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All Chapters of Komplize - 共犯者 -: Chapter 1 - Chapter 10

11 Chapters

プロローグ

 両腕を束縛されたままベッドの上に押さえ込まれ、抵抗する術は何もなかった。「放せッ!」 そんな言葉がこの場合、役に立たないことはわかっていたけれど、それでも叫ばずにはいられなかった。「トーマって、女のコみたいに感じやすいんだね。初めてだなんて思えないくらい、反応イイじゃん」 ざらついた舌で乳首を舐め上げられて、思わず声を上げてしまう。「普通に喋ってる時も、トーマの声にはドキドキさせられたけど。今はもっとドキドキするよ。もっとたくさん感じさせてあげたくなる感じ」「や……めろって!」 どんなに声を荒げて叱責しても、迅はその行為をやめようとはしなかった。 そして、どれほど大きな声で叫んでも、助けが来ないことは、冬馬自身よくわかっていた。 都会からは遠く離れた、山あいのログハウス。 洒落た作りの外観を持つそのログハウスを、別荘代わりに買ったのだと、迅は言った。「俺、ココを買ったのトーマにしか教えてないんだ」 最初にここに連れてこられた時、気の優しい大型犬を思わせる懐こい笑みを浮かべ、そう言っていたのを覚えている。 交通の便が悪く、車がなければ動けないような土地だった。「だから、世間が煩わしいって思った時には絶好の隠れ場所になるだろ? この合い鍵、トーマに進呈するよ」 差し出されたちょっと旧式の錠前の鍵を受け取り、冬馬は怪訝な顔をして見せた。「なんで俺に? そりゃあ、そう言う場所があればイイって思ったことはあるけどさ」「俺が隠れてる時、トーマが黙っててくれるようにだよ。同じようにトーマがココを使えば、トーマだってココを他人に知られたくないって思うでしょ? 共犯者になって貰おうと思って」 いたずらっぽく笑った迅に、その時はそんなものかと思っただけだったが。 まさかその場所に、自分が監禁されるなんて想像もしていなかった。「テメェ……いい加減に……ッ!」 罵声を浴びせようと口を開いた時、迅はそれを待ちかまえていたかのように冬馬の感じやすい部分に歯を立てる。 瞬間、全身を駆け抜けた甘い衝撃に、開きかけた口から自分でも驚いてしまうような艶めかしい声が上がる。 冬馬は身を捩って、その場にあった羽毛の詰まった枕に顔を押し当てた。「声上げるの我慢すると、余計に感じちゃうよ?」 迅は、さも楽しそうにクスクスと笑う。「ほ
last updateLast Updated : 2025-11-01
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1.ログハウス

 迅からの連絡が途切れたのは、二週間ほど前だった。 フロントラインは、四人編成のバンドである。 久遠冬馬は、ヴォーカリスト。 篠塚迅は、ギターを担当している。 バンド活動も軌道に乗り、リリースしたアルバムは三枚目になるが、順調に売上を伸ばしていた。「もう探す場所なんて、どこにもないよ。迅君、もしかして拉致でもされたのかもしれない……」 スケジュールとマネージメント担当の北沢が、冗談でもなんでもなくそう言い出したのが一週間前。「でも北沢サン。そりゃ確かに可能性がないとは言い切れないけど、それならそれで身代金要求とか、犯行声明とか、あるんじゃないの? 女のコや子供が攫われたんならともかく、アレをそれ以外の目的で攫うヤツなんかいないでしょう?」 出かける先を聞いていたわけではないが、行き先に察しが付いていた冬馬は事態が大きくならないように、それとなく北沢を宥めた。 本音から言えば、迅の気まぐれに付き合わされるのはごめん被りたかった。 迅は決して、悪いやつではない。 迷惑を掛けられても憎めない……と感じる程度に、好感を持っている。 とはいえ、自分から〝面倒事〟に関わりになりたくないと思うのも当然で。 故に冬馬は、ギリギリまで迅を庇っていた。 が、それにも限界はある。 すでに仕事の一部には支障をきたし始めていた。 北沢へのストレスも、言いわけできる段階をとうに越えている。 だから、冬馬はあのログハウスへ電話をかけたのだ。
last updateLast Updated : 2025-11-01
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§

