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Lahat ng Kabanata ng 血と束縛と: Kabanata 1651 - Kabanata 1660

1837 Kabanata

第46話(19)

 久しぶりの鷹津との口づけは、まずは一方的なものだった。痛いほどきつく唇を吸われて噛みつかれ、後ろ髪を掴まれてソファに半身を倒れ込ませる。のしかかってきた鷹津の荒い息遣いが顔に触れたが、すぐにまた唇を塞がれた。 口腔にねじ込まれた熱い舌が蠢き、粘膜をまさぐられ、歯列をなぞられる。搦め捕られた舌に歯を立てられたときは、このまま噛み千切られるのではないかと本気で危惧したが、同時に、抗いがたい肉の疼きも自覚していた。 夢中で互いを貪り、呼吸すら止まりかねない勢いで掻き抱き合っていたが、大の男二人が激情をぶつけるにはソファの上は狭すぎる。床に転がり落ちそうになった和彦は、すかさず鷹津の腕に引き止められた。 間近で目が合い、いまさらながら怯みそうになったが、鷹津に再び唇を塞がれ、すぐにまた求め合う。唇を吸い合い、差し出した舌を絡めながら、唾液を交わす。ぐっと腰に押し当てられた鷹津の欲望はすでに高ぶっていた。 四日前に鷹津が唐突に見せた性衝動は、自分が見た都合のいい夢のような気すらしていたが、もちろんそんなことはなかった。鷹津はひたすらじっと待っていたのだ。だから今、こんなにも荒々しく猛っている。「――最後にお前を抱いたのは、去年の秋だった」 鷹津にセーターをたくし上げられ、下に着ているシャツのボタンを外されていく。和彦の鼓動は狂ったように速くなっていた。「クソ忌々しいことに、そのときのことを何度も思い出して、夜一人で悶えていた。ついでに言うなら、夢の中でお前を犯してた」「……そんなこと言うなんて、悪いものでも食べたんじゃないか……」「お前と同じものしか食ってねーよ」 鷹津は短く声を洩らして笑う。「俺はお前に、どんな男だと思われてるんだ。一途な男なんだぜ。だから、ここにいる」 かつてであれば、憎たらしい口ぶりと表情で、餌をくれとねだってきていた鷹津だが、もうその言葉は必要ないと、和彦自身もわかっている。二人の関係は変わったのだ。 インナーシャツの下に入り込んできた熱いてのひらに脇腹を撫でられる。たったそれだけのことが鳥肌が立つほど心地よく、目が潤む。鷹津の唇が目元
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第46話(20)

 布の上から強く両足の間を押し上げられて、和彦は煩悶する。さきほどから握っている鷹津のものは重量と硬さを増しており、力強く脈打っている。その反応に和彦は感化されていた。「しゅ、う……。秀っ――」 舌打ちした鷹津が体を離してソファから下りた。「ベッドに行くぞ」 腕を掴まれて引っ張り起こされる。否も応もなく、和彦は寝室へと連れて行かれ、ベッドに押し倒された。 動きの制限がなくなった分、理性という制限もなくなる。ベッドの上でもつれ合いながら、余裕なく服を脱ぎ、ようやく素肌を重ねる。すっかり高ぶった欲望同士を擦りつけ合ってから、すぐにそれだけでは物足りなくなり、自然な流れとして、互いのものを口腔に含んだ。 鷹津の顔を跨ぐようにしてうつ伏せとなり、その体勢に激しい羞恥を覚えるが、和彦の羞恥を溶かすように、鷹津に強く欲望を吸引される。無意識に腰が逃げそうになっても、しっかりと腿を掴まれているため、突き出した尻を揺らすだけだ。 腰を引き寄せられ、熱い口腔深くにさらに呑み込まれる。和彦は呻き声を洩らしてから、鷹津の逞しいものの先端に丹念に舌を這わせ、唇で締め付ける。舌を添えながら、ぎこちなく頭を動かして口腔から出し入れすると、鷹津の下腹部が強張る。 この男の悦びを知ることが、今の自分の悦びだと、和彦は思った。「んうっ」 欲望を口腔に含んだまま。鷹津の指が内奥の入り口に触れてくる。和彦は大きく腰を震わせた。落ち着けと言いたげに、尾てい骨から背筋にかけててのひらが這わされ、その感触に痺れてしまう。 鷹津は察するものがあったのか、口淫の途中だった和彦は呆気なくベッドの上に再び転がされた。獣のように這った姿勢を取らされて、背後から柔らかな膨らみを揉みしだかれながら、尾てい骨から背筋にかけて舌先が何度も行き来し、和彦は快感に鳴かされる。「あっ、あっ、あぁっ――。んっ、あっ……ん、んふっ」 巧みに蠢く指先に、柔らかな膨らみの中にある弱みをまさぐられ、刺激される。何もかも差し出したくなるような、怖さを含んだ愉悦がうねりとなって体の奥から溢れ出してきた。 和彦は毛布を握り
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第46話(21)

