昭彦は一瞬言葉に詰まった。まさか彼女が、自分ですら考えたくもないことを口にするとは思っていなかった。ぼんやりしている彼を見て、柚香はもう一度問いかける。「愛してるんですか?」「愛している」その答えは迷いがなく、これまでのどの瞬間よりも落ち着いていて真剣だった。「何年経っても変わっていない」もし愛していなければ、家の反対を押し切って一生独身でいるはずがない。柚香は彼とまっすぐ視線を合わせる。「でも、私はそうは思いません」昭彦はわずかに眉をひそめた。なぜそんなことを言われるのか、理解できない。「本当に愛してるなら、お母さんにあんな噂を背負わせたりしないはずです」柚香は、安江や弘志に幼い頃から大切にされてきたからこそ、こういうことはよく見えていた。「それに、人があんなことを言っているのに、何もしないなんてありえないです」「必ず代償は払わせる」昭彦はそう約束した。「そのあと、どうするんですか?」柚香は問い返す。昭彦は一瞬、言葉に詰まる。柚香は核心を突いた。「あなたがいないところでは、また同じことを言われます。むしろ、今回のことで余計にひどくなるかもしれません」「他人の口までは止められない。ただ、できる範囲で防ぐことはする」昭彦は、完全に噂を消すとは約束できなかった。「君や安江の耳に入らないようにもする」「だから言ってるの。あなたはお母さんを愛していない」柚香は言い切った。もう敬語も使わない。昭彦の目の奥がわずかに深くなる。柚香は一番わかりやすい例を出した。「どうして私と遥真は、家柄が釣り合っていないのに、これまで外で何も言われなかったと思う?彼が、みんなの前で私を愛してるってはっきり言ったからだ。私が唯一だって。私に何かすれば、自分を敵に回すことになるって」「……君の母親とは事情が違う」昭彦は誤解されたくなくて説明する。「表に出せないこともある」「昔はそうだったとしても、今もそうとは限らないでしょ」柚香ははっきりと言い切る。「噂されているとき、あなたは外に向かってお母さんを愛しているって言ったことがあるの?婚約者との関係を壊したって言われたとき、否定した?」昭彦は言葉を失った。――していない。「していないよね」柚香は一語一語、確かめるように言う。「……そこまで考えが及んでいなかった」
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