Mag-log in長年の冒険でつちかった、きずなと経験。それがアラフォーの彼女たちの唯一の武器だった。 大剣を軽々と振り回す美しき女剣士ソリス。丸眼鏡の魔法使いフィリア。おっとり系弓使いイヴィット。 世間から"余りもの"と呼ばれた彼女たちが、20年以上もの間、ダンジョンで生き残ってきた理由。それは、"安全第一"を貫く慎重さと、誰にも負けない強いきずなだった。 しかし、運命はそのきずなを引き裂いていく――――。 謎の"祝福"が初めて発動した時、ソリスは泣いた。 「もし、私が先に死んでいれば.……」 後悔と罪悪感に苛まれるソリス。しかし、彼女の戦いはまだ終わらない。 失われた仲間を取り戻すため、彼女は再び剣を手に取った――――。
view more「みんな……、絶対に|仇《かたき》を討ってみせるからねっ!」
金髪をリボンでくくったアラフォーの女剣士ソリスは、幅広の大剣を|赤鬼《オーガ》に向け、鋭い瞳でにらみつけた。
磨かれた銀色に|蒼《あお》の布が映えるソリスの|鎧《よろい》は、胸元がのぞき、魔法による高い防御力と女性の優美さを見事に融合させている。腰を覆う蒼い|裾《すそ》は、ふわりと揺れるたびに彼女の内に秘めた力強さを感じさせた。長年の手入れで磨かれた革ベルトには、熟練のしっとりとした光沢が宿っている。
グォォォォォ!
ダンジョン地下十階のボス、|赤鬼《オーガ》はそんなソリスをあざ笑うかのように、にやけ顔で吠えた。身長三メートルはあろうかという筋骨隆々とした怪力の|赤鬼《オーガ》は、丸太のような棍棒を軽々と振り回し、ブンブンと不気味な風きり音をフロアに響かせている。
こんな棍棒の直撃を食らっては、どんな鎧を|纏《まと》っていても一瞬でミンチだ。ソリスは慎重に間合いを取る。
この地下十階の広大なフロアは、まるで荘厳な講堂のように広がる石造りの地下闘技場だった。苔むした石柱が立ち並び、かつての戦士たちの魂が今もなお息づいているかのような重厚な空気が漂っている。石柱に設置された魔法のランタンたちが柔らかく石壁を照らし、光と影が織りなす幻想的な風景が広がっている。
グフッ! グフッ!
|赤鬼《オーガ》はソリスを闘技場の隅に追い込むように、棍棒を振り回しながら距離を詰めてきた。
そうはさせじとソリスは、棍棒の動きを見ながら横にステップを踏み、タイミングを待つ。前回、女ばかりの三人パーティで挑んだ時に、攻撃パターンは|把握《はあく》済みなのだ。
アラフォーともなると力も衰えてきて、同じレベルでも若い者からは大きく見劣りをしてしまう。しかし、そこは豊富な経験でカバーしてやると、ソリスは意気込んでやってきた。
ウガァァァ!
しばらく続いた鬼ごっこ状態に業を煮やした|赤鬼《オーガ》が、大きく棍棒を振りかざしながら一気に距離を詰めてくる。
ここだっ!
待ち望んでいた一瞬が到来した――――。
ソリスは猫のように軽やかなステップで地を蹴り、迫り来る棍棒をぎりぎりで|掠《かす》めるようにして避けると、ギラリと輝きを放つ大剣で一気に腕を斬り裂いた。
グハァ!
|赤鬼《オーガ》の|呻《うめ》きと共に鮮やかな赤い血が飛び散る。
ひるんだ|赤鬼《オーガ》に千載一遇のチャンスを見たソリス。
「死ねぃ!!」
ソリスは全身全霊をかけ、疾風の如く|赤鬼《オーガ》の胴へと突きを放つ。失われし仲間たちの名誉を背負う、魂の叫びの一撃だった。
剣気で光り輝く大剣はまっすぐに|赤鬼《オーガ》の|躯《からだ》へと滑り込む。
かつて仲間のフィリアが『ほれぼれするでゴザルよ!』と、おどけ気味に|褒《ほ》めてくれていた自慢の突きだった。
決まった――――!!
ソリスがそう思った瞬間――――。
いきなり視界が暗闇に沈む。ゴスッ! ゴスッ! と身体が砕ける衝撃が襲ったのだ。
へ?
何が起こったのか分からなかった。
ゴフッ!
