All Chapters of アラフォーだって輝ける! 美しき不死チート女剣士の無双冒険譚 ~仲良しトリオと呪われた祝福~: Chapter 11 - Chapter 20

49 Chapters

11. 最高の死に方

 本当に……、そうか……? ソリスは胸の奥からあふれてくる違和感に頭を抱える。 仲間二人が亡くなったというのに自分は豪遊? 本当に? ソリスはギリッと奥歯を鳴らし、流されそうになってしまう自分を、ギリギリのところで食い止める。 |華年絆姫《プリムローズ》の名を歴史に刻む、それが喪われた仲間に対する|贖罪《しょくざい》であり、責任なのだ。 ソリスは自分の頬をパンパンと張る。「|退《ひ》かない! 何度だって死んでやるわ! フィリア……イヴィット……見ててよ!」 ソリスは全身に気迫を漲らせ、ボス部屋の巨大な扉を押し開けた。      ◇ ここのボスは、過去の踏破者の話によると物理攻撃が効かず、光魔法を湯水のように乱射して力押ししたという話だった。大剣しか攻撃方法のないソリスには極めて相性の悪い敵である。生き返るとしても、どんなにレベルを上げても倒せないのだとしたら、二度とボス部屋からは出られない。無限に殺され続けるだけになってしまうのだ。 ソリスはブルっと身体を震わせて、その嫌なイメージを振り払う。 ポケットからトパーズの魔晶石を取り出すと、パチッと大剣のツバの穴にはめた。 ヴゥン……。 大剣はかすかに震え、黄金色の輝きがツバのところから徐々に刀身に広がっていく。やがて大剣全体が激しく黄金色に輝いた。大剣に神聖力を付与したのだ。これで斬りつければ光魔法と同じ効果が付与される。もちろん、僧侶の放つ光魔法には遠く及ばない攻撃力ではあるが、わずかでも攻撃力が通るのであれば活路は開けるとソリスは考えていた。 ソリスは目の前に大剣を立て、目をつぶり、大きく深呼吸を繰り返す。このボスを超えれば実質過去の最高到達深度に並ぶ。|華年絆姫《プリムローズ》の名が街に轟くのだ。喪われてしまった二人の名誉のためにも絶対に勝たねばならない。 ソリスは大剣を風のように振り回し、一連の流れるような動
last updateLast Updated : 2025-10-31
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12. 呪われた漆黒の炎

『レベルアップしました!』 黄金の光に包まれながらソリスは立ち上がり、大剣を一気にゴスロリ少女へと叩きこむ。 うひぃぃぃ! まるで霧を斬るかのように全く手ごたえはなかったが、斬る刹那、大剣は閃光を放ち、少女はビクンと|痙攣《けいれん》して逃げだしていく。少しはダメージが入っているようだった。「『お馬鹿』は誰だろうなっ!」 ソリスはダッシュで追いかけもう一発大剣で一刀両断にする。「な、何よあんた!? 殺したはずなのに! 死ねぇぇぇ!!」 空間に無数の漆黒の短剣が浮かび、また、ソリスに向けて超高速で吹っ飛んでくる。 くっ! 大剣でいくつか払ったが、とても全部は払えず、ソリスはまたハチの巣となって地面に崩れ落ちた。この短剣は鎧をすり抜けて身体を貫通していく。ある種の黒魔法のようだった。『レベルアップしました!』 黄金の光を纏い、ゆらりと再度立ち上がるソリス――――。「あ、あんた……。何なの……?」 ニヤリと笑いながら大剣を構えるソリスに、ゴスロリ少女の黒い唇がぴくぴくと震えた。「|汝《なんじ》を倒す者、|華年絆姫《プリムローズ》!!」 ソリスはさらに増した瞬発力を生かし、一気にゴスロリ少女に迫る。 しかし、ゴスロリ少女も負けていない。漆黒の短剣を無数浮かび上がらせると、そんなソリスをハチの巣にして打ちのめす。 ぐはぁ!!『レベルアップしました!』 またも立ち上がったソリスは悪い顔をしながら言い放つ。「クックック……。悪いねぇ。もうあたしの勝ちなんだわ……」「マ、マジかよ……。あんた、もはや魔物だわよ……」 ゴスロリ少女はウンザリしたように首を振った。「さっきのフィリアとイヴィットはどうやって出したの?」 ソリスは鋭い視線で大剣を少女に向けた。「知らないわ。あたしは幻惑のスキルを使っただけだもの」「幻惑……? でも、それならフィリアはイメージ通りのことを言うはず。変なことを言っていたあれは単なる私の幻覚なはずがない」「ふふっ、だったら本物なんじゃない?」 ゴスロリ少女は肩をすくめる。「ほ、本物……? フィリアは死んだのよ!」「は? はっ、ははははっ!」 ゴスロリ少女は腹を抱えて笑った。「な、何がおかしいのよ!!」「あんたも何度も死んでるじゃない」 ゴスロリ少女はふぅと大きくため息をつくと、忌々しそうにソリ
last updateLast Updated : 2025-11-01
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13. 筋鬼猿王