 ログハウスの存在を北沢に言わなかったことを、今更後悔しても仕方がない。 思うに、鍵を受け取ってしまったことで、冬馬は既に迅の罠にはまってしまっていたのだろう。「そろそろ、掛かってくるんじゃないかなぁって思って、待ってたんだよ?」 まるで当然といわんばかりの口調で応対に出た迅は、冬馬からの電話を歓迎するような気配さえ示していた。 ログハウスへの連絡手段は、設置されている固定電話しかない。 世間の煩わしさや仕事から引きこもるために、あえてそうしてあるのだ。「寝ぼけたコト言ってンじゃねェよ。オマエ一体ナニ考えてんだ? 仕事おっぽり出して……。さっさと戻って来い!」「おっぽり出してったって、大した仕事じゃないじゃん。どうせ、本人不在でもシングルはバンバンリリースされてるし、俺がいなくなったこと、まだ誰も気づいてないんでしょ? もうちょっと充電してからだって、大丈夫だよ」「ふざけんなよ! オマエ北沢サンにどんだけ心配かけてるか、わかってんのか? グチャグチャ屁理屈こねてると、そこの番号、北沢サンにチクるぞ」「えぇ〜、そりゃないよ、トーマ〜」 ようやく弱気な声を上げた迅に、一瞬冬馬は安堵したのだが。「じゃあさ〜、トーマ迎えに来てよ」「ああっ?」「だって、俺はまだ全然帰りたくないのに、帰らなきゃならないんだよ。誰か迎えに来てくれなくちゃ、気が乗らないよ〜」 ぬけぬけと、そんなことを言う。「冗談じゃない。俺がオマエにそこまでしてやる義理ねェだろ」 キッパリとはねつけると、迅は不満そうな声を上げた。「ホントはトーマだって北沢クンにココのこと教えたくないって思ってるんでしょ〜? 少しぐらい、俺のワガママ聞いてくれたって罰は当たらないよ。それに、今更ココのことを打ち明ければ、俺と一緒にトーマだって怒られるんだぜ?」「なんで、俺が?」「当たり前じゃん。だって俺達、共犯でしょ?」 そう言われてしまっては、冬馬も言葉を返せない。 実際、ログハウスのことを北沢に打ち明けるのは気が進まなかったし、北沢が憔悴しきっているのを気の毒に思いながらも、ログハウスの話をしなかったことを後ろめたく感じていたから。 結局冬馬は、完全に迅をはねつけることができなかった。「じゃあ、今から迎えに行ってやっから。そっち着いた途端にやっぱり戻りたくないとか言いやがったら、
last updateLast Updated : 2025-11-01
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§

 山小屋にたどり着いたのは、深夜も過ぎた頃。 そんなに遅くになる予定ではなかったが、なにぶんにも山道の運転は危ない。 現に、来る途中で転落事故の形跡を見掛けたほどだった。「あのヤロウ……、この代償は高くつけてやるから、覚えてろ……」 車を停め、真っ暗なログハウスを前に一人ごちてから、冬馬はおもむろに扉に手を掛けた。 室内に明かりが全く灯っていないことを不審に思わなかったわけではないが──。 自分がここに来るまでの間にまたしても迅が気まぐれを起こし、眠ってしまっているのだと思い込んでいた。 冬馬が室内に一歩踏み込んだ瞬間……。 バサリ──。 と、頭から被せられた毛布。「な、なんだっ?! ジンッ! おいっ!」 わけが解らず、冬馬はもがきながら暗闇の中をやたらに動き回った。 しかし、それもつかの間──。 ──ガツンッ! と、襲いかかってきた衝撃。「なん……っ」 突然の襲撃に、冬馬は為す術もなく床に打ち倒される。 咄嗟に打撃を見舞ってくる方向に蹴りを繰り出してみたが、その一撃に確信を持つ前に、伸ばした脛を強く打ち返されてしまう。「……っ!」 なにがなんだかわからぬままに闇雲に抵抗を続けたが、さらに肩口に浴びせられたような鋭い痛みと共に目の前がチカチカして、冬馬の意識は混濁してしまった。
last updateLast Updated : 2025-11-01
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§

