All Chapters of 「おはよう」って云いたい: Chapter 31 - Chapter 40

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第二十八話——苦い放課後

今日から体育祭に向けてリレーの練習が始まったようだ。遅くなるから先に帰って良いと言われて、帰ろうと一人で下駄箱に向かう。 靴箱を開けると、久しぶりに丸められた紙が出てきた。大きなため息をついて無造作にそれを開く。目に入った文字に私は思わず声を出してしまった。 「え……」 以前は暴言だけだった紙にはっきりと「男たらし」と書かれている。 ――どういうことだろう? 私が話す男の人といえば、蓮と翠だけだった。全く心当たりがないため、疑問に思いつつも紙をリュックにしまう。笑いかけてくれる人が隣にいないため、沈んだ気持ちで帰路についた。 翌朝、私は窓から外を眺めていた。下駄箱に入っていた紙のことが忘れられない。そう考えていると志織の声が聞こえた。 「陽菜」 「ん?」 「ぼーっとしてたけど大丈夫?」 「あ、ごめん」 そう言って私は志織に視線を向ける。ぎこちなく口角を上げて頷いた。志織は眉を下げて目を細める。わたしはそんな表情に胸が締め付けられた。そこで志織が言葉をこぼす。 「そうだ。今日一緒に帰らない?」 「いいよ。久しぶりだね」 志織が柔らかく微笑む。私の心もその表情に絆されるようだった。 「志織、帰ろー」 「ちょっと待って」 放課後、私は志織に声をかけた。志織は急いでカバンに教科書を詰め込んでいる。思わずクスッと笑ってしまい、口をキュッと結んだ。志織は一瞬目を細めたが、すぐに笑みを向けてくれる。カバンを手に取って立ち上がった。歩き
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おまけ3——二人を見守る太陽

今日は翠と蓮、二人でショッピングモールに行く。見上げれば、黒い雲が空を覆っていて、心なしか気持ちが沈んだ。 「雨降りそうだな」 「じゃあ蓮の勝ちかな」 「どういう意味だよ」 蓮は拗ねたような表情で翠に視線を向ける。翠はクスッと笑ってから言葉をこぼした。 「だって蓮は雨男じゃん。蓮が出かけるとよく雨降る」 そして、翠は視線を空に移した。暗い空に白い肌の横顔が映えて、翠の存在を強調している。 「いや、実は翠が雨男なのかもしれないだろ。俺らよく一緒にいるし」 「それはそうかも」 蓮の言葉に翠は頷く。それを見て蓮は得意げな表情をしていた。 「それで言うと陽菜は晴れ女だね」 「そうか?」 「うん」 蓮は翠を見つめて言葉を待つ。二人の間に柔らかい沈黙が落ちた。 やがて一泊を置いて翠が言葉をこぼす。 「だって陽菜がいるだけで、場が明るくなるもん」 翠の言葉に蓮は目を見開いたが、すぐに優しい笑顔を浮かべる。 「そうだな」 その時、雲の合間から少しの光がさし、二人を照らす。二人は視線を上げて目を細める。そして、お互いに視線を合わせて微笑んだ。ショッピングモールに向かう足が軽くなる。二人の様子を見守るかのように、雲の上で太陽が静かに息をしていた。
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おまけ4——似たもの同士

