All Chapters of 私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした: Chapter 71 - Chapter 80

80 Chapters

第九・五章 俺が手を離さなければ

「凛音?」少し先を歩く凛音を、しっかり目で追っていたはずだった。しかし、子供にぶつかられて対応しているうちに、その姿が見えなくなっている。「……ったく」あれだけ、離れないように言ったのに。いや、俺が手を、目を離したのがいけないのだ。そのあたりに目を配って探したが、見当たらない。人出も増え、身動きも取りづらくなってきた。もしかしたらかなりの距離を流されているのかもしれない。とりあえず少しそのまま流され、抜けられそうなところで屋台の裏に出た。そこで凛音へ電話をかける。しかし、出ない。この人混みだ、気づいていないのかもしれない。それでも鳴らし続けると、しばらくして繋がった。「凛音?」呼びかけるが、返事はない。けれど、ただならぬ気配は察した。「凛音!」もう一度呼びかけるが、やはり返事はない。通話を切ると同時に、彼女に非常事態が起きているのだと通知が来た。迷うことなく携帯を操作し、あたりに耳を澄ます。しかし、あれほどけたたましい警報は少しも聞こえなかった。……もしかして、壊された?幸い、時計のGPSは生きていて、人波をかき分けてそこへと向かう。動いていない、そこにいるはずだ。無事でいてくれ……!しかしたどり着いたそこには凛音の姿はなく、壊れた携帯と腕時計が転がっているだけだった。「スミ。凛音が攫われた」この状況、どう考えても祭りに夢中になって、はぐれたことに気づいていないわけではない。足を、自宅の方向へと向ける。『わかりました。ミドリさんにも連絡して、すぐご自宅へ向かいます』「頼む」そのまま、家までの道を駆け抜けた。俺の背後で、花火が上がる。今頃、凛音と美しいあの花を愛でているはずだった。なのに、なんでこうなった?そんなの、俺が彼女の手を離したからに他ならない。「坊ちゃん!」「スミ!」家ではすでに、スミとミドリが待っていた。「凛音様のかんざしにGPSを仕込んであります。スミに抜かりはございません」スミがタブレットの画面を見せてくる。そこでは地図の上を赤い点が移動していた。あれが、凛音の居場所なんだろう。「でかした」赤い点はどんどん移動していっている。早く追いかけなければ逃げられてしまう。「いってくる!」「坊ちゃん、お待ちを」「なんだ!?」俺を止めるスミを、苛立ちと怒りで
last updateLast Updated : 2025-11-03
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第十章 ワルイコトはワルイコトです 1

目を開けたら、質素なホテルのような部屋が見えた。「……ん……!?」声を出そうとして、猿轡を噛まされているのに気づく。さらに腕は後ろ手に、足首も縛られていた。「んー、んー!」縄が緩まないかとじたばたと暴れるが、緩むどころかさらにきつく締まった気さえする。『気がついたんだ』ドアが開き、入ってきたのは――ベーデガー教授だった。私が転がされているベッドの傍に椅子を持ってきて、彼は足を組んでそこに座った。余裕のある彼を、思いっきり睨みつける。『そんなに睨まなくたって、説明してあげるよ。なにせ長い船旅だ、時間だけはたっぷりある』彼の言葉でここが船の中だとわかった。よく見れば窓が、一般的なホテルのものではない。しかしこの時点で私は、さほど危険を感じていなかった。携帯は壊されたが、まだ腕時計がある。きっと、炯さんがすぐに気づいて助けに来てくれる。そう、信じていたけれど。『ああ。先に残念なお知らせをしておこうか。助けを期待しても無駄だよ。最近は腕時計にもGPSがついていたりするから、捨ててきた。密航みたいなもんだから、もちろん乗船名簿にも載っていないし、外国船籍の船にそうそう簡単には立ち入れないからね』あっという間に彼が、私の希望をへし折ってしまう。……じゃあ、私はもう二度と、炯さんに会えない?『いいね。その、絶望に染まった顔』口角をつり上げ、教授はにっこりと笑った。彼が部屋に置いてあるマシンを操作し、コーヒーのにおいが漂い出す。少ししてカップを手に、教授は先ほどの椅子に座った。『凛音もどうだい?って、それじゃ飲めないか』おかしくもないのに彼がくすくすと笑う。『解いてほしい?』それにはうんうんと勢いよく頷いた。窓から見える風景は先ほどから変わっていない。まだ出港していないはずだ。今ならなんとか、逃げられるかもしれない。『嫌だよー。だって、騒がれるとうるさいからね』すました顔で教授はコーヒーを飲んでいて、本当に忌ま忌ましい。『さて』飲み終わったカップを近くの棚に置き、彼は座り直した。『凛音の聞きたいことはだいたいわかるよ。なんで僕がここまで、君に拘るのかってことだよね』いや、それはだいたいわかる。アッシュ社長の一人娘ってだけで私には利用価値がある。それで今まで、何度も誘拐されかけた。ここま
last updateLast Updated : 2025-11-03
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第十章 ワルイコトはワルイコトです 2

