**** 今現在まで連休らしいことを何一つできていないなと、テレビの画面から流れる行楽地の様子を眺めながら、そんなことを思う。未練がましい気持ちからではなく、純然たる事実だ。和彦は濡らしたタオルで顔や首筋に浮いた汗を拭い、ふうっと大きく息を吐きだす。 連休らしいことどころか、労働を一つ終えたところだった。 クリニック再開に向けて手抜かりはないはずだが、何か見落としているのではないかと、早朝から目が覚めてベッドの中でゴロゴロしていたのだ。そこに、総和会から仕事の呼び出しがかかった。祖父の葬儀から戻ってきたばかりという和彦の事情を慮り、別の医者に回そうとはしてくれたらしいが、見事に皆、都合がつかなかったという。何も手につかないほど落ち込んでいるわけではないと、苦笑を浮かべて説明しておいたが、どうにも過剰に気遣われている。総和会の中で和彦は、総和会会長のオンナで、統括参謀などという大層な響きの肩書きを手に入れた男が後見人に就いているため、仕方がないともいえる。 そうして速やかに連れてこられたのは、これまで何度か治療のため利用したことがある雑居ビルの一室だった。 外国人グループとの〈ささやかな〉トラブルから暴力沙汰になったという男二人を並べて、まとめて治療にあたった。一人は刃物傷だが、もう一人は取っ組み合いの最中にガラスに突っ込んだというだけあって、なかなか派手な傷となっていた。ガラス片は探すのが手間なのだと、虫眼鏡で傷口を覗きながら和彦はぼやかずにはいられなかったが、幸いにも二人とも太い血管や神経は傷ついてはいなかった。相手のグループはどうなったのかと縫合の最中になんとなく尋ねてみると、大した問題にはなりませんよと、どう受け止めていいのか図りかねる答えが返ってきた。 怪我を負った二人の男は総和会直参の構成員だと、連絡をもらったときに告げられている。最初は直参の意味がわからなかったが、移動の車中で教えてもらったところによると、会長なり幹部会からの推薦によって総和会の一員になったということを示すのだという。推薦とは、盃を交わしたとも言い換えられ、総和会の中ではエリートの扱いとなる。 そんな男たちがトラブルに巻き込まれたのだ。事態の処理に
Last Updated : 2026-10-08 Read more