「小林さん、本当に消してしまうんですか?その『愛』のタトゥー」施術者の問いかけに、小林愛(こばやし あい)はしばし黙し、やがてゆっくりと頷いた。「はい……ちなみに、何回かかりますか?」「詰めて通っていただいて、計七回ですね」七回――その響きが、胸の奥を冷たく疼かせた。櫻井湊(さくらい みなと)と過ごした七年間と、奇しくも同じ数。振り返ってみると、この七年、肌を重ねるたび、湊は必ず彼女の腰に顔を埋め、そのタトゥーに唇を這わせながら囁いた。「愛……愛、大好きだ」だが今、愛は自らの手でそれを消し去ろうとしている。スマホで決済を済ませると、施術者である店主がレーザーを腰に当て始めた。「七回終わったら……完全に消えますか?」「いえ。火傷の痕は残りますよ。まあ、時間が経てば薄くはなりますけど」本当に薄れてくれるというのだろうか。流れ去ってしまった、この七年という――あまりにも甘ったるい月日が。脳裏を、湊との七年間が、まるで走馬灯のように駆け巡っていく。一年目。櫻井家に身を寄せた最初の夜、湊が彼女の部屋を訪れた。目尻に艶っぽい笑みを浮かべ、「試してみる?」と誘うように囁かれた。幼馴染だった二人。思春期の衝動。実はずっと前から彼に恋をしていた。でも怖くて、どうしていいか分からない。湊が耳たぶに唇を寄せた瞬間、体が痺れるように震えた。そして唇を奪われ、身を焦がすほどの熱で求められた。あの日から、絡み合った後、湊は彼女の腰に自らの手で「愛」のタトゥーを彫った。「お前は、俺のものだ」そう、刻みつけるように。二年目。湊が恵川大学を卒業し、離れていった時、二人の関係はてっきり冷めていくと思っていた。だが湊は大学の向かいにマンションを買い、「毎晩来い」と命じた。三年目。そのマンションで、我を忘れて溺れあった。湊の求めは常軌を逸し、場所を選ばなかった。学校で、車の中で、マンションで、彼の部屋で、彼女の部屋で……四年目。湊の仕事が多忙を極めても、彼は彼女が自分から一秒たりとも離れることを許さなかった。ビデオ通話の最高記録は、実に二十三時間に及んだ。五年目。湊が二人の結婚準備を始めた。十六億円のウェディングドレスをオーダーメイドし、すべて手作業で、六百日以上かけて完成させた。六年目。彼女が緑色を好きだから、結婚指輪のために、湊は
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