熱弁してくる彼に引いた。私は大和撫子ではない、ただのお転婆で世間知らずなお嬢様だ。それは私自身がよく知っている。教授の私像は、美化が過ぎていて気持ち悪い。『それで、今回の報酬に君をもらったんだ』にっこりと彼が私に微笑みかける。……〝報酬〟ってなんなんだろう?彼はただの、大学教授のはずだ。『ああ。大学教授は仮の姿。本業は人身売買の斡旋をしている』まるで私の疑問に答えるように彼が教えてくれる。しかしその笑顔は酷く作りものめいていて、背筋がぞくりとした。『大和撫子は海外で人気が高いんだ。僕はクライアントの希望にあう子を探すのが役目なんだ。それには大学教授っていうのはちょうどよくてね』淡々と彼は語っているが、もしかして行方不明になったまま、まだ見つかっていない桜子さんも彼の仕業なのでは。そんな疑念が浮かんでくる。『あそこの大学は論文の盗用の常習犯でね。脅したら簡単に採用してくれたよ』くつくつとおかしそうに彼が笑う。それでもしかしたら職員たちは、彼の顔色をうかがっていたのかもしれない。この期におよんでまだ逃げる隙をうかがうが、まるで見張るようにベーデガーは私の前から動かない。なにが楽しいのか彼は、ずっとにこにこ笑っていた。『そろそろ出港の時間かな』船の、警笛の音がする。出てしまえばもう、本当に炯さんに会えなくなる。それだけでもつらいのに。椅子を立ってきたベーデガーが、私にのしかかる。『向こうに着くまでのあいだに、この身体にたっぷりと君は誰のものか教え込ませて、従順な僕の妻にしてあげる』浴衣の裾を割って彼に足をねっとりと撫でられ、全身が粟立った。出そうになった悲鳴は、猿轡によって阻まれた。ベーデガーに犯されるくらいなら……舌噛んで、死ぬ。「凛音!凛音はどこだ!」不意に外から大きな声が聞こえてきて、ベーデガーの動きが止まった。「んー!んー!んー!」無駄だと知りながらその声に応えようと、大きな声を出す努力をした。それをやめさせようとベーデガーが大きな手で口もとを覆ってくる。それは鼻までも覆い、息ができない。「ここか!」遠のく意識の中で、激しくドアを叩く音がする。「凛音!」なにかが壊れる、大きな音のあと勢いよくドアが開いた。その瞬間、驚いた弾みでベーデガーの手が緩む。必死に息をしようとする
last updateLast Updated : 2025-11-03
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第十章 ワルイコトはワルイコトです 3

