「また、穢れと馴れ合っていたか」 その言葉は、斎に向けられた非難であると同時に、静という存在そのものへの断罪だった。「……椥(なぎ)。こいつが『憑かれ』始めている。澱みが外に漏れすぎている」 斎は、静を「こいつ」と呼び、まるで調子の悪い道具を修理にでも持ってきたかのように、淡々と事実だけを告げた。「アパートの一室が、すでに『ウツロ様』の沼に引きずられている。お前の寺の『結界』で、一時的にこいつの感覚を遮断したい」「遮断、だと?」 宗司は、初めてその爬虫類のような瞳を、ゆっくりと静に向けた。 見られた。 値踏みされた。 視線が、皮膚を突き破り、内側を直接検分してくる。静の奥底、魂にまでこびりついた、あの湿った土の匂いを、この男は正確に嗅ぎ取っている。「お前たち観月の一族は、いつもそうだ」 宗司は、静から目を離さないまま、斎に言い放つ。その物腰は柔らかいのに、言葉の端々には隠しようのない軽蔑が滲んでいた。「穢れを『封印』する? 『共存』する? 腐った肉を塩漬けにして蔵に仕舞うような真似を。だから、こうして腐臭が漏れ出すのだ」 宗司が一歩、縁側から踏み出す。 ただそれだけで、あの強烈な線香の匂いが、圧力を伴って静に襲いかかった。「穢れは、見つけ次第、即刻『滅する』べき悪だ。馴れ合いも、共存も、あり得ん」「……お前の教義(ルール)を押し付けるな。俺は『処理』の効率を求めているだけだ」「その結果が、それか」 宗司は、静の足元を指差した。 静が息を呑む。自分のアパートから逃げてきた、彼女自身の足元。 石畳の上に、彼女のものではない、湿った「影」のシミが、じわりと広がっていた。 それは、アパートの暗闇で、あの蠢く影がまとわりついてきた場所に他ならなかった。靴底にこびりついてきたのではない。まるで、静の体そのものから「漏れ出して」いるかのように、じわりと黒く、清浄であるべき石畳を汚していた。
Последнее обновление : 2025-11-19 Читайте больше