 ボス部屋を出て、隅の小部屋で堅いパンと干し肉をかじり、お茶を飲みながら疲れをいやすソリス。「はぁ……。詰めが甘かったなぁ……」 勝って浮かれて、最後に訳わからない攻撃を食らってしまったことに頭を抱えた。「一体何を食らったんだ……?」 人心地着いたところで、ソリスは大きく息をつくと、恐る恐るステータスウィンドウを開いてみる――――。ーーーーーーーーーーーーーーソリス:ヒューマン 女 三十九歳レベル:95 : :ギフト:|女神の祝福《アナスタシス》【呪い:若化】ーーーーーーーーーーーーーー「ゲッ……。何これ……」 ソリスは顔を歪めて思わず宙を仰いだ。 レベルが95ともはやSランクになっているのも驚きだったが、それ以上に【呪い:若化】という不気味な文言に、ソリスは嫌な汗が噴きだしてきた。 【若化】などという呪いは聞いたこともない。文字だけ見れば『若くなる』ということであり、いい事なのではないかと思うが、ゴスロリ少女が『ざまぁ!』と嗤っていた呪いである。きっと面倒な呪いに違いない。 それに呪いは冒険者の間ではひどく忌み嫌われており、呪い持ちは邪険に扱われ、遠ざけられてしまうのだ。それは呪いの中には伝染力を持つ物もあり、触れた人に|伝染《うつ》ったり、増殖したりしたケースもあったからでもあるが、ゲンを担ぐ命懸けの職業である冒険者にとって、呪いが『気分を落とす縁起の悪いもの』とされていることが大きなところだった。 この呪いも他の人に|伝染《うつ》してしまったとしたら大問題である。|華年絆姫《プリムローズ》は名誉どころの話ではなく、呪われた汚点になってしまう。「マズい、マズいわ……」 なんとか解呪しなくてはならなかったが、呪いなどどうやって解いたらいいか分からない。ソリスは頭を抱え、必死に解決策を模索する。 
last updateLast Updated : 2025-11-02
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14. 絶望の味

「こんなもん使わず、拳で語らんかい!」 うろたえるソリスの顔面を冷酷無比のメリケンサックが撃ち抜いた。 ゴリッ! 意識を一瞬で持っていかれ、ボコボコに撲殺されてしまうソリス。「ふんっ! 弱すぎて話にならんわ……」 |筋鬼猿王《バッフガイバブーン》はメリケンサックから血を滴らせ、鼻で嗤いながら広間の奥へと|踵《きびす》を返した。『レベルアップしました!』 黄金の光を纏いながら立ち上がったソリスは、油断している|筋鬼猿王《バッフガイバブーン》に後方から襲い掛かる。 全体重を乗せた渾身の右ストレートを|筋鬼猿王《バッフガイバブーン》の後頭部目がけ放った――――。 しかし、|筋鬼猿王《バッフガイバブーン》は直前でスッと身体を揺らして避け、逆に体制の崩れたソリスを狙い撃ちにした。 ゴスッ! ゴリッ! メリケンサックが骨を砕く嫌な音が広間に響き渡る――――。「ふぅ、危ない危ない。油断も隙も無い。確かに殺したはずじゃったが……」『レベルアップしました!』 黄金の光に包まれながら立ち上がるソリス。ただ、黄金の光に混じってかすかに紫色の怪しい光が揺れていたのにソリスは気がつかなかった。「な、何だお前……チートか?」 |筋鬼猿王《バッフガイバブーン》は呆れたように首を振る。「|華年絆姫《プリムローズ》の名のもとにお前を倒す。悪いがお前はもう死んでいる」 ソリスは前傾しながら両腕で顔をかばい、ボクシングのファイティングポーズをとった。「ほざけ! そんなド素人の技が通じるかい!」 |筋鬼猿王《バッフガイバブーン》は豊かに膨らんだ大胸筋を躍動させ、強烈なボディーを一発叩きこむ。鎧の金属プレートごしにでも衝撃がレバーに届いた。 ゴフッ! 胃液が逆流しそうになり、ガードが甘くなった隙を|筋鬼猿王《バッフガイバブーン》は見逃さない。 ソイヤー!
last updateLast Updated : 2025-11-03
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15. 勝利の鈍い音

