アラフォーだって輝ける! 美しき不死チート女剣士の無双冒険譚 ~仲良しトリオと呪われた祝福~

アラフォーだって輝ける! 美しき不死チート女剣士の無双冒険譚 ~仲良しトリオと呪われた祝福~

last updateDernière mise à jour : 2025-12-30
Par:  月城 友麻En cours
Langue: Japanese
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長年の冒険でつちかった、きずなと経験。それがアラフォーの彼女たちの唯一の武器だった。 大剣を軽々と振り回す美しき女剣士ソリス。丸眼鏡の魔法使いフィリア。おっとり系弓使いイヴィット。 世間から"余りもの"と呼ばれた彼女たちが、20年以上もの間、ダンジョンで生き残ってきた理由。それは、"安全第一"を貫く慎重さと、誰にも負けない強いきずなだった。 しかし、運命はそのきずなを引き裂いていく――――。 謎の"祝福"が初めて発動した時、ソリスは泣いた。 「もし、私が先に死んでいれば.……」 後悔と罪悪感に苛まれるソリス。しかし、彼女の戦いはまだ終わらない。 失われた仲間を取り戻すため、彼女は再び剣を手に取った――――。

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Chapitre 1

1. 九死に一勝

「みんな……、絶対に|仇《かたき》を討ってみせるからねっ!」

 金髪をリボンでくくったアラフォーの女剣士ソリスは、幅広の大剣を|赤鬼《オーガ》に向け、鋭い瞳でにらみつけた。

 磨かれた銀色に|蒼《あお》の布が映えるソリスの|鎧《よろい》は、胸元がのぞき、魔法による高い防御力と女性の優美さを見事に融合させている。腰を覆う蒼い|裾《すそ》は、ふわりと揺れるたびに彼女の内に秘めた力強さを感じさせた。長年の手入れで磨かれた革ベルトには、熟練のしっとりとした光沢が宿っている。

 グォォォォォ!

 ダンジョン地下十階のボス、|赤鬼《オーガ》はそんなソリスをあざ笑うかのように、にやけ顔で吠えた。身長三メートルはあろうかという筋骨隆々とした怪力の|赤鬼《オーガ》は、丸太のような棍棒を軽々と振り回し、ブンブンと不気味な風きり音をフロアに響かせている。

 こんな棍棒の直撃を食らっては、どんな鎧を|纏《まと》っていても一瞬でミンチだ。ソリスは慎重に間合いを取る。

 この地下十階の広大なフロアは、まるで荘厳な講堂のように広がる石造りの地下闘技場だった。苔むした石柱が立ち並び、かつての戦士たちの魂が今もなお息づいているかのような重厚な空気が漂っている。石柱に設置された魔法のランタンたちが柔らかく石壁を照らし、光と影が織りなす幻想的な風景が広がっている。

 グフッ! グフッ!

 |赤鬼《オーガ》はソリスを闘技場の隅に追い込むように、棍棒を振り回しながら距離を詰めてきた。

 そうはさせじとソリスは、棍棒の動きを見ながら横にステップを踏み、タイミングを待つ。前回、女ばかりの三人パーティで挑んだ時に、攻撃パターンは|把握《はあく》済みなのだ。

 アラフォーともなると力も衰えてきて、同じレベルでも若い者からは大きく見劣りをしてしまう。しかし、そこは豊富な経験でカバーしてやると、ソリスは意気込んでやってきた。

 ウガァァァ!

 しばらく続いた鬼ごっこ状態に業を煮やした|赤鬼《オーガ》が、大きく棍棒を振りかざしながら一気に距離を詰めてくる。

 ここだっ!

 待ち望んでいた一瞬が到来した――――。

 ソリスは猫のように軽やかなステップで地を蹴り、迫り来る棍棒をぎりぎりで|掠《かす》めるようにして避けると、ギラリと輝きを放つ大剣で一気に腕を斬り裂いた。

 グハァ!

 |赤鬼《オーガ》の|呻《うめ》きと共に鮮やかな赤い血が飛び散る。

 ひるんだ|赤鬼《オーガ》に千載一遇のチャンスを見たソリス。

「死ねぃ!!」

 ソリスは全身全霊をかけ、疾風の如く|赤鬼《オーガ》の胴へと突きを放つ。失われし仲間たちの名誉を背負う、魂の叫びの一撃だった。

 剣気で光り輝く大剣はまっすぐに|赤鬼《オーガ》の|躯《からだ》へと滑り込む。

 かつて仲間のフィリアが『ほれぼれするでゴザルよ!』と、おどけ気味に|褒《ほ》めてくれていた自慢の突きだった。

 決まった――――!!

