どことなく軽薄さを感じさせていた関西弁のイントネーションが、この瞬間不穏さを帯びる。和彦はアウトドアチェアの上で身じろいだあと、おそるおそる隣をうかがい見る。とっくに餌がなくなったのに釣り竿を上下させながら、九鬼はこちらを見て薄笑いを浮かべていた。「楽しい、ですか……」「和彦さんが相続するキリエ和泉ビルがある地区のいわく、知ってますか?」「うっすらとだけ。長嶺の人間から聞きました」「いわくと言っても、この間見てもらったように、今はもう怖い場所ではないんですよ。殺されたヤクザが化けて出るとも聞きませんし、わたしも見たことありませんし」 際どい冗談に和彦は乾いた笑い声を洩らす。「確かに昔はヤクザが事務所を構えてたようですが、桐栄区で大規模な地域の浄化作戦が行われたときに、一旦立ち退いたそうです。が、すぐにまた派手に揉めて、下手すると自分たちの業界全体の排斥運動に至りかねないと危惧して、名のある組のいくつかが仲立ちする形で収まったというわけです。そのとき、騒動に加わったヤクザ連中と仲立ちしたヤクザたちが血判状をしたためたとか言われてます。まあ、収まりはしたけど、どうしても忌避感ってのは生まれるんですよ。ヤクザどもが大暴れした土地に対して。――さて、ここからが本題です」 悪戯っぽく九鬼が目を眇める。話に集中したくて、一旦針糸を引き上げて釣り竿を足元に置いた。「和泉家があの土地と関わりを持つに至った経緯です。昔からつき合いのある銀行から、担保物件として所有していたビルの扱いで泣きつかれたそうです。バブル景気なんて起こる前の時代ですからね。右から左に流して儲けられるわけじゃなかったんでしょう。ご夫妻は手を出すつもりはなかったんですが、とりあえず見学に行ったそうです。小さなお嬢さん二人を連れて。本当の目的は、帰りにデパートでお二人の洋服を買うことだったみたいですが」 ずいぶん昔の出来事のはずなのに、九鬼の口から語られる話から、ありありと当時の光景が想像できてしまう。できることなら、和泉家の面々が揃ったときに本人たちの口から聞きたかった。「当時、あのビルはひどい有り様だったようです。追い出されていたとはいえヤクザが根城にしていた
Última actualización : 2026-10-18 Leer más