゴと口ごもりながら応じた和彦は、エレベーターが四階に着いてほっとする。 ラウンジには、会合から流れてきたのか、数人の男たちの姿があった。コーヒーを飲みながら談笑しているという様子ではなく、真剣な顔で何か話し合っていたようだ。和彦と吾川がエレベーターから降りると、ソファに腰掛けたまま、こちらに会釈を寄越した。和彦も頭を下げて返し、なんとなく吾川に視線を向ける。「幹部会の方々です。これから別室で、集まりがあるそうです」 だとしたら、守光も顔を出すのだろうかと考えていると、吾川が玄関のドアを開ける。大きな靴が一足並んでいるのを見て、反射的に和彦は顔を強張らせる。南郷だけが中にいるのではないかと思ったのだ。 足が竦みそうになったが、吾川に促されて玄関に入ると、背後でドアが閉まる。吾川は、一緒に玄関には入らなかった。立ち尽くしているわけにもいかず、おそるおそる部屋に上がった和彦は、ダイニングを覗く。一気に体の力が抜けた。「来てたのか……」 安堵を声に滲ませて呟くと、イスに腰掛けていた賢吾がゆったりとした動作で立ち上がる。昨年の夏場もよく着ていた長袖の濃いグレーのワイシャツ姿だが、一人で寛いでいたらしく、ネクタイを緩め、ワイシャツのボタンも上から二つほど外している。 目の前にやってきた賢吾が両腕を軽く広げたので、意図を察した和彦は、アタッシェケースと紙袋を足元に置いてから、体を寄せた。両腕できつく抱き締められ、心地よさに吐息が洩れる。「こっちは、先生の帰りを今か今かと待っていたのに、夜遊びか?」 冗談っぽく耳元で囁かれ、和彦は慌てて弁明する。「帰ってくるまで、ここで会合があったなんて、知らなかったんだ。中嶋くんが迎えにきてくれたから、息抜きにつき合ってもらった。……だいたい、ぼくの帰りを待つぐらいなら、早く帰ってこいと携帯に連絡を入れたらよかっただろ」「男心がわかってないな、先生」「&hel
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第32話(4)

「外にいた幹部連中と、何か悪だくみがあるそうだから、まだ当分戻ってこない。戻ってきたところで、せいぜい見せつけてやればいい」 そんなことを言いながら賢吾にジャケットを脱がされる。その手つきから賢吾の高ぶりを感じ取り、ふと和彦は、千尋のことを思い出していた。 千尋も、賢吾の部屋で和彦を抱くことにひどく興奮していたのだ。父親の部屋で、父親のオンナを抱くことに、異常で特殊な興奮を覚えたのだろうが、おそらく賢吾も今、同じ状態なのだ。 そして和彦は、長嶺の男たちの高ぶりに容易に感化されてしまう。「うっ……」 Tシャツを押し上げられ、触れられる前から痛いほど凝った胸の突起をきつく吸い上げられる。もう片方の突起は指で摘み上げられ、押し潰すように刺激されると、呻き声を洩らしてビクビクと胸を震わせる。「オヤジに毎晩吸われてるか? ここも、こっちも――」 賢吾の手が両足の間に這わされ、布の上から敏感なものをぐっと押さえつけられる。和彦が否定しないでいると、賢吾は忌々しげに眉をひそめる。「……我がオヤジながら、呆れるほど元気なジジイだ」 一旦体を起こした賢吾に下肢を剥かれ、乱暴に両足を抱えられて左右に広げられる。射抜くほど鋭い眼差しで賢吾が探しているのは、和彦の体に残る守光の痕跡だ。もしかすると、もう一人の男の痕跡も――。 触れられることなく、ただ見つめられているだけなのに、和彦の体はすぐさま反応を示す。「賢吾っ……」 羞恥のあまり、堪らず声を上げたが、賢吾は許してくれない。指先が内腿をなぞり、熱くなりかけた欲望をそっと撫で、柔らかな膨らみを軽く弄んだあと、尻の間に指先を這わせてくる。まさぐられたのは、内奥の入り口だった。「傷つけられてはないみたいだな。さすがに、丁寧に扱われているか」 敏感な粘膜を指の腹で擦られ、顔を背けた和彦はビクンと腰を跳ねさせる。賢吾が自分を痛めつけるはずがないと確信しているからこそ、体は素直に反応してしまう。見られたくないと強く思いながらも、賢吾から向けられる眼差しすら愛撫のように感じられ、肌が熱を帯びていく
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第32話(5)