 ソリスがそう思った瞬間――――。

 いきなり視界が暗闇に沈む。ゴスッ! ゴスッ! と身体が砕ける衝撃が襲ったのだ。

 へ?

 何が起こったのか分からなかった。

 ゴフッ!

 大量の血を吐いたソリスは、鼻にツーンと生温かい血が流れ込んできているのを感じる。

 ぼんやりと戻ってきた視界――――。

 そこにはこぶしから血を|滴《したた》らせている|赤鬼《オーガ》が勝ち誇ったようににやけていたのだ。

 |赤鬼《オーガ》は棍棒を握るのをやめ、素手でソリスの身体に重機のような強烈なパンチを叩きこんだらしい。

 棍棒を手放して素早さを出した|赤鬼《オーガ》のとっさの判断力の勝ちだった。

 ソリスは起き上がろうと思ったが、身体の骨があちこち折れてしまっていて、激痛に|翻弄《ほんろう》され、また床に転がってしまう。

 ふぐぅ……。

 この時、イヴィットの矢が空を切る音が聞こえた気がして一瞬ハッとするソリス。

 しかし、そんなはずはないのだ。イヴィットはもう|喪《うしな》われてしまったのだから。

「イ、イヴィットぉ……」

 今まで何度も窮地を救ってくれたイヴィットの矢はもう飛んでこない。ソリスは|喪《うしな》われた仲間の存在の大きさを痛感しながら、|這《は》いずる腕に全身の力を込めた。

 ニヤリと嗤いながらそんなソリスを見下ろす|赤鬼《オーガ》。

 赤く張りのある肌をした鬼神が、その巨体をゆっくりと動かす。

 その目には冷酷な光が宿り、唇には残忍な笑みが浮かんでいる。棍棒を振り上げる腕の筋肉が盛り上がり……、次の瞬間、恐ろしい破壊の音が静寂を引き裂いた――――。

 骨の砕ける音と肉の裂ける音が、不協和音となって空間に満ちる。その音はまさに絶望そのものだった。

 ソリスは、全身が燃え上がるような激痛の中、己の運命の|終焉《しゅうえん》を悟る。

 悲壮な覚悟を胸に挑んだボス戦。前回の敗北を徹底的に分析し、全財産をつぎ込んだ増強ポーションで攻撃力も限界まで高めた。体調も驚くほど良く、老いゆく身体を考えれば、戦うのは今しかなかった。

 分の悪い賭けなのは百も承知である。それでも、仲間の無念を晴らすと決めた以上、わずかでも勝ち目があるのであれば挑まねばならなかった。それがアラフォーまで二十数年間仲間と一緒に冒険者として人生を紡いできたソリスの|矜持《きょうじ》である。

 しかし、運命に挑むこの壮絶な決意に対し、幸運の女神はほほ笑まなかった。

 |仇《かたき》討ちの夢は砕け、無様な最期を迎える冷酷な運命に打ちひしがれながら、ソリスの意識が薄れていく……。

「フィリア……、イヴィット……、ゴメン……」

 世渡り下手な三人娘はパーティーを組み、身を寄せ合いながら一緒に暮らしてきた。先日、二人が|赤鬼《オーガ》に殺され、そして、最後の一人も仲間に続いて黄泉への旅に出ることとなる。

 ――――はずだった。

 シャラーン……。

 どこからか聞こえてくる神聖な響き……。

 グチャグチャとなったソリスの|骸《むくろ》が黄金色の輝きを|纏《まと》い始めた。

 |赤鬼《オーガ》はその見たこともない不思議な輝きに後ずさり、首を傾げる。

 骸から黄金色に輝く微粒子がフワフワと立ち上り始めた。

『|汝《なんじ》に、祝福あれ……』

 死の最期の瞬間にそんな言葉が、ソリスの耳元でささやかれた気がした。

 え……?

『レベルアップしました!』

 なぜか意識がはっきりとしてくるソリスの頭の中に、電子音声が響き渡る。

 はぁ……?

