Home / ホラー / 血指手 / Chapter 11 - Chapter 20

All Chapters of 血指手: Chapter 11 - Chapter 20

100 Chapters

ワインと呟き

ワインは全身に程よく浸透していきながら、脳にも酔いを回していく。 いつもの思考力と冷静さなんてそこにはなくて、あるのはただ自分の欲情に溺れるだけ。 碧生なんて呼ばれても、何も嬉しくない。 あたしは『九条家』の長女としてではなく、ただの「あおい」と呼んでもらいたい。 そんな事を人に呟くと、碧生は碧生でしょ?なんて皆頭に疑問符を並べるの。 あたしの名前を呼ぶ時は、皆九条家を通してあたしを見ているのが現実。 誰にも気持ちなんて分かると思わない。そう思っていたの。ケイジと出会うまでは。 彼は碧生の事を『九条碧生』としてではなく、ただの『あおい』として見てくれる。接してくれる。 だから有難いと思うの。 イスズもそうよ、彼と同じ。 ただビジネスが絡むか、絡まないかの違いなだけ。それでも凄く大切にしてくれている。 ビジネスが絡んでしまうとね、色眼鏡で見られるから、最初は凄く抵抗があったけど、今では全然、あたしが人間らしく人を『信用』しているのは珍しい事で、お父様が今のあたしを見て、驚いていた位なの。おじい様はどうだか、分からないけれどね…。あの人は碧生より蓮が大切で特別だから、あたしを見る事も、選ぶ事もないと思うの。 本音を言えば、姉であるあたしが皆から選ばれるのが『当たり前』そこには人間の感情なんていらない。プラスかマイナスかでどちらを候補者として選ばなくてはいけない。 そこにあたし達『姉妹』の人格は評価されないし、必要ないの。 悲しい事だけど、それが現実なのだから、何も出来ない。ただ周りの言う通りに動くだけ。 ただの操り人形としてね。 あたし達『姉妹』を争わせて、家を潰す為に動いている勢力も確認されているけど、それはあたしの勢力と蓮の勢力とは別物の話。姉
last updateLast Updated : 2025-11-04
Read more

償い

あたしは少しでも償いたいの。 貴女を捨てると蓮に言い放った事を、後悔しているのかもしれない。 あの子は、もう少しで孤独の中に潜ろうとしている所だった。 だからこそ、本来なら助け船を出すのが一番よかったのかもしれない。 当時のあたしは蓮の存在を疎ましく思っていた。 誰にでも好かれている蓮、笑顔の蓮、認められている蓮。 全て粉々にして、壊してやりたいという衝動に駆られたの。 あたしが長女。この九条家を支える『柱』なのに…それなのに。 皆『蓮』を見て、期待している。あたしじゃなくて…。 11も離れた妹に嫉妬するなんて醜い行為かもしれないけど、その時の純粋な気持ちだったの。 それがきっかけで蓮が笑顔を失った。一切笑わなくなった妹の蓮を見ていると、最初は心地よかった。 あたしが一番。蓮はあたしには勝てない。そしてあたしが蓮を支配する人間だと優越感に浸っていた。 巡り巡る輪廻は、ゆっくると崩れ出し、純粋だった蓮は悪に染まっていった。 まるで絵具のように、真っ白な画用紙に一筋の黒い絵の具が少しずつ滲んでいくように。 真っ黒になった。 あたしは捨てようとした。でも蓮が心配だから…それえは表の理由にしかなかった。一番の理由は『遺産』が欲しかった。蓮が九条家から去る事を決めた時、あたしはチャンスだと思った。去ると言う事は『遺産も放棄』する可能性が高かったから。全て自分のものに出来ると考えた。しかし実際色々調べていくと、おじい様が策を立てていて、あたしの力だけじゃどうにもならなかった。 そう蓮が苗字を変えてしまうと、遺産の七割が蓮を養女としてとって人の手元にいくように計算されていたのだ。周りが金に群がりながらも、その金目当て、理由で蓮をある程度の
last updateLast Updated : 2025-11-04
Read more