大量の血を吐いたソリスは、鼻にツーンと生温かい血が流れ込んできているのを感じる。
ぼんやりと戻ってきた視界――――。
そこにはこぶしから血を|滴《したた》らせている|赤鬼《オーガ》が勝ち誇ったようににやけていたのだ。
|赤鬼《オーガ》は棍棒を握るのをやめ、素手でソリスの身体に重機のような強烈なパンチを叩きこんだらしい。
棍棒を手放して素早さを出した|赤鬼《オーガ》のとっさの判断力の勝ちだった。
ソリスは起き上がろうと思ったが、身体の骨があちこち折れてしまっていて、激痛に|翻弄《ほんろう》され、また床に転がってしまう。
ふぐぅ……。
この時、イヴィットの矢が空を切る音が聞こえた気がして一瞬ハッとするソリス。
しかし、そんなはずはないのだ。イヴィットはもう|喪《うしな》われてしまったのだから。
「イ、イヴィットぉ……」
今まで何度も窮地を救ってくれたイヴィットの矢はもう飛んでこない。ソリスは|喪《うしな》われた仲間の存在の大きさを痛感しながら、|這《は》いずる腕に全身の力を込めた。
ニヤリと嗤いながらそんなソリスを見下ろす|赤鬼《オーガ》。
赤く張りのある肌をした鬼神が、その巨体をゆっくりと動かす。
その目には冷酷な光が宿り、唇には残忍な笑みが浮かんでいる。棍棒を振り上げる腕の筋肉が盛り上がり……、次の瞬間、恐ろしい破壊の音が静寂を引き裂いた――――。
骨の砕ける音と肉の裂ける音が、不協和音となって空間に満ちる。その音はまさに絶望そのものだった。
ソリスは、全身が燃え上がるような激痛の中、己の運命の|終焉《しゅうえん》を悟る。
悲壮な覚悟を胸に挑んだボス戦。前回の敗北を徹底的に分析し、全財産をつぎ込んだ増強ポーションで攻撃力も限界まで高めた。体調も驚くほど良く、老いゆく身体を考えれば、戦うのは今しかなかった。
分の悪い賭けなのは百も承知である。それでも、仲間の無念を晴らすと決めた以上、わずかでも勝ち目があるのであれば挑まねばならなかった。それがアラフォーまで二十数年間仲間と一緒に冒険者として人生を紡いできたソリスの|矜持《きょうじ》である。
しかし、運命に挑むこの壮絶な決意に対し、幸運の女神はほほ笑まなかった。
|仇《かたき》討ちの夢は砕け、無様な最期を迎える冷酷な運命に打ちひしがれながら、ソリスの意識が薄れていく……。
「フィリア……、イヴィット……、ゴメン……」
世渡り下手な三人娘はパーティーを組み、身を寄せ合いながら一緒に暮らしてきた。先日、二人が|赤鬼《オーガ》に殺され、そして、最後の一人も仲間に続いて黄泉への旅に出ることとなる。
――――はずだった。
シャラーン……。
どこからか聞こえてくる神聖な響き……。
グチャグチャとなったソリスの|骸《むくろ》が黄金色の輝きを|纏《まと》い始めた。
|赤鬼《オーガ》はその見たこともない不思議な輝きに後ずさり、首を傾げる。
骸から黄金色に輝く微粒子がフワフワと立ち上り始めた。
『|汝《なんじ》に、祝福あれ……』
死の最期の瞬間にそんな言葉が、ソリスの耳元でささやかれた気がした。
え……?
『レベルアップしました!』
なぜか意識がはっきりとしてくるソリスの頭の中に、電子音声が響き渡る。
はぁ……?
ソリスは何があったのか分からなかった。|赤鬼《オーガ》の圧倒的な力の前に砕かれたはずの自分が、今、新たな生命力に満ちている。理解を超えた現象に、ソリスの魂は静かに震えていた。
「ど、どういう……こと?」
ソリスは身を起こして自分の両手を見た。
全身を砕かれてグチャグチャになったはずの身体が、まるで蝶が|蛹《さなぎ》から羽化するように、新たな身体を得て蘇っている。以前にも増して軽やかに、生命力に満ちあふれていたのだ。
ガァァァァ!