 ソリスは何があったのか分からなかった。|赤鬼《オーガ》の圧倒的な力の前に砕かれたはずの自分が、今、新たな生命力に満ちている。理解を超えた現象に、ソリスの魂は静かに震えていた。

「ど、どういう……こと?」

 ソリスは身を起こして自分の両手を見た。

 全身を砕かれてグチャグチャになったはずの身体が、まるで蝶が|蛹《さなぎ》から羽化するように、新たな身体を得て蘇っている。以前にも増して軽やかに、生命力に満ちあふれていたのだ。

 ガァァァァ!

 |赤鬼《オーガ》は殺したはずの剣士が起き上がったことに不快感を感じ、突っ込んでくる。

「ヤ、ヤバい!」

 大地を蹴る足に力が|漲《みなぎ》る。ソリスの身体が弓のように跳ね上がり、風を切る棍棒の軌道から、まるで舞うように身をかわした。

 理解を超えた出来事に戸惑いながらも、ソリスの魂は激しく震える。奇跡とも呼べるこの瞬間を生かす以外ないではないか。

 床に転がってしまった大剣に向かって、ソリスは疾風のごとく駆け出した。その手は、運命を掴むかのように伸びていく。

 しかし――――。

 激しい衝撃が全身を貫き、ソリスはあと一歩というところで大地に叩きつけられた。

 見ればガランガランと棍棒も一緒に転がっている。なんと|赤鬼《オーガ》は|狡猾《こうかつ》にも棍棒を投げてきたのだ。

 くぅぅぅ……。

 体を立て直そうとした瞬間、視界が闇に包まれた。意識が霧の中へと溶けていく――――。

 巨大な|赤鬼《オーガ》の蹴りが、ソリスをまるでサッカーボールかのように宙に舞わせたのだ。壁に叩きつけられ、天井で弾かれ、床に落ちるソリスの身体からは赤い|雫《しずく》が散っていった。

 ゴフッ……。

 盛大に血を吐いてこと切れるソリス。蘇生の奇跡も虚しく、ソリスの身体から生命が滴り落ちていくのを今回も止められなかった。

 しかし――――。

『レベルアップしました!』

 またも不思議な電子音が響き、ソリスの身体に新たな生命の輝きが宿った。

 ソリスは驚きに目を見開き、蘇った自分の手のひらをじっと見つめる。

「これは……一体何なの?」

 戸惑いの声が漏れる。まるで全身の細胞が目覚めたかのように、体中に溢れんばかりの活力が満ちていた。

 グガァァァァ!

 |赤鬼《オーガ》の咆哮が大地を揺るがす。またも立ち上がってくるソリスに|赤鬼《オーガ》は怒りに燃え、襲い掛かってきた。

 うぉぉぉぉぉ!!

 ソリスも負けじと大地を震わせんばかりの雄叫びとともに、巨大な剣を掲げる。赤い悪鬼への怒りが血管を駆け巡り、仲間への想いが胸の内で燃え上がった。今この瞬間、すべてを懸けて立ち向かう執念がソリスの瞳に宿る。

 理性など吹き飛び、ただ一心に、魂の炎を燃やし尽くさんと|赤鬼《オーガ》へと突進した――――。

 しかし、|赤鬼《オーガ》も死に物狂いだった。何度殺しても死なない理不尽なチート剣士に対して不屈の闘志を燃やし、予想だにしなかった底力を見せていく。

 結果、赤き悪魔の前にソリスは何度も殺されていった。棍棒で吹き飛ばされ、足で踏みつぶされ、首を引きちぎられ、次々と凄惨な死を遂げるソリス。

 だが、何度殺されても終わらなかった――――。

『レベルアップしました!』

「今度こそ! うぉぉぉぉりゃぁぁぁ!」

 決意の炎を燃やした碧い瞳で大剣を高々と掲げ、ソリスは巨大な筋肉の塊である|赤鬼《オーガ》をにらみつけた。

 ウガァァ! ウガァァ!

