顎ひげを生やした男のほうは、グレーのチェック柄のマフラーを外し、口元に笑みを湛えながら総子に頭を下げる。一方の坊主頭の男は、表情らしい表情もなく、黙然と佇んでいる。「――寒いですね。約束の時間まで宿でじっとしているのも落ち着かないので、わたしらだけ一足先にやってきました」 総子の言っていた通りだと思ったが、それよりも和彦が気になったのは、顎ひげの男の言葉にわずかに独特のイントネーションがあることだった。関西弁だろうかと思いながら、なんとなく総子の背後に控えたままになっていると、顎ひげの男がふいに和彦に目を留めた。「なかなかいい格好ですね。いかにも、田舎で過ごす正月休みといった感じで」 スウェットの上下に半纏を羽織った格好をそう表現され、和彦は居たたまれなさから身を縮める。「顔色はあまりよくないが、起きて動けるようならよかったです。昨日は、あんなことになっていましたから」 墓地で気を失った和彦を運んできてくれたのが彼らであると、総子は教えてくれた。和彦は礼を言おうとしたが、制された。「ああ、気にしなくてけっこうです。仕事をしただけですから。……昨日のはこちらの失態です。もっと早くにあなたを見つけるべきでした」 戸惑う和彦にかまわず、顎ひげの男は総子に向き直る。「ざっとこの周囲を見ておきましたが、不審者は見かけませんでした」「ご苦労様です。さあ中にどうぞ。お茶を淹れましょう。朝食はお済みですか?」「こちらで食べるのを楽しみにして、宿の朝メシは断ってきたんですよ。――あっ、コーヒーでお願いします」 男とのやり取りに慣れているのか、総子は口元を押さえて笑う。しかしすぐに笑みを消し、和彦を見た。「では、準備をしますから、和彦さんがお風呂を済ませてから、一緒にとりましょう。そのとき、お互いの紹介と、今後についてのお話も」 和彦は、一変した場の雰囲気に呑まれそうになりながら、ぎこちなく頷いた。**** 帰りの列車で、和彦は座席にぐったりと身を預けていた。効きすぎた暖房のせいで、さきほどから顔が火照るう
Last Updated : 2026-09-04 Read more