All Chapters of アラフォーだって輝ける! 美しき不死チート女剣士の無双冒険譚 ~仲良しトリオと呪われた祝福~: Chapter 1 - Chapter 5

5 Chapters

1. 九死に一勝

「みんな……、絶対に|仇《かたき》を討ってみせるからねっ!」 金髪をリボンでくくったアラフォーの女剣士ソリスは、幅広の大剣を|赤鬼《オーガ》に向け、鋭い瞳でにらみつけた。 磨かれた銀色に|蒼《あお》の布が映えるソリスの|鎧《よろい》は、胸元がのぞき、魔法による高い防御力と女性の優美さを見事に融合させている。腰を覆う蒼い|裾《すそ》は、ふわりと揺れるたびに彼女の内に秘めた力強さを感じさせた。長年の手入れで磨かれた革ベルトには、熟練のしっとりとした光沢が宿っている。 グォォォォォ! ダンジョン地下十階のボス、|赤鬼《オーガ》はそんなソリスをあざ笑うかのように、にやけ顔で吠えた。身長三メートルはあろうかという筋骨隆々とした怪力の|赤鬼《オーガ》は、丸太のような棍棒を軽々と振り回し、ブンブンと不気味な風きり音をフロアに響かせている。 こんな棍棒の直撃を食らっては、どんな鎧を|纏《まと》っていても一瞬でミンチだ。ソリスは慎重に間合いを取る。 この地下十階の広大なフロアは、まるで荘厳な講堂のように広がる石造りの地下闘技場だった。苔むした石柱が立ち並び、かつての戦士たちの魂が今もなお息づいているかのような重厚な空気が漂っている。石柱に設置された魔法のランタンたちが柔らかく石壁を照らし、光と影が織りなす幻想的な風景が広がっている。 グフッ! グフッ! |赤鬼《オーガ》はソリスを闘技場の隅に追い込むように、棍棒を振り回しながら距離を詰めてきた。 そうはさせじとソリスは、棍棒の動きを見ながら横にステップを踏み、タイミングを待つ。前回、女ばかりの三人パーティで挑んだ時に、攻撃パターンは|把握《はあく》済みなのだ。 アラフォーともなると力も衰えてきて、同じレベルでも若い者からは大きく見劣りをしてしまう。しかし、そこは豊富な経験でカバーしてやると、ソリスは意気込んでやってきた。 ウガァァァ! しばらく続いた鬼ごっこ状態に業を煮やした|赤鬼《オーガ》が、大きく棍棒を振りかざしながら一気に距離を詰めてくる。 ここだっ! 待ち望んでいた一瞬が到来した――――。 ソリスは猫のように軽やかなステップで地を蹴り、迫り来る棍棒をぎりぎりで|掠《かす》めるようにして避けると、ギラリと輝きを放つ大剣で一気に腕を斬り裂いた。 グハァ! |赤鬼《オーガ》の|呻《うめ》きと共に鮮
last updateLast Updated : 2025-10-23
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2. 余りモノ不器用トリオ

