理がいつの間にか姿を消していたが、彩葉は焦ることもなく、夢を連れて宴席の端へと腰を落ち着けた。まずは軽く食事をとる。腹が減っては戦はできぬ、ということだ。その間、業界のCEOや技術系の精鋭たちが、次々と彩葉のもとへ声をかけにやってきた。中にはグラスを片手に、熱烈な眼差しを向ける者もいる。これほどの美貌が会場にあれば、惹きつけられる男たちが後を絶たないのも無理はなかった。彩葉は決して酒に弱いわけではない。かつては瑠璃子と夜通し酌み交わしたこともあるし、心が折れそうな夜には泥酔することだってあった。だからといって、挨拶に来る経営者たちを無下にあしらうような真似はしない。ただ、一人一人に対し、グラスに軽く口をつける程度に留めた。場の空気を壊さず、かといって隙も見せない。代表としての品格を保つ、完璧な距離感だった。「あの人たち、ただ近づきたいだけで提携なんてこれっぽっちも考えてませんよ!」夢が不満げに頬を膨らませ、彩葉の前に水を差し出した。「もうお酒に付き合わなくていいです。酔っちゃいますよ。そもそも、あいつらに氷室代表はもったいない!」彩葉は、くすりと上品に笑い声を立てた。「この程度、喉を潤す程度よ。心配しないで。危なくなったら上手く逃げるし、何よりあなたがいるじゃない」夢は女戦士のような真剣な顔で、力強く頷いた。「それもそうですね!」「それにね、わかるの。あの人たちの本音も。気づいてた?『ターナルテック』の名を出した途端、潮が引くように去っていく人もいたでしょう。出資の話を持ちかけられるのを恐れて、逃げているのよ」彩葉は静かに水を一口含み、自嘲気味に微笑んだ。「急いでも仕方ないわ。自分が強くなること以外、道はないのだから」「まったく、全部瀬川社長のせいですよ!あんな目先の利益しか見えない人が社長じゃなければ……」言いかけた夢の瞳が、ぱっと輝いた。「北川社長がこちらへ!」彩葉が視線を向けると、仕立ての良いスーツを完璧に着こなした理が、迷いなくこちらへと歩み寄ってくるところだった。その露骨なまでの「狙い」に、周囲の女性客たちがひそひそと囁き合う。「あの方が北川グループの社長?なんてイケメンなのかしら」「切れ者で有名よ。業界の裏表を知り尽くして、氷室グループと対等に渡り合っているんだから。どれほど恐ろしい男か……」
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