All Chapters of 攻略対象は私じゃない! ~腐女子が神視点で推しカプ見てたら、いつの間にか逆ハーレムの中心にいた件~: Chapter 101 - Chapter 110

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第101話:それぞれの道①

 季節がひとめぐりして、キャンパスの並木道が赤や黄色に染まる頃。 私たちを包んでいた空気は、あの嵐のような文化祭の熱狂から、少しずつ、けれど確実に手触りを変えようとしていた。「……あー、緊張する」 姿見の前で、私は何度目になるかわからないため息をついた。 鏡の中にいるのは、いつものパーカーを着た私ではない。着慣れない黒のリクルートスーツに身を包み、髪をきっちりと後ろで束ねた、どこかよそよそしい「就活生」としての私だ。 大学三年生の冬。 それは、モラトリアムという名のぬるま湯に浸かっていた学生たちが、一斉に社会という冷たい海へ放り出される季節。 そう、就職活動の本格化である。「大丈夫だよ、栞。似合ってる」 背後から伸びてきた腕が、私の腰をふわりと抱きしめる。 鏡越しに目が合うと、天王寺輝くんが、とろけるような甘い笑顔を向けていた。「……輝くん」「スーツ姿も新鮮で可愛いな。……なんだか、禁欲的な色気がある」 彼が私の首筋に顔を埋め、深く息を吸い込む。 くすぐったいような、それでいて背筋がぞくりと甘く痺れるような感触。 彼の腕は温かく、その体温に触れるだけで、張り詰めていた緊張の糸がふっと緩むのがわかった。 あれから、数ヶ月。 私たちは、この狭いワンルームで、貧しくも幸せな同棲生活を続けていた。 天王寺総帥の放った監視の目は、相変わらずアパートの周囲をうろついている。黒いセダンが路地に停まっていたり、じっとりとした視線を感じたりすることは日常茶飯事だ。 けれど、彼らが強行突破してくることはなかった。 まるで、私たちが生活の重さに音を上げて降参してくるのを、じっと待っているかのように。「……そんなこと言って、輝くんこそ準備しなくていいの?」 私は少しだけ頬を熱くさせながら、彼の方を振り返った。 今日の彼は、いつもの大学に行く服装とは少し違う。 カジュアルだけれど質の良いジャケ
last updateLast Updated : 2026-01-21
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第102話:それぞれの道②

「起業、だっけ」「ああ。……まだ小さな一歩だけど、投資家の人たちに会ってくる」 彼は私の頭をぽんぽんと撫でると、少しだけ自嘲気味に口の端を上げた。「『天王寺』の名前を使わずに、どこまで俺自身の価値を認めさせられるか。……正直、勝算なんてわからない」 かつての彼なら、名前を出すだけで道は勝手に開けただろう。 けれど今の彼は、ただの「学生起業家志望」の一人に過ぎない。 泥臭く、頭を下げ、自分のビジョンを熱く語る。 そんな彼の姿を、私はこの数ヶ月、一番近くで見てきた。 夜遅くまでパソコンの画面に向かい、資料を作り込み、時には頭を抱えて悩む背中。 キラキラした王子様の仮面を脱ぎ捨て、なりふり構わず夢を追う彼は、以前よりもずっと人間臭くて、そして――格好良かった。「輝くんなら、大丈夫だよ」 私は彼の手をぎゅっと握りしめた。「だって、あの総帥相手に一歩も引かずに啖呵切った男だよ? 投資家のおじさまたちなんて、イチコロだって」「ははっ、イチコロって……。栞にそう言われると、本当にそんな気がしてくるな」 彼が声を上げて笑う。 その笑顔を見ると、胸の奥がじんわりと温かくなる。 私が彼を支えているつもりで、本当は、彼のこの強さに私が支えられているのかもしれない。「栞の方こそ。……今日だろ? 第一志望の面接」 輝くんが、真剣な眼差しで私を見つめる。 私はこくりと頷いた。「うん。……『Fallen Covenant』の開発会社」 私の人生を狂わせ、そして彩ってくれた、あの神ゲー。 その制作会社である『株式会社アルカディア・ワークス』の選考が、今日から始まるのだ。 単なるファンとしての憧れじゃない。 彼らが作り出す物語の世界に、私も作り手として関わりたい。 誰かの心を救い、誰かの生きる糧になるような、そんな「尊い」物語を生み出したい。 それが
last updateLast Updated : 2026-01-21
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第103話:それぞれの道③