 泣き疲れ、ゆっくりと立ち上がるソリス――――。 戦いの興奮が冷めるにつれ、勝利の異様さが胸に刺さった。何度も死に、それでも生き返った自分。まるで物語の主人公にでもなったような非現実的な勝利に、倒した|赤鬼《オーガ》に申し訳なく思ってしまうくらいだった。 ソリスは大きくため息をつき、ステータスウィンドウを空中に広げてみる。ーーーーーーーーーーーーーーソリス:ヒューマン 女 三十九歳レベル:55 : :ギフト:|女神の祝福《アナスタシス》ーーーーーーーーーーーーーー いつの間にかレベルが40から55にもなっていたことにも驚いたが、ギフトの項目の【|女神の祝福《アナスタシス》】に目が留まった。 もしかしたら、これが死後の復活を行ってくれたのかもしれない。 今までこれがどんな効果を持つのか分からず、ソリスは長年疑問に思ってきたのだった。女神を|祀《まつ》る教会で聞いても『前例がない』と、一蹴されていた謎のギフト。まさか死後に復活し、なおかつレベルアップもしてくれるチート級のギフトだったとは全く分からなかった。「早く気づいていれば……」 ソリスはがっくりと肩を落とす。 自分のことを死なせまいと必死に頑張ってくれていた仲間。しかし、それが逆にギフトの把握を遅らせ、結果、仲間を失うことになってしまったという皮肉に、ソリスはやるせなく動けなくなった。「自分が先に死んでいたら……」 亡き仲間たちへの思いが胸を圧迫し、ソリスは悲しみの|雫《しずく》を一つまた一つと|零《こぼ》した。          ◇ 時は二十数年さかのぼる――――。 まだ十六歳だったころ、孤児院の院長からメイドの仕事を紹介してもらったソリスは、面接で仕事先のお屋敷に|赴《おもむ》いた。「ほう、なかなかいいじゃないか。男性経験はあるのかね?」 最終面接で出てきた雇用主の男爵は、|顎髭《あご
last updateLast Updated : 2025-10-23
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3. 幻精姫遊

 運命の日、前日――――。 時は|赤鬼《オーガ》戦勝利の日から一週間ほどさかのぼる。 茜色に染まる空の下、ダンジョンの暗闇から|這《は》い出すように帰路につく三人。石畳の大通りを歩む彼女たちの足音は、重い疲労と共に夕暮れの街に響いていた。「はぁ~、この歳に肉体労働は疲れるわ……」 ソリスは|凝《こ》った肩を指先で軽く揉みながらため息をつく。「ソリス殿! 歳のことは言わない約束でゴザル!」 黒髪ショートカットのフィリアは、年季の入った丸眼鏡をクイッと上げて口をとがらせる。自分は言わずに必死に我慢している分だけ、不満は大きい。「ゴメンゴメン。最近は不景気で魔石の買取価格が下がっちゃってるから、こんな時間まで頑張らなきゃならないのよねぇ」「不景気……、嫌い……」 冒険の勲章のように、汚れが目立つモスグリーンのチュニックを着たイヴィットは、凝り固まった首筋をゆっくりと回した。疲労を訴えるポキポキという音が響き、続く不満げなため息は、今日の重労働を雄弁に語っていた。 夕暮れの大通りには多くの店がにぎわい、美味しそうな肉を焼く香りも漂ってくる。「不景気だっていうのに、お金持っている人は持っているのよねぇ……。もっとダンジョンの奥まで……潜りたくなるわ」 ソリスは足を止め、繁盛している焼き肉屋をにらんだ。「ソリス殿! 『安全第一』がうちらのモットーでゴザルよ!」 フィリアはすかさず突っ込んだ。|華年絆姫《プリムローズ》は二十三年間、無事故で無事にやってこれている。それは『安全第一』を徹底していたからだった。 同期のパーティーはすでに全滅したり、メンバーを|喪《うしな》って解散したりしてもはや一つも残っていない。それだけ冒険者稼業は危険で過酷。少しでも欲をかいた者をダンジョンは許さない。調子に乗って奥まで進み、気がつけば身の丈を超える状況に追い込まれ、消えていくのだった。「分かってるって。『安全第一』……。でもたまには焼肉も食べたいのよ……」 うつむきながら漏らす本音に、フィリアもイヴィットも何も言わなかった。「はぁ、やめやめ! 魔石を換金して夕飯にしましょ!」 ソリスは気丈に歩き出す。 しかし、その足はすぐに止まってしまった。水色が鮮やかな新作のチュニックが綺麗にライトアップされていたのだ。マネキンが身に|纏《まと》ったチュニックは、まる
last updateLast Updated : 2025-10-23
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4. 禁断の果実