 疲れも見えてくる中、|赤鬼《オーガ》は必死に棍棒を振り回し、ソリスに襲い掛かる。

『次に大振りした時がチャンス……』

 逆に余裕ができていたソリスは|虎視眈々《こしたんたん》とその時を待った――――。

「ここよ!!」

 ソリスは獣のような直感で棍棒を|躱《かわ》し、閃光のごとき|剣戟《けんげき》で|赤鬼《オーガ》の腕を両断した。

「ギュワァァァァ!」

 激痛と共に噴き出す鮮血に、|赤鬼《オーガ》の瞳から余裕が消え失せる。

 永遠とも思えた殺されるばかりの苦痛の果てに、ついにその瞬間が訪れた。ソリスの胸に激しい鼓動が響き渡る。

「仲間の無念! 受け取れぇぇぇ!」

 刀身の剣気が閃き、|赤鬼《オーガ》の胴体を一刀両断に切り裂いていく――――。

 ゴ……、ゴフゥゥゥ……。

 苦痛の|呻《うめ》き声とともに、巨大な赤い体がゆっくりと大地に崩れ落ちていく。

 ソリスはその光景を見ながら、まるで現実離れした夢のようで実感がわかなかった。

 自分たちを壊滅させた伝説の|赤鬼《オーガ》が、今やただの肉塊と化し、足元で息絶えようとしている。その光景はソリスに少なからぬ混乱を呼んだ。

「や、やった……の?」

 ソリスは肩で息をしながら、倒れた赤鬼オーガを見つめる。あれほど強かった怪物の|痙攣《けいれん》する姿に、言い知れぬ戦慄と興奮が全身を駆け巡っていく。この未知の状況に、ソリスの心臓は狂おしいほどに高鳴っていた――――。

 |赤鬼《オーガ》は徐々に透けていき、やがてすうっと消え、後には真っ赤にキラキラと輝く魔石が転がっていく。

 うぉぉぉぉぉ!

 ソリスは両手を掲げ、吠えた。ついに念願の宿敵|赤鬼《オーガ》を倒したのだ。かけがえのない仲間たちの命を奪った憎っくき|赤鬼《オーガ》を、この手で討ったのだ。

「フィリアぁぁぁ! イヴィットぉぉぉ! 見て、やったわよ!! うっ……、うっ……、おぉぉ……」

 ソリスはあふれ出る涙をぬぐいもせず、号泣しながら倒れ伏せる。奇跡的な勝利を手にした。それはまさに最高の一瞬――――なのだが、勝っても仲間は戻ってこない。その冷徹な現実がソリスの胸を締め付ける。

