All Chapters of やり直せますか?冷戦3年越しの愛に謝罪: Chapter 211 - Chapter 220

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第211話

乾いた音が響き、雅人の顔が横を向いた。彼女がこれほど怒りを露わにするのを見るのは初めてだった。しかも、その怒りは自分に向けられている。雅人の顔に、罪悪感が浮かんだ。「ごめん、音。こんなことになるなんて思わなかったんだ。あの日、君のドレスの生地があまりに綺麗だったから、葉山さんに頼んで端切れをもらって、ポケットチーフに仕立てただけで……」「でも、私が今夜宗也と一緒にパーティーに出席するって知っていたでしょう」「すまない、俺は……」「もう結構よ」音は冷ややかに言った。「あなたが私と宗也の婚姻関係を壊そうとしているのは分かっていた。でも、まさかこれほど容赦なく、こんな場で私を陥れるなんて思いもしなかった」「音……」雅人は彼女の瞳の奥にある怒りを見つめた。そして、開き直るようにうつむいて認めた。「ああ、認めるよ。君たちの仲を引き裂きたかった。君が好きだからだ。君と一緒にいたいからだ」「何を――」「誰にだって愛を追い求める権利はあるだろう。宗也だって忘れられない人のために、夏川さんを身代わりにして可愛がっている。夏川さんだって宗也を手に入れるために手段を選ばない。みんな必死に戦っているのに、どうして俺だけがダメなんだ?」「……」音は呆気に取られた。この男の頭の中はどうなっているのだろう。真実の愛なら何をしても許される、とでも言いたいの?「音には悪いことをしたと思っている。でも、これだけは言わせてくれ。俺は君が好きだ。君と一緒になるために、これからも努力する」「正気なの?」音は怒りで声を荒げた。「私には夫も息子もいるのよ。今、離婚するつもりなんてない。どうやって『努力』するつもり?」「前はあんなにも離婚したがっていたじゃないか。今だって本心では離婚したいはずだ。だって宗也は君を愛していない」「私はもう、自分の望む生活を手に入れたの。だから離婚はしない」「俺、ずっと待っているよ」雅人は真っ直ぐな瞳で彼女を見つめた。その目には、かつてないほどの真剣さがあった。音はこの男には何を言っても聞く耳を持たないと悟った。もうすぐスタイリストが上がってくる。彼女は慌てて彼をドアの方へ押しやった。「早く出て行って。あなたと二人きりでいるところを誰かに見られたくないの」「音……」
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第212話

音の胸がぎゅっと締め付けられた。彼女は慌てて周囲を探し始める。確かにアクセサリーや髪飾りと一緒に置いたはずだ。それらはすべて揃っているのに、補聴器だけがない。ドレッサーの上にもない。下にも落ちていない。「すみません、私の補聴器を見ませんでしたか?」焦った様子でスタイリストたちに尋ねた。スタイリストたちは顔を見合わせ、首を横に振った。「いいえ、見ていませんが……奥様、私たちはずっとご一緒でしたよね?」音には彼女たちが何を言っているのか聞こえない。ただ、首を横に振っているのが見えるだけだ。焦りがさらに募る。宗也の妻として、この後すぐに記者たちの取材を受け、来賓をもてなさなければならないのだ。補聴器がなければ、何も聞こえない。どうすればいいの!スタイリストたちは、彼女が泣き出しそうなほど焦っているのを見て、一緒に探し始めた。だが、三人がかりで休憩室の隅々まで探しても、あの小さな補聴器は見つからなかった。音は力なく床に座り込んだ。次第に頭が冷静になっていく。補聴器が理由もなく消えるはずがない。間違いなく誰かが入り込み、こっそり持ち去ったのだ。一体誰が?美咲か?それとも雅人か?分からない。今この瞬間、彼女はひどく無力で、どうすればいいのか分からなかった。しばらく床に座り込んだまま呆然としていたが、やがてスマホを取り出し、宗也に電話をかけた。しかし、コール音が鳴り続けるだけで、誰も出ない。仕方なくメッセージを送ることにした。【藤堂さん、補聴器がなくなってしまった。探すのを手伝ってくれる?】送信してからしばらく待ったが、返信はない。それもそうだ。さっき彼にあれほどの大恥をかかせたのだ。助けてくれるはずがない。補聴器がない以上、音は休憩室に隠れているしかなかった。だが宴会のプログラムは進行し、ついに彼女の出番がやってきた。休憩室のモニターには、スピーチをする宗也の姿が映し出されていた。簡潔で優雅なその話しぶりには、人の上に立つ者特有の気品が漂っている。彼はまるで夜空に輝く星のように、眩くて目を奪われる。それに引き換え、彼の妻である自分は、日の光を恐れる野草のように、休憩室に隠れていることしかできない。ドアをノックする音さえ、彼女の耳には届かなかった
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第213話