「翠」 家に帰ってきた蓮は、リビングのソファに座っていた翠に声をかける。「蓮、どうしたの?」 穏やかに口角を上げている翠は、蓮の方に視線を向けて首を傾げる。蓮は挑むような笑みを浮かべて言葉をこぼした。「……ホラー映画見るか?」 先ほど陽菜と見ていた映画のディスクをセットし、テレビの電源を入れる。 翠は少し体を震わせて座り直し、体勢を整えた。蓮がリモコンを持って翠の隣に腰を下ろす。「じゃあ、つけるぞ」 そう言ってチャンネルを変えて、再生をする。パッケージで見た赤黒い背景が、視界いっぱいに映っていた。「待って……」 翠は隣にあったクッションを持ち、それを抱き締める。顔を下に向けて、少しだけ視線を上げ、薄目で画面を見た。「わっ……」「怖いのか?」 音に驚いて体が跳ねると、隣で蓮がクスッと笑った。「こ、怖くない」「強がんなって」 翠の肩を叩き、肩を震わせながら笑う。その間もリビングには不気味なBGMと甲高い笑い声が流れ続けていた。「どうだ?面白かっただろ?」 エンドロールが流れたところで蓮が言葉をこぼす。翠は涙を浮かべて蓮に視線を向ける。「蓮って性格悪いって言われない?」「なんだよ、急に」 翠は唇を尖らせて視線を逸らした。クッションに顔を埋める。「怖いなら言えばいいのに。本当にそういうところお前ら似てるよな」「なんの話……」「いや、こっちの話だから気にすんな」 蓮はいつも通りの優しい笑みを浮かべて翠のことを見ている。その目の奥には明るい光が灯っている気がした。蓮の表情を見て心がざわつく。無意識に口角が落ちて、口調も暗くなった。「お風呂入ってくる」「おう」 翠がこの時の気持ちに気づくのはもう少し先のことだった。
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第二十九話——視線が交わらない正午

 体育祭当日、いつもよりも早く起きて、身支度を整える。グラウンドと応援席の準備があるため、三十分登校時間が早いのだ。 カバンを手に取り、扉を開ける。「陽菜、おはよう」 階段の下から蓮の声が聞こえて、思わず体が跳ねた。「びっくりした……蓮、待ってたの?」「俺もいるよ」 蓮の後ろからヒョコッと翠が顔を出す。私は階段の途中で止まり、目を丸くした。穏やかな笑みを浮かべた翠を見て頬が緩む。階段を降り、蓮と視線を合わせる。蓮は優しく微笑んで言葉をこぼした。「一緒に行こうぜ」「うん」 私が頷くと蓮は歩き出す。その後ろを翠と並んで歩いた。後ろから光が差して、私たちの輪郭を照らしている。光が背中を押しているようで、私たちの足取りは軽かった。 話していると学校の門が近づいて、浮き足だったざわめきが聞こえてきた。翠とは門で分かれて、クラスごとに分かれた応援席に向かう。すでに準備されていた応援席の椅子の上に荷物を置いた。蓮は、委員の仕事でグラウンドの整備に行くらしく、荷物を置いてから背を向けた。「じゃあ後でな」 視線だけこちらに向けて優しい笑みを浮かべる。手を振ってグラウンドに向かって歩き出した。  椅子に腰をかけると、隣から声が聞こえてくる。「おはよう、陽菜」 私が座った椅子の隣に志織が立っていた。ほころんだ表情を向けられて、心の奥が温かくなる。志織は柔らかい声で言葉をこぼした。「障害物競走頑張ろうね」「うん!」 私は大きく頷いて笑顔を浮かべた。それと同時に開式を告げるピストル音が鳴る。いつもと違うざわめきに心が落ち着かなかった。 アナウンスが鳴り、全校生徒が入場口に集まる。私たちも流れに沿って入場口まで足早に移動した。軽快な音楽が鳴り、整列してグラウンド内を一周する。表彰台に向けて一クラス二列ずつに並び、足を止めた。 校長先生の話、生徒会長の話があり、選手宣誓の時間が訪れる。各色の代表者が前に出て、力強い声が辺り一面に響き渡った。 宣誓が終わり、生徒はそれぞれ散らばっていった。私は志織と一緒に応援席に戻る。 最初の種目のアナウンスが鳴
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おまけ5——三日月の下で