兄妹像

それは歪んだ愛情の形なのかしら。あたしにはそれが普通だから、分からないの。他の人からしたらそう見えて当然かもしれないけど、あたし自身はそれが正しいと、正義だと感じているから、後悔なんてないし、自信を持っている。 今日もワインを飲み続ける。赤いワインはあたしの体内の血液と混ざりながら、一部になろうと企んでいる。笑い声とニヤリとする口元が見えているのは、ワインのせいか、それとも幻覚なのかしら。 (どちらでもいいわ、今更) 心の中の呟き一つで完結させれば、はいおしまい。他は何も考えなくていい。ただこのフワフワとした感覚を楽しみながら、溺れていけばいい。 「飲みすぎ……」 いつも通りの言葉。景色も、感覚も、そしてこの声も、仕事から離れたプライベートな碧生の一部分。 「ケイジも飲めばいいじゃない」 「俺はいいよ……」 いいよの言葉はどちらの意味かしら?巳弦ケイジの声のトーン、口調、そして表情を見れば一発なんだけど。意地悪なあたしはそうやって言葉遊びをしながら、彼の反応を見て楽しむ。困る彼は素敵なのだから。 「分かっているだろ、いらないって意味だよ」 「あはは。知ってる」 「構ってちゃんか」 「酒呑みの相手しないケイジが悪い」 「はあああ?」 「ねぇねぇイスズも呼ぼうよ。楽しいわよ。凄く」 「俺の妹も巻き込もうとしてね?」 「あはは。まさか」 「はあ……碧生、お前の酒癖の悪さには言葉が出ない」 「え?出てるじゃん」 「あのなぁ。ああ言えばこう言う」 「ねぇねぇ、呼ぼうよ」 楽しい
last updateLast Updated : 2025-11-05
Read more

仕事の時間

さて仕事の時間だ。そこには昨日のあたしはいない。ケイジとイスズと楽しい宴会をしていた時のあたしは、夢の中。 「イスズ行きましょ」 「今日は何処へ?」 「んー?決まってるじゃない。元知事の所へ行くのよ」 「え」 「簡単な仕事よ。少し揺さぶりをかけるだけでいいの」 「碧生、簡単に言うけど策はあるの?それもアポイントも取っていないでしょう?」 「アポイント?あはは笑わせないで、お腹いた」 「大事な事でしょう」 「あたしの手にかかればそんな事『造作もない事』だ。まだ使えるはず。ふふ」 ビジネスになるといつもこうだ。人が変わったような発言と行動をする。そしてこちらの条件をのます為に駆け引きをする。それを提示して、行動すれば上手くいくものだ。あたしの場合はだけどね。他人はどうかは知らない。あたしが出来るのは色々な『鍵』を手にしているから、罠をしかければいい事。 「碧生が何を考えているのか理解できない」 「あはは。しようとしなくていいよ。イスズは付添人としてあたしのやり方を観察するといいよ」 「観察ね……何でそんな楽しそうに笑うの?」 「久々の遊びよ遊び。獲物」 「怖い人」 「ありがとう。一番の誉め言葉よ」 あたしは逃がす訳にはいかない。蓮とは違うけど、あたし達の尊敬する人物を嵌めた人間がいるのは事実。逃げれない現実なのよ。 狂気に塗れながらも、あたしは微笑み続ける。 お父様に言われたの。 守りたいものがあるなら、永遠に微笑みながら、裏で工作しろと。 守る為に必要な物事なのよ。九条
last updateLast Updated : 2025-11-05
Read more

制限時間二分

コツコツヒールの音を鳴らしながらイスズと獲物の元へと向かう。なんだろう。この居心地の良さ、風が吹きながらあたしの髪を靡かせる。まるで微笑んているあたしのように、同化していく。 風に運ばれながら、過去の事を思い出す。 『機密情報』を巡って蓮と議論をした『あの時』の事を。 (懐かしい……あの時は『まだ』姉妹だった) あたしは蓮を守らなくちゃいけない。妹と言う存在も、全て隠す。そうして誰にも狙われないようにするの。姉としてではなくて、あたしの欲望の為にね。壊すと言っているのに、守るなんて変だって言われても仕方ないけれど、その裏には隠された言葉があるの。 他の奴らに蓮は渡さない。 他の奴らに壊させない。 あたしが『壊す』の。 ねぇ蓮、あの時の事を覚えている? あたしは覚えていると『お前』との議論は刺激で、ゾクゾクしていて楽しい。 壊したくなるくらいにね。 時は戻る。過去へと。 フッと微笑むあたしを一人ぼっちにして……。 『碧生、何の用?』 「姉に向かって呼び捨てはないんじゃない?あはは」 『……時間裂いたんだから、簡潔に』 「素直じゃないんだから。はいはい」 あたしと蓮は楽しい遊びをしていた。蓮からすれば遊びではなく『厄介事』なのかもしれないけど、姉に付き合うのって普通よね。得にこの九条家では。あたしが当主になるんだから余計にね。二番手に用はないの。あたしの頭脳の一部になってくれれば、それで充分。満足な訳。 「これ見てみて。いいもの見つけた」 バサッと机の上に叩きつける書類を、蓮に見せつけるように演技をした。目を真
last updateLast Updated : 2025-11-06
Read more

