「……」 音は言葉に詰まった。 あの晩、自分がどうだったというのか? なぜ彼に、嫌がっていないなんて錯覚を与えてしまったのだろう。 「それに、今回は俺が一方的に罰を与えたいわけじゃない。お前が自ら招いた結果だ」 宗也の長い指が、彼女の濡れた髪をゆっくりと梳く。その口調は穏やかだった。 「音、お前が離婚したい、自由になりたいと言うなら、俺はすべてその通りにしてやった。それなのに、お前は京と結託して俺を騙した。 京といえば……あいつにはまだ、きっちり代償を払わせていなかったな」 「彼を巻き込まないで」 音は慌てて遮った。 「春日先生はいい人よ。私の耳を治してくれたの。私が……私が……」 すべて自分一人が計画したことだと言いたかった。 だが、彼女を見下ろす宗也の視線があまりにも鋭い。 彼女は言葉を続けることができなかった。 宗也は冷笑を浮かべ、彼女の言葉を遮るように口を開いた。 「京は耳が治ったことを知らなかった?それとも、京ヶ丘に来てから突然治ったとでも言いたいのか?今さらお前が何を言おうと、俺は信じないぞ」 彼は音の言葉を信じていないだけではない。京のことも全く信じていなかった。 もし手術の後、京が「奥さんを諦めて自由にしてやれ」と執拗に説得してきていなかったら、まだ少しは信じたかもしれない。 「ただ、一つだけ解せないことがある。京はなぜお前に協力したんだ?」 宗也は内心の疑問を口にした。 「私がお願いしたからよ」 音は切羽詰まったように、京を庇った。 「春日先生は最初、同意してくれなかったわ。でも、私がどうしても自由になりたいと懇願したから、見かねて協力してくれたの」 彼女は宗也の手首を掴んだ。 「藤堂さん、お願いだから彼を責めないであげて」 宗也は彼女の必死な顔を見て、胸の奥に理由のない嫉妬が湧き上がるのを感じた。 この女は、友人のためなら深夜に夫の自分を放り出して飛び出していこうとする。 京という男のためなら、自分に対してここまで下手に出る。 だが、自分の前にいる時だけは、いつもハリネズミのように警戒し、触れることすら拒絶するのだ。 「俺があいつを痛い目に遭わせるのが、そんなに怖いか?」 「ええ」 音は正直に頷いた。 京の親切を、仇で返
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