「本当に口が上手いんだから」彬人は彼女の腰のくびれを抱き寄せて持ち上げると、その頬にキスをした。「いい子だ。明日、バッグを買ってやるよ」「本当?私、二千万円以上するやつが欲しいな」「ああ、四千万円だって構わんぞ」彬人は豪快に言い放った。女は大喜びし、今夜は昨晩以上に気持ちよくさせてあげると甘えた声で騒ぎ立てた。二人は人目も憚らず、イチャつきながら去っていった。音はすぐに後を追った。小百合の家は貧しく、彬人は借金まみれだったはずだ。たとえ小百合の死に対して藤堂家から賠償金が出たとしても、それほど高額にはならないはずだ。宗也は脅されるのを嫌うし、際限なく金をせびる相手を養うのも嫌いだ。規定通りの賠償なら、せいぜい二千万円程度だろう。それなのに、彬人が愛人を囲い、さらにその愛人に二千万円以上のバッグを買い与える余裕があるだと?やはり、睨んだ通りだ。小百合は完全に美咲の指図を受けており、美咲から小百合の家族へ多額の口止め料が渡っていたのだ。状況をはっきりさせるため、音はタクシーを拾い、二人を追ってある高級クラブへと向かった。支配人がペコペコと頭を下げる中、二人が我が物顔で入っていくのを見届けてから、音もすぐに続こうとした。だが、入り口の警備員に止められた。予約のない者は入れないという。予約などあるはずがない。仕方なく宗也の名前を出し、さらに宗也との結婚写真を見せた。相手は驚いた様子だったが、すぐに通してくれた。まさか宗也の名前がこれほど役に立つとは。音は薄暗い廊下を手探りで進んだ。その時、宗也から電話がかかってきた。宗也の声には、明らかな苛立ちが滲んでいた。「音、買い物ごときにどれだけ時間をかけているんだ?」彬人の尾行に夢中で、音は宗也がまだ動物病院でまると一緒に待っていることをすっかり忘れていた。申し訳なさが込み上げる。「ごめん、藤堂さん。急用ができちゃって。あの、先にまるを連れて帰ってもらえない?」「何だと?俺にこのひ弱な犬を連れて帰れと言うのか?」宗也は、屈辱を感じたようだった。音も不適切だとは思ったが、ここで彬人を見失うわけにはいかなかった。「お願い」小声でそう言い、宗也が拒否する前に電話を切った。彬人に気づかれないよう、スマホをマナー
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