Lahat ng Kabanata ng やり直せますか?冷戦3年越しの愛に謝罪: Kabanata 431 - Kabanata 440

481 Kabanata

第431話

音は思わず長義を改めて眺め直した。これほど節穴では、実の娘が長年虐待されていても気づかないのも当然だ。 いや、えこひいきのせいかもしれない。 美咲をえこひいきするあまり、まともな判断力まで失ってしまったのだろう。 音は静かに息を吸い込んだ。 彼に微笑みかけて言う。「夏川社長、ご自分でもおっしゃったように、美咲さんは私にとって何の脅威にもなりません。宗也が顔を見るのすら嫌がるような女のために、わざわざ青浜から雲ノ里まで、あなたを追いかけて待ち伏せする理由などありませんよ。 それに、美月さんが本当に虐待されているかどうかについても、実のお父様であるあなたが『ない』とおっしゃるなら、部外者の私には当然『ない』としか言えません。 前回のことは私が悪うございました。あんな写真をお見せすべきではありませんでしたね。失礼いたしました」 音は彼に向かって軽く一礼すると、彩羽の方へと歩いていった。 彩羽はすでにチェックインを済ませており、不思議そうに音を見て、さらにその背後にいる長義に目をやった。「どうしたの?知り合い?」 「まあ、そんなところね」 音は笑って、わざと声を張り上げた。「あの方は立派なお父様よ。この世で一番素晴らしいお父様ね」 「そうなの?誰の?」 彩羽は興味津々で、音の背後にいる長義をもう一度見た。 音は彼女の腕を取ってエレベーターへ向かった。 「行きましょう。この後、クライアントと会うんでしょ」 「ああ」 彩羽はすぐにそれ以上聞くのをやめた。 二人は談笑しながらエレベーターの方へと歩いていった。 背後で、長義はその場に立ち尽くし、気まずそうな表情を浮かべていた。 どうやら完全に勘違いしていたようだ。 彼女は本当に出張で雲ノ里に来ただけなのだ。 彼は一つ空咳をした。 そして歩み出し、ホテルの出口へと向かった。 音は雲ノ里で二日間過ごした。 三日目の早朝、宗也から電話がかかってきた。その声には、ほったらかしにされた、拗ねたような恨み節が滲んでいた。 「音、もしかしてこの家のこと忘れたんじゃないだろうな」 音は少し呆れた。 たった三日家を空けただけで、忘れたことにされるのか。 宗也は今、こんなにも自分に執着してくれているのだろうか。 心に複雑な感
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第432話

彩羽は、スタジオに新しく入った社員たちへのちょっとしたお土産を買って帰ろうと思い立った。 二人は一緒に、ホテルの近くにある古い街並みへとやってきた。 通りの両側には、色とりどりのお土産屋が軒を連ねている。 やっぱり女同士だ。買い物を始めると時間を忘れ、最初は手ぶらだった二人の手も、気づけば買い物袋でいっぱいになっていた。 小さな橋を通りかかった時、彩羽が写真を撮りたいと言い出した。 音は手にしていた買い物袋を脇に置き、スマホを取り出して彼女の写真を何枚も撮ってあげた。 ツーショットも何枚か撮った。 二人が撮った写真を眺めていると、橋の上に家族連れがやってきた。 若い夫婦が、悠人と同じくらいの年頃の小さな男の子を連れている。 三人はとても仲睦まじく、幸せそうだった。 若い女性がふと音に声をかけた。「すみません、写真を撮っていただけませんか?」 音は微笑み、差し出されたスマホを受け取った。 「もちろんいいですよ」 若い女性は夫のそばに戻り、片手で夫の腕を抱き、もう片方の手で息子の手を繋いだ。その顔は幸せいっぱいだった。 音はレンズ越しに幸せそうな三人を見つめ、思わず羨ましさが込み上げてきた。 これこそが、ささやかで純粋な幸せというものだ。 自分と宗也、そして悠人も、こんなふうになれたらいいのに。 この美しい瞬間を残してあげるために、音は何枚も続けて、一枚一枚丁寧にシャッターを切った。 「ありがとうございます」 女性はスマホを受け取って写真を確認し、見ながら褒めた。「すごく綺麗に撮れてますね。芸術系の方ですか?構図がとてもお上手です」 「絵を勉強していたんです」 音は素直に答えた。 「どうりでこんなに綺麗に撮れるわけですね。芸術をやってらしたなんて」 女性は羨ましそうに画面をスワイプして、自分たちが撮った写真を見せた。 「ほら、私たちさっきからずっと写真を撮りながら歩いてきたんですけど、SNSに載せるような、見栄えのいい写真が一枚も撮れなくて」 音は微笑んだ。 「本当は、家族三人が楽しく一緒にいられること、それが一番美しい風景なんですよ。立派な構図なんて必要ありません」 女性ははっとした表情を浮かべた。 音は心から付け加えた。「本当ですよ。少なくとも
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第433話