 うっ、うっ……。

 止まらない涙――――。

 ソリスは床に倒れ伏せたまま、涙枯れ果てるまで苦い勝利の味わいに|耽《ふけ》る。広間にはソリスの|嗚咽《おえつ》がいつまでも響いていた。

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2. 余りモノ不器用トリオ
 泣き疲れ、ゆっくりと立ち上がるソリス――――。 戦いの興奮が冷めるにつれ、勝利の異様さが胸に刺さった。何度も死に、それでも生き返った自分。まるで物語の主人公にでもなったような非現実的な勝利に、倒した|赤鬼《オーガ》に申し訳なく思ってしまうくらいだった。 ソリスは大きくため息をつき、ステータスウィンドウを空中に広げてみる。ーーーーーーーーーーーーーーソリス:ヒューマン 女 三十九歳レベル:55 : :ギフト:|女神の祝福《アナスタシス》ーーーーーーーーーーーーーー いつの間にかレベルが40から55にもなっていたことにも驚いたが、ギフトの項目の【|女神の祝福《アナスタシス》】に目が留まった。 もしかしたら、これが死後の復活を行ってくれたのかもしれない。 今までこれがどんな効果を持つのか分からず、ソリスは長年疑問に思ってきたのだった。女神を|祀《まつ》る教会で聞いても『前例がない』と、一蹴されていた謎のギフト。まさか死後に復活し、なおかつレベルアップもしてくれるチート級のギフトだったとは全く分からなかった。「早く気づいていれば……」 ソリスはがっくりと肩を落とす。 自分のことを死なせまいと必死に頑張ってくれていた仲間。しかし、それが逆にギフトの把握を遅らせ、結果、仲間を失うことになってしまったという皮肉に、ソリスはやるせなく動けなくなった。「自分が先に死んでいたら……」 亡き仲間たちへの思いが胸を圧迫し、ソリスは悲しみの|雫《しずく》を一つまた一つと|零《こぼ》した。          ◇ 時は二十数年さかのぼる――――。 まだ十六歳だったころ、孤児院の院長からメイドの仕事を紹介してもらったソリスは、面接で仕事先のお屋敷に|赴《おもむ》いた。「ほう、なかなかいいじゃないか。男性経験はあるのかね?」 最終面接で出てきた雇用主の男爵は、|顎髭《あご
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 運命の日、前日――――。 時は|赤鬼《オーガ》戦勝利の日から一週間ほどさかのぼる。 茜色に染まる空の下、ダンジョンの暗闇から|這《は》い出すように帰路につく三人。石畳の大通りを歩む彼女たちの足音は、重い疲労と共に夕暮れの街に響いていた。「はぁ~、この歳に肉体労働は疲れるわ……」 ソリスは|凝《こ》った肩を指先で軽く揉みながらため息をつく。「ソリス殿! 歳のことは言わない約束でゴザル!」 黒髪ショートカットのフィリアは、年季の入った丸眼鏡をクイッと上げて口をとがらせる。自分は言わずに必死に我慢している分だけ、不満は大きい。「ゴメンゴメン。最近は不景気で魔石の買取価格が下がっちゃってるから、こんな時間まで頑張らなきゃならないのよねぇ」「不景気……、嫌い……」 冒険の勲章のように、汚れが目立つモスグリーンのチュニックを着たイヴィットは、凝り固まった首筋をゆっくりと回した。疲労を訴えるポキポキという音が響き、続く不満げなため息は、今日の重労働を雄弁に語っていた。 夕暮れの大通りには多くの店がにぎわい、美味しそうな肉を焼く香りも漂ってくる。「不景気だっていうのに、お金持っている人は持っているのよねぇ……。もっとダンジョンの奥まで……潜りたくなるわ」 ソリスは足を止め、繁盛している焼き肉屋をにらんだ。「ソリス殿! 『安全第一』がうちらのモットーでゴザルよ!」 フィリアはすかさず突っ込んだ。|華年絆姫《プリムローズ》は二十三年間、無事故で無事にやってこれている。それは『安全第一』を徹底していたからだった。 同期のパーティーはすでに全滅したり、メンバーを|喪《うしな》って解散したりしてもはや一つも残っていない。それだけ冒険者稼業は危険で過酷。少しでも欲をかいた者をダンジョンは許さない。調子に乗って奥まで進み、気がつけば身の丈を超える状況に追い込まれ、消えていくのだった。「分かってるって。『安全第一』……。でもたまには焼肉も食べたいのよ……」 うつむきながら漏らす本音に、フィリアもイヴィットも何も言わなかった。「はぁ、やめやめ! 魔石を換金して夕飯にしましょ!」 ソリスは気丈に歩き出す。 しかし、その足はすぐに止まってしまった。水色が鮮やかな新作のチュニックが綺麗にライトアップされていたのだ。マネキンが身に|纏《まと》ったチュニックは、まる
