All Chapters of 攻略対象は私じゃない! ~腐女子が神視点で推しカプ見てたら、いつの間にか逆ハーレムの中心にいた件~: Chapter 131 - Chapter 140

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第131話:輝のプロポーズ(仮)⑧

 ◇ しばらくの間、私たちは言葉もなく抱き合っていた。 お互いの温もりを確かめ合い、幸せの余韻に浸る。 このまま時間が止まってしまえばいいのに。 本気でそう思った、その時だった。 ガサッ。「……ん?」 すぐ近くの植え込みから、不自然な音がした。 風の音じゃない。何かが、あるいは誰かが動いたような音。 輝くんがピクリと反応し、私を抱く腕を緩めることなく、鋭い視線を音のした方へ向けた。「……誰だ?」 彼の声のトーンが、甘い恋人のものから、警戒心を剥き出しにした「雄」のものへと切り替わる。 その変わり身の早さにドキッとしつつ、私も輝くんの腕の中からそちらを見た。 中庭の大きな木の陰。 そこにあるツツジの植え込みが、もう一度ガサガサと揺れた。「……出てこい。いるのは分かってるんだぞ」 輝くんの低い声に、植え込みが観念したように大きく揺れ――。「あーあ。バレちゃいましたかー」 ひょこっ、と顔を出したのは、見慣れた茶髪の青年だった。 頭に枯れ葉を乗せたまま、悪びれもせずにニカッと笑う。「……七瀬?」 輝くんが呆気にとられた素っ頓狂な声を出す。 しかし、驚きはそれだけでは終わらなかった。「……チッ。陽翔が音を立てるからだ」「あら、あんたが押したんでしょ? 人のせいにしないの」 七瀬陽翔くんに続いて、仏頂面の氷室奏くんと、呆れ顔の神崎乃亜が、ぞろぞろと木の陰から姿を現したのだ。「え、えええええ!?」 私は驚きのあまり絶叫した。 なんで? どうしてここに? まさか、最初から見てたの!?「お前ら……! いつからそこにいたんだ!」 輝くんが顔を真っ赤にして怒鳴る。 さっきまでの感動的なプロポーズの余韻が、ガラガラと音を立てて崩れ去ってい
last updateLast Updated : 2026-01-28
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第132話:輝のプロポーズ(仮)⑨

「……誰目線なんだよ」 輝くんが脱力したように突っ込む。 けれど、その表情には怒りよりも、照れくささと、そして隠しきれない安堵が混ざっていた。「……へえ。合格点いただきましたか」 輝くんは私の肩を抱き寄せ、勝ち誇ったように三人を見回した。「聞いたろ? 栞は俺を選んでくれたんだ……これでもう、文句はないな?」 その高らかな宣言に、陽翔くんと奏くんの顔つきが変わった。 ただの野次馬ではない、真剣な男の顔。「……まあ、今回は負けを認めますよ」 陽翔くんが、ふっと笑って頭をかいた。「『輝くんが一番好き』なんて言われちゃ、俺らの出る幕ないっすもんね」「……ああ。完敗だ」 奏くんも、静かに頷く。 その瞳は少し寂しげだったけれど、雨上がりの空のように晴れ晴れとしていた。「だが、忘れるなよ天王寺……『一番』の座なんて、油断すればすぐにひっくり返るものだ」「そうそう! 輝先輩が栞先輩を泣かせたりしたら、俺たち、秒で奪いに行きますからね! クーリングオフ期間はずっと有効ですから!」 二人のライバルからの、愛ある警告。 輝くんは鼻で笑い、私をさらに強く引き寄せた。「上等だ……そんな隙、一生見せないけどな」 視線と視線がぶつかり、バチバチと火花が散る。 けれど、そこには以前のような殺伐とした空気はなく、信頼で結ばれた仲間のような温かい空気が流れていた。「はいはい、そこまで! 暑苦しいわよ、男ども!」 乃亜がパンパンと手を叩いて割って入る。 「せっかくの日曜日なんだから、みんなでご飯でも行きましょ。もちろん、社長さんの奢りでね!」「えっ、俺!? まだ初任給も出てないんだけど……」「いいじゃないですかー! 祝い酒ですよ、祝い酒!」「…&hellip
last updateLast Updated : 2026-01-28
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第133話:最終決戦!ファン感謝祭①