高橋秘書は全く信じなかった。「奥様、夏川さんは今夜のゲスト演奏者です。先ほどまでずっとステージでピアノを弾いていらしたんですよ。彼女が持ち去るなんて、あり得ませんわ」音も、彼女が信じてくれるとは期待していなかった。高橋秘書は彼女に聞こえていないことに気づき、慌ててスマホに文字を打ち込んで見せた。【補聴器は後で必ず探しますから、とにかく会場へ向かいましょう】逃げられないと悟り、音は立ち上がってドレスの裾を整え、高橋秘書について会場へと向かった。会場は先ほどより一層賑わいを見せていた。ステージでは美咲が美しい旋律を奏で、来賓たちは整然と藤堂家の人々を取り囲んでご機嫌を伺っていた。華やかで気品に満ちた装いの雅代は、人々の中心で持ち上げられ、その表情には得意と誇らしさが溢れていた。音が螺旋階段を降りてくると、再び小さな騒めきが起きた。先ほどの純白のドレスに比べ、今彼女が纏っているシャンパンゴールドのドレスはより高級感があり、艶やかで、全く異なる魅力を放っていた。普段は彼女の幸運を妬んでいる令嬢たちでさえ、思わず感嘆の声を漏らした。「本当に綺麗……」その称賛の声に混じって、悪意ある声が響いた。「確かに、さっきのペアルックよりずっと高級そうだわ」「よくものこのこと出てこられたわね」宗也は人々の視線を追って階上を見上げた。その冷ややかな視線が、茫然としている音に突き刺さる。彼は音が怯えているのを見て取った。自分に助けを求める視線も感じた。だが、胸の奥に同情や憐れみは微塵も湧かなかった。結局のところ、来賓たちの前で堂々と他の男と揃いの服を着て見せつけ、夫を笑い者にするような真似をした人間など、彼女以外にいないのだから。高橋秘書が宗也の傍らに歩み寄り、小声で音が補聴器をなくしたことを伝えた。宗也は眉をわずかに上げた。なるほど、補聴器をなくしたから、あんなにおどおどしているのか。音は高橋秘書が宗也に耳打ちしているのを見たが、彼には何の反応もなく、助ける素振りさえ見せなかった。心底、失望した。音は彼に歩み寄ろうとしたが、招待されていた記者たちに囲まれてしまった。次々とマイクが向けられ、何人もの口がパクパクと動いて質問を投げかけてくるが、彼女には一言も聞こえない。散々質問を浴びせても
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第214話

