Lahat ng Kabanata ng 手遅れの愛、妻と子を失った社長: Kabanata 351 - Kabanata 360

466 Kabanata

第351話

「そんなに待てないわけ?」柚香が棘のある声で言った。「風呂を済ませたら書斎に来い」遥真は簡潔に言う。「大事な話がある」柚香は答えなかった。十分後。彼女は普段着のまま書斎へ向かった。まだ少し水気を帯びた顔はすっきりと澄んでいて、柔らかな長い髪が肩に流れ落ち、どこか世俗から離れたような雰囲気をまとっている。遥真はしばらく、彼女から視線を外さなかった。やがて柚香が、温度のない声で言う。「で、何の話?」「弘志が君を陥れた証拠は、もうすべて揃っている」遥真は先ほどのことには一切触れず、何事もなかったかのように話題を切り替えた。「訴えるか、それともあいつが父のところで暴れるのを放っておくか」柚香はわずかに眉をひそめる。彼の思考の切り替えの速さについていけなかった。「実際に大きな被害は出ていない。情状酌量をうまく主張されれば、刑もそれほど重くはならない」遥真は彼女の表情を見て説明する。「久瀬グループの顧問弁護士が動いても、それは同じだ」こういう件は、できることに限界がある。それでも、拘留で済むか正式な判決まで持ち込むかくらいの差はつけられる。「何か考えがあるの?」柚香は、彼が理由もなくこんな話を振るはずがないと分かっていた。「形式上、弘志は陽翔の祖父だ。将来の職業によっては、家族関係が多少見られることもある」遥真は彼女が陽翔を大切にしていることを知っている。「だから一応、君の考えを聞いておきたかった」彼の中では、陽翔に家業を継がせるつもりでいる。だが柚香はこれまでずっと子どもの意思を尊重してきた。もし今ここで弘志を訴え、そのせいで将来陽翔に不利が出たら、彼女はきっと後悔する。彼は、それを望まなかった。柚香は一瞬言葉に詰まる。そこまでは考えていなかった。「さっき、父のところで暴れてるって言ったよね?」柚香は彼の言葉を拾った。遥真は、弘志と会ったときのことを簡単に説明する。「俺に刑務所送りにされるのを恐れて、このところずっと本宅で騒いでる。父が行く先々に付きまとってる」「あなたのお父さんに会えてるの?」柚香は少し意外そうに言った。久瀬家の両親が外出する際は、必ずボディーガードがつく。あの警備体制で、弘志が簡単に近づけるとは思えない。遥真は何も言わず、彼女を見る。その視線で、柚香はすぐに察した。「お
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第352話

「陽翔の件、調べはどうなってるの?」遥真の手からそっと自分の手を抜きながら、柚香はそう聞いた。数日前、陽翔は友だちからサマーキャンプの話を聞いて面白そうだと言い、「また行きたい」と言った。それで遥真が送り出したのだ。三日で真相が分かるって言っていたのに、もう何日も経っているのに、彼は何も言ってこない。「ただの子ども同士のいざこざだよ。相手の子が、陽翔は人気があって、イベントでも毎回一番を取るのが気に入らなくて、嫉妬しただけだ」遥真は落ち着いた口調で言った。柚香は疑いの目を向ける。「どうしてその子、陽翔のアレルギーを知ってたの?」先生の話では、陽翔が倒れたのは、誰かが彼のコップにアレルゲンを入れたからだという。入れるには、事前に知っていないと無理だ。子ども一人ひとりの注意事項は、引率の先生が管理しているはずなのに。「以前、学校で誰かが陽翔にお菓子をくれたことがあった。そのとき陽翔は、アレルギーがあると言って断っていた。そのとき覚えたんだろう」遥真は淡々と説明した。それでも柚香は、どこか引っかかっていた。けれど遥真の表情は、嘘をついているようには見えない。「心配しなくていい。この件はちゃんと片付ける。陽翔がこんな目に遭ったままにはしない」遥真は彼女をなだめるように言った。「子ども本人の責任までは問えないけど、親とはきちんと話をつけるつもりだ」それでも柚香の胸のざわつきは消えない。幼稚園に入ってからずっと、陽翔はクラスの子たちとも周りの友だちとも仲良くやってきた。そんな中で、いきなり誰かが嫉妬してアレルゲンを入れるなんて、どう考えても不安になる。「この時間なら自由時間のはずだな」遥真は腕時計をちらりと見た。「電話して、少し話してみたら?」柚香は「うん」と答え、陽翔に電話をかけに行った。彼女が書斎を出ていったのを確認してから、遥真はスマホを手に取り、恭介に電話をかけた。その目は、これまでになく深く沈んでいる。「陽翔の件、どうなってる」「いろいろ手を尽くして、やっと口を割りました」恭介は落ち着いた声で答える。「蒼海市の人間に指示されてやったそうです」遥真は指先で机をゆっくりと叩いた。――蒼海市?あそこに恨みを買うような覚えはない。「理由は?」「本人も分かっていません。ただ、『お
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第353話