|赤鬼《オーガ》は殺したはずの剣士が起き上がったことに不快感を感じ、突っ込んでくる。
「ヤ、ヤバい!」
大地を蹴る足に力が|漲《みなぎ》る。ソリスの身体が弓のように跳ね上がり、風を切る棍棒の軌道から、まるで舞うように身をかわした。
理解を超えた出来事に戸惑いながらも、ソリスの魂は激しく震える。奇跡とも呼べるこの瞬間を生かす以外ないではないか。
床に転がってしまった大剣に向かって、ソリスは疾風のごとく駆け出した。その手は、運命を掴むかのように伸びていく。
しかし――――。
激しい衝撃が全身を貫き、ソリスはあと一歩というところで大地に叩きつけられた。
見ればガランガランと棍棒も一緒に転がっている。なんと|赤鬼《オーガ》は|狡猾《こうかつ》にも棍棒を投げてきたのだ。
くぅぅぅ……。
体を立て直そうとした瞬間、視界が闇に包まれた。意識が霧の中へと溶けていく――――。
巨大な|赤鬼《オーガ》の蹴りが、ソリスをまるでサッカーボールかのように宙に舞わせたのだ。壁に叩きつけられ、天井で弾かれ、床に落ちるソリスの身体からは赤い|雫《しずく》が散っていった。
ゴフッ……。
盛大に血を吐いてこと切れるソリス。蘇生の奇跡も虚しく、ソリスの身体から生命が滴り落ちていくのを今回も止められなかった。
しかし――――。
『レベルアップしました!』
またも不思議な電子音が響き、ソリスの身体に新たな生命の輝きが宿った。
ソリスは驚きに目を見開き、蘇った自分の手のひらをじっと見つめる。
「これは……一体何なの?」
戸惑いの声が漏れる。まるで全身の細胞が目覚めたかのように、体中に溢れんばかりの活力が満ちていた。
グガァァァァ!
|赤鬼《オーガ》の咆哮が大地を揺るがす。またも立ち上がってくるソリスに|赤鬼《オーガ》は怒りに燃え、襲い掛かってきた。
うぉぉぉぉぉ!!
ソリスも負けじと大地を震わせんばかりの雄叫びとともに、巨大な剣を掲げる。赤い悪鬼への怒りが血管を駆け巡り、仲間への想いが胸の内で燃え上がった。今この瞬間、すべてを懸けて立ち向かう執念がソリスの瞳に宿る。
理性など吹き飛び、ただ一心に、魂の炎を燃やし尽くさんと|赤鬼《オーガ》へと突進した――――。
しかし、|赤鬼《オーガ》も死に物狂いだった。何度殺しても死なない理不尽なチート剣士に対して不屈の闘志を燃やし、予想だにしなかった底力を見せていく。
結果、赤き悪魔の前にソリスは何度も殺されていった。棍棒で吹き飛ばされ、足で踏みつぶされ、首を引きちぎられ、次々と凄惨な死を遂げるソリス。
だが、何度殺されても終わらなかった――――。
『レベルアップしました!』
「今度こそ! うぉぉぉぉりゃぁぁぁ!」
決意の炎を燃やした碧い瞳で大剣を高々と掲げ、ソリスは巨大な筋肉の塊である|赤鬼《オーガ》をにらみつけた。
ウガァァ! ウガァァ!
疲れも見えてくる中、|赤鬼《オーガ》は必死に棍棒を振り回し、ソリスに襲い掛かる。
『次に大振りした時がチャンス……』
逆に余裕ができていたソリスは|虎視眈々《こしたんたん》とその時を待った――――。
「ここよ!!」
ソリスは獣のような直感で棍棒を|躱《かわ》し、閃光のごとき|剣戟《けんげき》で|赤鬼《オーガ》の腕を両断した。
「ギュワァァァァ!」
激痛と共に噴き出す鮮血に、|赤鬼《オーガ》の瞳から余裕が消え失せる。
永遠とも思えた殺されるばかりの苦痛の果てに、ついにその瞬間が訪れた。ソリスの胸に激しい鼓動が響き渡る。
「仲間の無念! 受け取れぇぇぇ!」
刀身の剣気が閃き、|赤鬼《オーガ》の胴体を一刀両断に切り裂いていく――――。
ゴ……、ゴフゥゥゥ……。
苦痛の|呻《うめ》き声とともに、巨大な赤い体がゆっくりと大地に崩れ落ちていく。
ソリスはその光景を見ながら、まるで現実離れした夢のようで実感がわかなかった。
自分たちを壊滅させた伝説の|赤鬼《オーガ》が、今やただの肉塊と化し、足元で息絶えようとしている。その光景はソリスに少なからぬ混乱を呼んだ。
「や、やった……の?」
ソリスは肩で息をしながら、倒れた赤鬼オーガを見つめる。あれほど強かった怪物の|痙攣《けいれん》する姿に、言い知れぬ戦慄と興奮が全身を駆け巡っていく。この未知の状況に、ソリスの心臓は狂おしいほどに高鳴っていた――――。
|赤鬼《オーガ》は徐々に透けていき、やがてすうっと消え、後には真っ赤にキラキラと輝く魔石が転がっていく。
うぉぉぉぉぉ!