「見てよ、あそこに突っ立ってる姿、本当に廃人と変わらないわね」周囲の心ない言葉がエスカレートしていくにつれ、雅代の顔色はみるみる冷たくなっていった。彼女は傍らにいる宗也を振り返り、激しい口調で責め立てた。「見なさい、あなたのせいよ!あの子を宴会に出すなと言ったのに、無理やり来させるから。藤堂家の顔に泥を塗るだけ塗ってくれたわね!」宗也は片手をポケットに突っ込み、もう片方の手でワイングラスを弄んでいた。自分の妻が悪意に満ちた連中に囲まれ、嘲笑され、顔を真っ赤にしながら逃げ場を失っている様を、ただ優雅に眺めている。助けに行くつもりなど、微塵もなかった。彼のその態度が、いじめる側の度胸を助長し、口から出る言葉はますます醜悪になっていった。美咲がタイミングを見計らって雅代に近づき、心配そうな顔を作って言った。「おばさま、音さんは一体どうされたんでしょう?急に補聴器をなくすなんて」「何を血迷っているのかしらね!」雅代は今すぐにでも殺してやりたいほどの怒りを感じていた。美咲はさらに火に油を注いだ。「これだけ大勢の記者が撮影していますし、藤堂家の名誉のためにも、休憩室に戻していただいたほうがよろしいのでは?」雅代はその通りだと思った。すぐさま近くのスタッフに命じた。「誰か呼んできなさい。彼女をここからつまみ出して!」スタッフは指示に従い、すぐに数名の屈強なボディーガードを連れてきた。彼らは左右から音に近づいた。その時、音は必死になって記者たちに、自分は耳が聞こえないのでスマホで質問を打って見せてほしいと訴えているところだった。記者たちも、このような取材対象は初めてで、どう対応すればいいのか戸惑っていた。彼らがスマホを取り出す間もなく、二人のボディーガードが冷ややかに音に告げた。「奥様、ご同行願います」音には彼らが何を言っているのか聞こえない。だが、このボディーガードたちに乱暴に扱われるのはこれが初めてではない。彼らが現れた意味はすぐに理解できた。自分が藤堂家の恥になっていることは分かっている。しかし、藤堂家の人々が助けてくれるどころか、こうして外の人間と一緒になって自分を辱めるとは思わなかった。「分かりました。記者の質問に答えたら行きますから」彼女は毅然とした態度でボディー
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第215話

雅人だった。彼は上着を脱いで音の肩にかけ、彼女を腕の中に抱き寄せると、群衆に向かって怒鳴った。「こんな風に彼女をいじめて、この人でなし!」そう言い放つと、腕の中で小刻みに震えている音に視線を落とし、優しく囁いた。「音、怖がらないで。俺がここから連れ出してやる」雅人の剣幕に、人々は気圧されて思わず後ずさりした。だがすぐに、ひそひそと噂話が始まった。「やっぱり、あの二人こそ本当の愛なのよ。藤堂社長の顔も体面も、お構いなしね」「黙れ!」雅人は拳を振り上げ、噂話をしていた女の顔を殴りつけた。女は悲鳴を上げ、床に倒れ込んだ。会場は一瞬で混乱に包まれた。音には何も聞こえない。だが、みんなが何を言い、何をしているかは察しがついた。雅人は何としても彼女を連れ出そうとした。だが、音は彼を強く突き放した。「音……」雅人は彼女に押し返されて呆然とした。なぜ拒絶するのか理解できなかった。今この場を離れることが、彼女にとって一番いいはずなのに。「行かない」音は肩にかけられた上着を掻き合わせ、冷たい声で雅人に言った。「ご好意には感謝する。でも、どうして私が出て行かなきゃいけないの?」彼女はゆっくりと、群衆の方へ向き直った。その視線は、無関心な宗也、今すぐにでも殺してやりたそうな顔をしている雅代、そして密かにほくそ笑んでいる美咲の上を滑っていった……彼女は手で涙を拭うと、近くにいた記者からマイクを奪い取った。背筋を伸ばし、大声で、会場にいる全員に向かって言い放った。「ええ、そうです。私は耳が聞こえません。耳が聞こえないから、あなたたちの侮辱も嘲笑も、私には聞こえません。でも言わせてください。私はただ耳が不自由なだけで、人としての道を外れたことはありません。天に恥じるような真似は何もしていないし、ここにいる皆様を軽んじたことも一度たりともありません。障害者だって一人の人間です。尊厳があります。私は自分の努力で稼いだお金で自立しているのに、あなたたちは客のために仕立てた服を、不倫の証拠だと決めつけます。あなたたちの目には、障害者は生きる価値もなく、幸せになる資格もないと映るのですか?皆さん、そうやって煌びやかに着飾っていますけれど、どうして心の中はこれほどまでに醜いのですか?他人を傷つけて
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第216話

