All Chapters of アラフォーだって輝ける! 美しき不死チート女剣士の無双冒険譚 ~仲良しトリオと呪われた祝福~: Chapter 31 - Chapter 40

49 Chapters

31. クリーミーな山の幸

 薪に適したドングリの森まで、二人は手をつなぎながらお花畑を歩く。色とりどりの花に包まれ、かぐわしい芳香が気分を華やかにし、歩いているだけでも楽しくなってくる。なぜここだけこんなに花が咲いているのか不思議だったが、セリオンに聞いても分からない様子だった。 ドングリの森についたソリスは、あちこちに力任せにへし折られた巨木があるのに唖然とした。きっと薪にするために力任せに折り取ったのだろう。「とんでもない怪力だ……」 ソリスはそうつぶやき、首を振る。 こんなの到底真似はできないが、自分らしく美しい薪を作ってやろうと気を取り直し、一本の立派なクヌギの木に向けて剣を構えた。 すぅー……、はぁぁぁぁ……。 呼吸を整え、太い幹に狙いを定める。レベル125の世界最強の女剣士の剣気はすさまじく、刀身は徐々に黄金の光を帯び始めた。 セイヤーッ! 目をカッと見開くと、目にも止まらぬ速さで剣を振りぬくソリス。 鮮烈な光を放ちながら、剣気の輝きが太い幹を斜めに貫いた――――。 直後、幹は斬り筋に沿ってズズズ……とずれ始める。 ヨシ! ソリスは満足げに目を閉じ、剣を|鞘《さや》にカチっと収めた。 クヌギの幹は地響きを伴いながら、轟音と共に大地へと崩れ落ち、ソリスはニヤッと笑いながらセリオンに振り向く。「すごーーい! おねぇちゃん、凄い!」 セリオンは目を丸くしてパチパチと拍手をしながら駆け寄った。「ふふーん、|褒《ほ》めて褒めて!」 ソリスは上機嫌に腰に手を当て鼻高々にドヤ顔でセリオンを見る。「うん、すごい! 僕がやるとこんな風にならないからなぁ……」 セリオンは感心したようにツルツルの切断面をなでた。       ◇ 枝を刈り、幹を家の裏手まで力任せに引っ張って持ってきた二人は、今度は薪割りに精を出す。 ソイヤー! ソリスは真上から|真向《まっこう》斬りで、丸太に剣を叩きこむ――――。 パッカーン! いい音がして丸太は一刀両断にされて飛び散った。「うわぁ、すごいすごーい! 僕にもやらせて!」 セリオンは碧い目をキラキラと輝かせ、ソリスに剣をおねだりする。「いいけど、気を付けて。力の入れ方間違えると危ないからね」「やったぁ!」 ソリスはセリオンに剣を握らせ、握り方やフォームを手取り足取り教えていった。「下腹部に力を入れて、|柄《
last updateLast Updated : 2025-11-23
Read more

32. 互いの温もり

 それから数カ月、ソリスはスローライフを満喫していた。 森で獲物を狩り、山菜や薬草を摘み、畑を広げ、屋根の雨漏りを直し、セリオンと朝から晩まで笑い声を響かせながらお花畑での生活を楽しんだ。食事は山の恵みを中心に、湖の幸や街の美味を組み合わせ、毎食が絶品のご馳走となる。その暮らしはまるで天国のようで、もはやここを離れることなど考えられないほど、この地に深く染まっていった。 最初のうちこそ『輝く生きざまを見せる』という女神との聖約を必死に考えていたソリスだったが、毎日朝から晩まで忙しく、楽しいことや美味しい食事に囲まれた充実した生活の中で、徐々に思い出す機会も減っていった。 |翠蛟仙《アクィネル》に解呪をお願いして、本来の生き方に戻るべきだと何度も考えたが、セリオンの輝く笑顔を見るたびに、その最高のスローライフを手放し、再び厳しい現実に戻る決心がどうしてもつかなかったのだ。 その日も、この季節にしか手に入らない幻の薬草を求めて、朝から森の奥深くまで探索し、険しい崖を登って貴重な薬草を手に入れた。セリオンと共に挑戦する日々は、まるで毎日が宝石のように感じてしまう。 家に戻ってきた頃には、遠くの山に真っ赤な太陽が差し掛かり、辺りはすべて赤に染まっていた――――。 二人はしばらくウッドデッキで、その色鮮やかな大自然のアートを眺める。「今日も終わりね……」「お疲れさまでした」 セリオンはニッコリとソリスに笑いかけると、ポットのお茶をソリスの前のカップに注ぐ。「あ、ごめんね。ありがとう……」 ソリスは山の端に隠れていく真っ赤な太陽を眺めながら、ピンク色の酸味のあるローズヒップを静かにすすった。 風は|凪《な》ぎ、花畑は静寂に包まれ、これからやってくる夜の|帳《とばり》にみんなが備えているような静かな緊張が感じられる。 ここに来てから夕日を眺めるのが暮らしの一部となったが、街での生活ではそんな風景を楽しんだ記憶などなかった。街には日没を見られる場所がほとんどなく、高級住宅地の山の手ならまだしも、ソリスが暮らしていたダ
last updateLast Updated : 2025-11-24
Read more