「な、何階だって関係ないでしょ!」 ソリスはギリッと奥歯を鳴らし、叫ぶ。「何その小汚いぬいぐるみ? 貧乏くさっ!」「いい歳してガキみたい」「ダッセェ! キャハハハ!」 |幻精姫遊《フェアリーフレンズ》たちはソリスのリュックについたぬいぐるみを嗤う。 ブチッ! と、ソリスの頭の中で何かが切れる音がした。 確かに彼らのバッグについているバッグチャームは、金属でできた高価なブランドものではあったが、イヴィットの想いのこもったぬいぐるみを馬鹿にされるいわれなどなかった。「小娘! 言っていいことと悪いことがあるでしょ!?」 ソリスは頭から湯気を上げながらツカツカとリーダーに迫る。「あら、オバサン。冒険者同士のケンカはご法度よ?」 ジョッキのリンゴ酒を呷りながら立ち上がり、ニヤニヤ笑いながらソリスの顔をのぞきこむリーダー。「お前が売ってきたケンカでしょ!?」 ソリスはガシッとリーダーの腕をつかんだ。「痛い! いたーい! 助けてー!! 誰かー!!」 急に喚き始めるリーダー。「な、何よ……。腕を持っただけよ?」 何が起こったのか分からず唖然とするソリス。「何やってるんだ!」 奥の方から金色の鎧を身に着けた若い男が飛んできた。「助けて、ブレイドハート!!」 リーダーは涙目になって訴える。「お前! 何してる!!」 ブレイドハートと呼ばれた男は二人の間に入るとソリスの腕を払った。この男はまだ十八歳の若きAクラス剣士で、ギルドではトップクラスのホープだった。「な、何って、彼女がケンカ吹っ掛けてくるから……」「痛ぁい! 骨が折れたかも……」 リーダーは腕を抱えてうずくまる。「おい! 大丈夫か? ヒーラー! ヒーラーは居るか!?」「いや、私、ただ、腕を持っただけなんだけど?」「何言
last updateLast Updated : 2025-10-24
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5. 絶望の響き

 中は話に聞いた通り闘技場のような広大な広間となっており、壁沿いの柱列に配置された魔法のランタンが一つずつ火を灯し始め、ゆっくりと神秘的な明かりで空間を満たしていった。 まるで遥か古の魔術が目覚めるかのように、広間の中央で黄金の輝きを放つ魔法陣がゆっくりと姿を現す。その輝きの中心から、まるで大地の怒りを体現するかのように、|赤鬼《オーガ》が威風堂々と立ち上がる。その血のように赤い肌、頭部から勇ましく突き出た二本の角は鬼の王者としての誇りを示していた。「あ、あれが|赤鬼《オーガ》でゴザル……か?」 フィリアの心臓が、|赤鬼《オーガ》から放たれる威圧的なオーラに震えた。その存在感は、これまで立ち向かってきたどの敵をも凌駕し、まるで暗黒の渦に飲み込まれそうな圧迫感があった。 熱い決意で挑んだボス戦。しかし、目の前に立ちはだかる想像を超えた強敵に、三人の心に恐れの影が忍び寄る。三人の額を浮かぶ冷汗は、内なる動揺の証だった。「ビビっちゃダメ! あれに勝つの! 私たちはあいつより強い! いいね?」 ソリスはバクンバクンと高鳴る心臓に浮足立ちながらも、フィリアの手をギュッと握り返す。「私たち……、あれより強い……の?」 すっかり雰囲気にのまれてしまっているイヴィット。「強い! 勝てる! |華年絆姫《プリムローズ》は常勝無敗よ? この世界は強いと信じたものが勝つの! 信じて!」「わ、分かったでゴザル……強い……強い……」「そう、強い……勝てる……」 フィリアもイヴィットもギュッと目をつぶり、ブツブツと自分に暗示をかけていく。 いよいよ三人の人生をかけた命がけのチャレンジが始まる――――。 身長三メートルはあろうかという、巨大な筋肉の塊である|赤鬼《オーガ》はいやらしい笑み浮かべ、三人娘を|睥睨《へいげい》した。 グフフフ…
last updateLast Updated : 2025-10-25
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