悠人には、難しい言葉の意味はまだ分からない。 でも、音が「温かい家」を残してくれると言ったことだけは、なんとなく分かった。 家っていうのは、パパとママがいる場所のことだ。 悠人はその場所が大好きだった。 彼はにっこり笑って言った。「ママ、大好き」 一日中歩き回って、音は少し疲れていた。 悠人を抱きしめながら絵本を読んであげていたが、自分もうとうとしてきてしまった。悠人が寝入った直後、音もそのままベッドの背もたれにもたれて眠り込んでしまった。 宗也が帰宅すると、二人が寄り添うようにして眠っている姿が目に入った。 音を抱き上げて寝室へ連れて行きたかったが、酒が入っているせいで上手く力が入らない。仕方なく、手でそっと頬を撫でて起こすことにした。 「音、起きろ」 音がゆっくり目を開けると、宗也の姿が見えた。慌ててベッドから起き上がり、まだぼんやりする目をこする。 「宗也、帰ってきたのね」 「ああ。部屋に戻って寝よう」 宗也が手を差し出して支えようとする。 「うん」 宗也が近づくと、音は彼の身体から強い酒の匂いがするのに気づいた。顔も明らかに赤い。音は心配になって尋ねた。「宗也、酔ってるの?酔い覚ましのスープ、作ってくるわね」 「いい。お前も眠そうだ。部屋に戻って寝よう」 「眠くないわよ。悠人に絵本を読んであげてたら、こっちまで眠くなっちゃっただけよ」 音はそう言いながら、部屋を出ようとする。 「先に寝室で休んでて。すぐ持っていくから」 宗也は引き止めきれず、彼女の好きにさせるしかなかった。 音の作る酔い覚ましのスープは絶品で、宗也もすっかりその味に慣れきっていた。 スープを寝室に持っていくと、宗也はベッドの背もたれにもたれたまま眠っていた。 端正な顔が、すっかり力を抜いてリラックスしている。 起こすのは忍びない。音はそっとスープをナイトテーブルに置くと、浴室へ行って洗面器にお湯を汲み、タオルで顔と手を拭いてあげた。 胸元を拭いていた時、ふいに宗也が目を覚ました。 音の手首をそっと掴み、とろんとした目で彼女の顔を見つめる。 「音、最近どうしたんだ?ずっと俺を避けてる気がするんだが」 音は息を呑んだ。 気づいていたのだ。 なら……これ以上、逃げ続け
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第434話