二人で一人

パラパラ資料を捲る子供の蓮の表情が少しずつ変化していく。あたしはその事に気付きながらも、心の中で「しめしめ」と思い通りに計画が運ぶように、逃げれないようにしていく。気だるそうにあたしをあしらっていた蓮は、もういない。 簡単に消えた。簡単に染まった。 『な……にこれ』 二分しか与えていないのに、それが何か理解したみたい。まだ14の癖に、子供だと思っていたのに、成長とは早いものなのかもしれない。 「読めたのね」 『……』 言葉に詰まった蓮は、額を抑えながら、資料を握る右手を震わしながら、顔色を変えて恐怖へと堕ちていく。 「二分しか与えてないのに理解したのね。蓮。読んでしまったね。もう逃げれない」 『……これ、裁判記録?』 「読んだら分かるでしょう?そんな事」 『……誰の裁判なのこれ』 「そうねぇ。いうなれば『表に出てはいけない人』のかな」 『……』 「処分する前に、妹の貴女に読ませたくて。ね?素敵でしょ?これで一心同体」 『あたしは何も知らない』 バサッと叩きつける蓮。怒っているみたいね。怖いけど、その表情があたしにとってはご馳走なの。大好物。 「これはね金になる。そして人を簡単に崩壊出来る。権力者が全てを失う『裏の機密』あたし達『姉妹』はこれを読んでしまった」 あたしはおもちゃで遊ぶみたいに、蓮に近づきながら耳元で囁く。 「この情報はあたし達の『脳内』にしかなくなる。書類としても表には何も残らない。その関係者しか知らない内容。あたし達が読んだ事を『あの人達』が知ってしまったら、どうなると思う?」 『……そんなの知らない。あ
last updateLast Updated : 2025-11-06
Read more

人間

素敵な音色は、永遠にあたしのもの。蓮はフルフル震えながら、怒りの感情を押し殺そうとしてるのが分かってしまう、手にとるように……。 嵌めたなんて、そんな言葉使わないでほしい、あたしはただ純粋に仲間にしたかっただけ。表はあたししか読んでいない『機密文書』だからこそ、蓮と言う存在が不可欠なのよ。 少しずつ、近づいているその時がくるまで、彼女の心に瞳に、現実を叩きつけて、強く生きていけるようにと、悪者になる事なんて、簡単。 悔しかったら、あたしを憎みなさい、そして恨みなさい、愛情と反対の感情も、深くて、一生蓮の心に残るのだから、それが出来れば問題ない。 あたしって悪い女?それとも性格、最低? なんて言われてもいいわ。痛くも痒くもないから、あたしはあたしの理想の為に行動するの、そしてアクションを起こす、蓮、あたしが絶滅しそうになった時、貴女があたしの代わりに動けるように、配慮してあげてるのに、気づいてる? 巻き込まれたくなかった、何も知らないままでよかったなんて、そんな甘ちゃんな事、言っちゃダメよ。あたし達は『九条家』の血を取り込んで、生きている。命があるのは、家が存在し、祖先が繋いでくれたものなのだから。 悲観するなら、それ以上に絶望して、壊れちゃいなさいな、その方が、貴女にとって『幸せ』で『楽』な選択だと思うから。 あたしはね、この世界に足を踏み入れすぎた、もう後戻りも、知らないフリも出来ない立ち位置にいる。いわば共犯者に近いのかもしれないね。 だからこそ、あたしとは違う戦略を考え、光と闇のように、正反対な行動が出来るのが事実。 覚えていてほしいの……あたしに出来て、蓮に出来ない事があるように、あたしに出来なくて、蓮に出来る事がある事を。 忘れないでほしいの、敵の立ち位置の、姉『九条 碧生』が存在している事を。 そして、|ある意味《・
last updateLast Updated : 2025-11-07
Read more

