All Chapters of 攻略対象は私じゃない! ~腐女子が神視点で推しカプ見てたら、いつの間にか逆ハーレムの中心にいた件~: Chapter 141 - Chapter 144

144 Chapters

第141話 ドレスに包まれて

 あれから、いくつもの季節が巡った。  窓の外には、目に痛いほどの新緑が広がっている。初夏の陽気を含んだ風が、木々の葉を揺らす音が聞こえてくるようだ。  雲ひとつない突き抜けるような青空の下。  私は今、人生で一番高いヒールの上に危なっかしく立ち、人生で一番重たい布の塊に全身を包まれて、人生で一番強張った顔で鏡と睨めっこをしていた。 「……うぅ、苦しい。ねえ乃亜、これちょっとコルセット締めすぎじゃない?」 「何言ってんの。一生に一度の晴れ舞台でしょ? 内臓の位置なんて気にしてる場合じゃないって」  私の背後で、親友の神崎乃亜がテキパキとドレスの裾をさばいている。  今日の彼女はブライズメイドとして、淡いレモンイエローのドレスを身に纏っていた。相変わらずの切れ長で美しい瞳と、凛とした立ち振る舞い。主役の私の方が霞んでしまいそうなほどの美人っぷりだ。 「ほら、できた。……うん、悪くない」  乃亜が満足げに頷き、私の背中を鏡の方へとぐいと押した。  そこに映っていたのは、純白のウェディングドレスに身を包んだ、見知らぬ誰かのような自分の姿。  繊細なレースが鎖骨のラインを縁取るオフショルダー。ふわりと空気を含んで広がるAラインのスカートには、無数の小花が散りばめられ、動くたびにさざ波のように揺れる。プロの手によって丁寧に編み込まれた髪の上には、照明を受けてキラキラと瞬くティアラが鎮座していた。 「……私、本当にお嫁に行くんだね」  鏡の中の自分と目を合わせ、ぽつりと漏らす。  なんだか、足元がふわふわとして実感が湧かない。まるで、スクリーンの向こう側で繰り広げられる物語を、客席から眺めているような不思議な浮遊感がある。 「何寝ぼけたこと言ってんのよ。ここまで来て夢オチでしたなんて言ったら、私が許さないからね」  乃亜が呆れたように笑い、私の肩にぽんと手を置いた。  その掌から伝わる確かな体温と重みに、ようやく少しだけ、ここが現実なのだという感覚が戻ってくる。  そう。今日は、私の結婚式だ。  机を紙で埋め、送信ボタンの前で固まっていた日が、今も時々夢に出てくる。二次募集で内定をもらった『株式会社アルカディア・ワークス』で、私は今、プランナーとして走り回っている。好きだけでは済まないことばかりだけれど、会議に出す企画書の最初の読者は、相変
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第142話 扉の向こうの彼

 そして今日、私たちは誓いを立てる。  多くの人に見守られ、祝福されながら、これからの人生を共に歩んでいく約束を。  コンコン、と厚い扉越しに控えめなノックの音が響いた。 「失礼いたします。……新婦様、そろそろお時間です」  式場スタッフのよく通る声に、心臓が跳ね上がる。  いよいよだ。 「よし。行ってきなさい、栞」  乃亜が私の背中をバン、と景気よく叩いた。  少し痛いくらいのその衝撃に、竦みかけていた足に力が戻る。私は肺いっぱいに空気を吸い込み、深く吐き出した。 「うん。……行ってきます!」  ずしりと重いドレスの裾を爪先で蹴り上げ、私は控室の扉を押し開けた。◇ チャペルの大きな扉の前。  父の腕に手を添えながら、私は震えそうになる膝を必死に叱咤していた。  この扉の向こうには、たくさんのゲストたちが待っている。  大学時代の友人たち、会社の同僚、輝くんの仕事関係の方々。  そして何より、私たちがここに辿り着くまでの道のりを、時に厳しく、時に温かく見守ってくれた、かけがえのない仲間たち。 「栞。……綺麗だぞ」  隣で父が、少し湿っぽい声で囁く。  普段は無口で不器用な父の、絞り出すような言葉。危うく涙腺が緩みそうになり、私はぐっと奥歯を噛み締めて堪えた。  今泣いたら、時間をかけて作ってもらったメイクが台無しになってしまう。輝くんに、一番綺麗な私を見てもらいたいから。  厳かなパイプオルガンの音色が、高い天井に響き渡る。  重厚な扉が、ゆっくりと左右に開かれていく。  溢れ出すまばゆい光。  そして、視界いっぱいに飛び込んでくる、祝福の拍手と温かな笑顔の海。  まっすぐに伸びるバージンロードの先、祭壇の前で待っているのは、白のタキシードに身を包んだ私の最愛の人。  天王寺輝。  彼と目が合った瞬間、周りの景色からふっと色が抜け落ちたような気がした。  彼だけが、鮮やかに、圧倒的な存在感を持ってそこに立っている。  (……かっこいい)  付き合い始めてもう何年も経つのに、未だに彼の姿を見るたびに胸が高鳴ってしまう自分がおかしい。  今日の彼は、いつにも増して「王子様」だった。  仕立ての良いタキシードを完璧に着こなし、綺麗に整えられた茶色の髪が光を弾いている。そして何より、私を見つめるその瞳。蕩けるよ
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第143話 誓いの口づけ