この言葉を口にするのに、音はありったけの勇気を振り絞った。 言い終えると、黙って宗也の反応を待つ。 けれど、いくら待っても彼が口を開く気配はなかった。 音は不思議に思って顔を上げる。 宗也は目を閉じ、すやすやと眠ってしまっていた。 彼女は複雑な気持ちが込み上げた。 さっきの話、聞いていたのだろうか? どうやら……聞いていなかったようだ。 でなければ、こんなに穏やかでいられるはずがない。 音は静かに息を吸い、深く吐き出した。言葉にできない感情が胸の中で渦を巻いている。 なぜか、ホッと胸を撫で下ろしている自分がいた。 だって、真実を知った宗也と向き合う勇気など、本当にないのだから。 「……いいわ。ゆっくり休んで」 優しく布団を掛け直し、タオルと洗面器を持って部屋を出た。 すべてを片付けてから彼のもとへ戻り、寄り添うようにして横になった。 翌日。 音はいつも通り早起きして朝食を作った。ちょうどダイニングテーブルに並べ終えたところで、宗也が二階から降りてきた。 宗也は微かに眉をひそめ、その目にはかすかな疑念と戸惑いが浮かんでいた。 昨夜、自分が彼に言ったことを思い出し…… 音は思わずどきりとした。 手にした茶碗と箸をぎゅっと握りしめ、彼を見つめる。 「宗也、起きたのね」 「ああ」 宗也は探るような目で彼女を見つめ、しばらくしてようやく口を開いた。「音、昨夜おかしな夢を見たんだ。お前が俺に何か言っていて……」 そこで言葉を切った。 音の心臓が跳ね上がる。 思い出したの? 美月のことを聞こうとしている? 息を殺して次の言葉を待っていると、宗也は突然首を振った。「いや、なんでもない」 音は何か言おうと口を開きかけた。 けれど宗也は彼女の手を取り、ダイニングテーブルへと歩き出した。「今日の朝食は何だ?」 その口調は軽やかで、あの「夢」など気にしていない様子だった。 自ら音に雑炊をよそってくれる。 「朝早くから悪かったな。次からは清美に頼むか?」 「大丈夫よ、全然大変じゃないから」 音は笑って向かいに座った。 彼の小皿にハムを一切れ入れる。 「あなたも、たくさん食べて」 宗也は二口ほど食べると、ふと顔を上げた。「そうだ
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第435話

「美月、やっと目を覚ましたか。父さん、どれだけ心配したことか」 八重も急いで歩み寄り、この上なく嬉しそうに笑って言った。「そうよ、美月。あなたが眠っている間、私たちみんながどれだけ心配したか分かる?」 「お姉ちゃん、私もよ。私もすっごく心配したし、会いたかったんだから!」 長義の背後に立つ美咲が言った。 美月は皆の顔を見回し、その瞳の奥の戸惑いはさらに深まった。 「何があったの?私、どうしたの?どうして病院にいるの?」 彼女は必死に病床から起き上がろうとした。 「宗也の誕生日をお祝いしに行かなくちゃ。早く行かないと遅れちゃうわ」 長義は急いで彼女をベッドに押し戻した。 痛ましげに言う。「美月、忘れたのか?お前は交通事故に遭って、四年間も意識不明だったんだぞ」 「えっ?」 美月は目を見開いた。 美咲は後ろで頷きながら言葉を添えた。「本当よ、お姉ちゃん。もう四年も眠ってたのよ」 「じゃあ、宗也は……」 美月は再び起き上がろうともがいたが、今度は自分から力なく倒れ込んでしまった。 目を覚ましたばかりで、全く力が入らないのだ。 その美しい顔には焦りが滲み、すがるように皆を見つめている。 長義は、宗也がすでに妻を娶り、子供まで設けているという事実を、彼女に伝えるのが忍びなかった。 だが美咲が先を越して口を開いた。「お姉ちゃん、宗也はもう……」 「美咲!」 長義は慌てて美咲の言葉を遮った。 美咲は唇を噛み、不満げに黙り込んだ。 美月が目を覚ます前、長義は美咲と八重にきつく言い含めていたのだ。 美月の体はまだ回復しておらず、少しの刺激にも耐えられない。だから、宗也が結婚して子供がいるという知らせは、ひとまず伏せておくようにと。 「どうしたの?」 美月は皆が何か言い淀んでいる様子を見て、恐る恐る尋ねた。「宗也に何かあったの?」 「いや、あいつに何があるって言うんだ。今はとても元気にしてるよ」 長義は彼女の肩をぽんと叩いて言った。「美月、まずしっかり休め。余計なことは考えなくていい。 先生も言っていたぞ。目を覚ましたばかりだから、あまり動かず、感情の起伏も抑えるようにってな。分かったか?」 美月は頷いた。 そしてまた尋ねた。 「宗也は?ど
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第436話