「――入れるぞ」 背後から鷹津が掠れた声をかけてくる。体はよく覚えていて、和彦は、鷹津にとって具合がいいように、より大きく足を開き、腰を突き出した姿勢を取っていた。内奥の入り口に、ぐっと押し当てられたものは燃えそうに熱い。 自分が少し緊張していること気づいた和彦は、ゆっくりと息を吐き出す。その間に、鷹津は侵入を開始した。「ふっ……、うっ、ううっ、んっ」 鷹津の形だと、まっさきに露骨な感想が頭に浮かんだ。 数か月ぶりの和彦の肉の感触を確かめるように、鷹津はゆっくりと腰を進める。内奥を押し広げられながら、襞と粘膜を強く擦り上げられ、和彦は喉を鳴らす。馴染みのある重苦しい感覚が訪れるが、痛みはない。腰を抱え込まれてただひたすら緩やかに突きあげられながら、繋がりを深くしていく。内奥深くまで鷹津を受けれるのに、さほど時間は必要なかった。どちらも、狂おしいほどの情欲に駆り立てられていたからだ。 興奮し、淫らな蠢動を始めた部分を、ぐうっと突き上げられた。内から焼かれそうなほど、受け入れたものは熱い。「気持ちいいか?」 返事の代わりに、きつく欲望を締め付ける。鷹津が小さく声を洩らした。 てのひらで背を押さえつけられて、乱暴に内奥を突かれる。たまらず呻き声を洩らしたが、もう一度突かれたときは自分でもわかるほど、潤んだ嬌声となっていた。背を撫で上げられ、後ろ髪を手荒くまさぐられる。そんな感触すら心地いい。 そこから数度腰を突き上げられ、和彦の欲望は呆気なく絶頂の証を噴き上げた。間欠的に声を洩らし、腰を震わせて快感の余韻に浸る。一方の鷹津も、軽く腰を揺すったあと、いまだ激しい収縮を繰り返す内奥深くに精を放った。「ひあっ……」 この瞬間、和彦の意識は舞い上がり、閉じた瞼の裏で鮮やかな光が飛び交う。体の隅々にまで快美さが行き渡っていた。鷹津が大きく息を吐き出してから、慰撫するように再び背を撫でてくる。 和彦は、内奥でまだ力強く脈打つ鷹津のものを感じながら、明け透けだが、もっと欲しいと率直に感じた。 和彦の呼吸が落ち着くのを待ってから、鷹津のものがズルリと内奥から引き
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第46話(22)

「はあっ、あっ、い、い……。気持ちいぃ――、秀」 和彦が呼びかけるたびに、鷹津が腰を打ち付けてくる。その腰に両足を絡めながら、和彦は自らのものを握ると、律動のたびに擦り上げる。そうすると、より内奥の締まりがよくなると知っている。 和彦の媚態に、鷹津は口元に笑みを浮かべる。「それでこそ、お前だな。見た目からは想像もできないほど快感に貪欲で、何人も男を咥え込む」 責められるのかと和彦は身構えかけたが、湿った髪を鷹津に手荒く掻き上げられ、こめかみや額に唇が押し当てられる。愛しげに。「そんなお前が、ここでは俺だけのものだ。これでも、はしゃいでいるんだぜ。四十を過ぎた男が、浮かれたガキみたいに」 和彦は鷹津の髭面に頬ずりして、囁きかける。「だったらあんたも、ここではぼくだけのものだな」 舌打ちをした鷹津が首筋に顔を埋め、唇を這わせてくる。緩やかな律動に身を任せながら和彦は、全身で鷹津の重みと体温を受け止め、恍惚としながらゆっくりと目を閉じた。** ようやく触れ合えるようになったという現実を確認するように、二人の交歓は長く続いた。ベッドで身を寄せ、肌を擦りつけ合い、欲情が高まれば繋がる。精が尽きてしまえば、相手の体を愛撫しながら、精神的な高揚感に酔う。そんなことを繰り返していた。 ときおり鷹津はベッドを抜け出し、薪ストーブの様子を見たり、飲み物を取ってきてくれたが、和彦はひたすらベッドの中にいた。 時間の感覚が怪しくなっていたが、何げなく窓のほうを見て、息を洩らす。断熱シートが貼られた窓は、外の景色がぼんやりとしか見えないのだが、それでも日が暮れて暗くなっていく様子ぐらいはわかる。 何時間、鷹津とベッドで過ごしていたのだろうかと、少しだけ自分に呆れた。 寝室に戻ってきた鷹津が、ベッドの端に腰掛けて問うてくる。「なあ、腹減らないか?」「……減った。シチューの残り、全部食べたんだよなー」「献立を考えるのも、今から下準備するのも面倒だから、今晩はパスタでいいな。パウチのソースがあるし――」
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第46話(23)