「トーマってば、可愛い。我慢してる顔も、その声も、すごく可愛い」 迅の指が、熱の集まっている冬馬に絡みつく。「黙……れっ! 変……態っ!!」 できることなら、もっと滅茶苦茶に罵ってやりたかったが、不用意に口を開くと罵声よりも先に喘ぎ声をあげてしまいそうで、冬馬はそれ以上の言葉を紡ぐことができなかった。 冬馬が意識を取り戻した時、部屋の明かりは煌々と灯っていた。 ワケが分からず起きあがろうとして、両腕が背中に回されたまま拘束されていること、さらに自分が全裸にされていることに気づく。 驚き戸惑う自分に、部屋に入ってきた迅がそのままのしかかってきて、冬馬は混乱の中、ようやくこれが迅の罠だと理解した。「俺、ずっと前からトーマをこうやって抱きしめてみたかったんだ。ステージの上でイッちゃった顔してる時なんて、そのままそこで犯しちゃいたいくらいだった。ねェ、俺のモノになってよ、トーマ」「ふ……ざけんなっ!」 拒絶の言葉に、迅は微かに傷ついたような顔をしてみせるが、だからといって行為を中断するようなことはなく。 冬馬は強引に足を広げられ、本来ならばなにかを受け入れるようにはできていない部分に、指をねじ込まれた。「うっ……ううっ……」 痛みに、冬馬は強く唇を噛む。 噛みしめた口唇が再び切れたらしく、口の中に独特の錆臭い匂いがした。「キツイね、これじゃトーマも痛いでしょう? 大丈夫、すぐに楽にしてあげるから」 迅は指を抜くと、ベッドから離れて側の棚からなにかを手に取った。「コレ、試しに女のコに使ってみたら、すごかったよ。あんまり欲しがられて、俺の方がまいっちゃった」 含み笑いを滲ませながら、迅はピルケースの蓋を開け、中の薬品を指で掬い取る。 それをワザと冬馬の目の前で指に絡ませてから、おもむろに再び、その指を冬馬の秘所へと押し当てた。「い……やだっ! やめろっ!」 どんなに身を捩った所で、完全に体を押さえ込まれて逃れることなどできない。 薬品を纏った指は、易々と冬馬の体内に埋め込まれてしまった。 その薬品が潤滑剤の役目も果たしているため、先ほどのような痛みはなかったが、逆に異物感を余計に意識してしまう。「最初はね、何ともないみたいだけど。だんだん、だんだん、ポカポカしてくるんだって。それがそのうち、ものすごく熱くなって……。最後には、もう
last updateLast Updated : 2025-11-01
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2.篠塚迅

 ふと気がつくと、冬馬は一人でベッドの上にいた。 両手は相変わらず、背中で固定されている。「あ……のヤロウ……っ! 好き勝手しやがってっ!」 苛立ったように呟きながら、冬馬は動かない腕に不自由しつつも体を起こそうとしたが。「つぅっ!」 足に走った痛みに、思わず悲鳴を上げて動きを止めた。 体は相変わらず全裸のままだったが、上に薄掛けを一枚広げられていて、腰から下を見ることができない。 動かせば激痛が走るし、両手は拘束されていて動かすことは不可能だから、冬馬は、己の足の痛みの原因を見ることができなかった。「チクショウ! なんだつーんだよっ!」 ますます苛立ちを募らせたような様子で、冬馬はまるで癇癪を起こした子供のように無茶苦茶な動きをしてみせる。 しかし、そんなことで状況が変わるわけもなく、冬馬はただ足の痛みに呻くだけだった。「ダメだよ、トーマ。せっかく掛けといた布団はいじゃ」 扉が開いたと思ったら、手に持っていたトレーを側のテーブルに置いて、迅が側に来る。「テメェは一体、俺に何をしやがったっ!」 何もかもを抑制されて、完全に癇癪を起こしてしまっている冬馬が、噛みつくように怒鳴り散らす。 だが、鎖につながれた犬に子供が驚かないように、冬馬が決して自分に危害を加えられないことがわかっている迅は、落ち着き払ったものだった。「トーマって、怒ってる時もスゴク綺麗だね。……俺、最初の頃は本気で怖いって思ってたけど、でもトーマがホントはスゴク綺麗なんだって気がついてからは、時々ワザと怒らせたいって思ったこともあるよ」 肩に手をかけ、迅は強引に冬馬の体を仰向けに押し倒す。「やめろっ! 変態っ!」 どんなに悪態をついてわめき散らしても、迅は己の勝手な行動を止めようとはしない。「……怒ってない時も、スゴク特別なオーラを纏ってるみたいな感じがして……なんか、大型の肉食獣みたいでさ……。……俺ね、トーマを飼い慣らせるなんて思ってないけど、でも、ただ見ているだけってのに我慢ができなくなっちゃったんだよ……」 耳元に口唇を押しつけながら、ふざけた繰り言を囁き続ける迅に、冬馬の怒りは頂点に達した。
last updateLast Updated : 2025-11-01
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§