「蓮、お疲れ」 帰ろうとしていた蓮の後ろから翠が声をかける。「おう、お疲れ。翠も今終わったのか?」「うん。これから帰ろうと思ってたところだよ」「じゃあ一緒に帰るか」 そう言って蓮は翠の隣に並ぶ。二人は同じ速度で足を進めた。「もう真っ暗だね」「日が落ちるの速くなってきたな」 蓮の言葉に翠が頷く。二人が空を見上げると、三日月が浮かんでいて、夜の寂しさを感じさせた。「ていうか、翠がリレーやるのは意外だったわ」「そう?」 翠が蓮の方に視線を向けて首を傾げる。蓮は空を見上げたまま言葉をこぼした。「あぁ。だって目立つの苦手なタイプだっただろ」「まぁ確かに」 翠は視線を前に向けてから、少し視線を上げる。そして、ゆっくりと言葉をつぶやいた。「できることはやっておこうと思ったんだよね」 夜の空に溶けそうな翠の声に、蓮は思わず視線を隣にいる翠に移す。横顔を見れば儚い表情をしていて、胸がキュッと締め付けられた。「そうか」 二人の間に言葉を探すような沈黙が流れる。蓮の心には、嬉しいような、不安なような――様々な感情が生まれていた。やがて出てきた一つの言葉は、夜の空気を包み込むように柔らかかった。「まぁ無理すんなよ」「ふふっ、ありがとう」 翠は、蓮の声の温度だけで十分だった。それ以上の言葉はいらないと、自然に思えた。
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おまけ6——懐かしい安心感

「蓮、ちょっと来て」 翠の言葉に蓮は黙って頷いて後ろを着いていく。翠の部屋の扉を開けたところで蓮は目を見開いた。「これは……」 天井から水滴がぽつりと落ちてくる。布団の上に、深緑のシミがじわっと広がった。「これじゃ、寝れないな」「そうなんだよ……」 翠は肩を落とし、背中を丸めた。蓮は仕方なさそうに笑い、言葉をこぼす。「俺の部屋で寝るか」「じゃあ電気消すぞ」「うん」 来客用の敷布団を蓮の布団の隣に並べて寝ることになった。翠は落ち着かない様子で蓮に背中を向けて布団の中で丸まっている。「なんでソワソワしてるんだよ」「いや、なんか……」 一度翠が言葉を途切れさせて、二人の間に沈黙が流れる。布団の中で考え込んで、やがて小さく言葉をこぼした。「なんか、いつもと違うから旅行みたい」「そういうもんなのか」 翠が布団の中で頷き、布の擦れる音が部屋に響く。そこに蓮の笑い声が混ざり合った。「お前も子どもっぽいところあるのな」「なっ、そんなことない」 そう言って蓮の方に体を向ける。思ったよりも蓮の顔が近くにあり、慌てて距離を取った。「なんでこっち向いて……」「いや、いつもこっち向きで寝てるから癖で」「そ、そっか」 少し気まずい沈黙が生まれる。翠が蓮の方にチラッと視線を向けると、蓮は優しく微笑んだ。「子どもの頃みたいで懐かしいな」 温かな言葉が、翠の胸の奥にまでじんわりと染み渡った。「そうだね」 そのまま二人は言葉を交わさず、子どもの頃と同じ安心感に包まれて、ゆっくりと眠りに落ちていった。
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第三十話——聞くことのなかった言葉