「音……」雅人が追いかけようと足を踏み出した瞬間。宗也が一歩前に踏み込み、拳を振り上げて彼を殴り倒した。雅人はうめき声を上げ、起き上がろうとしたが、宗也に蹴り飛ばされて再び床に転がった。「気安くその名で呼ぶな!」雅人は最初から劣勢で、反撃の余地もなかった。宗也がさらに蹴りを入れようとしたところで、周囲の来賓たちが慌てて止めに入った。雅代も怒りで震えていた。「宗也、ここをどこだと思ってるの?気でも狂ったの!」障害のある嫁が藤堂家の顔に泥を塗ったのはまだしも、誇り高き息子までもがここで醜態をさらすとは。今日の晩餐会は、藤堂家が恥を晒す独壇場と化してしまった。宗也がこれほど冷静さを欠き、品格をかなぐり捨てたのは初めてのことだった。記者たちがこのスクープを見逃すはずがない。カメラを構え、ある命知らずな記者がマイクを彼の前に突き出した。「藤堂社長、奥様とこちらの立花さんの間に不適切な関係があるとお考えですか?」宗也は羽交い締めにされながら、その記者に視線を移した。ナイフのような鋭い眼光が、相手の顔を射抜く。記者は恐怖で身をすくませ、慌ててマイクを引っ込めた。……ホテルを飛び出した後。音はいつの間にか外が大雨になっていることに気づいた。理不尽な目に遭って逃げ出すたびに、空はいつも雨だ。神様まで彼女をいじめているようだ。彼女は雅人のジャケットをきつく羽織り、足早にホテルの向かい側へと走った。耳が聞こえないため、猛スピードで走ってきた車に気づかず、あわや轢かれそうになった。キキーッという長いブレーキ音と共に、運転手が怒って窓を開け、罵声を浴びせた。「死にたいのか!」音には聞こえなかった。ただひたすら走り続けた。この汚らわしい場所から、一秒でも早く逃げ出したかった。運転手は悪態をつきながら走り去った。雨脚が強すぎる。ハイヒールと長いドレスでは、もうこれ以上走れなかった。音はバス停を見つけ、雨宿りをした。無人のバス停で、彼女は一人ベンチに座り、雨のカーテンを見つめていた。脳裏には、宴会場で包囲された時の光景が焼き付いている。美咲の悪意。雅人の身勝手さ。宗也の冷酷さ。そして衆人の嘲笑……どうしてこんな惨めなことになったのだろう。自分が「耳
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第217話

音は頷き、田中おばあさんの後について浴室へと向かった。あれだけの雨に打たれたのだ。体は芯まで冷え切ってガタガタと震えていたが、熱い湯船に浸かってようやく少し落ち着きを取り戻した。田中おばあさんは、以前彼女がここに置いていった服を持ってきて着せ、さらに体を温めるための生姜湯を作ってくれた。音は布団にくるまり、両手で温かい生姜湯の器を包み込んだ。その姿はまるで、捨てられた野良犬のようだった。田中おばあさんは、彼女がまたあの名家で辛い目に遭ったのだと察していたが、何も聞かなかった。ただ黙って、漆黒の髪を優しく梳かしてやるだけだった。「疲れただろう、もうお休み」田中おばあさんは手話でそう伝えた。音は頷いたが、そのまま力なく体を傾け、おばあさんの懐に寄りかかった。今の彼女には、人の温もりが何より必要だった。田中おばあさんは微笑んで、彼女の頭を撫でた。まるで、甘えん坊の女の子をあやすようだった。……雨は翌朝になっても降り止まなかった。車の屋根に打ち付ける雨が、苛立たしい音を立てている。宗也は、亮から手渡されたタブレットに目を落とした。画面は、昨夜の宴会でのスキャンダルで埋め尽くされていた。【藤堂家の嫁と立花家次男に不倫疑惑。藤堂家の御曹司、衆人環視の中でなりふり構わず間男と乱闘……】だが、音が受けた屈辱を報じるメディアはどこにもなく、彼女を擁護する声も一切見当たらなかった。それどころか、美咲のピアノ演奏が大成功だったことや、彼女こそが宗也にお似合いだという称賛の記事ばかりが目立つ。宗也はタブレットを亮に放り投げ、淡々と尋ねた。「音の補聴器は見つかったか?」「はい、休憩室の隅で発見されました。ですが……すでに踏み潰されて壊れていました」「高橋秘書とスタイリスト以外に、誰が入った?」「防犯カメラの映像では、高木家の次女・高木真凛(たかぎ まりん)だけが出入りしていました」亮は言葉を続けた。「社長、高木さんは夏川さんと最も親しい間柄です。もしかして、わざとやったのでは……」宗也は沈黙した。美咲が絡んでいるので、亮もそれ以上深く追及する勇気はなかった。タブレットの画面を一瞥してから、恐る恐る話題を変えた。「社長、お爺様も間違いなくこのニュースをご覧になっています。今回
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第218話