音は本能的にスマホの電源を落とし、ベッドの脇へ放り投げた。 だが、逃げたところで結末は変わらない。 彼女はすぐにスマホを拾い上げると、震える指で宗也の番号をタップした。 電話に出たのは、亮だった。 亮は電話に出るなり、焦りきった声で言った。「奥様、早く来て社長を止めてください」 音は訳が分からず尋ねた。「宗也がどうかしましたか?」 「社長がどうしてもご自分で誕生日パーティーの飾り付けをするって聞かなくて、あんな高いところまで登っちゃって。危なすぎます!」 音はそれを聞いて、同じように焦りを覚えた。 「じゃあ、篠原さん、早く降りるように言って。万が一落ちたらどうするんですか?」 「何度も言ったんですけど、全然聞いてくれなくて!」 亮の声には、もうお手上げだという響きがあった。 彼はわざと通話をビデオ通話に切り替え、音に直接説得させることにした。 画面が宗也を映し出した瞬間、音は腰が抜けそうになった。藤堂家の御曹司ともあろう人が、まさか高い梁の上に登って自ら風船を飾り付けているとは。 これが義母の雅代に知られたら、自分は絶対にただじゃ済まない! 「宗也、早く降りて!」 彼女は焦って大声で叫んだ。 宗也は振り返り、スマホを持つ亮を睨みつけた。「余計なことを!」 亮は少し心外だった。 こんなお節介を焼くのも、社長の身を案じてのことなのに。 「社長、やはり奥様の言う通りに、専門のスタッフに任せましょうよ。奥様だって、こんなにお若いうちから手足の不自由なご主人の世話をするなんて嫌でしょう?」 音は激しく頷いて同調した。 「そうよ、そうなの。絶対に嫌! 宗也、早く降りてきて。じゃないと本当に怒るわよ」 宗也は画面越しの音が本気で焦っているのを見て、仕方なく梯子を伝って降りてきた。 スマホを受け取り、画面の向こうの音に微笑みかける。「あいつの言うことなんか真に受けるな。俺はそこまでヤワじゃない」 音は、汗で濡れた彼の額を見つめた。 鼻の奥がツンと熱くなった。 「残業って言ってたじゃない。どうして誕生日パーティーの飾り付けなんかしてるの?」 「ちょっとした仕事だったから、もう終わったんだ」 宗也は彼女の赤くなった目元を見て、少しおかしそうに言った。「
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第437話

音もとても満足だった。 「似合ってるな」 宗也は鏡に映る自分を見て頷くと、振り返って音を見た。 「いつ作ったんだ?全然知らなかったぞ」 「この間よ」 「この間、仕事がすごく忙しかったんじゃなかったか?俺に服を作る暇なんてあったのか?」 「すごく忙しかったけど、旦那と息子が一番大事だもの」 音は彼の手で襟元を整えながら、にっこりと微笑んだ。「あなただけじゃなくて、悠人の分も作ったのよ。家族三人でお揃いなの」 「そうか。じゃあ、今日はそれを着てお前の誕生日を祝おう」 「うん」 音が自分のために仕立てたのは、白いパーティードレスだった。特別に派手なデザインではないが、とても丁寧な作りで、彼女によく似合っていた。 彼女がそのドレスに着替え、宗也の隣に立つと。 まるでおとぎ話から抜け出してきたような、お似合いのカップルに見えた。 音は本当は悠人も一緒に誕生日パーティーへ連れて行きたかったのだが、昨夜悠人が少しお腹を壊していたので、連れて行くのはやめたのだった。 …… 広々としたパーティー会場。まず目に飛び込んできたのは、眩いばかりのクリスタルシャンデリアだ。 まるで無数の星のように天井から垂れ下がり、その光が会場全体を夢のように幻想的に照らし出していた。 ステージも念入りに飾り付けられていた。背景には巨大なプリントパネルが置かれ、そこには様々な書体で祝福の言葉が綴られている。 その一字一字を、宗也が自らの手で貼ったのだ。 一目見ただけで、彼がどれほど心を込めてこの誕生日を準備してくれたかが、痛いほど伝わってきた。 ステージの中央には何層にも重なった大きなケーキが置かれ、そこには音の名前が飾られていた。 目の前の光景を見て、音の鼻の奥がまたツンと熱くなった。 父が倒れて以来、誰も自分の誕生日を祝ってくれることはなかった。 こんなにも長い年月の中で、自分の名前が書かれたケーキを見るのは初めてだった。自分だけのために用意された大きなケーキを持つのも、初めてのことだった。 「気に入ったか?」 宗也が顔を覗き込むように尋ねた。 音は鼻をすすって頷いた。「気に入ったわ」 「願い事、するか?」 「うん」 音はケーキの前に進み出て、両手を合わせ、心からの祈りを込めて願い
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第438話