33. 温もりからの卒業

「そうだ! お友達にメッセージを送ろうよ!」 セリオンはそう言うと、物置から白く大きな紙袋をたくさん持ってきた。「え……? 送る……って?」「これをね、膨らませて、ろうそくを点けるんだ」 セリオンは紙袋を一つとって膨らませると、下のところに竹ひごで作ったロウソク立てを設置してろうそくを載せた。「あ、もしかして……、ランタン?」「そう、ランタンにメッセージを書いて空高く飛ばすんだ。うちでは毎年ご先祖様を|弔《とむら》うためにやってるんだよ」「あぁ……、それはやってみたいわ」 泣きはらして赤い目で、ソリスは静かに笑った。 ソリスはペンを取ると大きな紙に向き合ったが、書きたいことが多すぎて、なんて書けばいいのかしばらく頭を悩ませる――――。「一言でいいんだよ」 見かねてセリオンがアドバイスする。「そ、そうよね……。ヨシ!」 ソリスは覚悟を決めるとキュッと口を結び、紙袋に筆を走らせていった。『|Philia《フィリア》へ、君との|絆《きずな》は永遠に輝く。また一緒に笑い合おうね』『|Ivitt《イヴィット》へ、君の魂がこの灯りと共に安らかでありますように。美味しい物いっぱい用意しておくよ』 途中、書きながらポトリと落とした涙で文字がにじんでしまい、ソリスはぼやける視界の中、丁寧にふき取っていく。 あちこち文字はにじんでしまったが、それもまたメッセージなのかもしれない。ソリスは苦笑しながら紙袋を膨らませ、ロウソクを取り付けた。 見ればセリオンは、たくさんのランタンに不思議な見たこともない文字を書き込んでいる。「うわぁ、たくさん作ったわね……」「いつもは一つなんだけど、今日は派手に行こうかなって……」 セリオンは無邪気に笑った。「それ
last updateLast Updated : 2025-11-25
Read more

34. 置手紙

 夜も更け、セリオンからスースーと寝息が聞こえてきた頃、ソリスはそっと毛布から身体をすべり出した。 小さく揺れる暖炉の炎でセリオンの可愛い顔が浮かび上がり、しばらくじっと見入るソリス――――。 この数カ月、セリオンのおかげで夢のような暮らしができた。釣りに狩りに冒険に美味しい食事、それはまさに天国だった。 でも、そろそろ卒業しなくてはならない。女神に自分らしい生き方を見せつけて仲間を生き返らせてもらうのだ。全て終わったら三人でまたここで暮らせるようにセリオンに頼みに来ようと思う。その時は……、正直にアラフォーのおばさんで来よう。落胆されてしまうのは仕方ないが、それでもセリオンは自分を捨てないと思う、多分……。いや……さすがに無理かな? でも、もう嘘はつけない。ソリスは覚悟を決めた目でジッとセリオンを見つめると、最後にほほに軽くキスをして裏口からそっと家を抜け出した。『ちょっと旅に出ます。必ず帰ってくるから待っててね。ありがとう。親愛なるセリオンへ』 テーブルには置手紙をしたためておいた。         ◇ 満月が高く上がる中、ソリスは近くの街リバーバンクスへと急ぐ。途中、|翠蛟仙《アクィネル》に解呪してもらおうかとも思ったが、さすがに深夜にいきなり訪れて頼むのは無理がある。それに、困難の多い少女の姿で生きざまを見せた方が、女神にアピールできそうであり、あえてこのまま街を目指すことにした。 数カ月暮らしたおかげで、何となく南の方向に街がありそうなのは分かっている。ソリスは月夜の森の中を魔法のランプを片手に獣道を行く。途中、沢を渡り、崖を降り、道なき道をかき分け、空が明るくなるころ、ようやく道に出た。「はぁ……、なんて山奥なの。セリオンはどうやって街を往復していたのかしら……?」 レベル125の脚力をもってしても厄介だった山行に、ソリスは首を傾げた。 街道を進んでいくと、やがて川沿いにそびえ立つ立派な城壁が見えてきた。リバーバン
last updateLast Updated : 2025-11-26
Read more

