「う、うん。はい……」 机の上で教科書を広げると、彼がグッと体を寄せてくる。 肩が触れ合う。太ももが当たる。 講義中だというのに、彼の左手が机の下で私の右手を弄んでいる。指を絡めたり、掌をくすぐったり。 ちょ、集中できない……! 教授の声が右から左へと抜けていく。 私の全神経は、隣にいる体温の高い生き物に持っていかれていた。 これが「公認カップル」の余裕なのか、それとも「勘当されて吹っ切れた男」の暴走なのか。 どちらにせよ、私の心臓には悪い。 「腹減ったなー。学食行こうぜ、学食!」 昼休みになるや否や、輝くんが私の手を引いて立ち上がった。 その声の弾み方は、高級フレンチに招待された時よりも嬉しそうだ。 「え、学食でいいの? 輝くん、いつもカフェテリアの奥の席で、特注のランチ食べてたじゃん」 「あんな堅苦しい食事、もう御免だよ。俺は栞と同じものが食べたいんだ」 彼は私を連れて、学生でごった返す学食の列に並んだ。 トレーを持って並ぶ天王寺輝。 そのシュールかつレアな光景に、周囲の学生たちがざわめいている。揚げ物の油の匂いと、喧騒。そのすべてが彼には新鮮なアトラクションのようだ。 「おすすめは?」 「えーっと……安くて美味しいのは『B定食』かな。今日は唐揚げだし」 「じゃあそれにする! あと、この『小鉢』ってのも取っていいの?」 「うん、一個五十円だよ」 「安っ! すごいな、学食!」 目をキラキラさせながら冷奴とひじきの煮物をトレーに乗せる元・御曹司。 初めての社会科見学に来た小学生みたいだ。 会計時、私が二人分まとめて支払おうとすると(彼は無一文なので)、レジのおばちゃんが「あらー、彼氏さんイケメンだねぇ! おまけしとくよ!」と唐揚げを一個増やしてくれた。 輝くんのイケメン力は、学食のおばちゃんにも有効らしい。恐るべし。 窓際の席を確保し、向かい合って座る。 プラスチックのコップに入ったお茶と、少し冷めた唐揚げ定食。 天王寺家の食卓とは雲泥の差だろうに、彼は「いただきます」と嬉しそうに手を合わせ、唐揚げを頬張った。 「ん! うまい!」 「ふふ、よかった」 「これ、栞も食べる?」 「あ、いいよ。……あーん、してあげる」 調子に乗って唐揚げを彼の口元に運ぶと、彼はパク
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