 肌を刺すような冬の乾いた風が吹き抜けたかと思うと、次の瞬間には、地鳴りのような熱気が全身を包み込んだ。 目の前にそびえ立つ、巨大な展示場のゲート。 雲ひとつない抜けるような青空の下、そこには吸い込まれるように数えきれないほどの人々が集まっている。誰もが戦場に赴く兵士のような、あるいは聖地を前にした巡礼者のような、独特の鋭い眼差しをしていた。 耳を打つのは、数万人規模の乙女たちが発するざわめきだ。期待、興奮、焦燥。それらが混じり合って、空気そのものを振動させているようだった。 ここは戦場だ。剣も魔法もないけれど、愛と萌えと、そしてなけなしの全財産を懸けた、譲れない戦いの場所。「……来た。ついに、この日が」 私は震える指先で、コートの胸元に下げたチケットホルダーを確かめた。硬いプラスチックの感触越しに、「S席」と印字された紙片の存在を感じる。 今日開催されるのは、私の人生のバイブルと呼ぶべきゲーム『Fallen Covenant』、その初となる大型リアルイベント『聖約の宴~ファン感謝祭~』だ。 倍率は数十倍とも噂されたプラチナチケット。当選メールを受け取ったあの日から、私は今日という一日だけを目印に呼吸をしてきたと言ってもいい。「すげえな……気合入ってんじゃん、栞」 頭上から、呆れたような、それでいてどこか楽しげな声が降ってくる。 顔を上げると、眩しい笑顔がそこにあった。 私の彼氏であり、今日は「荷物持ち兼護衛A」として付き合ってくれた天王寺輝くんだ。 人混みで目立たないようにと、彼はラフなグレーのパーカーにデニムジャケットという格好をしている。けれど、隠しきれない背の高さと、整いすぎた顔立ちは、どうしたって周囲の視線を集めてしまう。 すれ違う女性たちが「え、今の見た?」「モデルかな」と囁きながら振り返るのが視界の端に見えた。 私は心の中でふふんと鼻を鳴らす。 いいでしょう。私の彼氏です。「当然だよ! 今日は一年に一度のお祭りなんだから!」「祭り、か。……まあ、この人
last updateLast Updated : 2026-01-29
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第134話:最終決戦!ファン感謝祭②

 そして、私の左側。 黒のロングコートを隙なく着こなし、静かに闘志を燃やす「同志」の姿があった。「……甘いな、七瀬。この程度は想定の範囲内だ」 氷室奏くん。 眼鏡の奥の瞳は、いつになく鋭く光っている。 彼の手には、会場マップとグッズのお品書きが完璧にマーキングされた、手製の作戦指令書が握りしめられていた。付箋だらけのその紙を見ただけで、彼の本気度が伝わってくる。「月詠。まずは物販だ。限定のアクリルスタンドは開場一時間で完売する可能性が高い。俺が北側の列に並ぶ。その間、君は輝たちと南側の展示エリアを確保しろ」「了解です、氷室参謀!」「おいおい、俺たちはどう動けばいいんだよ」 輝くんが苦笑いを浮かべた。「天王寺と七瀬は、月詠の盾となれ。……あの人混みだ。彼女のような小柄な人間は、一瞬で波に飲まれて圧死するぞ」「圧死って……大袈裟だなあ」「大袈裟ではない。……見ろ、あの『痛バッグ』の壁を」 奏くんが顎でしゃくった先には、推しキャラの缶バッジを隙間なく敷き詰めたバッグ――通称「痛バ」を肩にかけた猛者たちが、整然と、しかし殺気立った足取りで列を作っていた。 数百、いや数千の缶バッジが太陽の光を反射し、鱗のように輝いている。 その光景に、輝くんと陽翔くんが「ひえぇ……」と同時に息を呑んだ。「……よし。行くぞ」 奏くんの短く低い号令と共に、私たちは熱気の渦巻くゲートへと足を踏み入れた。 ◇ 会場内は、まさに混沌と情熱のるつぼだった。 右を見ればジークフリート様の精巧なコスプレイヤーがポーズを決め、左を見れば天井から吊るされたアーク様の巨大タペストリーが揺れている。 大型モニターからはゲームのオープニング映像が大音量で流れ、重低音が床を震わせて足の裏に伝わってくる。あちこちから「尊い……」「無理……」
last updateLast Updated : 2026-01-29
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第135話:最終決戦!ファン感謝祭③