状況が整理できないのか、眼鏡の向こうでベーデガーの瞳は完全に点になっている。私だって炯さんが、なにをさらっと言っているのかわからない。確かに浴衣も髪もかなり乱れているし、かなりの大乱闘があったんだろうなというのは推測できた。しかし、人身売買の密航船だ、それに兵隊と言っていたから、普通じゃなく屈強な人たちがいたはずなのだ。それを〝のした〟のひとことで片付けられる炯さんって?え?え?「伊達に海賊と渡りあってないからな。海賊に比べれば、弱かったぞ?」わざとらしく声を上げて彼は高らかと笑っている。もう、考えるのはよそう……。ぺたんと座り込んで完全に戦意を喪失しているベーデガーを、私を縛っていた縄で炯さんが縛る。「他にも女の子が攫われてきているかもしれなくて……」ベーデガーのあの口ぶりだと、もう何人かこの船に乗っていそうだ。「もうミドリが助けに行ってるから心配しなくていい」安心させるように炯さんが私の頭をぽんぽんした。それで大丈夫だって思えるのはなんでだろう?「じゃあ、かえ……」「炯さん」私を抱き抱えようとした彼を止める。そのまま視線でベーデガーを指した。炯さんは小さくため息をつき、その前に私を支えて立たせてくれた。『ベーデガーさん。私はあなたのいうような大和撫子じゃありません。それに、あなたにとって女の子はただの商品かもしれませんが、立派な意志を持った人間なんです。意志を持った!人間!人をそんなふうに扱っていると、そのうち自分に返ってきますよ』思いっきり冷めた目で彼を見下ろす。『別に僕だけが悪いわけじゃないだろ。買うヤツがいるから、斡旋しただけだ。それに、僕が捕まったところで、すぐに別のヤツが出てくる』微塵も反省せずにそんなことを言う彼にカッと腹の底に火がつき、反射的に手が上がる。「やめておけ」しかし、それは振り下ろす前に炯さんに止められた。「こんなヤツ、凛音が手を下す価値もない」「でも、でも……!」こんな人、絶対に許せない。人を食い物にしておいて、自分は悪くないなんて。『はっ、甘ちゃんが』「……あ?」炯さんの目がすーっと細くなり、拳が握られた腕が後ろに引かれるのが見えた。『そんなんだから僕に』拳が、ベーデガーの顔へと勢いよく向かっていく。私を止めておいて、炯さんは殴るの!?『攫われ
last updateLast Updated : 2025-11-03
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第十章 ワルイコトはワルイコトです 4

「連れて帰ってきた」「おかえりなさいませ……!」帰ってきた俺たちを見て、出迎えたスミは目に涙を浮かべた。意識のない凛音をベッドへ寝かせ、スミが呼んでいた医者に診てもらう。手首と足首は縄が擦れたのか血が滲んでいて、痛々しい。しかもきつく猿轡を噛まされていたせいか、唇の端も切れていた。詳しい結果はまだあとだが、とりあえずはなにか薬を使われていた形跡はなさそうで、ほっとした。スミたちに感謝を伝えて帰し、軽くシャワーを浴びて寝室へ戻る。「うーっ、ううーっ」「凛音?」うなされている彼女に気づき、ベッドに駆け寄った。身体を丸め、凛音は苦しそうに息をしている。医者は大丈夫だと言っていたが、やはり異常があるのでは。不安に駆られながら、その華奢な身体を抱き締めた。「苦しいのか?医者を呼ぶか?」少しでもその苦しみを和らげようとゆっくり背中を撫でてやる。すぐに彼女は穏やかな呼吸になり、すーすーと気持ちよさそうに寝息を立てだした。ただし、縋るように俺の寝間着をきつく握りしめて。「傍にいるから、安心していい」つむじに口付けを落とし、凛音を抱え直す。夢の中ではまだ、彼女はあの男に捕らえられているのかもしれない。なのにひとりにするなど、申し訳ないことをしてしまった。「ごめんな、凛音。本当にごめん」今回はベーデガーの個人的な偏執で家も俺の仕事も関係なかったが、またいつ同じような状況になるかわからない。今までだって何度か誘拐未遂に遭っているし、その危険は俺との結婚でさらに上がっている。「どうするかな……」凛音を籠の中に――狭い世界の中に閉じ込めてしまえば、危険は格段に減るのはわかっていた。凛音の親も彼女の自由を制限していたのは、その理由もあったのだと理解している。それでも俺は、彼女を外へ出してやりたかったのだ。あの日、俺の隣でキラキラ目を輝かせて遊んでいる凛音が、不憫になるのと同時に堪らなく愛おしくなった。さらに、素敵な殿方と恋をしたいので抱いてくれと俺に頼んでくるほど、度胸もある。……この可愛い女を俺のものにしたい。俺のものにして、本気で恋に堕としたい。それは俺が、初めて抱く感情だった。今まで人並みに女性と付き合ったことはあるが、凛音にここまで本気になるとあれは本当に恋だったのか疑わしい。凛音のことになると、まるで高校生の
last updateLast Updated : 2025-11-03
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第十一章 ワルイコトが起きても大丈夫 1

