雨上がりの夜だった。 アスファルトにはまだ雨の名残が光り、街灯の灯がその上に滲んでいる。 港区・如月グループのビルの裏口。 俊介は足を止め、胸の奥で脈打つ心臓の鼓動を感じていた。 ポケットの中には、一枚の封筒――経理部時代の後輩が「絶対に外で開けてください」と震える声で渡してきたものだ。 封を切ると、そこには細かい数字の羅列と領収書のコピー。 俊介の視線が一行に止まる。 「副社長・如月悠真」――経費処理の名義。 そしてその支出先には、宝飾ブランドの名前や、都内の高級ブティック、港区の不動産管理会社の名が並んでいた。 ――ドレス、ジュエリー、マンション。 俊介の指が、かすかに震えた。 これがもし本当に悠真の私的流用なら、ただの倫理違反ではない。 背任、横領。 企業としての信用を、一瞬で失う致命傷だ。 彼は目を細め、次の書類をめくる。 「取引先接待費」「事業推進特別経費」として処理された明細の中に、都内の高級レストラン、ホテルの宿泊費、ブランド店のレシートが整然と並んでいた。 そのどれもが、“美咲”の名と関係している。 ――あの女に、ここまで。 俊介は無意識に拳を握った。頭の中で、結衣の顔が浮かぶ。 いつも前を向いていた。社員の前で笑い、時には自分を責めながらも、決して泣き言を言わなかった。それが――あの悠真によって裏切られようとしている。 「……まさか、悠真が」 その呟きは、吐息のように夜の闇へ溶けていった。 翌日、俊介は社内の防犯カメラ映像の確認を行っていた。 経理の不審な経費処理を追うため、社内の深夜ログを調べていたのだ。 しかし、再生ボタンを押したとき――俊介の目が凍りついた。 モニターの中。 深夜の役員フロア。 消灯したオフィスの奥、会議室のドアが静かに開く。 そこに映っていたのは、悠真――そして、美咲だった。 彼が彼女の肩を抱き、唇を重ねる。
Terakhir Diperbarui : 2025-11-24 Baca selengkapnya