LOGIN長年の冒険でつちかった、きずなと経験。それがアラフォーの彼女たちの唯一の武器だった。 大剣を軽々と振り回す美しき女剣士ソリス。丸眼鏡の魔法使いフィリア。おっとり系弓使いイヴィット。 世間から"余りもの"と呼ばれた彼女たちが、20年以上もの間、ダンジョンで生き残ってきた理由。それは、"安全第一"を貫く慎重さと、誰にも負けない強いきずなだった。 しかし、運命はそのきずなを引き裂いていく――――。 謎の"祝福"が初めて発動した時、ソリスは泣いた。 「もし、私が先に死んでいれば.……」 後悔と罪悪感に苛まれるソリス。しかし、彼女の戦いはまだ終わらない。 失われた仲間を取り戻すため、彼女は再び剣を手に取った――――。
View More「ここが上位世界……なのかしら?」 ソリスは恐る恐る黄金の花畑に足を下ろし、辺りを見回した。しかし、視界を埋め尽くすのは、風に揺れる黄金の花ばかり。人の営みを示す建物の影すら、この神秘の楽園には見当たらなかった。 女神を生み出し、自分たちの世界の根幹を形作った驚異的な科学技術の聖地を思い描いてやってきたソリスは、目の前に広がる牧歌的な風景に困惑の表情を浮かべる。上位世界とは超文明の未来都市ではなかったのか? 少なくともどこかにジグラートを超える壮大なサーバー群があるはずだが……コンピューターどころか建物一つ見当たらない。「ねぇ? パパはどこにいるのかなぁ……」 セリオンの瞳に不安の影が宿る。まるで迷子の子猫のようにおずおずと周囲を探るが、花畑が広がるばかりで困惑してしまっていた。「どこかなぁ……? テロリストのアジトもどこなんだろう……。ん……? あれは……?」 ソリスは、風景の中にわずかな異変を感じ取り、少し盛り上がった岩場へと足を進めた。 すると何かにつまずいた――――。「いたたた……、何かしら?」 ソリスの足元で、何やら異質な丸いものがゴロリと転がり、黄金の花々が悲鳴を上げるように押しつぶされる。瞳を凝らすと、そこには人の手によって生み出されたとしか思えない、精緻な彫刻のような造形が見えた。まるで太古の秘密が、この花畑の中に眠っていたかのようだ。「え……? 何……?」 震える指先で、ソリスは恐る恐るそれに手を伸ばした。ゆっくりとひっくり返した瞬間、息が止まった。眼前に現れたのは、ブロンズの輝きを纏った女神像の首だったのだ。 美しく均整の取れた目鼻立ちに流れる長い髪の毛、それは見まごうことの無い女神様、その像だった。優美な曲線を描く顔立ち、繊細な造作が見て取れる瞳には、かつての栄光を偲ばせる。
「セ、セリオン……」 ソリスはその小さな味方をハグし、サラサラの金髪にほほを寄せた。「あー、子龍ちゃんね、パパも上にいるからいいかもね」 シアンはニヤッと笑い、セリオンの肩をポンポンと叩く。「え!? パ、パパ……?」 驚いたように碧い目を見開くセリオン。「そうだよ? キミは上の世界からやってきたのさ。良く知らないけど地球で成人まで過ごすのが龍族の掟だとか何とか……。あ、言っちゃマズかった……かな……」 シアンは失敗したという顔をして顔をゆがめた。「そ、そうなんだ……。パパ……」 言葉にできない感情がセリオンの喉をつまらせ、長い|睫毛《まつげ》に覆われた瞳を伏せた。 ソリスは胸に広がる切なさを抑えきれず、震えるセリオンを優しくその腕に包み込んだ。どんな事情があるか分からないが、家族と離れ一人でずっと暮らすことの寂しさは相当のものがあるはずだった。 震えが収まるのを待ってソリスはセリオンの青い瞳をのぞきこむ。「どうする? 行く……?」 しばらく口を結んでいたセリオンだったが、決意を秘めた瞳でソリスを見上げた。「行く……行くよ! 僕の成長をパパに観てもらうんだ!」 セリオンはギュッとこぶしを握って見せる。「オッケー! じゃぁすぐに出発! そこの二人は後方支援。ミッションが成功できるかどうかは君らにかかってる。いいね?」 ニヤッと笑ったシアンは、極薄のタブレットを二枚取り出し、フィリアに渡した。「ま、任せとき!」「わ、わかりましたえ」 テロリストの拠点を叩くなど、本来初心者がやるようなものじゃない特級の任務である。二人は責任の重さにビビりながらも気丈に返す。「よーし! タブレットの中にテロリストの通信履歴が
チャン、チャン、チャランチャ♪ ソリスのスマホがけたたましく鳴った――――。「誰かしら……」 ソリスは怪訝そうな顔で画面をのぞきこむ。「やぁ! お疲れー!!」 勝手にスピーカーフォンがつながって、シアンの声が響いた。「お、お疲れ様です……」「手練れ相手にフォーメーションCはダメだって教えたよ?」 シアンは不満そうな声を響かせる。 まさか戦闘をチェックされていたとは思わなかったソリスは、うつむき加減で顔をしかめた。「ま、まさかあんなチート防具があったなんて思わなかったんです……」「まだまだ甘いな。おっと……」 ズン、ズンと激しい爆発音が次々と電話の向こうから聞こえてくる――――。 どうやら戦闘中にかけてきたらしい。 ソリスは眉をひそめ、セリオンと顔を見合わせる。