音がこうして大切にされるようになると、周囲の態度も一変した。以前はどこへ行っても、聞こえてくるのは「耳の聞こえない子」「藤堂社長には不釣り合いだ」という陰口ばかりだった。今ではもう、誰もそんなことは口にしない。向けられるのは羨望のまなざしと、取り入るような愛想笑いだけだ。会場が華やいだ空気に包まれる中、会場の扉が不意に押し開けられた。光の中に、ほっそりとした人影が浮かび上がる。人々が一斉に振り返った。入ってきたのは、一人の若い女性だった。痩せ細った体に雪のように白いロングドレスを纏い、整った顔にはどこか茫然とした色を浮かべている。同じ社交界に身を置く者たちだ。四年以上も眠り続けていたとはいえ、一目で気づく者がいた。「あれは……美月さん?」「まさか、美月さんはもう……亡くなったはずじゃ」ステージ上の宗也と音も、美月の出現にキスを止め、入り口へ視線を向けた。美月を目にした瞬間、宗也は自分の目を疑った。見間違いだ、そう思った。――腕の中の音の体が、強張るまでは。――周りが「美月さん」と口にするまでは。――美月の背後に立つ美咲の姿を認めるまでは。そこでようやく、幻ではないのだと悟った。美月は生きている。しかも、すぐ目の前に。視線が絡んだ。互いのまなざしが時を越えるように交差し、戸惑いと、信じられないという思いがそれぞれの瞳に宿った。四年ぶりの再会だ。こんな形になるとは、誰が想像しただろう。音は見ていた。宗也の驚きに満ちた瞳に、じわりと喜びがにじんでいくのを。――胸の奥で、最後の希望の灯が静かに消えた。やっぱり、この人はまだ美月を愛している。再会できて、きっと嬉しいのだろう。音は無意識に一歩退いた。もう一歩。宗也のために場所を空けた。宗也は気づかなかった。音の動きにも、紙のように白くなったその顔にも。つま先が自然と美月の方へ向き、歩き出していた。宗也が近づいてくると、美月はようやく声を絞り出した。低く、かすれた声で。「宗也……」「み……つ……き……」一字ずつ噛みしめるように名を呼ぶ。まだ確信が持てない、そんな声だった。美月の目がみるみる赤くなり、大粒の涙がこぼれ落ちた。「ごめんなさい、遅くなって……」落ち着かなげにドレスの裾を握りしめ、声を詰
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第439話