 ソイヤー! |筋鬼猿王《バッフガイバブーン》はまっすぐにソリスに突っ込んできた。 慌ててソリスはステップを踏みながら回避をしようとする。しかし、闘志に燃える|筋鬼猿王《バッフガイバブーン》は狂気じみた眼差しでソリスの退路をふさぎ、徐々にフロアの隅へと追い込んでいった。 くっ! もう一度マウントされたら、赤ちゃんになるまで殺され続けてしまう。ソリスは必死に退路を探すが、必死な|筋鬼猿王《バッフガイバブーン》の追い込みに逃げられそうになかった。「くぅぅぅ……仕方ない……。やってやるわよ!!」 ソリスは覚悟を決めると、逆に一気に|筋鬼猿王《バッフガイバブーン》の方に飛び込んでいく。 馬鹿が! |筋鬼猿王《バッフガイバブーン》の鮮烈な右ストレートがソリスの腕を砕く。 ぐふっ! が、止まらない。ソリスは激痛をこらえながら、そのまま|筋鬼猿王《バッフガイバブーン》を押し倒し、逆にマウントポジションを取ったのだった。「くっ! マウントくらいじゃ変わんねーよ!」 |筋鬼猿王《バッフガイバブーン》は下からソリスの額を撃ち抜く。 しかし、マウントされた状態では全然パワーは乗らない。ソリスは逆にその腕を取ると全体重をかけてへし折ったのだ。 ゴキィ! 壮絶な音が広間に響き渡る。「グギャッ!! ふ、ふざけんな!」 |筋鬼猿王《バッフガイバブーン》は残った左腕で渾身の力を込めてソリスのこめかみを撃ち抜いた。 ゴフッ! |筋鬼猿王《バッフガイバブーン》の上に倒れ込むようにして死んだソリス。「ちっ! どけぃ!」 |筋鬼猿王《バッフガイバブーン》は慌ててソリスの死体を蹴り飛ばし、マウントを取りに行こうとしたが、砕けた右腕の激痛によろけ、間に合わなかった。『レベルアップしました!』 黄金色に輝きながら立ち上がってくるソリスに、|筋鬼猿王《バッフガイバブーン》は右腕を押さえながら
last updateLast Updated : 2025-11-04
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16. 飲み込む言葉

 ぐぁぁぁぁ! ついに両腕を失った|筋鬼猿王《バッフガイバブーン》は絶望の悲鳴を上げる。 飛びのいたソリスは肩で息をしながら、絶望の淵に立つ|筋鬼猿王《バッフガイバブーン》を見つめた。 |筋鬼猿王《バッフガイバブーン》は砕けた両腕をだらんとたらしながら、うつろな目で宙を見上げている。 胸を狙っていれば|筋鬼猿王《バッフガイバブーン》が勝っていたはずだった。|筋鬼猿王《バッフガイバブーン》は『なぜ顔など狙ってしまったのか……?』と、最後の最後で慢心があったことに悔やんでも悔やみきれず、ギリッと奥歯を鳴らし、さめざめと涙をこぼした。 ソリスは、すっかりワンピースみたいに長くなってしまったチュニックのすそをたくし上げ、結んだ。「さぁ、そろそろエンディングにさせて……」 |筋鬼猿王《バッフガイバブーン》に向けてファイティングポーズをとるソリス。勝利は確信しているものの、慣れない子供姿に心中穏やかでなかったのだ。 |筋鬼猿王《バッフガイバブーン》は絶望の笑みを浮かべながらソリスを見る。「お前……、この世界のモンじゃねーだろ……」 は……? ソリスは何を言われたのか分からなかった。自分は孤児として孤児院に育ち、冒険者になった、れっきとしたこの世界の人間である。「こぶしを交えてわかった。お前にはこの世界の者にはない、訳わからない情念がある。この世界の人間ってのはもっとシンプルなんだよ」「シ、シンプル……?」 ゴスロリ少女には『女神と会ったはず』と言われ、|筋鬼猿王《バッフガイバブーン》には『この世界の者ではない』と言われる。一体これはどういうことなのだろう? と、ソリスは渋い顔をして首をひねった。「まあいい、お前の勝ちだ。このザマじゃもはや勝負にならん。また、鍛えなおしだ」 |筋鬼猿王《バッフガイバブーン》はため息をつき、首を振った。「悪いね
last updateLast Updated : 2025-11-05
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17. 営業スマイル