その日の夜。柚香は遥真と向かい合って座り、食事をしていた。すると、スマホが突然けたたましく鳴り出した。画面に美玖の名前が表示されると、柚香は迷うことなく電話に出た。「美玖おばさん」遥真には、美玖が柚香に何を話しているのか分からなかった。ただ、通話が長くなるにつれて、柚香が次第に箸を止め、目の奥に強い感情が込み上げていくのが分かった。「……それ、本当ですか?」柚香は胸の奥がこれまでにないほど激しく揺れ、以前の指摘を忘れ、思わず敬語になってしまう。「こんなことで嘘つくわけないでしょ」美玖は柚香の敬語を気にも留めず続けた。「来るときはゆっくりね、落ち着いて来るのよ。いい?」そんなの、落ち着いていられるわけがない。柚香は箸を放り出すように置くと、スマホを握ったまま外へ駆け出した。二歩も行かないうちに、はっとして戻り、車のキーをつかんで再び飛び出す。エンジンをかけるスピードは、これまでで一番速かった。「……?」遥真が追いかけようとしたその時、スマホが鳴った。出ると、高橋先生の報告の声が聞こえた。「久瀬社長、安江さんが目を覚ましました」遥真が外に出たときには、すでに柚香の車のテールランプしか見えなかった。すぐに別の車を用意させて追わせる。彼女にこんなにせっかちな一面があるとは思ってもいなかった。柚香は、は全身が極度に高ぶっていた。信号待ちの間も、頭の中はこれから母に会ったとき何を話すかでいっぱいだった。ハンドルを握る手には、じっとりと細かい汗がにじむ。心臓は今までで一番速く打っている。信号が青に変わる。アクセルを踏み込み、彼女は一気に病院へと向かった。三、四十分かかる道のりを二十数分で走り切り、車を降りてドアを閉めると、そのまま入院棟へ駆け出す。動きは終始慌ただしく、病室の前にたどり着いたときには息が上がり、髪も服も少し乱れていた。彼女の視線は、室内の医者や看護師の向こうへと伸びる。そして、ベッドの上で目を開けている人の姿をとらえた。「まず意識状態を確認します。声が聞こえますか?まばたきか、うなずいてください。指を動かしたり、足を上げたりしてみてください。四肢の動きを確認します。気分はどうですか?どこか違和感はありませんか……」医者の声が耳に届いてくる。けれど柚香の目には、少
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第354話