 冬の空は高く、突き抜けるように青い。 張り詰めた冷気が、露出した肌をぴりぴりと刺激する。 都心にあるオフィスビルの高層階。 『株式会社アルカディア・ワークス』の会社説明会兼、一次選考会には、数百人の学生が詰めかけていた。 見渡す限りの黒いスーツの群れ。その圧倒的な熱気と緊張感に、気圧されそうになる。 ごくりと唾を飲み込む。 周りを見渡せば、いかにも「クリエイター志望です」といった個性的な空気を放つ学生や、難しそうな専門書を読み込んでいる学生ばかり。 私のような、ただの腐女子上がりの平凡な学生が、こんな場所にいていいのだろうか。 一瞬、弱気な虫が顔を出す。 その時だった。「……月詠?」 雑踏の中で、凛とした声が私の名前を呼んだ。 聞き間違いようのない、氷のように冷たく、けれど澄んだ声。 はっとして振り返ると、人混みを割って、一人の青年がこちらへ歩いてくるところだった。 完璧に着こなされた細身のスーツ。 知的な銀縁眼鏡と、その奥で光る灰色の瞳。 周囲の学生たちが、思わず道を空けて見惚れてしまうほどの、圧倒的な美貌と存在感。「ひ、氷室くん……!?」 氷室奏くんだった。 彼もまた、私と同じ黒いリクルートスーツに身を包んでいる。 けれど、量産型のスーツを着ているはずなのに、彼がまとうとまるでハイブランドの広告塔のように見えるのはなぜだろう。「奇遇だな。……いや、必然か」 彼は私の前に立つと、ふっと口角を上げた。 その表情は、かつてのような人を寄せ付けない冷徹なものではなく、同じ戦場に立つ同志を見つけたような、静かな熱を帯びていた。「奏くんも、ここを受けるの?」「ああ。……知っての通り、俺は物語を書くことしか能がないからな」 彼は謙遜するように肩をすくめたが、その瞳には揺るぎない自信が宿っていた。 そうだった。 彼は大学でも文芸サ
last updateLast Updated : 2026-01-21
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第104話:それぞれの道④

 その笑顔を見て、私の緊張が少しだけ解けていくのを感じた。 ここに、心強い味方がいる。それだけで、勇気が湧いてくる。「でも、月詠」 不意に、奏くんの声色が真剣なものに変わった。 彼は一歩、私に近づく。 その灰色の瞳が、真っ直ぐに私を射抜いた。「ここからは、戦いだ」「え……?」「倍率は数百倍とも言われている。……俺は、手加減しないぞ」 彼の瞳の奥で、静かな闘志の炎が燃え上がっていた。 それは、恋のライバルとして輝くんと対峙していた時と同じ、いや、それ以上に純粋で鋭利な、クリエイターとしての矜持。「俺は、必ずこの場所を勝ち取る。……君が相手でも、負けるつもりはない」 宣戦布告。 けれどそれは、敵意によるものではなく、私を対等な「好敵手(ライバル)」として認めてくれているからこその言葉だった。 胸が熱くなる。 そうだ。これは、私たちの未来を懸けた戦いなんだ。 甘えや妥協は許されない。 私は背筋を伸ばし、彼を見つめ返した。「……うん。望むところだよ、奏くん」 拳を握りしめ、力強く宣言する。「私も、負けない。……絶対に、ここに入ってみせる!」「……ああ。その意気だ」 奏くんが満足げに微笑み、私の拳に自分の拳をこつんと合わせた。 硬質な感触。伝わる熱。 言葉以上の何かが、私たちの間で通じ合った気がした。「それに……」 奏くんが少し声を落とし、意味深な視線を投げかけてくる。「俺たちが同じ会社に入れば……また、近くにいられるからな」「え?」 どきりとする。 その言葉に含まれた微かな執着の色に、背筋がぞくりとした。 彼は眼鏡の位置を直しながら、さらりと言ってのけた。「天王寺は起業す
last updateLast Updated : 2026-01-21
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第105話:それぞれの道⑤