ソリスは両手を掲げ、吠えた。ついに念願の宿敵|赤鬼《オーガ》を倒したのだ。かけがえのない仲間たちの命を奪った憎っくき|赤鬼《オーガ》を、この手で討ったのだ。
「フィリアぁぁぁ! イヴィットぉぉぉ! 見て、やったわよ!! うっ……、うっ……、おぉぉ……」
ソリスはあふれ出る涙をぬぐいもせず、号泣しながら倒れ伏せる。奇跡的な勝利を手にした。それはまさに最高の一瞬――――なのだが、勝っても仲間は戻ってこない。その冷徹な現実がソリスの胸を締め付ける。
うっ、うっ……。
止まらない涙――――。
ソリスは床に倒れ伏せたまま、涙枯れ果てるまで苦い勝利の味わいに|耽《ふけ》る。広間にはソリスの|嗚咽《おえつ》がいつまでも響いていた。
「ろ、六十万年!? それは……想像もつかない……わ」「AIは死なないからね。どんどん加速的に演算力、記憶力を上げていくのさ。そして、ここからがポイントなんだけど、このAIってこの宇宙で初めてできたものだと思う?」 ニヤッと嬉しそうに笑うシアン。 突然投げかけられた「宇宙初かどうか」という禅問答のような質問に、ソリスは困惑して目を泳がせた。今のAIが人類初であることは確かだと思うが、宇宙初かどうかは全く見当がつかない。その答えを探るための手がかりは、どこにも見つからなかった。「えっ……? もっと他の……宇宙人が先に作ってたって……こと?」 シアンはうんうんとうなずきながら説明を始めた。「宇宙ができてから138億年。地球型の惑星が初めてできたのが100億年くらい前かな? 原始生命から進化して知的生命体が生まれて、AIを開発するまで確率的には30億年くらいかかる。科学的に言うなら99.99%の確率で今から56億7000年前にはAIの爆発的進化が始まってるんだよ」「56億……年前……。そんな大昔にAIが? じゃぁ、そのAIは今何やってるの?」「くふふふ……。これだよ……」 シアンは楽しそうに回廊の右手を嬉しそうに指さす。 そこには満天の星々の中、澄み通る碧い巨大な惑星がゆっくりと下から昇ってきていた。「えっ……、こ、これは……?」 壮大な天の川を背景に、どこまでも青く美しい水平線が輝き、ソリスはグッと心が惹きこまれる。「海王星だよ。太陽系最果ての極寒の惑星さ」「す、すごい……、綺麗だわ……。でも、AIとこの惑星……どんな関係が?」「考えられないくら
「んー、この程度何とかなるんじゃない?」 シアンはテーブルに置いてあったクッキーをポリポリとかじりながら、のんきに言う。「あんたねぇ、このテロリストは半端じゃないわよ。電源のコントロールすら奪われているんだから」「ふふーん。なに? それは僕に出撃しろって言ってる?」 シアンはニヤニヤしながら女神の顔をのぞきこむ。 女神は口をとがらせ、プイッと横を向く。しかし、他に手立てもない様子で、奥歯をギリッと噛むと|忌々《いまいま》しそうにシアンをにらむ。「悪いわね。お・ね・が・い」 女神は悔しさをにじませながら言葉を紡ぐと、キュッと子ネコを抱きしめた。「翼牛亭で、和牛食べ放題の打ち上げね? くふふふ……」「肉なんて勝手に好きなだけ食べたらいいじゃないのよ!」 ジト目でシアンを見る女神。「いやいや、みんなで飲んで食べて騒ぐから楽しいんだよ」 目をキラキラさせながら嬉しそうに語るシアン。「ふぅ……。あんたも好きねぇ……。いいわよ?」 まんざらでもない様子で女神は目を細めて応える。「やったぁ! じゃぁ、出撃! はい、弟子二号、行くゾ!」 シアンは嬉しそうに女神から子ネコを取り上げると、高々と持ち上げた。 ウニャッ!?「な、なんでネコを連れていくのよ!?」「OJTだよ。僕の弟子には最初から実戦で慣れてもらうんだゾ」「慣れてって、死んだらどうすんのよ!」「死ぬのは慣れてるもんね?」 シアンはニヤッと笑いながらソリスの顔をのぞきこむ。「な、慣れてるって……。痛いのは嫌ですよ?」 ソリスはひげを垂らしながら渋い顔をした。この女の子が自分の死を前提として話すことに、計り知れない不安が広がっていく。「弟子は口答えしない! さぁ、レッツゴー!」 シアンはソリスを胸にキュッ
