食後、リビングのソファーに座り、私を膝の上にのせて炯さんはご機嫌だ。ちなみにスミさんとミドリさん、シェフも夕食の片付けが終わったら帰るので、この時間からはふたりきりだ。「履歴書。アドバイスもらえませんか?」「いいよ」緊張しながらプリントアウトしておいた履歴書を彼に見せる。じっと、彼が目を通し終わるのを待った。「俺ならこの履歴書見て、凛音を採用しないな」「……そう、ですか」こんな中身のない履歴書、ダメだって自分でわかっていても、落ち込んだ。「資格が真っ白だが、まったく持ってないのか?」炯さんの長い指が、空欄をとん、と突く。「司書資格くらいで誇れるものは……」「枯れ木も山の賑わいで持ってる資格は全部書いとけ。なにもないよりマシだ」そんなものなんだろうか。でも、相手は採用する側の人間なんだし、間違いはないだろう。「あと、自己PRが〝なんでも頑張ります〟とかダメ。凛音のできることで埋める」「私のできること……?」「そう。採用担当に雇いたいと思わせる」真剣に悩んだが、私のできることなんてなにも思いつかなかった。世間知らずなお嬢様、それが私だもの。「……なにもない、です」ミドリさんみたいに格闘技の達人だったらよかったんだろうか。それとも、スミさんみたいに家事万能とか?取り柄のない自分に気づき、どんよりと暗い気持ちになった。「あるだろ。お義父さんから凛音は五カ国語が話せるから、海外に連れていっても大丈夫だって聞いてるぞ」「でもそれは、基礎教養として当たり前で……」「あのな。大学出てても英会話どころか日本語すら怪しいヤツだっていっぱいいるの。五カ国語も話せるのは誇っていい」炯さんは呆れ気味だが、日本語が怪しいというのはさすがに大袈裟では……?それに父からはこれくらいできて当然、と言われてきた。これが誇れるなんてやはり信じられない。「それにお義父さんは、凛音にはファースレディにもなれるくらいのマナーと教養をつけさせたとも言っていたぞ。そんな人間、海外展開している会社なら、喉から手が出るほどほしい。俺だって贔屓抜きで凛音を秘書にほしいくらいだ」うんうんと力強く、彼が頷く。あれは私としては、ただの基礎教養だと思っていた。それに、こんな価値があるとは思わない。「どんな仕事をしたらいいかわからないって言っ
Last Updated : 2025-11-03 Read more