 面接会場のビルを出た頃には、冬の陽はすでに西の空へと傾きかけていた。 極度の緊張から解放された身体は鉛のように重いけれど、胸の奥には確かな熱が残っている。「……終わったぁ」 大きく伸びをすると、冷たい空気が肺いっぱいに満ちた。 隣にいた奏くんは、「少し頭を冷やしてくる」と言って、近くの大型書店へと消えていった。 彼なりのクールダウンなのだろう。去り際に見せた、今までになく晴れやかな横顔が印象的だった。 私はといえば、ふと、ある場所へ足が向いていた。 私のもう一つの居場所であり、大切な後輩がいる場所。 『Caffe Felice』だ。 輝くん、プレゼンどうだったかな。そろそろ終わってる頃かも。 スマホを取り出すが、輝くんからの連絡はない。 まだ戦いの最中なのかもしれない。 邪魔をしてはいけないと思い、私はそのままバイト先へと向かった。今日はシフトが入っていないけれど、店長や陽翔くんに、就活の第一歩を踏み出した報告をしたかったのだ。 夕暮れの街を歩き、店の前までたどり着く。 まだ営業時間は終わっていないはずだが、入り口のドアには『CLOSED』の札がかかっていた。「あれ? 臨時休業?」 不思議に思ってガラス越しに店内を覗き込む。 照明が落とされ、薄暗くなった店内。 そのカウンター席に、二つの人影があった。 一人は、エプロン姿の陽翔くん。 そしてもう一人は、見間違えるはずもない、私の彼氏――天王寺輝くんだ。「輝くん? どうしてここに?」 ドアに手をかけようとして、私はぴたりと止まった。 二人の間に流れる空気が、いつもの「恋のライバル同士の小競り合い」とは明らかに違っていたからだ。 張り詰めた、真剣勝負の気配。 ガラス越しでも伝わってくるその熱量に、私は息を殺して立ち尽くした。「――頼む、七瀬」 静まり返った店内に、輝くんの声が響いた。 換気扇の回る微かな音に混じりながらも、その言葉ははっきりと私の耳に届いた
last updateLast Updated : 2026-01-22
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第106話:それぞれの道⑥

 輝くんが顔を上げる。 その表情に、迷いはなかった。 あるのは、なりふり構わぬ必死さと、未来を切り拓こうとする強烈な意志だけ。「俺は大学で経営学を学んだ。数字の読み方や、戦略の立て方は知っているつもりだ。……でも、それだけじゃダメなんだ」 彼は握りしめた拳を、カウンターの上に置いた。「今日、投資家たちに言われたよ。『君のプランは綺麗だが、泥臭さが足りない。現場を知らない人間の机上の空論だ』ってな」「……へえ」「今の俺には、天王寺の名前も、金もない。あるのはこの身一つだ。……だから、ゼロから学びたいんだ。客が何を求め、スタッフがどう動き、店という生き物がどう呼吸しているのか。……この店で一番、現場を知り尽くしているお前に、教えを乞いたい」 輝くんの言葉は、熱を帯びていた。 それは、私との生活を守るため、そして私を幸せにするための、彼なりの戦い方なのだと分かった瞬間、胸が締め付けられた。 陽翔くんは、しばらく黙って輝くんを見つめていた。 やがて、彼はふっと息を吐き出し、持っていたグラスを置いた。「……ずるいな、先輩は」 陽翔くんが、カウンターから身を乗り出す。 その瞳が、薄暗がりの中でぎらりと光った。「俺、知っての通り先輩のことが好きなんですよ。輝先輩は、俺にとって一番の邪魔者で、倒すべきラスボスなんです」「……知ってるよ」「なのに、そんな……全部捨てて、なりふり構わず頭下げられたら……断れないじゃないですか」 陽翔くんは、悔しそうに、でもどこか嬉しそうに口の端を歪めた。 彼は輝くんの「覚悟」を認めたのだ。 ライバルだからこそ分かる、男としての本気を。「いいですよ。教えてあげます。……俺が叩き上げで身につけた『客を虜にするテクニック』から、原価率の裏側まで、全部」
last updateLast Updated : 2026-01-22
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第107話:それぞれの道⑦