 こんな場面を守光に見られたくないと思いながらも、それすら意識の外に追い払って、ただ賢吾が与えてくれる感触に追いすがってしまいたくなる。和彦の心の揺れを、賢吾は見逃さなかった。「――和彦」 名を呼ばれて賢吾を見上げた和彦は、切迫した声で訴えた。「早く、してくれ……」「何をだ?」「……早く、奥まで欲しい」 賢吾が上体を起こし、和彦の腰を抱え上げるようにして掴んだかと思うと、侵入を深くする。狭い内奥を、熱い肉塊で押し広げられる苦しさに声を上げながら、和彦は畳に爪を立てる。傲慢でふてぶてしい男の分身は、和彦の中で力強く脈打ち、歓喜していた。 強く肉を擦り上げることで得る悦びだけではなく、苦しみながらも受け入れる和彦の従順さに満足しているようだ。欲望を根本までねじ込んだところで賢吾が、息を喘がせる和彦の髪を手荒く撫で、目を細めた。「俺の〈形〉を忘れてないようだな」 和彦は、内奥に収まっている欲望を、自らの意思できつく締め付ける。こんなに熱くて凶暴なものを、忘れられるはずがなかった。 賢吾の片手に欲望を握り締められ、息を詰める。透明なしずくを垂らしている先端を指の腹で丹念に撫でられ、括れを擦り上げられる。腰をもじつかせると、緩やかに内奥を突き上げられ、体がじわじわと官能に侵食されていく。「賢吾、賢吾っ……」 もっと愛撫を欲して和彦が片手を伸ばすと、意図を察した賢吾が顔を伏せ、硬く尖ったまま胸の突起を、まるで見せつけるように舌先で転がしてくれる。「あうっ、うっ、い、ぃ――」 痛いほど強く吸い上げられ、悦びの声を上げながら和彦は、賢吾の背に両腕を回す。笑いを含んだ声で賢吾が言った。「こんなにしがみつかれたら、いいところを可愛がってやれないぞ、和彦」 和彦は必死に首を横に振る。「いい、から……。これで、いい」「尻を突かれるだけでいいのか?」 焦らされていると感じて、癇癪を起した子供のように賢吾の背を殴りつけてやる。もっともこんなやり取りすら、
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第32話(6)

 そう洩らした賢吾が、挑発的な眼差しを南郷に向ける。当の南郷がどんな反応を示したか、和彦は確かめる気にはならなかった。南郷を見て、和彦が反応を示せば、さらに賢吾は挑発的な言動を取ると予測できたからだ。 和彦は賢吾の頭に手をかけて引き寄せると、唇を塞ぐ。さすがの賢吾も驚いた素振りを見せたが、即座に唇と舌を貪り始める。同時に、内奥で欲望を蠢かす。 きつく欲望を締め付けると、唇に触れた賢吾の息遣いが笑った。乱暴に内奥を突き上げられたかと思うと、動きが止まる。そして、たっぷりの精を注ぎ込まれた。和彦は全身を戦慄かせて、全身を駆け抜ける快美さに酔う。 満足げに息を吐き出した賢吾にあごを掴まれ、有無を言わせず南郷のほうに顔を向かせられた。締まりのない表情を取り繕うこともできず、和彦はぼんやりと南郷を見つめる。南郷は、無表情だった。完璧に感情を押し隠してしまっている。普段のふてぶてしさすら、陰を潜めていた。 賢吾が、そんな南郷に語りかけた。「イイ顔してイクだろう、和彦は。淫奔で、どんな男でも咥え込んで骨抜きにするが、その男一人一人に違う顔を見せてるんだろう。性質が悪くて仕方ない。だが、俺が一番、こいつにイイ顔をさせていると自負している。――大事で可愛い、俺のオンナだ」 南郷から視線を引き剥がすように、再び賢吾のほうを向かされた。甘く優しい声で名を呼ばれ、恍惚として和彦は笑みをこぼす。重なってきた賢吾の唇を甘えるように吸い、口腔に自ら舌を差し込んで、男を求める。 内奥に収まったままの欲望を柔らかく締め付けているうちに、逞しさを取り戻していく。小さく歓喜の声を洩らした和彦は、本能のまま賢吾にすがりついた。** まだ身が燃えているようだった。 エアコンのおかげで程よく涼しい部屋だが、体の内側がじわじわと熱を発し続けていて、なんだか寝苦しい。和彦は寝返りを打って吐息を洩らしたが、その吐息すら熱を帯びている。 ほんの数時間前に味わった賢吾の体温は、厄介だ。いつまでも和彦の体に残っており、まだ抱き締められているような感覚に酔うことすら容易い。おかげで、眠りたくても目が冴えたままだ。 横になっているだけ無駄だと、ようやく諦
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