「何を怯えている?」宗也は伏し目がちに、自分の袖を掴んでいる彼女の手を一瞥した。「おじいさまが、音さんの補聴器を壊したのは私じゃないかと疑ってらして……すごく怒ってるの。夏川家に高い代償を払わせるって」宗也は彼女の泣きそうな顔を見つめ、冷ややかに唇の端を吊り上げた。「重病の爺ちゃんですら、お前の仕業だと気づいているんだ。これ以上、俺が庇い立てするわけにはいかないだろう?」美咲は呆気にとられ、瞬く間に焦りを露わにした。「宗也、どうしてそんなこと言うの?私がそんなに悪い女だと思っているの?」「ああ、そうだ」宗也は彼女の手を振りほどき、歩き出そうとした。すると、居間から美咲の母である夏川八重(なつかわ やえ)が飛び出してきて、美咲に声をかけた。「美咲!早く来て藤堂当主に説明しなさい!」美咲の心は、当主への恐怖で満たされていた。彼女は再び宗也の袖を掴み、唇を噛んで首を横に振った。「私じゃないの、宗也、お願いだから信じて……」八重は宗也に会釈した後、慌てて弁解に加わった。「そうなのよ、宗也さん。昨夜、美咲はずっと演奏の準備で忙しくて、奥様を陥れる余裕なんてありませんでしたわ。おじいさまは何か誤解をされているんじゃないかしら」「誤解かどうかは、高木家の次女に聞けば分かることだ」宗也は淡々と言い放った。「爺ちゃんが夏川さんの仕業だと断定したということは、すでに高木の娘から証言を得ているはずだ」八重は言葉に詰まった。美咲は追い詰められた。「あれは真凛が勝手に音さんに嫉妬して、こっそり壊したのよ。私とは関係ないわ」彼女は宗也の袖を揺さぶった。「宗也、私がそんな馬鹿なことするわけないでしょう?お願い、信じて。それに、夏川家はお姉ちゃんの家でもあるのよ。もし倒産なんてことになったら、お姉ちゃんが悲しむわ」「そうよ、そうですわ」八重も激しく頷いて同調した。「宗也さん、夏川グループは美月の亡くなったお母様が心血を注がれたものなんです。あの方は最期まで、この家業のことを一番に案じておいででしたのよ……」宗也は察した。この二人は当主に相手にされず、自分に泣きつきに来たのだ。それも、美月の名を出してこちらを揺さぶろうとしている。厄介なことに、彼は美月という名を聞くたびに、まる
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第219話