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4. 禁断の果実
「な、何階だって関係ないでしょ!」 ソリスはギリッと奥歯を鳴らし、叫ぶ。「何その小汚いぬいぐるみ? 貧乏くさっ!」「いい歳してガキみたい」「ダッセェ! キャハハハ!」 |幻精姫遊《フェアリーフレンズ》たちはソリスのリュックについたぬいぐるみを嗤う。 ブチッ! と、ソリスの頭の中で何かが切れる音がした。 確かに彼らのバッグについているバッグチャームは、金属でできた高価なブランドものではあったが、イヴィットの想いのこもったぬいぐるみを馬鹿にされるいわれなどなかった。「小娘! 言っていいことと悪いことがあるでしょ!?」 ソリスは頭から湯気を上げながらツカツカとリーダーに迫る。「あら、オバサン。冒険者同士のケンカはご法度よ?」 ジョッキのリンゴ酒を呷りながら立ち上がり、ニヤニヤ笑いながらソリスの顔をのぞきこむリーダー。「お前が売ってきたケンカでしょ!?」 ソリスはガシッとリーダーの腕をつかんだ。「痛い! いたーい! 助けてー!! 誰かー!!」 急に喚き始めるリーダー。「な、何よ……。腕を持っただけよ?」 何が起こったのか分からず唖然とするソリス。「何やってるんだ!」 奥の方から金色の鎧を身に着けた若い男が飛んできた。「助けて、ブレイドハート!!」 リーダーは涙目になって訴える。「お前! 何してる!!」 ブレイドハートと呼ばれた男は二人の間に入るとソリスの腕を払った。この男はまだ十八歳の若きAクラス剣士で、ギルドではトップクラスのホープだった。「な、何って、彼女がケンカ吹っ掛けてくるから……」「痛ぁい! 骨が折れたかも……」 リーダーは腕を抱えてうずくまる。「おい! 大丈夫か? ヒーラー! ヒーラーは居るか!?」「いや、私、ただ、腕を持っただけなんだけど?」「何言
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5. 絶望の響き
 中は話に聞いた通り闘技場のような広大な広間となっており、壁沿いの柱列に配置された魔法のランタンが一つずつ火を灯し始め、ゆっくりと神秘的な明かりで空間を満たしていった。 まるで遥か古の魔術が目覚めるかのように、広間の中央で黄金の輝きを放つ魔法陣がゆっくりと姿を現す。その輝きの中心から、まるで大地の怒りを体現するかのように、|赤鬼《オーガ》が威風堂々と立ち上がる。その血のように赤い肌、頭部から勇ましく突き出た二本の角は鬼の王者としての誇りを示していた。「あ、あれが|赤鬼《オーガ》でゴザル……か?」 フィリアの心臓が、|赤鬼《オーガ》から放たれる威圧的なオーラに震えた。その存在感は、これまで立ち向かってきたどの敵をも凌駕し、まるで暗黒の渦に飲み込まれそうな圧迫感があった。 熱い決意で挑んだボス戦。しかし、目の前に立ちはだかる想像を超えた強敵に、三人の心に恐れの影が忍び寄る。三人の額を浮かぶ冷汗は、内なる動揺の証だった。「ビビっちゃダメ! あれに勝つの! 私たちはあいつより強い! いいね?」 ソリスはバクンバクンと高鳴る心臓に浮足立ちながらも、フィリアの手をギュッと握り返す。「私たち……、あれより強い……の?」 すっかり雰囲気にのまれてしまっているイヴィット。「強い! 勝てる! |華年絆姫《プリムローズ》は常勝無敗よ? この世界は強いと信じたものが勝つの! 信じて!」「わ、分かったでゴザル……強い……強い……」「そう、強い……勝てる……」 フィリアもイヴィットもギュッと目をつぶり、ブツブツと自分に暗示をかけていく。 いよいよ三人の人生をかけた命がけのチャレンジが始まる――――。 身長三メートルはあろうかという、巨大な筋肉の塊である|赤鬼《オーガ》はいやらしい笑み浮かべ、三人娘を|睥睨《へいげい》した。 グフフフ…
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6. 陰膳のグラス
