◇ しばらくの間、私たちは言葉もなく抱き合っていた。 お互いの温もりを確かめ合い、幸せの余韻に浸る。 このまま時間が止まってしまえばいいのに。 本気でそう思った、その時だった。 ガサッ。「……ん?」 すぐ近くの植え込みから、不自然な音がした。 風の音じゃない。何かが、あるいは誰かが動いたような音。 輝くんがピクリと反応し、私を抱く腕を緩めることなく、鋭い視線を音のした方へ向けた。「……誰だ?」 彼の声のトーンが、甘い恋人のものから、警戒心を剥き出しにした「雄」のものへと切り替わる。 その変わり身の早さにドキッとしつつ、私も輝くんの腕の中からそちらを見た。 中庭の大きな木の陰。 そこにあるツツジの植え込みが、もう一度ガサガサと揺れた。「……出てこい。いるのは分かってるんだぞ」 輝くんの低い声に、植え込みが観念したように大きく揺れ――。「あーあ。バレちゃいましたかー」 ひょこっ、と顔を出したのは、見慣れた茶髪の青年だった。 頭に枯れ葉を乗せたまま、悪びれもせずにニカッと笑う。「……七瀬?」 輝くんが呆気にとられた素っ頓狂な声を出す。 しかし、驚きはそれだけでは終わらなかった。「……チッ。陽翔が音を立てるからだ」「あら、あんたが押したんでしょ? 人のせいにしないの」 七瀬陽翔くんに続いて、仏頂面の氷室奏くんと、呆れ顔の神崎乃亜が、ぞろぞろと木の陰から姿を現したのだ。「え、えええええ!?」 私は驚きのあまり絶叫した。 なんで? どうしてここに? まさか、最初から見てたの!?「お前ら……! いつからそこにいたんだ!」 輝くんが顔を真っ赤にして怒鳴る。 さっきまでの感動的なプロポーズの余韻が、ガラガラと音を立てて崩れ去ってい
Last Updated : 2026-01-28 Read more