美咲は、こういう時に膝をつくのは慣れたものだった。すぐさま八重の横にひざまずき、訴えた。「おじいさま、どうか信じてください。私は本当に音さんを陥れたりしていません……」「この馬鹿者が!」長義が突然飛び出し、美咲の頬を力任せに引っ叩いた。「当主は防犯カメラも確認し、証人にも話を聞いているんだぞ!まだシラを切るつもりか!」「お父さん……」美咲は叩かれた頬を押さえ、愕然とした表情で長義を見上げた。「どうして自分の娘を信じないで、よそ者を信じるの?」「まだ口答えするか!」長義はそう言って、再び手を振り上げた。宗也がすっと手を伸ばし、その手首を掴んで止めた。口調は淡々としていた。「夏川おじさん、娘を叱るべきなのは確かですが、それはご自宅でやるべきです」そして、当主の方を向いて言った。「じいちゃん、美咲がしたことは彼女個人の責任だ。夏川のおじさんやおばさんとは関係ないし、夏川家全体に連帯責任を負わせる必要はない。じいちゃん、まずは落ち着いて、ゆっくり休んでくれ」夏川夫妻は慌てて何度も頷いて同調した。「そうです、そうです。私たちは必ず娘をきちんと躾し直しますから」「それで、どう躾するつもりだ?」当主は二人を冷ややかに見据えて問うた。夏川夫妻は顔を見合わせた。すぐには答えが出てこない。結局、長義が意を決して言った。「法に従って処理します。裁きを受けるべきなら、受けさせます」「よかろう。補聴器を故意に破壊し、さらにネットで不貞のデマを拡散させた。この二つの罪状があれば、わしの孫嫁の鬱憤を晴らすには十分だろう」それを聞いた八重は呆然とした。美咲も恐怖のあまり泣き出し、首を激しく振った。「嫌!そんなの嫌よ!」彼女は宗也の前に駆け寄り、その腕にしがみついて哀願した。「宗也、助けて!捕まりたくない!お願い!」宗也は表情一つ変えず、彼女の両手を振り払った。助ける気など、微塵もなかった。長義は、宗也でさえ助ける気がないのを見て取り、すかさず美咲を怒鳴りつけた。「この馬鹿娘が!よくも宗也に助けを求められたものだな!さっさと家に帰るぞ!」そう言って、八重に目配せをした。八重は美咲を不憫に思ったが、夏川家の家業を失うわけにはいかない。すぐに美咲を引っ張って外へと向かっ
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第220話

夏川家に戻るなり、美咲は車を降りるや否や、長義に向かって怒鳴り散らした。「お父さん、どうして藤堂家の味方をして私を傷つけるの?本当に私が捕まって刑務所に入れられてもいいの?」「よくもそんなことが言えたものだな!」長義は道中ずっと怒りを溜め込んでいた。美咲の顔を見るなり、力任せにその頬を張り飛ばした。「こっちが聞きたいくらいだ。一体何を血迷ったら、藤堂家を何度も何度も怒らせるような真似ができるんだ?」美咲は床に倒れ込んだ。八重が慌てて駆け寄り、彼女を抱き起こすと、長義を睨みつけた。「なんてことを!美咲だって、家のためを思ってやったことでしょう」長義は矛先を八重に向けた。「お前がそう仕向けたからだろうが!宗也を誘惑しろなんてそそのかすから、こんな恥をさらすことになるんだ!」「どうして私のせいにするの?あなただってずっと黙って見ていたじゃない。失敗したからって、自分だけ逃げ切るつもり?」「俺には関係のないことだ」「関係ないですって?」八重は立ち上がり、冷笑を浮かべながら長義に歩み寄った。「長義、今さら清廉ぶらないでちょうだい。あなたが美月を宗也さんの理想の女性に仕立て上げた時だって、決して綺麗なやり方じゃなかったでしょう?あなたの可愛い娘が使い物にならなくなったから、美咲を呼び戻したんでしょう?美咲が宗也さんを誘惑するのを黙認したのは誰よ?」夏川家を守りたい気持ちは分かるけど、その態度はやめてちょうだい。美咲だって私たちの実の娘なのよ!」長義は痛いところを突かれ、少しばつが悪そうな顔をした。だが、それで彼の決意が揺らぐことはなかった。「今は藤堂家が美咲を処分しようとしているんだ。我々は従うしかないだろう?会社を潰すわけにはいかんのだ」「お父さん、そんなの酷すぎるわ!私はお父さんの娘なのよ!」美咲は悔しさと怒りで涙を溢れさせた。「この前、私はお父さんのたった一人の娘だから、これからは大切にするって言ったじゃないの。それなのに、私を刑務所に送るっていうの?」長義は冷酷に言い放った。「娘だからこそ、家全体のことを考えろ!夏川家を潰して、世間の笑いものにする気か?それに、刑事事件になるわけでもない。せいぜい一年ぐらい我慢すれば戻ってこられるんだ。出てくればまた夏川家の令嬢として暮らせる
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