抱きとめた体はあまりにも軽かった。片腕で支えられるほどに。宗也は空いた手で美月の頬に触れ、呼びかけた。「美月、美月、どうした?」美月はもう意識を失っていた。いくら呼んでも、応えない。背後に立つ美咲が、しおらしい顔を作って口を開いた。「宗也、お姉ちゃんは四年も眠ってたの。数日前にやっと目を覚ましたばかりで、体もまだ全然回復してないのに、どうしてもあなたに会いたいって聞かなくて。きっとショックに耐えられなかったのね」宗也は有無を言わさず美月を横抱きにすると、大股で会場の出口へ向かった。そのまま、去って行った。会場が静まり返った。水を打ったように。誰もがステージ上の音を見つめていた。つい先ほどまで羨望を向けていたはずの客たちの瞳に、今は音がよく知る色が浮かんでいる――それは他人の不幸をあざ笑い、無遠慮な好奇の眼差しを向けてくる色だ。音は分かっていた。自分が笑い者になっていることくらい。前と同じだ。また、笑い者になった。音は必死に気丈さを装った。膝が折れないよう踏ん張り、無理やり微笑んで言った。「私は大丈夫です。今日はありがとうございました。どうぞお帰りください」誰かが親切ぶった声で言った。「あまり気を落とさないで。あなたと宗也さんは、もともと不釣り合いだったんですから。はっきり言えば、ご縁がなかったんですよ。美月さんが現れなくても、いずれ別の方が現れたはず。割り切るのが一番ですよ」「ありがとうございます……ありがとうございます」音はうつむいたまま、もうそれしか言えなかった。ひとしきり「親切な」忠告を並べ終えると、人々はようやく三々五々と去って行った。音はついに耐えきれなくなった。膝から力が抜け、薔薇の花びらが敷き詰められた床に崩れ落ちる。十分前、このステージがどれほど美しかったか。それが今、どれほど無惨か。音は口元を押さえ、肩を震わせて泣いた。いちばん恐れていた瞬間が来た。そして宗也はやはり、美月を選んだ。行ってしまった。もう、自分の居場所はない。覚悟していたはずなのに――心臓が引き裂かれるように痛い。涙がとめどなく落ち、一粒一粒が薔薇の花びらの上に沈んでいく。「音さん、誕生日は楽しかった?さぞ楽しかったでしょうね」背後から、意地の悪い声が響いた。
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第440話

「さっき、この目で見たわ。これ以上聞きたくない」「いいえ、私が言いたいのは五年前、二人がどれほど――」「聞きたくないって言ったでしょ。言葉も通じないの?」その瞬間、音の手が閃き、美咲の頬を鋭く打ち据えた。美咲は叩かれて呆然とし、危うくガラスの破片の山に倒れ込みそうになった。美咲は顔色を変え、怒りに任せて音の髪を掴み、乱暴に突き飛ばした。「耳の聞こえない分際で!私を殴るなんて、いまだに宗也があんたの味方だとでも思ってるの?自分の惨めな姿を見てみなさいよ。捨てられた野良犬とどこが違うの?教えてあげるわ。姉が目を覚ましたのよ。あんたはこの先一生、宗也を手に入れることなんてできないの」音は美咲にガラスの破片の山へ突き飛ばされ、頬をガラスで切られて血が滲み出した。音はもがきながら床から身を起こし、目の前で正気を失ったかのように喚き散らす美咲を見つめた。「美咲、一体何がそんなに嬉しいの?あなたなら宗也を手に入れられるとでも?」「私は手に入れられないけど、あんたにも絶対に渡さないわ!宗也と姉が睦まじく寄り添う姿を、あんたの目の前で見せつけてやる。これが私に逆らった報いよ」音は言い返した。「美咲、私は一度だってあなたに逆らったことなんてないわ。あなたはただ、自分みたいな人間が、私みたいな耳の聞こえない人間に負けたのが悔しいだけでしょ」「好きに言えばいいわ。とにかく私はあんたの思い通りにはさせない。そして――私の勝ちなのよ」美咲はハイヒールで床の薔薇の花びらを蹴り飛ばすと、口元を歪めて得意げに立ち去った。広々とした会場に、一瞬にして音だけが残された。音は床にへたり込んだまま、長い長い時間を過ごした。窓の外の空が次第に暗くなってから、ようやくもがくようにして立ち上がり、全身の傷を引きずりながら、ゆっくりと会場の出口へ向かった。一人で車に乗り、家へ帰った。一人で二階へ上がった。一人で主寝室の掃き出しの前に座り、入り口へ続く曲がりくねった私道を見つめていた。普段ならこの時間、宗也はもう家に帰っている。でも今日、宗也は帰ってこなかった。きっともう、帰ってくることはないのだろう。なにしろ宗也は、ようやくずっと想い続けてきた美月と再会できたのだ。きっと美月のそばに寄り添っているに違いない。美月
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