柚香はずっと付き添っていた。高橋先生がもう昏睡状態にはならないと言ってくれても、どうしても安心しきれなかった。「こんなに嬉しいことなのに、なんで泣いてるの?」美玖が隣に来て、肘で軽くつつく。美玖のほうがずっと落ち着いている。柚香は閉ざされた検査室の扉を見つめたまま、胸の中でいろんな感情が渦巻いていた。「嬉しすぎて、つい涙が出ただけ」「それ、違うよ」柚香は美玖に視線を向ける。美玖は口元を少し緩めて言った。「取り戻した涙、でしょ」柚香はもう一度、その扉へと視線を向ける。まるでその向こうの様子が見えるかのように。――そう。取り戻したんだ。しばらくして。柚香はふと、ずっとそばにいてくれた遥真を横目で見た。「あとで先に帰って。今夜は私、病院でお母さんに付き添うから」「大丈夫、俺も一緒にいる」「いいの」柚香が言った。遥真はそれ以上何も言わなかった。しかし、その態度が「一緒にいる」という意思をはっきり示していた。三十分後、安江はすべての検査を終えて病室へ戻ってきた。医者の説明を聞き終えたあと、柚香たちもベッドのそばに集まった。目を開けて、やさしい目で自分を見つめてくる母を見た瞬間、抑えていた感情がまたじわじわと込み上げてきた。「いい子……」安江が口を開く。声はかすれていて、言葉もはっきりしない。それでも柚香にはわかった。その先に続くのは、「泣かないで。ママはここにいるから」という言葉だと。柚香は駆け寄って抱きつき、その首元に顔を埋めながら、小さく震える声で呼んだ。「お母さん……」安江も手を伸ばして、彼女を抱き返す。本来なら、何年も眠っていた人が目覚めてすぐに腕を上げることなんてできない。けれどこの数年間、病院のスタッフが毎日手足の関節を動かしていたからこそ、この抱擁ができたのだった。その光景を見て、美玖が口を開く。「あと二年も遅く目覚めてたら、この子、寂しさでおかしくなってたかもね」安江は柚香の背中を軽く叩く。その瞳には、はっきりとした優しさと愛情が満ちていた。「お義母さん」遥真が声をかける。安江は顔を上げて彼を見る。そのままじっと観察するように視線を巡らせた。何も言われていないのに、遥真はなぜか少しだけ後ろめたさを感じる。――後ろめたい?自分でも、その感情がよ
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第355話

「今、体調はどうだ」昭彦は厚かましくも病室に入ってきた。目には隠しきれない心配が浮かんでいる。「どこかつらいところはないか。うちには最高の医療環境が……」「ここのほうが設備は上よ」美玖が即座に言い切った。昭彦は気にも留めず、一歩ずつベッドへ近づいていく。柚香は彼がベッドにたどり着く前に立ち上がり、前に出て行く手を遮った。その視線にははっきりとした拒絶がこもっている。「帰ってください」昭彦は柚香と揉めるつもりはなかった。「君のお母さんと話があるんだ」柚香はきっぱりと言う。「お母さんはあなたの話なんて聞きたくない」昭彦は仕方なく安江のほうを見る。安江は一度もまともに目を向けなかった。「もう遅いですし、そろそろお帰りになったほうがいいです」遥真は柚香の隣に立ち、手にしたスマホはすでにマナーモードにしてある。「明日の経済ニュースに、『黒崎グループのトップ、病室から追い出される』なんて出たくはないでしょう」昭彦「……」昭彦はこの「婿」を見て、ますます気に入らなくなる。遥真は淡々と口を開いた。「どうぞ」目の前にいるのに話もできない状況に、昭彦は苛立ちをすべて遥真へ向けた。「一緒に来い。ちょうど話がある」「いいですよ」遥真はあっさり答えた。「また明日来る」昭彦は安江にそう言った。歓迎されていないことなど気にも留めない。そうして二人は病室を出ていった。廊下の奥。昭彦は若くして頭角を現した遥真を見て、真っ先にこう言った。「柚香は俺の子だ」遥真の表情はまったく動かない。「……?」「サンプルを取らせないようにするほど、逆に関係が特別だと証明している」昭彦は落ち着いた声で続ける。「誕生日は八月末。安江と弘志が入籍したのは五月だ」「それで?」遥真は乗らない。「つまり、柚香は俺の子だ」昭彦は結論を言い切った。「本当に確信してるなら、こんな探り方はしないでしょう」遥真はさらっと返す。「柚香があなたの子かどうかは知りません。でも、義母があなたを好いてないのはよく分かってます」昭彦「……」そのとき、遥真のスマホがまた鳴った。昭彦がちらっと画面を見て、登録名を確認すると、すぐに反撃に出た。「君だって、大して変わらないだろ」遥真「……」病室の中。話題の本人は、目を覚ました後の状況に少しずつ慣れ
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第356話