 へ……? ソリスはただポカンとその情景を眺めていた。 二人が潰されたことを理解できない、いや、認めたくなかったのだ。 二十数年間苦楽を共にしてきた二人が、あっさりと目の前でこの世界から消えてしまうなんて、到底認めるわけにはいかない。 |赤鬼《オーガ》は満足そうにいやらしい笑みを浮かべながら振り返り、ソリスに向けて歩いてくる。その棍棒からは生々しい血の赤い色が滴っていた。 後ろには倒れて動かなくなっている二人。向いてはいけない方向に手足が伸びているさまにソリスは真っ青になる。 あぁぁぁぁ……。 絶望の中、必死に何とか自分を制そうと必死に奥歯をかみしめるソリス。 ケガで気絶しているだけであればまだ復活できる! その|一縷《いちる》の望みに全てを賭け、|赤鬼《オーガ》に向けてダッシュするソリス。 ニヤニヤしながら棍棒を振りかぶる|赤鬼《オーガ》。 ソリスは左右に軽くステップを踏み、振り下ろされてくる棍棒をギリギリのところでかわすと、そのまま床に転がってキラキラと輝いている帰還石を思いっきり踏み抜いた。 パリン……。 軽い破砕音が部屋に響いた直後、ブワッとソリス達三人の身体が黄金色の輝きに包まれる。 直後、ふっと景色が変わった――――。 よ、よしっ……。 そこは見慣れたダンジョン入り口だった。 足元に横たわるフィリアとイヴィットは白目をむき、口から泡を吹いている。 マズいマズいマズいマズい……。 ソリスはポーションを取り出すと二人の口に注いでみるが、痙攣するばかりで飲んでくれない。「くぅ……、誰か……、誰かヒールを!!」 ソリスは辺りを見回しながら叫んだ。 そこに通りがかる冒険者パーティ。「お願いします! いくらでも払いますから
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7. 強者の愉悦
 簡易宿に泊まった翌朝、まだ朝もやのけぶる中をソリスは大剣を背負い、晴れやかな気持ちで石畳の道を歩き出した。 いよいよ生死をかけた|弔《とむら》い合戦へと|赴《おもむ》くのだ。 もう二度と見れないかもしれない景色、そう思うと古びた街並みも、壊れかけて|軋《きし》む看板も、パン屋が元気よく開店の準備をするさまもすべて愛おしく見えた。 立派な浮彫の施された堅牢な城門をくぐると、ソリスは振り返る。 城門の向こうに見える愛しい街並み――――。「長い間ありがとう……。仇を討って戻ってくるわ……」 ソリスは深々と頭を下げた。嫌な事も楽しいこともいっぱい詰まったこの街。一旦すべてを捨てて、この一戦に賭けるのだ。 ソリスは不思議とさっぱりとした気分で別れを告げると、決意のこもった目で前を向き、グッとこぶしを握った。         ◇ その後何度も殺されながら、予想外のチート級ギフトで地下十階のボスに勝ってしまったソリス――――。 その理不尽な展開に、床にペタンと座り込んだソリスは仲間を想い、泣き崩れる。 涙はとうとう枯れ果て、ソリスは泣きはらした目でぼんやりと壁に並ぶ魔法のランプを見つめた。ランプは静かにゆらゆらと揺れ、その光が彼女の頬を優しく照らす。 例え勝てても厳しい人生だったはずなのに、予想外の展開で明るい未来が開けてしまったのだ。死なないで強くなれるのであれば自分は世界一の剣士になってしまう。それはいわゆる【勇者】という奴ではないだろうか? ひっそりと生きてきた中年女が今さら勇者だとは、なんとも笑えないジョークだ。ソリスは渋い顔で首を振った。 国王に|讃《たた》えられ、街を行く華やかなパレードでみんなの歓声を浴びる。少し想像してみただけで、鳥肌が立ってしまう。日陰でひっそりと自分ならではの幸せの世界を満喫する。それがソリスにとって最善であり、今さら華やかな場所など気疲ればかりして何も楽しくなさそうに見えた。 ただ……。三|婆《ババ》トリオと
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8. 黄金の飛沫
 その後も十二階、十三階と次々に快進撃を続けるソリス――――。 ソロで|赤鬼《オーガ》に勝ったソリスには、出てくる一般モンスターなどもはや雑魚に過ぎなかった。怪しい魔法を使ってくるスケルトンも毒を放ってくるデカい大蛇も、軽快なフットワークで翻弄させながら一刀両断にしていった。「弱い、弱ーい! |華年絆姫《プリムローズ》のお通りよ! はっはーーい!」 大剣をクルクルと振り回し、その圧倒的な強さに心地よい高揚感を覚えながら、ダンジョンに笑い声を響かせた。 どんどんと快調に階を進んでいくソリス。何しろたとえ死んでも強くなるだけなのだ。慎重になる意味がない。 上機嫌に地下十五階まで降りてきた時のことだった――――。 キャァァァ! ひぃぃぃ! 遠くから微かに若い女の悲鳴が聞こえてくる。 えっ……、この声は……? ソリスは眉をしかめたが、放っておくわけにもいかない。薄暗い洞窟の中を、声のした方へと駆けて行った。        ◇ しばらく行くと、大きな広間があった。悲鳴はその奥から聞こえてきているようだ。 中をのぞきこむと、金色に光り輝く|鬼《オーガ》が、広間の奥に|幻精姫遊《フェアリーフレンズ》の三人組を追い込んでいた。「も、もうダメーー!」「もうちょっと頑張りなさいよ!!」 女僧侶が必死にみんなをシールドで守っている中で、リーダーが倒れている弓士の手当てをしているようだった。 ソリスは「ざまぁ!」と笑ったが、このまま放っておくのも寝覚めが悪い。大きく息をつくと、叫んだ。「おい! 助けてやろうか?!」 リーダーはソリスの方を向くとハッとして、バツが悪そうに顔をしかめる。「お、お願いしますぅぅ!」 女僧侶が叫んだが、リーダーはうつむいたままだった。「しょうがないわねぇ。オイ! こっちだ!!」 ソリスはタタッと駆け、ものすごい速度で|鬼《オーガ》に迫る。