 黙々とパスタを食べていると、隣で鷹津が小気味いい音を立てながら人参のピクルスを食べ始める。鷹津の食事の様を無意識に目で追っていると、当の鷹津がふいにこちらを見て、ニヤリとした。「お前今、いやらしいことを考えてたろ」「……なっ、に、言って……」「さすがに今晩は、もう勃たないぞ。明日の朝ならもしかすると――」「食事中に品のないことを言うなっ。そもそもぼくは、いやらしいことなんて考えてないからなっ」「本当か?」 鷹津の笑みが、ニヤニヤへと進化している。和彦は反論しようとしたが、言葉が出てこない。自分の分が非常に悪いことはわかっていた。実は、食事をしている鷹津の口元を見て、行為の最中に自分を貪ってくる獣のような姿が重なってしまったのだ。「意地の悪い男だな……」 和彦がぼそりと洩らした言葉に、さらりと鷹津が返す。「お前は、可愛いな」 もう鷹津の顔は見られなかった。急いで食事を済ませると、後片付けを鷹津に任せて薪ストーブの前に移動しようとして、気が変わった。ダウンコートを手に玄関に向かうと、すかさず鷹津に止められる。「お前、一応病み上がりなんだから、チョロチョロするな」 さきほどの仕返しとばかりに、和彦はにっこりと笑いかける。「ぼくがとてつもなく元気になったのは、あんたが一番よくわかってるだろ」「……このヤロー」「玄関前で外の空気を吸うだけだ」 そう言って玄関を出た和彦は、身が引き締まるような寒さに首を竦めてドアを閉めた。 日没は間近で、遠くの空にわずかながら夕焼けが覗いている。ログハウスの周囲には夜の気配が色濃く忍び寄っていた。静寂を破るのはパタパタという水音で、溶けた雪が庇から地面に落ちているのだ。このまま冷え込めば、明日の朝にはツララが見られるかもしれない。 和彦はウッドデッキに置かれたベンチに腰掛けると、ただ目の前の景色を眺める。冬の間だけ外の世界から隔絶されたようなこの場所は、息を潜めて生活するにも、療養するにも最適だ。鷹津はいつから目星
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第46話(24)

「おい――」 驚いた表情を見せた鷹津が隣に腰掛け、顔を覗き込んでくる。何事かと戸惑ったあと、和彦は自分の変化を知る。両目から涙が溢れ出していた。慌てて手の甲で拭うが、涙は止まらない。 少し間を置いてから、鷹津にぶっきらぼうな口調で問われた。「どうした?」「……つい考えたんだ。そうしたら急に涙が出てきて、自分でびっくりした」「何を考えた」 慎重な手つきで渡されたカップを受け取り、一口お茶を飲む。急な感情の高ぶりは、落ち着くのも早い。和彦は急に気恥ずかしくなってきた。「言わなきゃダメか?」「俺の腰が抜けかけるほど驚かせて、悪いと思うならな」 そんなタマかよと、和彦は笑ってしまう。もう一度手の甲で目を拭ってから、ぽつぽつと話した。「――……二人が望んでいたのは、こんな生活だったのかもしれない、と思ったんだ……」「二人?」「ぼくの実の両親。駆け落ちしたくても、家のことを考えてできなかったみたいで。でももし、何もかも捨てて一緒に逃げていたら、どんな生活をしていただろうなって。どちらも世間知らずっぽかったみたいだけど、特にぼくの母なんて、本当に箱入り娘だったらしくて、きっと、父は苦労してたはずだ。ここみたいに、静かで人があまりこない場所でひっそりと暮らしながら、母のことを甲斐甲斐しく世話したのかもしれない」 実際のところ、二人のことはよく知らない。あくまで和彦の想像でしかないが、鷹津からカップを渡されたとき、賀谷の姿が重なったのだ。 心も体も満たされたからなのか、夜が訪れようとしているこの時間だからなのか、一瞬胸に走った寂しさがよく効いた。また涙が出そうになり、和彦は唇を噛む。 おい、と鷹津に呼ばれて顔を向けると、すかさず唇を塞がれた。和彦は素直に口づけを受け入れる。 時間をかけて互いを味わい、ようやく唇を離したとき、涙はもう引っ込んでいた。そして鷹津にこう言われる。「苦労はするだろうが、案外楽しいかもしれない。惚れた相手に、とことん尽くす生活は」 鷹津の言葉には実感がこもって
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第46話(25)