目が覚めたら、炯さんの腕の中にいた。「おはよう、凛音。身体、つらくないか?」「……はい」彼は私を気遣ってくれるが、目の下にはくっきりとクマが浮き出ている。もしかして、眠れていないんだろうか。「腹、減ってないか?それとも喉が渇いてる?」炯さんは私を心配しているが、私は彼が心配になった。「なんか持ってくるな。凛音はまだ、寝ていていいからな」「あの、炯さん!」寝室を出ていこうとした彼を止める。「その。……お手洗いに、行きたいので」こんなことを言うのは恥ずかしいが、そうでもしないとこのまま今日はベッドに拘束されそうだ。「あ、ああ。そうだな。どうぞ」ドアを押さえ、彼が道を譲ってくれたので、ベッドを下りてお手洗いへ向かう。用事を済ませながら目に入ってきた私の手足には、包帯が巻いてあった。気づくと同時に、そこがじんじんと鈍く痛み出す。「けっこう擦れてたもんなー」昨日は異常事態だったから感じていなかったが、もしかしてけっこう酷い傷になっていたりするんだろうか。痕にならなきゃいいんだけれど。トイレを出たら、炯さんが壁に寄りかかって待っていた。「えっと……」もしかしてそんなに切羽詰まっていたんだろうか。しかし、この家にはトイレが二カ所ある。「大丈夫か?どこか痛いとかないか?」過剰なくらい彼は心配してくるが、昨日の今日ならそうなるか。「大丈夫ですよ」手首と足首は痛むが、平気だと笑顔を作る。これ以上、彼を心配させたくない。「食欲はあるか」「そうですね……」あると答えたいが、まったく食べたいという気が起こらなかった。炯さんと一緒にこの家に帰ってきて落ち着いたと思っていたが、心のダメージはそう簡単にはいかないらしい。「……すみません、ないです」情けなく笑って顔を見ると、みるみる彼の表情が曇っていった。「凛音が謝る必要ないだろ。ベッドで待ってろ、なんか飲むもの持ってくる」「……はい」僅かな距離なのに炯さんは私をベッドにまで送り届け、寝室を出ていった。「うーっ」こんなに炯さんに心配をかけている自分が情けない。昨日だって、初めてのお祭りではしゃいで私がはぐれたのが、そもそも悪かったんだし。「凛音」少しして炯さんは大きめのグラスを手に戻ってきた。「これなら飲めるか?」「ありがとうございます」受け取
last updateLast Updated : 2025-11-03
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第十一章 ワルイコトが起きても大丈夫 2

「炯さん?」「あ、いや。飲めたんならよかった」慌てて笑って取り繕ってきたが、なんだったんだろう?「炯さんは朝食、食べないんですか?」「あ、俺か?俺はそれ作りながら、端を摘まんだからいい」などと彼は笑っているが、それは反対に心配です……。スムージーを飲んだあと、炯さんもベッドに上がって私を抱き締めてくれた。まだダメージの抜けきらない私としてはありがたいけれど、いいのかな。「炯さん。お仕事はいいんですか?」別に、仕事に行けと催促しているわけではない。それよりも今は、こうして一緒にいてほしい。しかし、ワーカーホリック気味な彼が、休みでもないのに家に居るのは気になる。「しばらく休みにした。凛音もそのほうがいいだろ」「……ありがとうございます」甘えるように彼の胸に顔をうずめる。いいのかな、本当に。私のために、そんな無理をさせて。「……その。昨日ははしゃいではぐれてしまって、すみませんでした」私がはぐれたりしなければ、あんな危険な目には遭わなかった。炯さんをこんなに心配させずに済んだ。後悔してもしきれない。「どうして凛音が謝るんだ?悪いのはアイツだろ」「でも……」それでも、申し訳ない気持ちが先に立つ。「それに悪いのは俺だ。俺が凛音から手を離したりしたから……!」強い声がして、思わずその顔を見上げていた。炯さんの顔は深い後悔で染まっていた。「炯さん……」そっと脇の下に腕を入れ、広い彼の背中を抱き締め返す。「炯さんは悪くないですよ。仕方なかったんです」あの人混みではぐれるなというほうが無理だ。私が彼とはぐれたのは仕方なかった。彼が私を見失ったのも仕方なかった。ただ、運が悪いことにそれを悪い人間が利用した。それだけなのだ。「仕方なかった、か」「はい、仕方なかったんです」それで片付けていいのかわからない。でもこれは、そうするのがいいのだ。炯さんは私を子供のように膝の上に抱き上げて、ずっと髪を撫でている。それが酷く落ち着いて、意識がとろとろと溶けていった。「……なあ、凛音」「……はい」「婚約、破棄しようか」「はいーっ?」さらりと爆弾発言され、さすがに目が覚めた。「なに、言ってるんですか?」炯さんは本気で言っているんだろうか。信じられなくて彼の顔を見る。彼は私に視線は向けてい
last updateLast Updated : 2025-11-03
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第十一章 ワルイコトが起きても大丈夫 3