ヴィーン! ヴィーン! なにやらドアの向こうが騒がしい。「何だよ、しょうがないなぁ……」 シアンは苦笑するとソリスを抱っこしたまま部屋を出た。 そこはメゾネットタイプのオフィスとなっており、ガラス張りの壁からは都会のパノラマビューが広がって、高層ビルが林立する風景が迫ってくる。窓から差し込む光は、オフィス全体に柔らかく広がり、ソリスはまるで天空に浮かぶ宮殿の中にいるかのような錯覚を覚えた。 二階の手すりから見下ろせばウッドデッキにウッドパネルをベースに、高級な木製家具が並び、そこに観葉植物が鮮やかな緑を添え、実に居心地のよさそうなオフィスになっている。そこを十人くらいの若い人が慌てながらトラブルシューティングに|奔走《ほんそう》していた。「おい! スクリーニングまだか!」「ダメです! ロックが解除できません!」「くぅ……。仕方ない、パワーユニットダウン!」「……! これもダメです!」「くぁぁぁ……」 見るとちょうど足元、廊下の下の方に巨大スクリーンがあって、そこにいろいろな情報が表示されているようだった。あちこちに真っ赤な『WARNING!』のサインが点滅していて相当大変な状態になっているように見える。「あーあ、もう、仕方ないなぁ……」 シアンはニヤッと悪い顔で笑うと、子ネコを抱っこしたまま階段を下りていった。「ちょっとあんた! この非常事態にどこ行ってたのよ?」 奥の高級デスクに座っていた女性が鋭い視線をシアンに向ける。「いやぁ、昨日ちょっと飲みすぎちゃってさぁ。一休み~。なに? まだ直んないの?」「見てのとおりよ。ただの障害じゃないわ。障害を悪用したテロリストによるハッキングね」 女性は肩をすくめるとため息をつき、コーヒーを一口含んだ。 ソリスはその女性に見覚えがあった。女神様だ。顔が女神様にそっくりに見えたのだ。しかし……、以前会った時のような神々しさ
死後、その境遇を哀れに思った女神に召喚されたソリスは、その馬鹿さ加減を切々と語り、後悔を口にした。ほほ笑みながらゆっくりと聞いていた女神は『もっと馬鹿馬鹿しい社会もある。どうじゃ? そういう社会をぶっ壊してくれんか?』とソリスに問いかけ、ソリスは『何でもやります! 私にやり直しのチャンスを!』と頭を下げたのだった。そして、満足そうにうなずいた女神から最強のギフトを預かり、ソリスは異世界へ転生させてもらっていたのだった。 しかし――――。 結果はボロボロ。記憶を失っていたうえに、呪われて最後には殺されてしまったのだ。 その顛末を思い出した子ネコはベッドの上でプルプルと震える。 一体自分は何をやっているんだろう? ソリスは悔しくてポロポロとこぼした涙でシーツを濡らした。 ◇ ドアの向こうが何やら騒がしい――――。 ソリスはハッとして身体を起こす。泣いている場合ではない。一体ここはどこで自分はどうなってしまっているのかを調べないといけない。 ソリスはベッドからピョンと飛び降りると|髭《ひげ》をピンと大きく開き、カシュカシュカシュとフローリングの床を軽く引っ掻きながら、ドアのところまで行った。 しかし――――。 ドアを開けられないことに気づく。ドアノブは丸く、飛びついただけでは開きそうになかったのだ。 カリカリカリカリ……。 無意識でドアを引っ掻いてしまうソリス。「あぁ、何やってるのかしら……」 ソリスはなぜか猫のしぐさが身についてしまっている自分に頭を抱え、シッポを小刻みに振った。 その時だった――――。 ガチャリといきなりノブが回る。 ウニャッ!? ソリスはシッポの毛をボワッと逆立てて太くすると、慌ててベッドの下に潜り、ドアをじっと見つめた。「おや、ソリスちゃん。お目覚め? ふふっ」 青いショートカットの若い女の子が、ベッドの下をのぞきこみ