「いったぁーー!」「ぐあっ!」 悲鳴は、二人の口から同時に上がる。 腹を蹴られた迅は体を「く」の字に折り曲げて激しく咳き込み、蹴り上げた衝撃で足に激痛が走り、冬馬はのたうち回った。「ひっでェよ、トーマ! 蹴っ飛ばすコトないだろうっ!」「蹴飛ばされるようなコトしといて、なに言ってやがるっ!」 両腕が拘束されていることなどものともせずに、冬馬は迅に食ってかかる。 自身の意にそぐわぬことを強要されることを、なによりも由としない。 そんな冬馬にしてみれば、たとえ首から下すべてをガッチリと拘束されていようとも、最期の一瞬まで抵抗を止めないことが己のポリシーなのだ。「そんな無茶な動きをすると、足が二度と動かなくなるぞっ!」 迅の言葉に、思わず冬馬はギョッとしたような顔をした。「なん……だって?」「最初にスッゲェ暴れたろ、トーマ。あの時に、怪我したんだぜ? そんなふうにしたら怪我が治らなくて歩けなくなるに決まってんじゃん」 こわばった表情のまま、冬馬は掛け布団に隠れた己の足を見た。「もしここから解放されて自由になったとしても、足が動かなかったらもうあんな風にステージを駆け回ることができなくなるぜ? それでもイイんだ?」「解放?」 怪訝な顔をする冬馬に、迅はまるで勝ち誇ったような笑みを向ける。「確かに俺は、そう簡単にトーマを手放すつもりないけど。でも、俺はその可能性を否定する気はないんだぜ? 帰って、またステージ立つつもりがあるんだろう? トーマは希望を持って良いんだ。……でも、その気があるなら体はいとわなくっちゃね」 冬馬が黙り込むと、迅はますます嬉しそうに目を眇めてみせた。「俺としては、片足が折れてる方が都合がいいけど。でもあまり無様なトーマなんて見たくないから。本当に俺の手に負えない状態になる前に、医者を呼ぶつもりくらいは……」「医者なんか呼ぶなっ!」 ほとんど、わめき散らすように冬馬が言った。「えっ?」 己の体調や、ここから逃げ出す算段として医者を呼んで欲しいと冬馬が懇願することを期待していた迅は、その一言に吃驚する。「トーマッたら、ジョーダンばっかり。ホントは呼んで欲しいクセに、そんなコト言って俺を混乱させようっていう作戦なら……」「医者なんか呼びやがったら、テメェただじゃおかねェぞっ!」 ギッと睨み付けてくる冬馬の表
last updateLast Updated : 2025-11-01
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 迅が怯んだ様子に軽い満足を覚えた冬馬は、唐突に自分が空腹であることに気づく。「……ジン、腹減った」「あ、うん」 迅は、完全に気勢を制されていた。 その様子は、自分が〝監禁をしている立場の有利な人間〟であることも忘れているほどだ。 先ほど室内に入ってきた時に手から離したトレーを持ってきた。「トーマって、結構偏食が激しいからね。気ィ使って用意したんだよ」 まるで自慢の手料理を披露するかのような態度で、迅はベッドの側に小さなテーブルをセッティングすると、トレーをそこに置く。 今の口論で少し冷めかけてしまっているが、冬馬の嗜好に合わせられた料理はそれなりに魅力的だった。 食事のためにと体を起こしかけ、冬馬は身の不自由を感じる。「……おい、メシ食わすつもりなら、手ェ解けよ」 半端に体を起こした格好で、冬馬はそれを要求した。「ダメだよ」 しかし、申し出は案の定、即座に却下される。「テメェなぁっ!」 思わず激昂しそうになった冬馬の顔の前に、迅は人差し指を立てて左右に振ってみせた。「俺、トーマと自分の実力差ぐらい、ちゃんとわかってるモン。真っ向から殴り合いになったら、勝てないってことぐらいね。だから、保険は残しておかないと危ないって知ってるよ。先刻も言ったけど、今のトーマは捕らえたばかりの野生の獣と同じだモン。懐いてくれるまでは、鎖に繋いでおかないとね」「……テメェ……後で、覚えてろよ……」「医者を呼んじゃヤダって言うくらいなんだから、実はトーマこの状況を自分でも楽しんでるんじゃないの?」「それとこれとは、別だ」 低く唸るように呟いた冬馬に、迅はちょっとだけ笑った。 食事は、迅の手ずから食べさせられたことさえのぞけば、ごく真っ当だった。 医者を呼ぶ呼ばないで、冬馬に〝懇願〟させようとしたほどだ。 もっと異常な、とんでもない要求を突きつけてくるかと思ったが。 それに関してだけは肩すかしを食らったような気分だった。 もっとも、それを望んでいたわけではないから、冬馬はあえてそのことには触れなかった。 どうやら迅は、自分が差し出すスプーンを、冬馬がおとなしく受け入れていることですっかり悦に入ってしまったらしい。 高揚した気分をそのままに、食事の間中たわいのないお喋りを一方的に繰り広げていた。
last updateLast Updated : 2025-11-01
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 食事を終わらせた後、迅は小ぶりではあるが高性能なステレオで好みの音楽をかけ、何かを思いつくと、音楽を中断してギターを抱え込み楽譜にペンを走らせたりする。 それは奇妙に穏やかな時間だった。 まるで、自分は病床にあって、迅が見舞いの客として訪れたようにすら感じてしまう。「ねェ、トーマ。このフレーズどうかなぁ?」 平素と変わらぬ無邪気な声で、ギターを奏でながら迅が訊ねる。「そうだな……もっと……」 何気なく答えそうになって、冬馬はハッと口を噤んだ。「もっと……何?」「テメェで考えろっ!」 吐き捨てるように言って、冬馬は顔を逸らした。「トーマ……」 ギターを降ろし、立ち上がった迅が側に歩み寄ってくる気配がする。「……トーマ……俺……」 迅の指が頬に触れ、冬馬は無理やりに顔をこちらに向けさせられた。「俺……トーマが俺を嫌ってること、知ってるけど……、でも今は、そうやって態度に現すのマズイんじゃないの?」「この状況で、テメェに好意を持てだぁ? ふざけんな!」「嘘吐き……。トーマ、俺のことがずっと嫌いだったんだろう?」「はぁ?」 迅の言っていることをロクに理解できないウチに、冬馬の思考は中断させられる。 口唇をふさがれ、掛け布団の下にのばされた手は素肌をまさぐって冬馬の体に再び火を付けようと蠢いた。「てめ……っ、やめろっ!」「やめない。……だってトーマ、昨日の晩あんなに楽しんでくれたじゃない? 俺、トーマの気持ちを手に入れられないことぐらい、良くわかってる。……でも、人間って感情と感覚が伴わない場合ってあるんだよね。
last updateLast Updated : 2025-11-02
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§

