LOGIN◯あらすじ ロックバンド〝フロントライン〟のヴォーカリスト久遠冬馬は、ギタリストの篠塚迅に、山あいのログハウスに呼び出される。 そこで待ち構えていた迅は冬馬を昏倒させ、監禁してしまった。 しかし、元々ヘタレの迅は、最初の勢いはどこへやら、徐々に主導権を冬馬に奪われてしまう。 ◯この物語は 監禁ホラー物を装った、ブラックコメディです。 表紙:Len
View More両腕を束縛されたままベッドの上に押さえ込まれ、抵抗する術は何もなかった。
「放せッ!」
そんな言葉がこの場合、役に立たないことはわかっていたけれど、それでも叫ばずにはいられなかった。
「トーマって、女のコみたいに感じやすいんだね。初めてだなんて思えないくらい、反応イイじゃん」
ざらついた舌で乳首を舐め上げられて、思わず声を上げてしまう。
「普通に喋ってる時も、トーマの声にはドキドキさせられたけど。今はもっとドキドキするよ。もっとたくさん感じさせてあげたくなる感じ」
「や……めろって!」 どんなに声を荒げて叱責しても、
「俺、ココを買ったのトーマにしか教えてないんだ」
最初にここに連れてこられた時、気の優しい大型犬を思わせる懐こい笑みを浮かべ、そう言っていたのを覚えている。
交通の便が悪く、車がなければ動けないような土地だった。「だから、世間が煩わしいって思った時には絶好の隠れ場所になるだろ? この合い鍵、トーマに進呈するよ」
差し出されたちょっと旧式の錠前の鍵を受け取り、冬馬は怪訝な顔をして見せた。
「なんで俺に? そりゃあ、そう言う場所があればイイって思ったことはあるけどさ」
「俺が隠れてる時、トーマが黙っててくれるようにだよ。同じようにトーマがココを使えば、トーマだってココを他人に知られたくないって思うでしょ? 共犯者になって貰おうと思って」いたずらっぽく笑った迅に、その時はそんなものかと思っただけだったが。
まさかその場所に、自分が監禁されるなんて想像もしていなかった。「テメェ……いい加減に……ッ!」
罵声を浴びせようと口を開いた時、迅はそれを待ちかまえていたかのように冬馬の感じやすい部分に歯を立てる。
瞬間、全身を駆け抜けた甘い衝撃に、開きかけた口から自分でも驚いてしまうような艶めかしい声が上がる。 冬馬は身を捩って、その場にあった羽毛の詰まった枕に顔を押し当てた。「声上げるの我慢すると、余計に感じちゃうよ?」
迅は、さも楽しそうにクスクスと笑う。
「ほらココ、余計に堅くなってる。可愛い声、聴かせて……」
根本を押さえ込まれ、熱を帯びたその場所を舐め上げられても、冬馬は必死になって声をこらえていた。
「意地っ張りだな、トーマは……。……でも俺はトーマの声が聴きたいから、トーマがお願いって言ってくれるまで、イカしてなんてあげないよ……」
噛みしめた口唇が切れたのか、口中に苦い味が広がった。
迅が目を覚ましたのは、見慣れぬ白い部屋の中だった。 清潔な白衣を着た女性と、心配そうに自分を覗き込む見覚えのある人の顔。「あ……れ? 北沢クン?」「大丈夫か、迅君。ああ良かった、ボクがわかるみたいだ。久遠君、迅君が意識を取り戻したよ」 心底安堵したように破顔した北沢は、顔を上げるとなにやら後ろを向いて誰かに話しかけている。 迅がその視線を追うと、隣のベッドには冬馬が横たわっていた。「トーマ……ッ? ……あ……北沢クン、俺達……」「ああ、うん。大体の事情は久遠君から聞いたよ。迅君、大活躍だったねェ。少し容態が安定したら、警察から事情聴取に来るって言っていたけど、今はとりあえず何も考えないで養生してくれ。ちゃんと事務所で弁護士を立てるし、コレはどう考えたって正当防衛が成り立つ筈だからね」「大活躍……?」「北沢サン、迅はまだ目ェ覚めたばっかで混乱してるし、状況は俺がわかってるから今日はこの辺にしてやってよ」「あ、ああ、それもそうだね。みんなにも君達の無事を伝えなきゃならないし、それじゃあ、ボクはコレで一度引き揚げるよ。明日になったらまた来るから」 ひたすらわけがわからない迅が何かを訊ねる前に冬馬が応対してしまい、北沢はそのまま部屋から出ていってしまった。「……トーマ……どういうこと?」 扉が閉まると同時に、迅は冬馬に振り返る。「……階段からコケ落ちた時に打ち所が悪くて、死ンじまったんだよ」「ええっ! 俺ってば死んでるのっ?」 迅の返事に、冬馬は心底ガッカリした。「なんで死んでるオマエが俺と会話してるんだよっ! 死んだのはあのイッちゃってたカンチガイ野郎だっつーのっ!」「え……? えええっ?!」 迅は、しばらく驚きで声も出ない。