美玖は奥歯をギリッと噛みしめた。「だったら最初から言いなさいよ!ずっと心配してたのに」柚香はあっさりと答える。「聞かなかったでしょ」「その人をイラッとさせる感じ、ほんとそっくり」美玖は安江に向かって文句を言った。「とにかく、あなたたち二人とも慰謝料払ってよ。精神的ダメージなんだから」「ありがとう」安江は心からそう言った。「やめてよ」美玖はいつも通りぶっきらぼうに返す。「うるせえよ」安江はくすっと笑った。――やっぱり、昔と変わらない。柚香はその腕にぎゅっと抱きつき、少し甘えるように言った。「お母さん、今夜一緒に寝てもいい?」安江は彼女の頭を撫でながら、できるだけなめらかに言葉を紡ぐ。「もちろんいいわよ」柚香の胸がふっとほどけた。心の奥にあった緊張が、一瞬で消えていく。「この間、大変だったわね」安江は額にかかる髪をそっと整える。優しさと愛情がにじむ仕草だったが、言葉はまだ少したどたどしい。「元気になったら、一緒にここを離れましょ」柚香ははっとした。ゆっくりと体を起こして安江を見つめる。その目の奥には、信じられないという色が浮かんでいた。安江は監視がオフになっているのを確認すると、すべてを打ち明けた。「毎日お昼に来て話してくれてたこと、ちゃんと全部聞いてたの。ただ……応えてあげられなかったし、力にもなれなかった」遥真に裏切られたことも。この間、どれだけ辛い思いをしてきたのかも。目を覚まして全部伝えたかった。自分がついていると、そう言ってあげたかった。けれど、目の前はずっと真っ暗で、どれだけもがいても抜け出せなかった。「出ていきたいなら、一緒に行きましょ」安江は彼女の手を握り、ゆっくりと言葉を重ねる。「どこでもいいわ。世界中、好きな場所を選んで」柚香は彼女に抱きついた。――やっぱり、お母さんがいるっていい。けれど二人は知らなかった。その会話を、ドアの外で壁にもたれながら遥真が一言も漏らさず聞いていたことを。底の見えない黒い瞳に、冷たい影が落ちる。手の中のスマホには、また玲奈からの着信が表示されている。だがマナーモードにしていた彼は、それに気づいていなかった。その場に五分以上立ち尽くしたあと、ようやく何事もなかったかのように中へ入ってきた。「昭彦さんはもう帰りました。俺
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第357話

高橋先生「?」それだけ?遥真はそれ以上は何も言わず、病室を出て最上階にある自分のオフィスへ向かった。椅子に腰を下ろし、大きな窓越しに行き交う車を眺める。いつになく、周囲の空気が重く沈んでいた。恭介に電話して用件を指示し、時也にもいくつか注意点を伝える。最後に、凛音へ電話をかけた。「どうしたの?」凛音の声は軽くて、いつも通り自然だった。遥真「君の師匠、目を覚ました」凛音は一瞬黙る。遥真「顔を見に来ないのか?」「ある意味、ただのネットの知り合いでしょ」凛音は背もたれに体を預け、ゆったりと椅子に座った。「もう何年も経ってるし、あの人が私のこと覚えてるかどうかも怪しいしね」「覚えていようが、いまいが関係ないだろ」遥真は言った。「こんな話をするために電話してきたわけじゃないでしょ」凛音は答えず、相変わらず気の抜けた口調だった。遥真も遠回しな言い方はせずに切り出した。「安江が柚香を連れて行こうとしたら、君はどっちにつく?」「それはねえ……」凛音はわざと間を伸ばす。遥真は急かさず、静かに待った。「気分次第かな」凛音はいつも通り軽い調子で言う。「あなたのこと嫌いじゃなければどっちにもつかずに中立。ちょっと気に入らなかったら、師匠に恩返しするつもりでそっちに回るかもね」遥真は「分かった」とだけ言って電話を切った。彼女の意味は理解していた。基本的にはどちらにもつかないが、必要になれば安江側にこちらの動きを少し漏らす可能性がある、ということだ。電話を切った直後、玲奈から着信が入る。今夜だけで、もう何度目か分からない。画面に表示された名前を見つめ、少し考えた末に遥真は出た。「何の用だ」……それから数日間、遥真は一度も病院に姿を見せなかった。そのことを柚香は特に気にしていなかった。毎日安江のリハビリに付き添うのに手一杯で、余計なことを考える余裕なんてなかったからだ。会社のほうは一週間の休みを取っていた。安江と一緒にいるために。安江は「一人でも大丈夫」と言ったけれど、柚香は譲らなかった。やっと目を覚ました母を、病院で一人きりにして、機械的な動作を繰り返させるなんてしたくなかった。そばにいたかった。数日が過ぎ、安江の状態は目に見えて良くなっていった。会話も普通にできるようになり、言葉に
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第358話