 快適すぎる。 いつもなら一人で揉みくちゃになりながら、必死の形相で確保する撮影場所だ。それなのに、今日は最強の騎士(ナイト)たちが三人も周りを固めている。 これぞ、乙女ゲームの主人公ムーブと、腐女子の欲望が融合した究極の贅沢ではないだろうか。「……っ、見ろ月詠」 不意に、先行していた奏くんが足を止めた。 彼が見つめる先、人だかりがぽっかりと割れた空間に、異質なオーラを放つ一団がいた。 黒服の屈強なSPたちに囲まれ、優雅に扇子を使っている金髪の美女。 いつもの派手な真紅のドレスではなく、今日はシックなブランド物のワンピースに身を包んでいるけれど、その隠しきれない高貴さと傲慢さは、間違いなく彼女だった。「……西園寺エリカ!?」 輝くんが驚きの声を上げる。 私のライバル令嬢(だったはずの)エリカ様が、なぜこんなオタクの祭典に? 彼女はSPの一人——例の『高橋さん』に何かを指示しているようだった。 よく見れば、高橋さんは大量の紙袋を両手に抱え、さらに背中にもポスターが入った筒を背負っている。紙袋には、見慣れたアニメショップのロゴがでかでかとプリントされていた。「……あいつ、何やってんだ?」 輝くんが呆気にとられる中、私は見てしまった。 エリカ様が、展示されているジーク様の等身大パネルを見上げている。 その頬はほんのりと桃色に染まり、潤んだ瞳は熱っぽく揺れていた。彼女は扇子で口元を隠しながら、吐息のような声で呟いた。「……あぁ、なんて凛々しいの。わたくしのジーク様……」「……え?」 私の思考が一瞬、真っ白になる。 今、なんて言った? わたくしの、ジーク様? さらに、その横にあるアーク様のパネルに目を移した彼女は、今度は眉を寄せて切なげに溜息をついた。「そしてアーク……。あんなに細い
last updateLast Updated : 2026-01-29
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第136話:最終決戦!ファン感謝祭④

「き、奇遇ですわね……! 輝様! そ、それに、あの時の……!」 声が裏返っている。 いつもの女王様のような余裕はどこへやら、彼女は視線をあちこちに泳がせ、額には脂汗を浮かべていた。「エリカ、お前……ここ、何のイベントか分かって来てるのか?」 輝くんが恐る恐る尋ねる。 エリカ様は扇子の隙間から私たちを睨みつけ、そして、開き直ったように叫んだ。「と、当然ですわ! わたくしは……天王寺家の次期当主の婚約者候補(元)として、庶民のサブカルチャーの視察に……!」「……その紙袋の中身は?」 私が、高橋さんが抱えている袋を指差す。 パンパンに膨らんだ袋の隙間から見えているのは、『ジーク×アーク 愛の逃避行編』と書かれた、どう見てもR指定の同人誌の背表紙だった。「…………っ!!」 エリカ様は言葉に詰まり、膝から崩れ落ちそうになった。 それを、背後の執事さんが無表情のまま、絶妙なタイミングで支える。「お嬢様。……これ以上の言い訳は、傷口を広げるだけかと」「うっ……うるさいわね! 分かっているわよ!」 彼女は私を睨み……いや、縋るような目で見つめた。「……あなた。月詠、栞さん、でしたわね」「は、はい」「……このことは、他言無用になさい。いいですわね?」 その必死な形相を見て、私は確信した。 彼女は、敵ではない。 同じ沼に落ち、同じ尊さを糧に生きる、紛れもない「こちらの住人」だと。 私は、輝くんの手を離し、一歩前へ出た。 そして、彼女の手を取り、力強く握りしめた。「……分かります、エリカ様。ジーク様、最
last updateLast Updated : 2026-01-29
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第137話:最終決戦!ファン感謝祭⑤