「ホントに? トーマ」 問いかけに、冬馬はハッと我に返って迅を見る。「ホントに止めて欲しいの?」「あ……当たり前だろうっ!」 即答した冬馬に、迅は奇妙な表情を浮かべて顔を近づけてきた。「本当に? ……だってトーマ、こうしてクスリで煽られちゃえば自分に言いわけできるんだよ? オトコに抱かれてイッちゃうのは、クスリの所為だって。シラフで俺に抱かれて、感じちゃったらどうするの……?」 目を見開いた冬馬に、迅は悪魔的な笑みを向ける。「昨夜のトーマ、とっても可愛かったよ。女のコみたいに喘いで、腰振って、俺を欲しがって。シラフの久遠冬馬にそうしてもらえるなら、俺はそっちの方がずっと嬉しいけどさ」「俺が止めろと言ってるのは、この行為そのものだっ!」 迅は、さもおかしいと言った顔でくすくす笑った。「それはできない相談だって、知ってるクセに。だって俺、こんなにトーマが欲しい……」 ピタリと体を重ね合わせ、迅はスラックスの下の己の熱をアピールしてみせる。「て……めェ……」 怒りを滲ませて睨み付ける冬馬に、迅は目を眇めた。「だから、クスリ使わせてよ。……俺、トーマと楽しみたいだけで、困らせたいワケでも苛めたいワケでもないんだよ」「俺に触るなっ!」 拒絶する冬馬に、迅は微かに困ったような表情を浮かべて、肩を竦める。 そして、体を起こすと黙って冬馬の膝に手を掛けた。「イヤだっ! イヤだ、イヤだ、イヤだぁっ!」 痛む足を強引にバタつかせ、冬馬は駄々をこねる子供のように喚き散らす。 しかし、そんな抵抗も虚しく、迅の指先は冬馬の体内に穿たれてしまった。「あっ……ああぁっ!」 自分の上げる声が、悲鳴から次第に嬌声へと変わることに、嫌でも気付かされる
last updateLast Updated : 2025-11-03
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