 父の手から輝くんの手へ、私の手が託される。  触れた輝くんの手は、大きくて、温かくて、そして少しだけ震えていた。 「……待ってたよ、栞」  彼が誰にも聞こえないほどの小声で囁く。  その声の響きに導かれるように、私は彼の隣に並んだ。  牧師様の言葉が続き、私たちは誓いの言葉を交わす。  指輪の交換。  私の左手の薬指に、ひやりとした金属の感触と共に、永遠の約束が滑り込んでくる。  そして。 「それでは、誓いのキスを」  牧師様の言葉を合図に、輝くんがそっとベールを上げる。  隔てるものがなくなり、至近距離で見つめ合う。  彼の瞳の中に、緊張で強張った私の顔が映っている。 「……愛してる」  唇が触れ合う直前、彼が音のない言葉でそう言ったのが分かった。  私も、心の中で答える。  私も、愛してる。世界で一番。  チュッ、と柔らかい音がして、唇が離れる。  その瞬間、会場中から割れんばかりの拍手が巻き起こった。  私たちは皆の方へと向き直る。  色とりどりの花びらが舞うフラワーシャワーの中、たくさんの笑顔が私たちに向けられていた。  最前列には、見慣れた、そして大好きな顔ぶれが揃っている。  まずは、氷室奏くん。  彼は今、売れっ子のゲームシナリオライターとして第一線で活躍している。私と同じ会社に所属し、時には喧嘩し、時には背中を預け合いながら、一緒にゲームを作り上げている戦友だ。  今日の彼は、隙のない礼服姿で、眼鏡の奥の瞳を和やかに細めてこちらを見ていた。その表情はどこまでも穏やかで、まるで手のかかる弟と妹の晴れ姿を見守る兄のようだ。  その隣には、七瀬陽翔くん。  彼は大学卒業後、厳しい修行期間を経て、念願だった自分のカフェをオープンさせた。今では雑誌やSNSに取り上げられるほどの人気店のオーナーだ。  相変わらずの人懐っこい笑顔で、大きく手を振ってくれている。「先輩、おめでとう!」という口の動きが見えた。  そして、乃亜の隣には……まさかの人物。  西園寺エリカ様だ。  彼女はあれから、持ち前の驚異的なバイタリティと深いオタク知識を武器に、なんとイベント運営会社の社長になっていた。  今日の彼女は、いつもの真紅のドレスではなく、上品なシャンパンゴールドのドレスを身に纏い、扇子で口元を隠しながら優雅に
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最終話 写真の中のヒロイン

 (……感動してくれてるんだ。嬉しいな)  そう思った瞬間だった。  私の脳内で、長らく休眠状態にあった『腐女子フィルター』が、カチリと音を立てて誤作動を起こした。  世界が、歪む。  待って。  あの涙の意味は、本当に純粋な「祝福」だけなのだろうか?  奏くんが、輝くんを見る目。  どこか悔しげで、それでいて相手の実力を認めざるを得ないといった、複雑で熱っぽい感情が入り混じった眼差し。  陽翔くんが、輝くんを見る目。 「先を越された」という男としての敗北感と、それでも「あいつなら任せられる」という友情、そして断ち切れない切なさが同居した濡れた瞳。  そして、輝くんが二人に向けて送った、勝ち誇ったような、けれど揺るぎない信頼に満ちたアイコンタクト。  (……はッ!!)  脳天に電撃が走った。  もしかして。  もしかして、これは『ライバル×輝』の……。  そこまで考えて、私は唇を噛んだ。違う違う。今、自分の結婚式ですから。披露宴の席順で相関図を作っている場合じゃありません。  奏くんも陽翔くんも、私に気持ちを伝えてくれた。その言葉を、都合のいい筋書きに書き換えたくはなかった。  目が合った奏くんに、小さく頭を下げる。陽翔くんは泣いたまま、くしゃくしゃの笑顔で手を振ってくれた。 「……し、栞?」  隣で輝くんが、不審そうに私の顔を覗き込んだ。  奏くんと陽翔くんを見ていた時間が、思ったより長かったらしい。私は慌てて、隣に立つ彼へ向き直った。 「……ううん。なんでもない」  輝くんはまだ少し疑わしそうだ。分かってます。その顔をされても仕方ない人生でした。  私は言い訳を探すのをやめ、自分から彼の手を取った。 「輝くん。私、今、すごく幸せ」  彼の目が、ふっと和らぐ。それを見たら堪らなくなって、背伸びをして頬に口づけた。すぐ近くから歓声が上がり、そこでようやく会場中に見られていることを思い出す。 「あ、いや、今のは……!」 「取り消しはなし」  輝くんが笑い、私の腰を引き寄せる。今度は目を逸らさずに、その顔が近づくのを待った。  カラン、カラン、と祝福の鐘が高らかに鳴り響く。  青空に吸い込まれていくフラワーシャワーの中で、私は輝くんの腕の中にしっかりと抱きしめられていた。その体温が、私を確かな幸福の中心に繋ぎ止
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