「離婚のことをどうしようか考えてて」柚香は隠さなかった。今の彼女は、頼れる場所を見つけた子どものようだ。「離婚届はもう預けてあるんだけど、手続きが完了するまで一か月くらいかかるの。うまく進められなかったら、結局またやり直しになっちゃって……」遥真のあの様子じゃ、きっと一緒に役所には行ってくれない。たとえ行けたとしても、そこからまた一か月待つ間に、何が起こるか分からない。安江「?」安江は初めて聞く言葉に戸惑った様子だった。「離婚の手続きって、ここまで時間かかるの?」必要な書類を持って手続きに行けばいいんじゃないの?彼女は今の状況を簡単に説明し、役所で確認中であることを少し丁寧に話した。話を聞き終えた安江の落ち着いた顔には、珍しく疑問が浮かんでいた。どうやら、この流れがどうにも腑に落ちないらしい。「あと七日で、せっかく預けた離婚届も宙ぶらりんのままになっちゃうの」柚香は不安そうに言った。「それが心配で……」「大丈夫よ」安江はもうすぐ五十に手が届く年齢とは思えないほど、肌もきれいで落ち着いていた。「取り消されたら、こっちで弁護士を立てる。ちゃんとその結婚から抜けられるようにしてあげるから」柚香は少し様子をうかがいながら言った。「遥真のところには、トップクラスの弁護士チームがついてるよ」安江はさらりと答えた。「大丈夫、こっちにもいるから」柚香「?」少し意外だった。「私が完全に回復したら、この件はきちんと片付けるわ」安江は彼女の手を握り、安心させるように言った。「あなたは、自分の気持ちに正直に、ちゃんと生きていけばいいの」「うん」柚香はようやくほっとした。しばらくして。母が何か考え込んでいる様子を見て、柚香はそっと声をかけた。「お母さん」安江「ん?」「お母さんと美玖おばさんって、孤児じゃないんだよね?」「ええ」安江はもう隠さなかった。「詳しいことは、また今度ゆっくり話すわ。ただ覚えておいて。どんな立場であっても、お母さんはあなたを一番愛してるってこと」これまで話さなかったのは、娘に何も心配せずに育ってほしかったからだ。けれど遥真との離婚の間に、彼女はあまりにも多くの苦しみを経験してしまった。「じゃあ、お父さんとは?」柚香は尋ねた。「お互いに必要だっただけよ。あの人は仕事で地位を
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第359話