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9. 獄焔轟焦
「アッチーーッ! マジかよ……」 地下二十階のボス部屋の扉を開けたソリスは、暗い部屋から噴き出してくる熱気にウンザリして顔を歪めた。 広間の周りの壁に掲げられた魔法のランプがポツポツと灯り始め、部屋の真ん中に展開された巨大魔法陣から大きな壺がせり上がってくる。「なるほど、あそこから出てくるのね……」 ソリスはじっと壺を見据えながら息を整えると、大剣をしっかりと握り直し、静かなる獣のように瞬発力を秘めて待ち構えた。 刹那、壺からボウッっと轟炎が立ち上り、高い天井を焦がす。「アチチチ……。お出ましね……」  大剣を立て、刺すような熱線から顔を守りながら炎を見上げる。真紅に揺れる炎はやがて竜巻のように渦を巻き、ソリスに向かって鎌首をもたげた。直後、炎の渦の先から青い二つの目が鋭く光を放ち、咆哮を放つ。それは|轟炎大蛇《インフェルノサーペント》だった。 炎そのものが魔物とは実にやりにくい。魔法生物の厄介さにソリスは顔をゆがめる。 攻略した者の話では、ひたすら水魔法を撃って倒したということらしいが、大剣振るうしか攻撃手段のないソリスには参考にならない話だった。 天井近くから見下ろす|轟炎大蛇《インフェルノサーペント》は時折ぶわっと身体を分裂させて炎の渦を床近くまで噴きおろす。ソリスはそのたびに素早くステップを踏みながら距離を取った。 頭に大剣を届かそうとすると跳び上がるしかないが――――、あまりいい策とは思えない。さりとて、壺に近づこうものならあっという間に焼き殺されそうである。 くっ……。 止めどなく湧いてくる汗をぬぐいながら、ソリスは攻めあぐね、ただ、間合いを取りながら様子を見るしかできない。 |轟炎大蛇《インフェルノサーペント》はチョロチョロと炎の舌を揺らしながらじっとソリスをにらみ、クワッ! と威嚇してきた。 逃げ続けていても熱で体力を奪われるばかりである。「ええい
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10. 悪魔のささやき
 ソリスはふらふらと歩きながらボス部屋を出た。そこには巨大な水晶柱が青く幻想的な光を放ちながらゆっくりと回っている。転移魔法が施されたポータルだった。「今日は一旦帰ろう……。さすがに死にすぎたわ……」 ソリスは疲れ切った様子で大剣を背中の鞘にしまうと、よろよろとポータルへと歩み寄る。彼女の手が青白い光を放つクリスタルに触れた刹那、空間が歪み、次の瞬間、ダンジョンの入口に並ぶポータル群の前に転送された。  ヴゥン……。「え!?」「ま、まさか……」「これは……?」 ソリスの登場に、ポータル前に集まっていた人たちはざわめいた。たくさんの冒険者たちが、誰が出てくるのかと待ち受けていたのだ。 |轟炎大蛇《インフェルノサーペント》が倒されたことにより、しばらく地下二十階の扉は開かなくなる。それは二十階の入り口へのポータルの輝きが消えることにより分かるようになっていた。冒険者たちは誰かが二十階を突破したことを知り、それが一体どのパーティなのか興味津々に、それぞれ予想を言いながら待ちわびていたのだ。 |轟炎大蛇《インフェルノサーペント》のレベルは推定70である。これを倒すとしたらAランクなら三人パーティ、Bランクなら六人パーティが必要なのだ。それなのにうだつの上がらないアラフォーの女剣士が一人で現れた。ソロで倒したとしたらもはやSランク冒険者ということになってしまうが、それはどう考えてもあり得ないことだったのだ。 どよめく人たちに、ソリスはニヤリと笑うと|轟炎大蛇《インフェルノサーペント》の真紅に輝く巨大な魔石を掲げた。 これかしら? 一瞬の静けさの後、大歓声が巻き起こる。「おぉ!」「す、凄いぞ!」「うわぁ!」 みんなの熱狂に誇らしげに叫ぶソリス。「|轟炎大蛇《インフェルノサーペント》は|華年絆姫《プリムローズ》が討ち取った! 明日は三十階ボスの首を獲る!!」 おぉぉぉぉ! 皆、盛大な拍手でソリスの健闘
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