****「――相手を怯ませたいなら、目を狙え」 コーヒーを一口飲んでの鷹津の言葉に、和彦は唇をへの字に曲げる。「前に、違う人間から同じようなアドバイスをされた。……素人に、いきなり人間の目を狙えって、ハードルが高いんだよ。ヤクザや、元刑事にはわからないだろうけど」 そう言って和彦はトーストをかじる。なんとなく気が向いて作ったシュガートーストだが、和彦がグラニュー糖をパンに振りかけていると、鷹津は露骨に嫌そうな顔をしていた。シュガートーストとブラックコーヒーの組み合わせがいかに素晴らしいか、この男は一生知ることはないのだと思うことで、鷹津の無礼を和彦は静かに許したのだ。「目が嫌なら、喉元だ。とにかく突け。思いきりな」 和彦が顔をしかめると、呆れたように鷹津がため息をつく。「お前、野獣相手にお上品に説得したら、どうにかなるなんて考えてねーだろうな?」「……そこまでお人よしじゃない」 どうだかな、と言いたげに鷹津が鼻を鳴らす。 雪が解けてから、和彦はログハウスの周辺を走るようになり、室内でも簡単な筋トレを始めた。鷹津は、和彦の体調が完全に復調するのを待っていたように、朝から物騒なことを言い出したのだ。「言っておくが、お前がのほほんとしていられるのは、いままで運がよかったからだ。長嶺父子の威光が強すぎるってのもある。だがな、本当にヤバイ奴には、そんなものは通用しない。むしろ、積極的にお前を狙ってくる可能性もゼロじゃないってことだ。手加減のない暴力ってのは一度受けたら、肉体以上に精神がぶっ壊れる」「経験者は語る、か?」「おう。何度、ボッコボコにされたか。おかげで性格が捻くれた」 鷹津なりの冗談なのか判断がつかず、和彦は微妙な表情で返す。「大事なのは、初手の攻撃を受けないこと。ケンカ慣れしてないお前に、殴り合いで勝てなんて無茶は求めない。とにかく、相手の虚を衝け」「そのために、目や喉元を狙うのは効果的だと」「警察署では、女相手に護身術の講習会を開くことがあるんだ。そ
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第46話(26)

「一度、あの世界から離れてみると、自分の弱さを実感するんだ。ぼく自身は非力で、何も力を持たない」「お前を知ってる人間なら、みんなわかってることだな。だからこそ、有効な手がある」「なんだ?」「非力で弱い存在に、大抵の奴は油断するってことだ」 あー、と和彦は声を洩らす。目や喉元を狙えという話は、ここに繋がるのだ。ついムキになって鷹津に問いかける。「ぼくを知らない相手だったら? 例えば、誰かに依頼されて、ぼくを拉致しに来たとしたら。そういう人間なら、相手が誰だろうが油断しないだろ」「……さらりと物騒なこと言うな、お前は。そうだな――」 不自然に言葉を切った鷹津は何事もなかったようにパンにかぶりつき、最初は返答を待っていた和彦だが、あまりに自然に食事を続けるため、諦めて自分のシュガートーストを食べる。コーヒーも飲み干してしまうと、さっさと鷹津が立ち上がり、片付けを始める。和彦も自分の使った食器をキッチンに持っていくと、鷹津が受け取ってあっという間に洗い始める。「なあ、さっきの話の続きは……?」「わかりやすく実践してやるから、テーブルとイスを壁際に移動させてくれ」 四人掛けとはいえコンパクトなテーブルセットなので、難しい作業ではない。和彦が言われた通りにテーブルとイスを移動させると、鷹津がキッチンから出てくる。「俺に凄んでみろ」「はあ?」「組の奴らがよくやるだろ。相手の襟元掴んで、顔を近づけて威嚇するのを。あれをやってみろ」 何を言い出すのかと疑問に思いながらも、鷹津はいたって真剣な顔をしているため、なんとなく逆らえない。和彦は鷹津が着ているトレーナーの襟元を掴み寄せ、本人なりに鋭い眼光で鷹津を見据えて顔を近づける。「……俺の記憶にある組の奴らは、そんなにお上品じゃなかったぞ」「本物と比べるなっ。踏んできた場数が違うだろっ」 一瞬、鷹津の両目に殺気が宿った。本能的に和彦が身構えるより先に、片頬にふっと鷹津のてのひらが触れた。殴られた――わけではない。完全にふいをつかれたせいで、軽く力を加
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第46話(27)