35. 音速の少女

「そ、そうなのかい……ゴメンね。変なこと聞いちゃったね」「いや、全然いいんです」 ソリスはコーヒーを少しすすって口の中を潤す。子供になって初めてのコーヒーは驚くほど苦く、つい眉をひそめてしまう。「この辺もね、人さらいが多いのよ。特にお嬢ちゃんのような可愛い子はすぐに目を付けられるから気を付けて」 おばちゃんは眉をひそめ、心配そうに忠告する。「大丈夫です。一回|攫《さら》われたので嫌というほどわかってます」 ソリスは渋い顔をしながら肩をすくめ、自嘲気味に返した。「さ、攫われたって……大丈夫だったのかい?」 目を見開いて驚くおばちゃん。一般に攫われたらマフィアの裏ルートへと流され、商品として厳格に管理されるのだ。子供が自力で逃げ出すなど聞いたことがない。「むさいオッサンをポーンと吹っ飛ばして、ダッシュで逃げちゃいました。ふふっ」 茶目っ気のある笑顔でおばちゃんを見上げるソリス。「ふ、吹っ飛ばした……って?」「こうやったんです」 ソリスは素早く腕を前に突き出し、レベル125のパワーで音速を超えた腕からはドン! と衝撃音が店内に響き渡った。 ほわぁ……。 まるで魔法のような技におばちゃんは目を丸くして言葉を失う。 店内の客たちは一体何があったのかと、怪訝そうな顔をして二人を見ながらザワついている。 少しやりすぎてしまったとソリスは苦笑すると「次からは捕まらないようにします!」 と、おばちゃんにニッコリと微笑みかけた。「そ、そうだよ……捕まらない……ようにね……」 おばちゃんはキツネにつままれたような表情で、カウンターへと戻っていった。      ◇ ソリスはハムチーズサンドを堪能すると、コー
last updateLast Updated : 2025-11-27
Read more

36. 鮮烈なデビュー

「おう! なんだ、さっきのガキじゃねーか! こんなところで何やってんだ?」 さっきの髭面の大男が不機嫌そうに声をかけてくる。 ソリスは大きく息をつくと、男を見上げた。「冒険者になるんです、私」「は? 冒険者? お前が? できる訳ねーだろ! 冒険者なめんなよ!」 ソリスはウンザリしながら男をにらみ、「あなたでもできるくらいなんだから大丈夫よ」 と、挑発する。冒険者たるものなめられたら負けなのだ。「え……? なんて言った……お前……?」 男は目を血走らせ、ソリスに向けてすごんだ。「子供にちょっかい出してくる、大して強くもないオッサンでもできるんだから、私でもできるって言ったのよ」 ソリスは凄む男を鼻で嗤い、キッと鋭い視線でにらみ返す。 男は激怒した。小娘に馬鹿にされたとあっては|沽券《こけん》にかかわるのだ。「な、なんだと……。おもしれぇ……。俺がテストしてやる。ギッタンギッタンにしてグッチャングッチャンにしてやる!」 男はギュッと握ったこぶしをソリスの前にグッと出した。パンパンに膨らんだ二の腕には血管が浮かんでいる。 その騒ぎに奥から飛び出してきた受付嬢は焦った。「バルガスさん! 勝手に進めないでください。あなたはBランクなんですからテストには不向き……」「Bランク、いいじゃないですか。倒したらAランクですよね?」 ソリスは嬉しそうに微笑む。どうせテストしてもらうなら高ランクでないと困るのだ。 えっ……? 受付嬢は目が点のようになって固まる。|華奢《きゃしゃ》な少女がBランク冒険者に挑む、その絶望的なまでの状況に喜ぶ意味が分からなかったのだ。「はっはっは! 面白れぇ。どこまでその減らず口が叩けるか見ものだな……。
last updateLast Updated : 2025-11-28
Read more

