感情を失った訳でも、忘れた訳でもない。ただ見て見ぬ振りしているだけなのかもしれない。正直、そんな事はどうでもいいんだけどな。 僕の目の前には人間の、妹の『蓮』ではなく、人形に成り下がった『蓮』がいる。 昔の僕なら、こんな事しなかっただろう。したくもないと拒絶していたに違いない。でもな、年月と言うものは簡単にも人を変えてしまう。そうやって僕も、なりたくなかった『大人』への一員となったんだよ。 あの時はさ、子供な自分がいて、いつも反発ばかりしていた。何で、こんなの間違ってるなんて綺麗事並べてさ、言うだけなら簡単なのにな。その言葉一つで人の人生なんて壊れていくのが現実って訳さ。 蓮はあの牢獄から出る事は出来ないだろう。 幼い頃に負った心の傷と微かに残るやけどの跡、事故の傷。 本当によかったと言うべきなのか、生きている事が不運と言うべきなのか微妙なところだが。 (傷跡も、やけどの跡も、分かりずらくなって、普通に生活してたんだな) 僕は言った。妹の『蓮』に。 お前の足には見えない『釘』が撃ち込まれている。子供の頃はそれが食い込んで、なかなか外れる事はなかった。だけどな、大人になれば心と体は成長していく。 お前が望めばその苦しみの原因の鎖の『釘』を抜く事も簡単。 そして……背中に背負った十字架と生かされた命を認める事も出来る。 要は、お前次第だ。 「あの時の言葉に嘘はない」 僕の目の前には沢山の血が溢れて、部屋中にこびりついている。蓮は錯乱をして、自分の舌を噛み切ろうとしたから、タオルで口を塞いだ。 最初は『妹』を助けるつもりで『鬼』になるつもりだったのに、いつの間にかホンモノの鬼になっている自分がいる。 『魂まで鬼に喰わ
Last Updated : 2025-11-09 Read more