お食事会

水面に揺られながら、慈しむ月夜の中で、暗闇が深く潜り込み、あたしを惑わしてゆく。 あたしも元は真っ白な心、黒を知らずに産まれた生命の一つ。 決められたレールにより、大人達の『策』により、巻き込まれた人間の一人という事。 はじめは、呪った自分の運命に逆らってでも、妹『蓮』と同じ選択肢をしようと考えてた。 蓮とは、約一回り、離れている。あたしにはつかみ取る事の出来なかった、人間としての心の自由を、彼女は、いとも簡単に射止めれたのだ。 あたしには出来なかった。用意された選択肢に、それはなく、ただ崩壊の道を歩むしか残されていなかった。 「あたしには出来なかった、掴みとれなかった」 年齢を重ね、成人した蓮と久しぶりに会う機会があったの。子供の頃に『機密文書』を見せつけて、同じ道を歩ませようとした、あたしを憎しみ、そして捨てた。 お父様が、おじい様に土下座までして、あたしと蓮の二人で食事をする機会を与えてもらった。 本当はプライドなんて必要ないの、捨てる事、簡単な事。認めてしまえばいい、自分の悪を、荒んだ色を……。 ――ただ、それだけの事。 目の前に出されてくる豪華ディナーを楽しみながら、歪みながら、あたしの声だけを聴く、蓮。決して、あたしの表情、姿を、確認する事なんてしない。まるで最初からいないように、扱われている自分がなんだか、嬉しい。 同じ選択肢を選びはしなかったのだが、この子は、あたしと対等に向き合える人間。 そして、唯一、あたしの心と体を壊し、殺す事が出来る人間なんだろうと思うの。 目の前の食事なんて、興味がない。あたしが興味あるのは、灰色に染まった蓮自身。あたしは真っ黒で、蓮は灰色。見方によっては、蓮の色は、どんな色にも化けれる『カメレオン』なのかもしれない。
last updateLast Updated : 2025-11-07
Read more

九条碧生《男視点》

僕が好きなものは、操る事。全て欲しい、だから妹の『蓮』を騙し、全て横取りした。 悪くない、何も悪い事はしていないからな、一番の悪は『無知』そのもの。 遺産が一億くだらない、そして九条の『苗字』を捨てると言う事を聞かない、妹。 本当に、消したい。僕の全ての計画が破綻してしまう。 『私、一人暮らしする。居候なんて呼ばれるより、遥かにマシ』 「お前は、本当に言う事を聞かない子だな。見てて、苛々する」 溜息しか出ない、蓮よ、お前は、私の成功へと導く階段になればいいだけ、そう死の階段へと。 僕達の親は、ある意味正常であり、狂っているだろうな。 その背中を見てきた、僕達、二人も狂っているのだろうと考えるが、別にどうでもいい。 興味ない、生きようが、消えようが、僕さえよければ、それでいい。 その手始めとして、目を付けたのが、蓮の存在。 僕は、知っている、お前の秘密を、そして汚れた血筋の宿命を。 『何て言われようが構わない、あたしはもう言いなりになんかならない』 「ふうん。それが許されると思っているのかい?」 『私にも自由がある、囚われた鳥じゃないんだよ?』 「無礼だな。僕が中心で回り始めた環境に馴染めず、裏切るのか。そして当主に対して、その口のききようは何なのだ」 『裏切るとか、そういう話じゃないよ。おにいちゃん、優しいおにいちゃんに戻って』 「僕はお前の『兄』ではない。九条碧生、天保時代から続く20代目当主。そしてお前は、礎そのもの」 『なんで……』 泣く暇が、あるのならば言う事を聞け、そして早く、僕の駒へと成長してくれればいい
last updateLast Updated : 2025-11-08
Read more
PREV
123456
...
10
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status