 ソリスは街の中心部、大聖堂にまでやってきた――――。 天を突くような尖塔に、壮大な彫刻が施された豪奢なファサードはこの街のシンボルともなっている。 ゴスロリ少女の話からすれば、呪いも女神に関係するものらしい。であるならば、やはり教会に相談するのが筋だと思ったのだ。 大聖堂の大きな扉を恐る恐る押し開けると、重厚な空気が全身を包み込む。見上げれば、精緻なレリーフで飾られた見事なゴシックアーチが息をのむような美しさを放っていた。鮮やかな色彩がステンドグラスから漏れ、祭壇上の女神像に神秘的な輝きを与えている。 うわぁ……。 大聖堂の中を見るのは初めてだったソリスは、想像以上の荘厳さに圧倒され、思わず立ち尽くした。「おや、お嬢ちゃん、どうしたの?」 クリーム色の法衣をまとったシスターが|屈《かが》みながら、にこやかに声をかけてくる。「あっ! いや……あの……」 心の準備ができていなかったソリスは心臓が跳ね上がり、言葉がとっさに出てこなかった。「ふふっ。落ち着いて、お嬢ちゃん……」 シスターはその慌てっぷりを微笑ましく思ったが、中身はアラフォーなことは気がつかない。 ソリスは息を整えると、シスターに手を合わせて懇願した。「の、呪いを解いて欲しいんです」「の、呪い……?」 シスターは顔を曇らせ、後ずさる。「【若化】という呪いがかかってしまっているようなんです」「若返るって……ことかしら? でも、それってむしろ【祝福】じゃないの?」 シスターはソリスの気も知らず、のんきなことを言う。若返りに副作用があるかもしれない今、呪いはただのリスクでしかないのだ。もしかしたら今、この瞬間も若返りが進んでいるかもしれないし、後で一気に老化してしまうかもしれない。何より堂々と人前に出られないことが一番歯がゆかったのだ。「内容は
last updateLast Updated : 2025-11-06
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18. 奮発した白パン

「うわー! 何をするんじゃ!」 財布を奪われ、うろたえながら取り戻そうと暴れる司教。「ちょっと、あなた! 止めなさい!」 シスターもソリスを押さえにかかる。しかし、レベル124の圧倒的なパワーに一般人が敵うわけがない。 ソリスは二人をはねのけるとピョンとテーブルの上に飛び乗り、金貨十枚を財布から抜き取った。「こんないい加減な祈祷してたら、女神様から罰が当たるわよ!」 司教に財布を投げつけるソリス。「くぅぅぅ……。この異端者が!! 曲者だ! 出会え出会えーー!」 司教は怒りで顔を真っ赤にしながらピーピー! と笛を吹きならした。 バタバタと廊下を誰かが駆けてくる足音が響いてくる。「ちっ! 何が『異端者』だ! 生臭坊主が!!」 ソリスは辺りを見回し、窓を開けるとそのままピョンと外に飛び出した。 へっ!? キャァァァ! 五階の窓から飛び降りる少女を見て、司教もシスターも息をのむ。しかし、ソリスにとってはこの高さはもはやただの『小さな挑戦』にすぎなかった。彼女はバサバサっと葉を散らしながら庭木の枝をうまくつかむと、クルリと軽やかに空中を舞い、次々と枝を渡り歩きながら高度を下げていく。その流れるような動きは、まるで森を躍動するサルのよう。最後には、三メートルはあろうかという高い塀を軽々と飛び越え、消えていく。 司教とシスターはお互い顔を見合わせ、人間技とは思えないソリスの身のこなしに首をかしげていた。       ◇「困ったわ……。司教ですらあのザマなんて……。この街じゃダメだわ……」 石畳の通りを、ソリスは人波をかき分けながら唇を噛みしめた。この街は中堅の地方都市で、その賑わいは王都に劣る訳ではない。しかし、高度な魔法が息づくのはどうしても魔塔のある王都になってしまう。ソリスが求める解呪の術も、遠い王都でしか見つからないのだろう。 街の中心部を抜け、城門
last updateLast Updated : 2025-11-07
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19. キュン!

