1時間後、 社内には「美咲が辞表を提出した」という噂が一気に広がった。 彼女のデスクはすでに空になり、私物が段ボールに詰められていた。 “退職”という言葉が、まるで処刑のように静かに響いた。SNSでは既に騒動の映像が拡散されていた。 《如月副社長、不倫現場に元恋人乱入!?》 《愛人社員、社内トラブルで退職か》トレンド欄は“如月副社長”の文字で埋まった。その日の夕方。 如月悠真は、ひっそりと社屋の裏口から入ってきた。 黒いマスクをつけ、誰にも声をかけられないように足早に廊下を歩く。 すれ違う社員が軽く会釈するが、誰も口を開かなかった。社長室のドアの前で立ち止まり、中から聞こえる打ち合わせの声に耳を澄ませた。 ――結衣と俊介の声だ。悠真は、ドアノブに手をかけることができなかった。 ただ立ち尽くし小さくため息をつくと、踵を返して廊下の奥へと消えていった。彼の顔には罪悪感でも後悔でもない、どこか現実から逃げ出すような―― 虚ろな安堵の影が浮かんでいた。そしてその夜、社内掲示板には「広報部・佐伯美咲 退職」の通知が静かに掲示された。誰も言葉を交わさなかった。 ただ、その日から如月グループの空気は、目に見えないほどに冷たく、重くなった。数時間後。結衣は、会長室で芹沢晃と並んでニュース映像を見ていた。 画面の中で、警備員に取り押さえられる田沼。顔を背けるように逃げる美咲。 そして、顔を引きつらせながら沈黙する悠真。芹沢晃が低い声で言った。「……見苦しいな。」結衣はただ黙っていた。晃は椅子に深く腰を下ろし、手元の資料を指で叩いた。「この状況で、悠真を庇うのか?」「…庇ってもムダね。けれど――会社は守らなきゃいけない。」晃は苦く笑った。 「やっぱり君は“社長”だな。だが、心までは壊すな。」結衣が視線を上げたとき、晃の目はまっすぐ彼女を見ていた。「悠真を切れ。そして如月を立て直せ。俺と東条が全面支援する。」そのとき、しばらく黙ってニュース映像をみていた如月会長が口を挟んだ。「結衣、離婚協議書など必要ない。紙切れ1枚の離婚届、これを悠真に渡す。今すぐに署名だ。」言い終えると秘書に離婚届の用紙を持ってくるように指示をした。「お父さん…すでに悠真には渡してあります。ただ、悠真からは何も言ってきません。」結衣が如月会長の顔
Terakhir Diperbarui : 2025-11-28 Baca selengkapnya