中に広がっていたのは、光と影がまだらに混じり合う異質な空間だった。屋根裏部屋特有の傾斜した天井。唯一の明かりは、壁際の丸窓から差し込む午後の光だけ。その光さえも、床から天井まで無秩序に積み上げられた夥しい量の本や資料の山に阻まれ、部屋の奥までは届いていない。 古い紙が酸化した甘く乾いた匂い。その奥に、壁へ沁み込んだ湿気がある。机までの狭い通路だけが空けられ、床に平積みされた本の脇には、紙片で包んだ欠片や、小さな木箱が並んでいた。 その部屋の中心に、一人の男がいた。 窓からの光を背に、古びた木製の机に向かい、分厚い和綴じの本を広げている。 色素の薄い焦茶色の長髪を、首筋の位置で革紐で無造作に一つに束ねている。静が扉を開けた物音にも、彼は一切反応を示さない。その背中は、まるで周囲の書物の山と同化した石像のように微動だにしなかった。 男は紙の一箇所に定規を当て、傍らの帳面へ何かを書き写していた。静が入っても手を止めない。その間だけ、こちらから何か言わなくてよいのが、奇妙にありがたかった。 生きた人間のそばに立っている時の、ざらつく不快感が薄い。ただ、燈のそばにいる時とは違っていた。暖かい部屋へ入ったのではなく、底の見えない井戸の縁に立たされたようだった。 不意に、男が顔を上げた。 何の予兆もなかった。ただ、古文書をめくる指が止まり、静かにこちらを振り向いただけ。数本の後れ毛が、その表情にかかっている。 目が、合った。 陶器のように白い肌に縁取られた、感情の起伏を一切映さない瞳。どこか爬虫類を思わせる、静謐で温度のない瞳だった。その視線に射抜かれた瞬間、静の全身の皮膚が、薄い氷の膜で覆われたかのように強張る。 「……何か用か」 静かな、抑揚のない声だった。 「……ここが、郷土史研究会ですか」 「扉にそう書いてある」 男は帳面を閉じた。表紙には『観月斎』と書かれていた。その姓を、静は覚えていた。燈がカフェテリアで口にした、郷土史研究会の先輩の名だった。聞いていた名と、目の前の男が、ようやく結びついた。 「観月さん、ですか」 「そうだ。名前は」 「氷鉋、静です」 聞き返され、名字と名前をもう一度言った。男は手近な紙へ『氷鉋静』と書き、合っているかとこちらへ向けた。静が頷くと、それを机の端に置いた。 「何を探して
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