ここ数日、母のリハビリに付き添う中で、柚香は自分の資産状況についても聞かされ、あのとき美玖が言っていたことが冗談ではなかったのだと理解した。母は本当にお金を持っている。以前見たあの財産譲渡書に載っていたのは、ほんの一部にすぎず、まだ記載されていない資産もあるという。「自分のやりたいことに専念していい、お金のことは気にしなくていい」とも言われた。それに、退職時に支払う違約金も、母にとっては大した額ではないらしい。そんなことを考えているうちに、車は柚苑に到着した。車が止まるとすぐに降り、そのまま邸宅の中へ入っていった。執事に遥真がまだ帰っていないと聞き、先にシャワーを浴びて着替えた。遥真が戻ってきたのは、それから一時間後。夜九時ちょうどだった。スーツ姿のまま、遥真が中へ入ってくる。執事が歩み寄り、状況を伝えた。「柚香さんがお話があるそうで、今は書斎でお待ちです」遥真は感情の読めない黒い瞳で二階を一瞥し、軽く「わかった」とだけ返した。しばらくして。書斎のドアが開く。物音に気づいた柚香が振り向くと、遥真がスーツのボタンを外しながら入ってきた。低く落ち着いた声はいつも通りだった。「執事から聞いた。話があるんだって?」「うん」柚香はうなずく。遥真は上着を置きながら聞いた。「何の話?」彼の表情が落ち着いていたのを見て、柚香は切り出した。「仕事、辞めようと思ってる。しばらくは病院で、母のそばにいたいの」「医者の話じゃ、長くても一か月で普通に歩けるようになるって」遥真はシャツの袖を軽くまくり、引き締まった前腕をのぞかせた。「一か月休みを出す。わざわざ辞める必要はない」「でも、辞めたいの」柚香は譲らなかった。辞めなければ、ここを離れられない。それが原栄ゲームに対して無責任だと分かってはいる。けれど、二億の違約金があれば、自分より優秀な人材を雇って代わりにできるはずだ。「この仕事、好きだったんじゃないの?」遥真は水を一杯注いで口にしながら、いつもと変わらない調子で言う。「初めて関わったゲームだし、そのために出張して勉強もしてただろ。それを、あっさり手放すのか?」柚香の考えていることなど、彼にはお見通しだ。けれど、それをあえて指摘はしない。選択の余地を与えている。「手放すんじゃないよ
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第360話

柚香はまるで機械のように答えた。「うん、もう大丈夫。私たちとそんなに変わらない感じ」普通に会話する分には問題ない。ただ、叫んだり大声を出したりするのは、まだ難しそうだった。「柚香」遥真が声のトーンを落として呼ぶ。柚香は横目で彼を見た。「どうしたの?」遥真は黒い瞳でまっすぐ彼女を見つめた。結果がどうなるか分かっていながら、それでも視線を外さずに問いかける。「今、お母さんが目を覚ましただろ。お母さんと陽翔を連れて、ここを離れること、考えたことあるか?」正直に答えるなら、ちゃんと話し合うつもりだった。けれど嘘をつくなら、その後は彼女の気持ちを気にかけないかもしれない。「どうして急にそんなこと聞くの?」柚香は正面から答えなかった。「先に答えて」遥真は、簡単に話を逸らされるタイプじゃない。自分がその気にならない限りは。「今のところは、ないかな」柚香は理由が分からないまま、半分本当で半分ごまかすように答えた。「でも、これから先あなたが私にちゃんとしてくれなかったり、約束を守らなかったら……答えは変わるよ」彼女の言う「ちゃんと」と、遥真の考える「ちゃんと」は違う。だから結局、彼女は離れることになる。遥真は、どこか距離を置いたような彼女の表情を見つめて言った。「じゃあ、お互いちゃんと守ろう」「私、もう病院に戻るね」柚香は話題を切り上げた。この場所には一秒だって長くいたくない。「明日もお母さんのリハビリがあるから、早く行かないと」「ここに泊まらないの?」遥真が聞く。柚香は迷いなく答えた。「うん、やめておく」遥真の底の見えない黒い瞳が、じっと彼女に向けられる。その奥は、まるで深い闇のようだ。もうこんなに早く、彼と距離を置くつもりでいる。一晩だって一緒に過ごす気はない。「どうしたの……?」柚香は胸がきゅっと締まる。彼の視線に、すべて見透かされている気がした。「送るよ」遥真は何も追及せずに言った。どこまで隠し通せるのか、見てみたいのだ。「ちょうどお母さんの様子も見たいし」「大丈夫」柚香は断る。「行こう」「この時間だと、もう寝てると思うよ」柚香は状況を説明した。「行くなら明日のほうがいいよ。ちょうど土曜日だし」「お母さんに会うのも理由のひとつだけど、やっぱり……こんな時間に一人で移動させる
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