37. 破滅の足音

 おぉぉぉ!! すごい! うわぁぁぁ! 賭けとけば良かったぁ!! 大歓声が中庭を埋め尽くす。 ソリスは拍手で迎えてくれるやじ馬たちに微笑みかけながら、受付嬢に歩み寄る。「これで、Aランク……ですよね? ふふっ」「えっ……。そ、そうなる……かしら……?」 受付嬢は鳩が豆鉄砲を食ったように目を白黒させながら、どう対応したらいいのか困惑してしまう。テストでBランク冒険者相手に勝った新人など聞いたことが無かったのだ。「おい! ヒーラーだ! ヒーラー呼んで来い!」 バルガスに駆け寄ったやじ馬が、ピクリとも動かない様子に慌てて声を上げる。「あれ……、手加減って難しいのね……」 ソリスは額を手で押さえて思わず宙を仰いだ。        ◇ ギルドの応接室に通されたソリスは、ギルドカード作りの手続きを進めていた。最初のランクは最高でもCランクということなので、ソリスもCランク冒険者からのスタートとなる。それでも以前はDランクだったので、ソリスは納得して書類に必要事項を埋めていった。「それにしても幼いのにすごいのね……将来どうなっちゃうのかしら?」 受付嬢はため息をつきながらソリスの筆先を見つめていた。九歳の少女がBランク剣士をこぶしで打ち倒したというのは前代未聞の偉業である。今からこの強さなら将来どんな英雄に育つのか想像もつかなかったのだ。「まぁ、いろいろ事情があるんです……」 チートで強くなっていることはあまり|誇《ほこ》れることではない、と考えるソリスはあまり語りたくなかったのだ。「もう少し早く来ていたら子龍討伐隊に加えてもらえたのに、残念だわ」「龍の……討伐隊……ですか?」 ソリスは顔を上
last updateLast Updated : 2025-11-29
Read more

38. 子龍の碧い瞳

 ソリスは花々の上を飛ぶようにダッシュした。 近づけば、その龍の優しい瞳は碧く、セリオンと同じ輝きを放っているのが見える。「セ、セリオン! うわぁぁぁぁ!」 ソリスは叫びながら討伐隊の囲む輪を一気に飛び越えると、今まさにセリオンに斬りかかろうとしている剣士に体当たりをかました――――。「止めろぉぉぉ!」 ぐはぁぁぁ! 派手に吹っ飛んでいく剣士。 ソリスは肩で息をしながら討伐隊を見回す。豪奢な装備や武器で固めた剣士、弓士、魔導士、僧侶、それに重厚な兵器、それは戦争をやるための王国の精鋭を集めた一個小隊の規模だった。「お前ら何をしている! 龍は神聖なる幻獣、人が手を出していい相手じゃないぞ!!」 ソリスは声を張り上げる。 いきなりすっ飛んできた、ただものではない少女の乱入に討伐隊はざわつき、攻撃の手が止んだ。「セリオーン!」 ソリスはポロポロと涙をこぼしながら、血まみれの子龍に駆け寄る。「お、おねぇちゃん……。に、逃げて……」 セリオンは息も絶え絶えに答えると、力なくまぶたをおろし、ガックリと地面に崩れ落ちた。「あぁっ! セリオン!」 慌ててポーションを取り出して、飲ませようとするソリスだったが――――。 パーン! 剣が一筋、ポーションのガラス容器を砕き飛ばした。「おい! 小娘! せっかく倒した獲物に何すんだよ!」 それは先ほどソリスが体当たりした剣士だった。よく見ればその顔に見覚えがある。以前、邪険にしてきた若きAランク剣士のブレイドハートだ。 ソリスはギリッと奥歯を鳴らす。「何って、静かに暮らしている龍を、勝手に襲ってるあんたらから龍を守るのよ!」「ふん! 弱い奴が狩られる。それがこの世界のルールだ。弱い龍が悪い。文句あるか?」 ブレイドハートは青く輝く剣をソリスに突きつけ、鼻で嗤う。「じゃあ、私があんたより強け
last updateLast Updated : 2025-11-30
Read more