 がしっ、と男同士の手が組み合わさる、骨太な音が聞こえた気がした。 ドアの隙間からその光景を見ていた私は、思わず口元を押さえた。 熱い。熱すぎる。 私のために、男たちがプライドを懸けて火花を散らし、そして手を組む。 この、少年漫画のような、あるいは極上のBLドラマのような展開。 『ライバル同士の共闘』……! しかも『御曹司×叩き上げ』の属性てんこ盛り……! 輝くんの『教えてほしい』っていう下からのアプローチと、陽翔くんの『教えてやるよ』っていう上からのマウント……この関係性、尊すぎて無理……! 感動のあまり、私はその場にへなへなと座り込んでしまった。 就活の疲れも、将来への不安も、この尊い光景の前では霞んでしまう。「……そこにいるのは、栞か?」 不意に、輝くんの声がした。 びくっとして顔を上げると、いつの間にか二人がこちらを向いている。 ガラス越しに目が合ってしまった。「あ、えっと……その……」 見つかった以上、隠れてはいられない。 私は観念してドアを開け、店の中へと入っていった。「お、お疲れ様……二人とも」「栞! 聞いてたのか?」 輝くんが慌てて駆け寄ってくる。 その顔は少し赤く、恥ずかしそうだ。ライバルに頭を下げているところを見られたのが気まずいのかもしれない。「う、うん。ちょっとだけ……」「……先輩。俺、言った通りですからね」 カウンターの中から、陽翔くんが真っ直ぐな瞳で私を見つめてくる。「輝先輩には協力しますけど……それはそれ、これはこれです。俺は、先輩のこと、虎視眈々と狙い続けますから」 その言葉に、輝くんが私の肩を抱き寄せ、威嚇するように陽翔くんを睨む。
last updateLast Updated : 2026-01-22
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第108話:それぞれの道⑧

 冬の寒さが本格化し、街がクリスマスムードに浮かれ始める頃。 私たちの「それぞれの道」は、想像以上に険しく、そして急勾配なものになっていた。「……はぁ」 大学の帰り道。枯れ葉が乾いた音を立てて舞う歩道を歩きながら、私は白いため息を吐いた。 手元のスマホには、見慣れた、けれど何度見ても心が削られる定型文が表示されている。 『誠に残念ながら、今回はご縁がなかったということで……』 いわゆる「お祈りメール」だ。 これで何社目だろう。 第一志望の『アルカディア・ワークス』の選考結果はまだ来ていないけれど、滑り止めにと受けた数社からは、ことごとく冷たい返事が返ってきていた。 私って、社会に必要とされてないのかな。 ネガティブな思考が渦を巻く。 就活生の誰もが通る道だと分かっていても、人格を否定されたような気持ちになるのは避けられない。 アパートへの帰り道を急ぐ。 早く帰って、輝くんに会いたい。 彼の顔を見て、声を聞けば、この沈んだ気持ちも少しは軽くなるはずだ。「ただいまー……」 ドアを開けると、狭い部屋は暖房が効いていて暖かかった。 けれど、いつもの「おかえり」の声はない。 部屋の真ん中にあるローテーブル。 そこで、輝くんがパソコンに向かい、鬼気迫る形相でキーボードを叩いていた。「……あ、栞。おかえり」 私の声に気づき、彼が一瞬だけ顔を上げる。 目の下には薄っすらとクマがあり、頬も少しこけた気がする。 けれど、その瞳はぎらぎらと燃えるように輝いていて、凄まじい集中力を放っていた。「ごめん、今ちょっと手が離せなくて。……夕飯、適当に食べててくれる?」「あ、うん。……分かった」 彼はすぐに視線を画面に戻し、誰かと電話を始めた。 専門用語が飛び交う、早口の会話。 投資家との交渉か、
last updateLast Updated : 2026-01-22
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第109話:それぞれの道⑨

