「詩月、恵梨が人を使ってお前を車で襲わせたのは、確かに彼女の過ちだ。俺もきちんと罰は与えた。でも……あんなに辛い思いをするのは、彼女にとっても初めてなんだ。やっぱり心配で、少し様子を見に行こうと思ってる」「彼女はあんなに辛い思いをしたことがないって?じゃあ、私はどうなのよ、圭吾!彼女は、私たちの子どもを殺したのよ。まだ三日しか経ってないのに、もう許すつもりなの?」「わかった、わかったよ。もう行かない。ちゃんと家でお前のそばにいる」泣き崩れる詩月を見ていられず、圭吾は彼女を抱き寄せた。「なあ、どうしたら気が済む?お前の望みどおりにするよ」「今夜、オークションが開かれるって聞いたの。連れて行ってほしいの」「わかった。お前の欲しいものは、全部叶えてあげる。恵梨のぶんまで、俺が償うから」「本当に?」詩月は涙に濡れた瞳で圭吾を見上げる。「じゃあ、もしあなたの妻になりたいって言ったら、それも、叶えてくれる?」「詩月」圭吾の表情が一気に曇った。「それは無理だって、お前もわかってるだろ」「わかった。今のは、なかったことにして」詩月は、ここで欲張りすぎてはいけないと分かっていたので、それ以上は追わなかった。二人はそのままオークション会場へ足を運んだ。そのオークションで、詩月が少しでも気に入ったものは、圭吾がすべて競り落としていった。だが、ひとつの掛け軸に目を留めた瞬間、圭吾の表情がわずかに変わった。それが恵梨の父親が生前に残した作品だと、すぐに気づいたのだ。彼はためらわず高値で競り落とし、これで恵梨の機嫌を取ろうと思った。「これは恵梨のお父さんが生前に描いた絵だ。買って帰れば、きっと彼女が喜ぶ」その絵を大事そうに腕に抱え込む圭吾の様子を見て、詩月はそっと唇をかんだ。目の奥に一瞬、憎しみが走る。まさか、圭吾がそこまで恵梨を気にかけているとは思わなかった。たった五年離れていただけなのに、彼の心はもう恵梨に奪われていたのだ。家に戻ると、詩月は「今夜は一緒に寝たい」と言ったが、圭吾は彼女をゲストルームに残したまま、自分は恵梨との寝室へ戻っていった。部屋はがらんとしている。恵梨のものは、跡形もない。クローゼットには、彼の服だけが残っている。彼が恵梨に贈ったバッグやアクセサリーもすべて消えている。
Read more