39. 血の叫び

「総員戦闘態勢! 目標金髪少女!」 騎士団長は大剣をソリスに向けてビシッと下ろした。「ちょ、ちょっと! あんたたち! 見たでしょ? 私は強いのよ? 手加減なんてできないわ、殺しちゃうわよ? 止めなさい!!」 ソリスは焦って討伐隊の面々を見ながら叫ぶ。「馬鹿が! 王国の戦士たちは退かぬ! あるのは成功か死か、それだけだ」「何言ってんのよ! 死んだら終わりなのよ? 国は何もやってくれないわ」「ふんっ! 小娘こそ分かっとらん。国王陛下の命令は絶対。たとえ死ぬとて、無様に生きながらえる人生よりマシだ!!」「死んだら終わりって言ってんのよぉ!! そもそも静かに暮らしている龍を殺すことに大義も何もないわ!!」 ソリスは声をからし、必死に叫ぶ。 しかし、騎士団長は鼻で嗤うばかりだった。 人殺しなんかしたくない。何とか死者を出さずに撤退させたかった。しかし、手加減などしていたら自分もセリオンも殺されてしまう。「くぅぅぅぅ……。馬鹿どもめ……」 ソリスは剣をギュッと握りしめ、冷汗をタラリと流した。「バリスタ! 前へ!」 騎士団長が合図をすると、後ろからクジラに撃つような巨大な|石弓《クロスボウ》の装置がゴロゴロと引き出され、ソリスに照準を絞った。装填された長大な|銛《もり》は金色に輝き、何らかの魔法がかけられているようだった。最高級の防御力を誇るドラゴンの鱗をつきぬくほどの攻撃力は、この魔法のおかげに違いない。「止めなさい! 殺すわよ!!」 ソリスは絶叫した。 さっきあれほど武威を見せたというのに、それでもなお攻撃を止めない。その馬鹿さ加減にギリッと奥歯を鳴らした。 卑怯にもバリスタはセリオンにも当たるように狙いをつけている。|銛《もり》をかわすのは簡単だが、かわしたらセリオンに当たるようにしているのだ。剣ではじいたとしても銛は長大で、軌道を大きく変えられる自信がなかった。「安全装置解除!」「安全装置解除! 発射準備完了!」 射手がてきぱきと仕事をこなしていく。「止めろって言ってんでしょ! まずあんたから殺すわよ!」 射手を指さしながら、もはや泣き声で絶叫するソリス。 しかし、騎士団長はニヤリと無慈悲な笑みを浮かべると叫んだ。「ファイヤー!!」  ドシュッ! 長大な銛が黄金の輝きを放ちながら一直線にソリスに迫る。 くっ! 避
last updateLast Updated : 2025-12-01
Read more

40. 自己犠牲の破滅

 必死に逃げるバリスタの射手たちに一瞬で迫ったソリス――――。 うぉぉぉりゃぁぁぁ! たったひと振りで彼らを瞬殺すると、大きく息をつき、次のターゲットを見定めるべく辺りをギロリと見回した。 すると、騎士たちが五、六人固まって隊列を組み、ソリスに剣を向けている。どうやらこの絶望的状況でも攻撃してくるらしい。「何? あんた達……。勝てるとでも思ってんの?」 八歳の少女はイラついて、血の付いた大剣をビシッと騎士たちに向けた。「お、王国の騎士は敵に背中は見せんのだ!」「はぁ……? 死ぬ……のよ?」 ソリスはそのバカげた忠誠心に、ウンザリしながら小首をかしげる。「敵前逃亡は末代までの恥! か、勝てなくても全力は尽くすのだ!」 剣は恐怖で震えているというのに、なぜ、大義もないくだらない命令に命を賭けるのか? ソリスには全く意味が分からなかった。 と、この時ソリスの脳裏に、自分も組織のために自己犠牲を払って破滅したような苦い記憶がおぼろげながら蘇ってきた。 え……? しかし、それが一体何だったかは思い出せない。「突撃ーー!!」「うおぉぉぉ!」 騎士たちは楯を構え、隊列を組んだままソリスに突っ込んでくる。 降りかかる火の粉は払わねばならない。 ソリスはキュッと口を結ぶと、一気に|薙《な》ぎ払ってやろうと大剣を下段に構え、剣気を込めて大剣を黄金色に輝かせた――――。 と、この時、ソリスは妙な違和感に襲われる。この無謀な突撃がただの玉砕には見えなかったのだ。隊列があまりにも整然としすぎており、何かしらの計画が背後にあるとしか思えなかった。「怪しい……な……」 ソリスは大剣を手放すと、転がっていたバリスタ用の銛を拾い上げる。 黄金に輝く魔法の銛を軽く放り投げ、重さと重心の具合を見定めたソ
last updateLast Updated : 2025-12-02
Read more
PREV
12345
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status