「そんなに待てないわけ?」柚香が棘のある声で言った。「風呂を済ませたら書斎に来い」遥真は簡潔に言う。「大事な話がある」柚香は答えなかった。十分後。彼女は普段着のまま書斎へ向かった。まだ少し水気を帯びた顔はすっきりと澄んでいて、柔らかな長い髪が肩に流れ落ち、どこか世俗から離れたような雰囲気をまとっている。遥真はしばらく、彼女から視線を外さなかった。やがて柚香が、温度のない声で言う。「で、何の話?」「弘志が君を陥れた証拠は、もうすべて揃っている」遥真は先ほどのことには一切触れず、何事もなかったかのように話題を切り替えた。「訴えるか、それともあいつが父のところで暴れるのを放っておくか」柚香はわずかに眉をひそめる。彼の思考の切り替えの速さについていけなかった。「実際に大きな被害は出ていない。情状酌量をうまく主張されれば、刑もそれほど重くはならない」遥真は彼女の表情を見て説明する。「久瀬グループの顧問弁護士が動いても、それは同じだ」こういう件は、できることに限界がある。それでも、拘留で済むか正式な判決まで持ち込むかくらいの差はつけられる。「何か考えがあるの?」柚香は、彼が理由もなくこんな話を振るはずがないと分かっていた。「形式上、弘志は陽翔の祖父だ。将来の職業によっては、家族関係が多少見られることもある」遥真は彼女が陽翔を大切にしていることを知っている。「だから一応、君の考えを聞いておきたかった」彼の中では、陽翔に家業を継がせるつもりでいる。だが柚香はこれまでずっと子どもの意思を尊重してきた。もし今ここで弘志を訴え、そのせいで将来陽翔に不利が出たら、彼女はきっと後悔する。彼は、それを望まなかった。柚香は一瞬言葉に詰まる。そこまでは考えていなかった。「さっき、父のところで暴れてるって言ったよね?」柚香は彼の言葉を拾った。遥真は、弘志と会ったときのことを簡単に説明する。「俺に刑務所送りにされるのを恐れて、このところずっと本宅で騒いでる。父が行く先々に付きまとってる」「あなたのお父さんに会えてるの?」柚香は少し意外そうに言った。久瀬家の両親が外出する際は、必ずボディーガードがつく。あの警備体制で、弘志が簡単に近づけるとは思えない。遥真は何も言わず、彼女を見る。その視線で、柚香はすぐに察した。「お
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