「私に悪い遊びをたくさん教えてくださるんでしょう?私はまだまだ、遊び足りないですよ。炯さんじゃなきゃ、誰が教えてくれるんですか」「そう……だな」あっけに取られている彼に、さらに捲したてる。「それとも炯さんにとって私は、そんなに簡単に手放せる存在なんですか」「それ、は……」苦しそうに彼の表情が歪む。「私を幸せにできるのはもう、炯さん以外いないのに……」私はこんなに彼を想っているのに、彼にとって私はそれくらいの存在だったんだろうか。ズタズタに切り裂かれるように胸が痛い。耐えきれなくなった涙がぽろりと、頬を転がり落ちていった。「……ごめん」伸びてきた彼の手が、私の頬を拭う。「俺ももう、凛音のいない人生なんて考えられない。でも、俺のせいで凛音を失ったらと考えると、怖くて怖くて堪らないんだ……」縋るように私を抱き締める腕は小さく震えていた。こんなにも、もしもの可能性に怯えるほど、炯さんは私を想ってくれている。そんな彼が、――堪らなく、愛おしい。「大丈夫ですよ、今回だってなんとかなったじゃないですか」「でも、次はまにあわないかもしれない」「私もミドリさんに、護身術を習います」「相手の男のほうがもっと強いかもしれない」炯さんの不安は晴れないのか、ただの可能性で否定してくる。「炯さんは私を、守ってくれないんですか」「絶対に守るに決まってるだろ!それでも……」「だったら、大丈夫です」彼を抱き締め、いつも私にしてくれるみたいに背中をとんとんと叩く。「炯さんが絶対に守ってくれるんなら、少しくらい危険な目に遭ったって大丈夫です。炯さんは絶対に私を守ってくれるんだから、絶対にピンチにまにあうんです。だから、絶対に大丈夫です」自分にも言い聞かせるように〝絶対に大丈夫〟と繰り返した。私はもしこの先、また危険な目に遭って、今度こそ炯さんと会えなくなっても――今度こそ殺されたって、その気持ちがあれば十分だよ。それにたとえどんな危険が待っていたとしても、炯さん以外の人となんて一緒の人生を歩んでいけない。私の気持ち、届け……!「……そうだな」そっと炯さんの手が、私の頬に触れる。レンズの向こうの瞳は、濡れて光っていた。「なにがあっても俺が絶対に凛音を守る。だから、安心していい」泣き出しそうに彼が笑う。「はい」たぶん、私
last updateLast Updated : 2025-11-03
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第十一章 ワルイコトが起きても大丈夫 4