 ◇ エリカ様に導かれて通された席は、まさに「神の視座」と呼ぶにふさわしい場所だった。 ステージ最前列の中央ブロック。関係者席のすぐ後ろだ。 演者の汗の粒さえ視認できそうなほどの至近距離に、私の心臓は早鐘を通り越してドラムロールを奏でている。「す、すごい……。ここ、酸素濃度が高くないですか?」「当然ですわ。ここは選ばれし者のみが座ることを許された特等席。……深呼吸なさい、月詠さん」 エリカ様は優雅に脚を組みながらも、その手にはしっかりとペンライト(ジーク様カラーの赤)が握られている。 彼女の隣には、無表情のままペンライト(アーク様カラーの青)を四本、指の間に挟んで待機している執事さんの姿があった。主人の推し活を全力でサポートするその姿勢、プロフェッショナルすぎる。 私の左隣には、やはり臨戦態勢の奏くん。 膝の上にはメモ帳とペンが用意され、一言一句聞き逃さないという執念が漂っている。 そして、右隣には――。「……なぁ、栞。みんななんでそんなに殺気立ってるの?」 輝くんが、周囲の熱気に圧倒されて少し体を引いていた。 無理もない。会場全体が、今にも爆発しそうなほどの期待と興奮で飽和しているのだから。「輝くん、静かに。……始まるよ」 私が囁いたのと同時に、会場の照明がフッと落ちた。 闇の中で、数万本のペンライトが一斉に点灯し、光の海が生まれる。『――聞け、愚かなる人間どもよ』 重厚なオーケストラの調べと共に、スピーカーから低く響くバリトンボイス。 鼓膜が震え、その振動が脳髄まで痺れさせる。「きゃああああああああああああ!!」 地鳴りのような歓声がドームを揺るがした。 ステージ中央、スポットライトの中に現れたのは、ジークフリート役の超人気声優、諏訪部さんと、アーク役の若手実力派、斉藤さんだ。「じ、ジーク様ぁぁぁ!!」「アークぅぅぅ!! 今日も生きててくれてありがとうーー!!
last updateLast Updated : 2026-01-30
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第138話:最終決戦!ファン感謝祭⑥

 アフレコの裏話や、キャラクターへの思い入れが語られるたびに、会場からは笑いと拍手が巻き起こる。 そして、イベントはいよいよクライマックスへ。 ファン全員が待ち望んでいたコーナー、『生アフレコドラマ』の時間だ。『――今回のドラマは、本編終了後。二人が旅に出たある夜の出来事です』 司会のアナウンスと共に、会場が静寂に包まれる。 ステージ上の二人が、スッと役に入り込む。 空気が、変わった。『……寒いな』 ジークの声色が、優しく、甘く変化する。『ああ。……だが、星が綺麗だ』 アークの透き通るような声が応える。 その瞬間、私は息を呑んだ。 この導入は、まさか伝説の特典SS『星降る夜の誓い』の映像化!? 隣で奏くんが「馬鹿な……あれは幻の……」と呻き、エリカ様が「ヒッ」と短く悲鳴を上げるのが聞こえた。 ドラマの内容は、過酷な運命を乗り越え、ようやく二人きりの穏やかな時間を手に入れた彼らが、互いへの愛と感謝を語り合うというものだ。『お前がいたから、俺は剣を置くことができた。……俺の背中には、もうお前しかいない』 ジークのセリフが、会場中の乙女のハートを射抜く。 そして、アークが少し照れくさそうに、けれど力強く答える。『……貴方が光であったから、私は影であることを誇りに思えた。……これからも、貴方の隣は、私が守ります』 涙腺が崩壊した。 堪えきれない嗚咽が漏れる。 周りを見渡せば、会場中がすすり泣きの音で埋め尽くされている。「うっ、ぐすっ……よかったね……二人とも、幸せになって……!」 私がボロボロと涙を流していると、隣のエリカ様も崩れ落ちていた。「ううっ……美しい…&hel
last updateLast Updated : 2026-01-30
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第139話:最終決戦!ファン感謝祭⑦

