本宅で笠野に作らせたというサンドイッチを和彦が食べている間に、賢吾はバスタブに湯を張り始めた。普段はあまり使わない入浴剤をいくつか出してきてテーブルに並べると、どれがいいかと和彦に選ばせる。そして、食事を終えたタイミングでバスタブに放り込み、ついでに和彦も放り込まれた。「ゆっくり温まってこい」 そんな言葉とともに。 わけがわからないと呟きながらも、他人が準備してくれた風呂にはありがたく浸からせてもらう。 全身を弛緩させ、ぼんやりと天井を見上げる。発汗作用のある入浴剤だったらしく、いつも以上に汗が噴き出してくるが、それが気持ちいい。 そういえば、ここ何日かはゆっくりと入浴する時間が惜しくて、ほぼシャワーで済ませていた。「不精を見抜かれたか……」 風呂の準備をしてもらったこと以上に、長嶺組組長をたっぷり待たせるという贅沢を味わいながら、和彦は時間をかけて全身を洗う。最後に冷たい水を浴びてさっぱりしてバスルームを出ると、なんと替えの部屋着まで用意されていた。「至れり尽くせりだ」 ダイニングのイスに腰掛けた和彦は、グラスで差し出された水を飲んで吐息を洩らす。賢吾は目の前でニヤニヤしていた。「……やけに今日はサービスがよくて、なんだか怖いんだが……」「俺はいつでも、お前にだけはサービスがいいだろ」「そうだったかなー」「物忘れがひどいのは、まだ疲れているせいだな」 白々しいことを言いながら賢吾はさっとドライヤーを取り出し、和彦の濡れた髪に温風を当て始める。髪を搔き乱していく指の動きが気持ちよくて、ますます体から力が抜けていく。「――……あんたこそ、忙しいんじゃないのか。ぼくが倒れても有能な人材が揃ってるからなんとかなるだろうけど、あんたの場合はそうもいかないだろ。しっかり休んでもらわないと、ぼくが組員たちから恨まれる」「俺が忙しいと、どうして思うんだ」 いつでも忙しそうにしているだろうと返すのは簡単だったが、和彦は自分の言葉を改めて考えてみる。なぜ、今の賢吾は
Last Updated : 2026-10-12 Read more