「痛……てェ! 放せっ! ちくしょうっ!」 もがく冬馬に、男は無言でのしかかる。 そのまま抵抗もできずに殴られるのかと思っていた冬馬は、予想外の男の行動に咄嗟の対処ができなかった。「おとなしくしてれば、可愛がってやるって言ってんだろ」 股間に手をあてがわれて、全身に鳥肌が立つ。「イヤ……だっ!」 思わず上げた悲鳴は、あまりの情けなさに涙も出ないような、か細く女々しい声だった。「トーマに触るなって言ってんだろっ!」 起きあがった迅が猛烈なタックルを送って、男の体をはじき飛ばす。 体が解放された後も、冬馬は身が竦んでいてロクに動くこともできなかった。 犯されかかった恐怖故か、右足を打ちつけられた痛み故か、もう己にも判断できない。 ようやくの思いで体を起こした冬馬の目の前で、迅は殴り飛ばされた。 他人との殴り合いなどしたことがない迅は、ただ闇雲に相手に向かって行くだけで、自身が繰り出す攻撃は何一つ効を為さずに空振りに終わっている。 そして、男の容赦のない拳を顔面に叩きつけられて、酷い顔になっていた。 それでも、迅は決して諦めることも怯むこともせずに、男に挑み掛かる。 迅がのされてしまっては、冬馬の身に危険が及ぶことがわかっているから。「テメェは、うるせェんだよっ!」 襟を掴み、迅の顔面を何度も殴りつける男に、冬馬は迅の生命の危険を感じた。「やめろってっ!」 立ち上がった瞬間、蹌踉めくほどの痛みが右足に走ったが、冬馬は構わずに男に掴み掛かる。 無理に腕を抑え込み、迅の襟を掴んでいた手をもぎ取ると、突き放された迅はそのまま扉の方へと体を傾き掛けて、側の柱にようやくの思いで縋り付き、何とか倒れ込まずに踏みとどまった。「……くっ……!」 足元のふらつく冬馬では、それ以上男を抑え込むこともできず、振り払われて壁に叩き付けられる。 男はチラリと冬
「トーマに触るなぁっ!」 不意に圧迫感から解放され、ビックリして目を開ける。「迅ッ?!」 そこにいる筈のない人物が突然現れたことで、冬馬はますます驚いてしまった。「トーマ、大丈夫ッ?」 杖で男をバシバシと叩いてから、迅は慌てた様子で冬馬の側に寄る。「怪我はない? 犯されなかった?」「なんでそーいう質問になるんだよっ!」 両手の拘束を解きながら、迅は不安気な顔を崩さなかった。「だって、……俺にとってはそれってスゴク大事なコトなんだけど?」「だからオマエは、バカだっつーんだよ……」 思わず呆れ果てたような声になってしまったが、この状況ではそういう心配をされても仕方がないかと、自分で自分がかなり情けなかった。「でも、なんだってオマエがここに?」「ここしばらくの雨の所為で、土砂崩れがあってさ。道が閉鎖されちゃって、戻らざるをえなかったんだよ。連絡しようにも、カミナリで電波切れてるし……」「カミナリ?」「うん、こっちはそうでも無さそうだけど、県境のあたりはひどい降りなんだよ」 迅は、冬馬の戒めを外そうとした。「なんだよコレ、スッゲェ固く結んである……」「痛ッてェよ、ナイフかなんかで切った方が早くないか?」 冬馬の提案に、迅は側にあった果物ナイフを取ると戒め部分にあてがった。「……モジュール線だよ、コレ……。切れるのかなぁ……」「迅、後ろッ!」「えっ?」 振り返った迅は、顔面を杖で殴り飛ばされる。「迅ッ!」 散々叩きのめされた男は怒りを露わにして、倒れ込んだ迅の体を復讐するように松葉杖で殴り続けた。「オマエなんかが触れていい人じゃねェんだぞ、コラァ!」 迅が声も上げずに身を守るように縮こ
奇妙な感覚で、冬馬は覚醒した。 誰かに体を撫で回されているような、不快感。 目を開けると、そこには見たこともない男がいた。「て……めェ、誰だ?」「……俺、こんな田舎に住んでるから、トーマに逢うの大変なんだぜ」 ニタリと笑った男の顔に、やはり見覚えはない。「やっぱり、側で見るとサイコーだな。俺ずっと、こんなふうにトーマに触ってみたかったんだよ」「なっ……やめろ、テメェッ!」 胸をスルリと撫で上げられて、冬馬は自分が衣服を纏っていないことに気付かされる。「ココにトーマが滞在するようになって、俺ずっと配達やってたんだぜ。トーマがココにいるのに、テレビじゃいなくなったって大騒ぎしてる。アイツも出入りしてるってのに、一部のマスコミなんかじゃトーマがまるで死んだみたいな話にまでなって」「放……せっ! この、カンチガイ野郎ッ!」 両腕と片足をベッドに拘束されていて、冬馬は殆ど動くことができなかった。 唯一束縛されていないのは、痛みで動かすコトがままならない右足のみ。 しかも、なんとかして一矢報いたいと蹴り込んだ足は、絶妙のタイミングで掴まれ強く握りしめられた。「うあああっ!」「暴れンなよ。俺、トーマのコト助けにきたんだぜ。アイツにペットにされてんだろ? アイツをおびき出すのに苦労したんだぜ。東京にブッ飛んでったから、当分帰ってきやしない。俺とたっぷり楽しんだ後でココから出してやるからさ」「ふ……ざけんなっ!」 どんなに抵抗したくても、今の冬馬にはその術が何もない。 全身を撫で回されて、冬馬はあまりの不快感に吐き気すら感じていた。 ここに監禁され、迅に同じようなことを強要された時以上に、気分が悪い。「テメェ、俺のファンなんだろがッ! なんかこれ、違うだろっ!」「だって、トーマちっとも逢いに来やしねェじゃん。ここいらに住んでんじゃ、ライブにだってなかなか行