「……っ」 不意打ちの言葉。 ジーク様の名台詞にも負けないくらいの、威力抜群の「現実(リアル)」の響き。「輝くん……」「楽しそうだね、栞。……連れてきてくれて、ありがとう」 彼はそう言って、柔らかく微笑んだ。 その笑顔は、ステージ上のどのスポットライトよりも眩しくて、私の胸をいっぱいに満たした。「おい、リア充ども。ここ神聖な場所だぞ」 後ろから、陽翔くんが呆れたようにツッコミを入れる。 彼もまた、周りの熱気に圧倒されながらも、楽しそうに笑っていた。「先輩、鼻水出てますよ。はい、ティッシュ」「う、うるさいっ! これは感動の涙なの!」 ドラマが終わり、会場は割れんばかりの拍手喝采に包まれた。 スタンディングオベーション。 鳴り止まない「ありがとう」の声。 ステージ上の声優さんたちが深く一礼し、手を振る。 銀テープが舞い、フィナーレを彩る。 私は、輝くんの手を強く握り返した。 大好きな推しカプと、大好きな恋人。そして、大切な仲間たち。 すべてがここに揃っている。 胸の奥がじんわりと熱くなる。 私、今、世界で一番幸せかもしれない。 この瞬間の体温を、一生忘れない。そう心に刻み込んだ。 ◇ イベント終了後。 会場の外に出ると、空はすっかり茜色に染まっていた。 冷たい風が、火照った頬に心地いい。祭りの後の寂しさと、充実した疲労感が入り混じる独特の空気だ。「ふぅ……。魂が浄化されましたわ」 エリカ様が、満足げに溜息をつく。 その顔は憑き物が落ちたように晴れやかで、いつもの棘々しさが嘘のようだ。「ええ。……最高のイベントでした」 奏くんも、眼鏡をかけ直し、満ち足りた表情をしている。「また、イベントがあったらご一緒しましょうね、同志よ」「はい!
last updateLast Updated : 2026-01-30
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第140話:最終決戦!ファン感謝祭⑧

「……天王寺」「輝先輩」 二人の声色が、スッと真剣なものに変わる。 夕陽に照らされた彼らの表情は、オタクイベント帰りの浮かれたものではなく、一人の男としての顔をしていた。「……話がある」 奏くんが、静かに告げた。「ちょっと、付き合ってもらえますか」 陽翔くんが、ニヤリと笑う。 輝くんは、少し驚いたように目を見開いたが、すぐに察したように頷いた。「……ああ。いいよ」 彼は私の手を離し、頭をポンと撫でた。「栞、ちょっと待っててくれるか?」「え? うん、いいけど……」 三人は私から少し離れた、広場の片隅へと歩いていく。 夕陽を背にして立つ三つのシルエット。 何か重要な話をしているようだけれど、ここからでは風に流されて声は聞こえない。 胸騒ぎがする。 でも、不思議と不安はなかった。 彼らの背中から漂う空気が、決して険悪なものではないと分かっていたからだ。 しばらくして、話が終わったのか、三人がこちらへ戻ってきた。 その表情は、どこか吹っ切れたような、清々しいものだった。「……終わったよ、栞」 輝くんが戻ってきて、再び私の手を取る。「何の話だったの?」「ん? ……男同士の、秘密の話」 彼は悪戯っぽく笑って、教えてくれなかった。 奏くんと陽翔くんを見ると、二人は何かを納得したように、満足げな顔でこちらを見ていた。「……月詠。俺は先に行く」 奏くんが、私に近づいてくる。 そして、そっと手を差し出した。「え?」「握手だ。……今日の記念に」 戸惑いながらも手を出すと、彼は私の手をギュッと強く握りしめた。 その手は意外なほど熱く、そして優しかった。「&hell
last updateLast Updated : 2026-01-30
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