スマホが「ピロン」と鳴り、徹からメッセージが届いた。【牧原さん、感謝するよ。あなたが教えてくれなかったら、詩月が帰国してるなんてまるで気づかなかった。貸し一つな。あなたは知らないだろうけど、詩月みたいな女、最高のおもちゃだぜ】圭吾は返信しなかった。ただ、そのまま無言でそのメッセージを削除し、徹の連絡先を拒否リストに入れた。クズの貸しなんて、受け取る気はさらさらない。彼はただ、詩月を罰したかっただけだ。スマホがまた数回鳴った。今度は部下から送られてきた写真だ。写真の中で、恵梨はすっぴんのまま、教室の教壇に腰かけて宿題を採点している。うつむいているので見えるのは横顔だけ。背後から差し込む光が彼女の肩をやわらかく照らし、その姿はまるで穢れを知らぬ天使のようだった。二枚目の写真では、恵梨が教壇に立って授業をしている。真剣な横顔に、思わず見入ってしまう。三枚目には、古い槐の木の下で、食事をとりながら静かに本を読む彼女の姿が写っている。圭吾は恵梨の手元の弁当を拡大して見た。そこにあったのは本当に簡素な二品だけ。白菜とかぼちゃ。肉らしいものは一切見当たらなかった。【牧原様、ご安心ください。奥様はここでとても元気に過ごされています。今のところ、この暮らしをとても気に入っておられるようで、毎日、明るい笑顔を見せておられます】そのあとの写真には、どれも恵梨の笑顔が映っていた。圭吾は、かつて恵梨が言っていた言葉を思い出す。「もしいつか、この恵まれすぎた暮らしから離れられたら、教育支援の先生として、環境の整っていない山の学校で子どもたちを教えたいの」実のところ、恵梨は教えることが好きだった。大学でも教育学を専攻していた。彼女は子どもと一緒にいるのが好きだという。子どもは純粋で、駆け引きなど知らないから。そのとき圭吾は、彼女を強く抱きしめて言ったのだ。「俺は一生、お前を牧原の家からも、俺のそばからも離さない。お前はずっと、俺の妻として贅沢に生きていけばいい」まさか、たった五年で、そのときの彼女の言葉が現実になるとは思わなかった。【牧原様、ただ、奥様の暮らしはかなり質素です。こちらには洗濯機がなくて、奥様は毎朝、まだ暗いうちから川に洗濯に行かれています。それから食事も、あまり肉が出ません。奥様、少し痩せられ
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