夜の帳が、ゆっくりと東京の街を包み込んでいく。 ガラス越しに見えるネオンが、遠くで瞬く星のように揺れていた。 如月結衣は、自宅の広いリビングの窓辺に立ち、カーテンを少しだけ開けて外を見下ろしていた。 無数の車が行き交い、街は確かに動いているのに―― 彼女の時間だけが、どこかで止まっているようだった。 手元のスマートフォンには、淡々としたメールの通知音が響く。 探偵から送られてくる報告。 画面には無機質な文字が並んでいた。 ――「羽田空港、出発ゲート確認済み」 ――「搭乗完了。目的地は那覇」 指先が震えた。 冷たい光がスマホの画面を照らし、その明かりが結衣の頬に影を落とす。 「……また、同じことを繰り返しているのね。悠真。」 リビングの壁には、数年前に撮った結婚記念写真が掛けられている。 白いドレス姿の結衣と、照れくさそうに笑う悠真。 その写真の中の二人は、確かに幸せそうだった。 だが今、その笑顔が遠い幻のように見えた。 テーブルの上には開けたばかりのワイン。 グラスの中の赤い液体は、ほとんど減っていない。 飲めば少しは気が紛れるかもしれない―― そう思っても、喉が拒絶した。 そのとき、インターホンが鳴った。 結衣は小さく息を吸い、表情を整えて玄関へ向かう。 ドアを開けると、そこにはスーツ姿の宮原俊介が立っていた。 「……来てくれたのね。」 「お前が電話くれたんだろ。」 短い会話。それだけで、二人の間には長い年月の信頼が伝わる。 リビングに戻ると、俊介はスーツの上着を脱ぎ、結衣の隣に腰を下ろした。 グラスを見つめながら、「飲んでないのか?」と尋ねる。 結衣は首を振った。「飲んだら、余計に泣きたくなるから。」 俊介はポケットからタバコを取り出しかけて、結衣の視線に気づき、ため息を吐いてそれをしまった。 「悠真、まただろ?」 単刀直入な言葉。遠慮のない友の問い。 結衣は目を伏せ、静かに答えた。 「ええ……三度目よ。しかも全部、会社の若い事務員。」 声は震えていない。 泣き疲れて、涙すら出なくなっていた。 俊介の眉が険しく寄る。 「三度目、か。……いや、正確に言えばもっとだ。」 結衣が顔を上げる。俊介の目はまっすぐだった。 「お前には言
Terakhir Diperbarui : 2025-11-04 Baca selengkapnya