「すごいね、輝くん。……順調なんだ」「ああ。七瀬のアドバイスが効いてるよ。あいつ、性格は悪いけど仕事に関しては天才的だな」 彼は楽しそうに陽翔くんの話をする。 ライバル同士の奇妙な友情。それは微笑ましいことのはずなのに、私の心にはちくりと小さな棘が刺さる。 みんな、進んでいる。 輝くんも、陽翔くんも、そしてきっと奏くんも。 自分の才能と情熱を武器に、未来へ向かって走っている。 それに比べて、私はどうだ。 ただお祈りメールに怯え、彼に守られているだけの、何者でもない自分。「……栞? どうしたの、暗い顔して」 輝くんが私の異変に気づき、椅子から立ち上がって近づいてきた。 彼の手が伸びてくる。 いつものように、私を抱きしめて安心させてくれようとして。 けれど、私は思わず一歩、後ずさってしまった。「あ……」 彼の手が、空を切る。 輝くんが驚いたように目を丸くした。「ご、ごめん! 私、お風呂入ってくるね! 汗かいてて、汚いから!」 嘘だった。 本当は、今の自分が惨めすぎて、彼の眩しさに耐えられなかっただけだ。 彼に触れられたら、弱音を吐いて泣きついてしまいそうで、それが怖かった。 彼の足を引っ張りたくない。 「重荷」になりたくない。「……そっか。行ってらっしゃい」 輝くんの手が、力なく下ろされる。 その寂しげな表情を見ないふりをして、私はバスルームへと逃げ込んだ。 狭い浴槽に浸かり、膝を抱える。 お湯の温かさが、かえって心細さを際立たせる。 輝くんは、私のために頑張ってくれてるのに。 私との生活を守るために。私を幸せにするために。 彼は全てを捨てて、必死に戦っている。 それなのに、私は勝手に劣等感を抱いて、彼を拒絶してしまった。「……バカだなぁ、私」
last updateLast Updated : 2026-01-23
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第110話:それぞれの道⑩

 翌朝、目が覚めると、隣の温もりはすでに消えていた。「……あ」 枕元に置かれたメモ用紙。 走り書きの文字で、『行ってきます。冷蔵庫にプリンあるから食べてね』と書いてある。 その筆跡を見るだけで、彼がどれだけ急いでいたか、それでも私を気遣おうとしてくれたかが伝わってきて、胸が痛んだ。「……おはよう、輝くん」 誰もいない部屋で呟く。 返事はなく、冷蔵庫のモーター音だけがぶーんと響いている。 同棲すれば、もっと一緒にいられると思っていた。 おはようのキスをして、朝ごはんを一緒に食べて、いってらっしゃいのハグをする。 そんな甘い毎日を夢見ていた。 けれど、現実は甘くない。 彼は「社長」として、私は「就活生」として。 それぞれの戦場へ向かう私たちは、同じ屋根の下にいながら、すれ違う時間ばかりが増えていった。 それから数週間。 季節は完全に冬へと移行し、街はクリスマスイルミネーションで彩られ始めた。 私の就職活動は、難航を極めていた。 第一志望の『アルカディア・ワークス』の選考は進んでいるものの、課題の企画書作成に追われ、精神的にも肉体的にも余裕がない日々が続く。 滑り止めの企業からは相変わらず「お祈りメール」が届き、自信は削られていくばかりだ。 一方、輝くんの事業は、驚くべきスピードで進展していた。「――すごい、またニュースになってる」 大学のカフェテリア。 スマホの画面に表示された経済ニュースの記事を見て、私は小さく息を呑んだ。 『元・天王寺家の異端児、学生起業家として鮮烈デビュー』 『新サービス、事前登録者数10万人突破』 記事の中の輝くんは、少し痩せたけれど、精悍な顔つきでインタビューに答えている。 自信に満ちた瞳、理知的な語り口。 そこには、かつての「守られるだけの御曹司」の面影はない。 自分の力で道を切り拓く、若きリーダーの姿があった。「…&hell
last updateLast Updated : 2026-01-23
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