 午前の競技が終わり、休憩時間のアナウンスが入る。それと同時に、観客席にいた人たちがグラウンドへ流れ込んだ。私と蓮は気まずい空気のまま、一緒にいるであろう自分たちの家族を探す。「お疲れ様」 辺りを見渡していると後ろから翠に声をかけられる。体を震わせて咄嗟に後ろを振り返る。蓮も隣で足を止めてゆっくりと翠のいる方へ体を向けた。「お疲れ」 答えたのは私ではなく蓮だった。私は先ほどの熱を思い出し、うまく口を開くことができない。やっとの思いで頷き、誤魔化すようにグラウンドに視線を向けた。 私は自分の両親を見つけて駆け寄る。それに気づいた翠たちの母が私に笑顔を向けてくれた。「陽菜ちゃん、頑張ったね」 私はぎこちなく微笑み返す。頬を掻きながら小さくつぶやいた。「でも、負けちゃったけどね……」「参加することが大事なのよ」 運動が得意ではない私にはその言葉が心の奥に沁みた。特に何も返さず笑顔を浮かべる。私がブルーシートの上に座ると、私の母が言葉をこぼした。「翠くんもお疲れ様。二人はリレーに出るのよね?」「そうです。蓮も俺もアンカーなので見つけやすいと思います」「まぁ、すごいわ」 誇らしげに頷き、父と視線を交わす。周囲では子どもたちが走り回り、砂埃がふわりと立ちのぼった。「二人とも頑張ってね」「おう。ありがとな」 ふいに頭を撫でられ、胸の奥が小さく跳ねる。口にしたハンバーグを噛む歯の動きが、気づかぬうちに速くなっていた。  ご飯も食べ終わり、午後の部が幕を開けようとしていた。午後は種目も少なく、綱引きとリレーだけだ。応援席に座ろうとした時、後ろから声をかけられる。「陽菜」「どうした?」 私は姿勢を正し、首を傾げる。すると蓮から手招きをされた。「ちょっと来て」 私は小さく頷き、蓮の背中を追う。歩みを進めるにつれてグラウンドの喧騒は遠のき、やがて静けさの満ちた校舎裏へと辿り着いた。 「蓮?」「これにメッセージ書いて欲しい」「ハチマキに……?」「あぁ」 蓮からハチマキを差し出される。私たちの学校では、ハチマキに好きな人からのメッセージをもらうという文化があった。「……いいよ」 少しの間の後、私は蓮からハチマキを受け取った。ほんのり赤くなった頬を隠すように蓮に背中を向ける。目の前にある木を下敷きに、ひと言応援の言葉を書いた。蓮に
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第三十一話——満たされる心

体育祭の翌々日、私たちは動物園に向かうため、駅までの道を並んで歩いていた。駅に近づくにつれて人の数が増えていく。私は首を傾げて言葉をこぼした。 「結構人多いね」 「平日の朝だからな」 「あ、そっか!」 振替休日だということを忘れていたため、ハッとして目を見開く。それを見てか、蓮は肩を揺らして笑っていた。 改札を抜けてホームに出ると、人で溢れかえっていて、前が見えないほどだった。 「すごい混んでる……」 「次の待つか?」 蓮が心配そうに私を見ているが、私は首を横に振った。 「いや、乗っちゃお」 電車の中は身動きが取れないほど混んでいて、蓮と会話をする余裕もなかった。人に押しつぶされて苦しいまである。 「大丈夫か?」 「うん、大丈夫……」 揺れに身を任せながら声を振り絞った。電車が揺れるたびに蓮の肩とぶつかって心臓が跳ねる。壁ドンされているような体勢に緊張してしまい視線を下に向けた。 「もう少しで着くぞ」 いつもよりも蓮の声が低く聞こえた。耳元で囁かれてビクッとする。蓮の息が耳に触れてさらに鼓動が速くなった。鼓動が蓮に伝わりそうでそっと胸に手を当てる。慣れている電車のはずなのに、初めて乗った時のように落ち着かなかった。 長いようで短い電車の旅はやがて終わりを告げ、動物園の前にたどり着いていた。 「動物園だ!」 カラフルに彩られた看板を見上げて目を輝かせる。チケットはあらかじめ蓮が用意をしてくれていたため、入り口に立っているスタッフに手渡した。跳ねるような足取りで門をくぐる。乾いた藁と湿った土の香りが鼻から広がり、楽しみで全身がくすぐったくなった。 「まずここ寄って行かね?」 そう言って蓮が指さしたのは、入り口のすぐ横にあるグッズ販売店だった。 「うん!」 私は目を輝かせて強く頷く。
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第三十二話——自然と上がる口角