「無理はさせたくないんだが……わるい、抑えられない」目をやった彼のそこはすでに、パジャマの上からでも屹立しているのがわかった。「大丈夫です。私も……炯さんが、欲しいから」彼の手を私の秘密の入り口へと導く。そこは先ほどのキスでしとどに濡れており、触れた彼の指先がぬるりと滑った。「……そんなに俺とのキスは気持ちよかったのか?」くちゅくちゅと蜜口を擦られながら耳もとで囁かれるだけで、お腹の奥がきゅんと締まった。「今、締まった。感じてるのか?」意地悪く言われ、さらに締まるのを感じる。「あっ」パジャマの裾から入ってきた手に胸の頂を摘ままれ、ついに声が漏れた。「気持ちいいか?」自己主張を始めた可憐な尖りをこりこりと弄ばれ、薄く涙の浮いた目でうんうんと頷く。「あっ、んんっ」そのうち二本の指が花壺に差し入れられた。「すぐにでも挿入れたいけど、慣らしておかないと凛音がつらいからな」花芽をぐりぐりと親指で潰しながら、ゆったりと彼が指を前後させる。下着の中だからか緩慢な動きがもどかしく、それがさらに私の身体に火をつけていった。「もう、いいからっ……!」「なにがいいんだ?」手を止めた彼が、右頬を歪めてにやりと笑う。その顔を見て私の身体は、これ以上ないほどきつく彼の指を締め付けた。「奥が疼いて、我慢できない、のっ」「奥って?」からかうように軽く、炯さんがまだ私の胎内にいる指を動かす。それは私のキモチイイ場所には僅かに届かず、疼きに拍車をかけるだけだった。「炯さんがいつも、撞いて可愛がってくれるところ……!」「可愛い、凛音」彼の唇が、目尻に溜まる涙を拭ってくれる。「そんなに可愛いと、手加減できなくなるんだけど」そう言いつつも私を気遣うように、ゆっくりとパジャマを炯さんは脱がしていった。「あの、ね。炯さん」彼も服を脱ぎ、避妊具を着けようとしたところで止める。「……そのまま、きて」こんなことを言うのは恥ずかしくて、顔ごと視線を彼から逸らした。「凛音?」「あの、ね?身体が、炯さんの赤ちゃん、欲しい、って。だから、ね?」身体が、炯さんの赤ちゃんを待ち望んでいるのがわかった。だったら、今だと思う。「凛音」少し低い声は、怒っている。そうだよね、式どころか入籍もまだなのに、赤ちゃんできたら困るよね。「あ、あの……
last updateLast Updated : 2025-11-03
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最終章 ワルイコトは終わらない

「パパー、早くー!」「こらっ、ひとりで行くなと何度言ったらわかるんだ!」駆けていこうとした女の子の襟首を炯さんは捕まえた。「だって待ちきれないんだもん」初めてのキャンプ、唇を尖らせている女の子の気持ちは理解できる。あれから、私たちは無事に夫婦となった。あのとき授かった娘、璃奈ももう五つになる。義父が引退したのもあり、炯さんは子会社の社長から三ツ星造船の社長へと変わった。これで私たちの危険が減ると喜んでいて不思議だったが、海運業の仕事柄、海賊にその身を狙われていたらしい。「凛音、頼む」「はーい」猫の子よろしく炯さんから差し出された璃奈を受け取った。「璃奈の気持ちはわかるけど。ひとりになっちゃ、ダメ。怖い思いはしたくないでしょ?」璃奈を膝の上に抱き上げ、目をあわせる。「したくないけど……」完全に璃奈はふてくされているが、仕方ないか。いくら言い含めようと、実際にその〝怖い思い〟がどんなものか、体験しないとわからないもんね。でも、そんな体験は娘には絶対にさせたくない。「ちょっと窮屈だなとか思うだろうけど。パパもママも璃奈に怖い思いをさせたくないだけなの。だから、我慢して?」「……うん」まだ幼い璃奈に理解できないのは仕方ない。私だって璃奈と同じくらいの頃は、なんで自分はまわりと違うんだろうって不思議だった。「ママもね。小さい頃はひとりでなにもさせてもらえなかった。幼稚園のお友達のところにも遊びに行かせてもらえなかったんだよ?」「うそだー」完全に璃奈は、疑いの目を私に向けている。そうだよね、信じられないよね。璃奈は警護付きとはいえ、行きたいと言ったときはなるべく行かせてあげるようにしているもの。「でもね、パパはなるべく、璃奈にいろいろなことをやらせてあげたい、って。だから今日だって、無理してきたんだよ」今日のキャンプはグランピングではなく、一般キャンプ場での普通のキャンプだ。危険はないか、事前に調査した。今日も数人、見えないところに周囲に警備員を配置してある。そこまでして炯さんは璃奈にキャンプを――悪い遊びをさせたかったのだ。「だから、ね。パパにさっきはごめんなさいって謝ろう?」「……うん」ここまで言っても璃奈は渋々で苦笑いしてしまう。子供なんだから理解できなくても仕方ないよね。
last updateLast Updated : 2025-11-03
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