詩帆の目には、あくまで無邪気な色が浮かんでいたとは裏腹に、口から紡がれるのは、この世で最も残酷な言葉だった。「そうよ?二人の子供が、いなくなっちゃったよ?私を抱えて病院へ行ったその頃、愛さんは三階から飛び降りて、地面に落ちて全身傷だらけ。湊さんが私に付き添っている間、彼女はずっと一人で、あのダンス教室の外の地面に横たわって。ただ、しずかーに死を待ってたの!」ガタン、と音を立てて湊が椅子から立ち上がった。真っ赤に充血した瞳は激怒に燃え、その手は鉄格子を掴んで捻じ曲げんばかりだ。歯を食いしばり、呻く。「荻原詩帆……っ、お前、何だと!?」詩帆は頬杖をつき、指先を軽く弄びながら、まるで面白い世間話でもするように続けた。「それと七年前、彼女はあのダンスオーディションで一位を取ったわ。でも、留学を諦めた。私が喉から手が出るほど欲しかったものを、彼女はあっさりに踏みにじって、全く大切にしなかったの」湊が冷たく言い放つ。「あのダンスコンクールで、愛は二位だった。留学のチャンスなど、なかったはずだ」詩帆は、可笑しそうにクスクスと笑った。「あら?彼女、そう言ったの?ふふ。そうよね、櫻井家に来た最初の年で、ちょうど二人が付き合い始めた頃だもの。あの時の彼女、湊さんのために留学なんて端から考えてもいなかった。……私は馬鹿みたいに彼女のトウシューズに画鋲なんて仕込んでたけど、私の足掻きなんて全部、小林愛にとっては笑い話だったのね」湊の瞳が暗く深く曇った。七年前を思い返す。愛が、コンクールに出ると言っていた。自分は付き添おうとしたが、運悪くレースの開催日と彼女のコンクールが重なってしまった。すると、愛は言った。「付き添わなくていい。このコンクールは大事じゃないから。参加することに意義があるだけ」と。だが、後で知った。あれはバレエ界最高峰の「白鳥オーディション」だったと。そして愛は、一位と僅差で落選したのだと。今、その真実を知らされた。愛は、本当は一位だった。彼女は自分のために、M市行きを諦めた。最高峰の白鳥バレエ団をあっさりと捨てた。湊の心臓が張り裂けるように痛んだ。どうして、こんなことに……!愛と一緒になってから、ずっと。自分が彼女から奪っていることは知っていた。彼女が自分と共にいるのは、家同士が決めた婚約の
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