「死にたくなきゃ道を開けな!」 ソリスはムッとしながらそう叫ぶと、ピョンと馬車を飛びおりる。「ふざけんなガキが!」 男たちがソリスを捕まえようと腕を伸ばしてきたが、それらをパシパシっとはたきながらかいくぐるソリス。「追いかけてきたら殺す、分かったな?」 ソリスは男たちにすごんだが、十歳の少女がすごんでも可愛いだけである。「ガキが!」「大人をなめんなよ?」 激高した山賊たちがソリスに突っ込んできた。 ソリスはヒョイっと|躱《かわ》すと森の中へと駆けこむ。こうなったら逃げるしかない。むさい男たちの内臓が飛び散るようなシーンは見たくないのだ。「逃げたぞ! 追え!」 男たちはいっせいに追いかけてくる。「捕まるか、バーカ!」 ソリスは俊足を生かし、タタタッと加速すると枝に飛びつき、サルのように枝から枝へ飛び移る。「へへん! それそれーー!」 まるでアトラクションを楽しむように、ソリスは森の奥へと進んでいった。「あっちだ! 逃がすな!」 しかし、山賊たちもしつこく追いかけてくる。子供に逃げられたということになるとボスの怒りに触れるからなのか、諦めもせず森の中を猛進してくるのだ。森の中で暮らしている山賊たちの行動力は予想以上のものがあり、いつまでたっても追いかけてくる。「しつっこいなぁ……」 ソリスはハァとため息を漏らすと、気合を入れなおし、本気で逃げ始める。 沢を飛び越え、滝をヒョイヒョイとよじ登り、池の水面を駆け抜け、森の奥へとすさまじい速度で突っ込んでいった。 大自然の中を駆け抜ける至福に心を奪われたソリスは、やがて逃げるという目的をすっかり忘れてしまう。歓喜に満ちながら小一時間駆け巡り、最後には壮大な断崖絶壁を力強く駆け上がった。「はぁ……楽しかった! 山賊は……、さすがにいない……か……」
last updateLast Updated : 2025-11-08
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20. 自制

「ど……、どなた?」 男の子は不安そうに眉をひそめる。「あっ、ごめんなさい! 怪しいものではないです。山賊に追われて迷い込んでしまいました。良ければ食べ物と軒先を貸していただきたく……」 男の子は不思議そうに首をかしげ、目を凝らしてソリスを見た。「山賊に……?」 男の子は周りを見回し、小さな女の子一人だと分かるとニコッと笑い、うなずいた。「いいよ! ようこそ。さぁ、入って!」「あ、ありがとうございます!」 何とか野宿せずに済みそうになったソリスはホッと胸をなでおろし、深々と頭を下げた。         ◇「おじゃましまーす……」 恐る恐る部屋に入ると広いリビングには暖炉の灯がともり、その前にはゆったりとしたソファーが置いてあった。「うわぁ……、素敵……」 ソリスは目をキラキラ輝かせながら両手を組んだ。ずっと森の中を歩き疲れた先にたどり着いた暖炉はまるでオアシスだった。「ソファーにでも座ってて。今、お茶入れるから……」「あ、ありがとうございます」 ソリスは暖炉の炎に両手をかざして暖を取り、大きく息をついた。「はい、どうぞ……」 少年はニコッと笑うとティーカップをローテーブルに置いた。少年は青いリボンをワンポイントにした、白と青の柔らかな布が複雑に重なり合う、見たこともないデザインのシャツを羽織り、動くたびにサラサラと布が揺れ動いた。下は青い短パンで細い足がニョキっとのぞいている。「あっ、ありがとう……。私はソリスって言います。あの……お|家《うち》の方は?」 ソリスは辺りを見回した。「ははっ、ここは僕一人しか住んでいないよ。僕はセリオ
last updateLast Updated : 2025-11-09
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