「シアンさんはいつも戦っているねぇ……」「お忙しいのね……」 その時、ひときわ激しい爆発音が電話越しに伝わって、スマホがビリビリと震えた。「きゃははは! 成敗! ざまぁみろってんだい! あー、ゴメンゴメン。で、そのテロリストはどうやら上位世界とつながってるみたいなんだよね」 会心の勝利で上機嫌のシアンは予想外のことを口にする。「えっ!? じょ、上位世界……ですか!?」 ソリスは色めき立った。女神を創った上位世界、それが本当にあって、あのテロリストも関係しているらしい。「そうそう、キミが行きたがってた所じゃん?」「え、ま、まぁ……」「行ってくる? んぐんぐんぐ……ぷはぁ!」 何かを飲みながら気軽にすごいことを言うシアン。「えっ!? そ、それは、行ける
ソリスは燃えるような灼熱の痛みを背中に感じながらギリッと奥歯を鳴らした。なぜそんな女神も持っていないようなチート防具を持っているのか? テロリストとは一体何なのか? 疑問を感じながらガクリと力を失い、意識が遠くなっていく。 くぅぅぅ……。 ソリスは力尽き、花々の中に身を預けると、意識は闇の中へと沈んでいった。「あぁっ! おねぇちゃーん!!」 涙をこぼすセリオンがソリスへと駆け寄ろうとしたが、フィリアの手が強く引き留める。「アカン! 今はあかんで!」「離してっ!」 セリオンはもがくがフィリアは毅然とした態度でそれを制した。「はっ! 『今』だと? お前らに次はない。すぐに全員死ぬんだよ!」 男は嗜虐的な笑みを浮かべながら両腕を高く掲げる。 刹那、天空を染め上げる巨大な紅い円環が頭上に展開した。直径数十キロはあろうかという輪は雲をも超える高空に鮮やかに輝き、息を呑むほどの威圧感を放つ。 それは、まるで彼らを狙っているのではなく、この星全体を破壊しようとするような途方もない悪意を感じさせた。「な、なんや!?」「べらぼうどす……」「ひぃぃぃ!」 世界の終焉を予感させるその光景に、彼らの心は凍りつく。 そうこうしている間にも、巨大な円環の中に六芒星が息づくように浮かび上がり、その周りを幾何学模様が星座のごとく彩っていく。それは大地を覆う、途方もない規模の魔法陣。その姿は、人知を超えた力の結晶のようだった。 あわわわわ……。ひぃぃぃ……。いやぁぁぁ! 三人はギュッと身を寄せ合う。 やがて魔法陣は息を吹き込まれたかのようにまばゆく輝き始めた。稲妻のような閃光が飛び交い、まるで生き物のように脈打つエネルギーが周囲を包み込んでいく。その威力は、太古の地球に激突し恐竜を絶滅させた隕石すら凌駕するかのようだった。「くっくっく……この星ごとお前らを滅ぼしてやる。も
中は話に聞いた通り闘技場のような広大な広間となっており、壁沿いの柱列に配置された魔法のランタンが一つずつ火を灯し始め、ゆっくりと神秘的な明かりで空間を満たしていった。 まるで遥か古の魔術が目覚めるかのように、広間の中央で黄金の輝きを放つ魔法陣がゆっくりと姿を現す。その輝きの中心から、まるで大地の怒りを体現するかのように、|赤鬼《オーガ》が威風堂々と立ち上がる。その血のように赤い肌、頭部から勇ましく突き出た二本の角は鬼の王者としての誇りを示していた。「あ、あれが|赤鬼《オーガ》でゴザル……か?」 フィリアの心臓が
「な、何階だって関係ないでしょ!」 ソリスはギリッと奥歯を鳴らし、叫ぶ。「何その小汚いぬいぐるみ? 貧乏くさっ!」「いい歳してガキみたい」「ダッセェ! キャハハハ!」 |幻精姫遊《フェアリーフレンズ》たちはソリスのリュックについたぬいぐるみを嗤う。 ブチッ! と、ソリスの頭の中で何かが切れる音がした。 確かに彼らのバッグについているバッグチャームは、金属でできた高価なブランドものではあったが、イヴィットの想いのこもったぬいぐるみを馬鹿にされるいわれなどなかった。「小娘! 言っていいことと悪いこ
運命の日、前日――――。 時は|赤鬼《オーガ》戦勝利の日から一週間ほどさかのぼる。 茜色に染まる空の下、ダンジョンの暗闇から|這《は》い出すように帰路につく三人。石畳の大通りを歩む彼女たちの足音は、重い疲労と共に夕暮れの街に響いていた。「はぁ~、この歳に肉体労働は疲れるわ……」 ソリスは|凝《こ》った肩を指先で軽く揉みながらため息をつく。「ソリス殿! 歳のことは言わない約束でゴザル!」 黒髪ショートカットのフィリアは、年季の入った丸眼鏡をクイッと上げて口をとがらせる。自分は言わずに必死に我慢している分だけ、不満は大きい。「ゴメンゴメン。最近は不景気で魔石の買取価格が下がっちゃ
泣き疲れ、ゆっくりと立ち上がるソリス――――。 戦いの興奮が冷めるにつれ、勝利の異様さが胸に刺さった。何度も死に、それでも生き返った自分。まるで物語の主人公にでもなったような非現実的な勝利に、倒した|赤鬼《オーガ》に申し訳なく思ってしまうくらいだった。 ソリスは大きくため息をつき、ステータスウィンドウを空中に広げてみる。ーーーーーーーーーーーーーーソリス:ヒューマン 女 三十九歳レベル:55 : :ギフト:|女神の祝福《アナスタシス》ーーーーーーー