** 痛っ、と声を上げた和彦は、唇に指先を這わせる。案の定、血がついていた。これ以上ないほど空気が乾燥しているため仕方ないのだが、とうとう荒れていた唇が切れたらしい。一度気になると、つい何度も唇を舐めてしまい、それがさらに荒れを悪化させたというわけだ。 和彦はすっかり走る気が失せ、呼吸を整えながらゆっくりと歩く。散歩代わりのジョギングは、今のところ順調に続いている。切りつけてくるような寒風には慣れないが、自分の体にとって健康的なことをしているという意識を強く持てる気がするのだ。 これでまた風邪でも引いたら、鷹津に揶揄われるだろうが。 ログハウスに戻ると、室内の暖かさにほっと吐息が洩れる。鷹津から借りているウインドブレーカーを脱いでいると、テーブルで雑誌を開いていた鷹津がちらりと視線を向けてきた。「汗をしっかり拭いておけよ」「わかってる」 そう応じはしたものの、歩いて帰っているうちに汗は引いてしまった。むしろ気になるのは、切れた唇のほうだ。 ウインドブレーカーを他の洗濯物と一緒にまとめると、和彦は救急箱を出してくる。「どうした。また熱か?」 鷹津がすっかり過保護になってしまったことに多少の責任を覚えながら、和彦は苦笑する。「ワセリンがないかと思って」「……ローションじゃダメなのか。ベッドの小物入れの中にあっただろ」 頬杖をついた鷹津が不思議そうに言う。数瞬の間を置いて、和彦は顔を熱くしながら、自分の口元を指した。「唇が切れたから、塗るものが欲しいんだっ」 叫んだ拍子にさらに深く唇が切れた。「そういうことか。俺はてっきり――」「言わなくていい……」 残念ながら救急箱にワセリンは入っていない。ハチミツはあるので、応急処置として塗ってもいいのだが、つい舐めてしまってかえって唇が乾燥しそうだ。 悩む和彦に、鷹津が提案してきた。「買い出しについてくるか? ドラッグストアで降ろしてやるから、俺が用事を済ませる間、買い物すりゃいいだろ」「…
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第46話(28)

** 列を作って下校している小学生の一団を見て、意識しないまま和彦は表情を和らげる。まだ低学年らしく、背負ったランドセルを持て余しているように見える。 ログハウス周辺の環境しか知らなかった和彦は、山を下りてすぐに見えてきた人通りや車の数に、新鮮さを覚える。にぎわっているとまでは言えないが、寂れた印象はなく、当たり前に人が生活している光景が広がっているのだ。 年明け、鷹津に連れられてログハウスに向かうときはすでに日が落ちており、町の様子はほとんどわからなかったし、そもそも和彦に車の外に目を向ける余裕はなかった。 のんびりとした雰囲気の町だった。道路沿いにきれいな川が流れており、近くにキャンプ場もあるようだ。自然を観光の目玉にしているところなのだろう。「一応この辺りが、メインストリートになる。ドラッグストアの真向かいにスーパーがあるし、道路沿いに少し歩くことになるが、コンビニもある。観光だと思って、うろうろしてみろ。なんか珍しいものがあるかもしれない」「……もしかして、別行動になるのか?」「俺は俺で、片付けておく用事がある」 あえて深くは追及しない。ほぼ四六時中、和彦と一緒に過ごしていては、そうそう人と会うこともできず、電話するにも気を使っていたはずだ。わかったと頷いた和彦は、ひとまずコンビニで降ろしてほしいと告げる。和泉家に出す荷物というのは書類で、コピーを取っておきたかったのだ。封筒などもその場で購入すればいいかと、手順を考えているうちにコンビニの駐車場へと車が入る。 車を降りようとした和彦に、鷹津がグローブボックスから何か取り出して、ポイッと投げて寄越してきた。「これ……」 てのひらに収まるサイズの、一見コントローラーのような機器だ。キーホルダー金具がついており、小型ライトかとも思ったが、すぐに違うと気づく。察した和彦が顔をしかめると、鷹津は苦笑いを浮かべた。「そんな顔するな。さっき歩いてた小学生たちも、ランドセルにつけてただろ。――防犯ブザーを」「ぼくは三十男なんだが」 うっかり間違えて買うはずもなく、最初から鷹津は
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