そして、私たちは園内にあるレストランに来た。 「美味しそうなのいっぱい!」 食品サンプルを見て気分が高揚する。ガラスに張り付くように、食品サンプルに見入ってしまった。 「決まったか?」 「……」 集中していると蓮から声をかけられる。私は蓮の言葉に反応することなく、ジーッとメニューを眺めていた。隣からクスッとした笑い声が聞こえて顔を上げる。蓮は優しく微笑んで私の頭に軽く手を置いた。 「ゆっくり決めろ」 「……うん!」 そう返事をして、もう一度ショーケースに視線を落とす。どれもこれも美味しそうで、なかなか決められない。しばらく無言でショーケースを眺めていたが、やがて一つに絞り、券売機へ向かった。 券売機の前には長蛇の列が出来ていた。長時間立っていたため足が棒になりそうだったが、蓮と会話をするだけでその疲れも忘れさせてくれた。私たちの番が来て食券を購入する。列の流れに合わせて商品を受け取り、席に着いた。 私の前には、クマの形をした白米にルーのかかったカレーがある。少しスパイシーな香りが鼻をくすぐった。胸いっぱいに吸い込んだ空気が、温かな香りで満ちていく。可愛い見た目と食欲が刺激される香りに思わず体まで弾んだ。 「わぁ、美味しそう! かわいい!」 「おう、落ち着け」 思わず椅子の上で跳ねると、蓮に優しい声で止められた。蓮は柔らかい笑みを浮かべて、スマホをポケットから取り出す。そして、レンズをこちらに向けた。その瞬間、パシャっと音がする。私は驚いて思わず目を見開いた。 「ちょっ、急に撮らないでよ」 「悪い悪い」 私は頬を膨らませて、蓮に向けていた視線を細める。その様子を見て蓮はクスッと笑った。ご飯のことも忘れて、蓮のことをじっと見る。口元を押さえて控えめに笑う蓮に胸がドキッとした。その表情に見入ってしまって、ほんの一瞬のはずなのに、時間がゆっくり流れている気がした。そこに、ふんわりとカレーの香りが漂って、現実に引き戻される。気持ち
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第三十三話——困惑するあなたの笑み

休み明けすぐに文化祭の話が上がった。学級委員が黒板の前に立ち、チョークを握っている。 女子の学級委員である理佐が低めの声でつぶやいた。 「劇でいいですか?」 クラスの女子は楽しそうに返事をする。男子はつまらなさそうに各々別の話をしていた。 「では次に行きます」 理佐は諦めたように男子は無視して話を続ける。 「題材はどうしますか?」 理佐の言葉に一人が大きく手を挙げた。 「シンデレラがいいと思います。王子様役は蓮くんで」 「は?」 急に名指しされて蓮は目を見開く。男子はそれを聞いて少し興味深そうにしていた。急に教室に静寂が訪れる。 理佐は視線を蓮に移して小さな声で言葉をこぼした。 「……瑞樹さんはそれでいいですか?」 「じゃあシンデレラ役は俺が選んでいいか?」 蓮がそう言うと、すかさず蓮を指名した女子――絵里香が手を挙げた。 「私、立候補したい」 しかし、蓮は露骨に嫌そうな顔をして首を振った。 「いや、俺は陽菜がいい。じゃないとやらない」 それまで話の外にいたのに、急に話を振られてドキッとする。 「朝倉さん、それでいいですか?」 「え、でも……」 全員が私の方を見ている。興味深そうな視線、羨む視線、睨むような視線――それらを一気に浴びて身体が縮こまる。でもその中で蓮の揺れた瞳が私の心を動かした。 「分かりました。やります」 後悔も後からやってきたが、やらないで後悔するよりよっぽどいい。 「陽菜、良か
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