「そんなに嬉しいなら、ご褒美くらいくれてもいいんじゃない?」遥真は柚香の手を引き寄せ、やわらかな声を少しだけ弾ませた。柚香は横目で彼を見る。遥真が、自分の本当の気持ちに気づいていないはずがない。こんな状況でそんなことを言うなんて、わざと気分を悪くさせてるの?「ご褒美なら、ちゃんと会社に戻って働いて稼いでくることね」彼女は一言だけ投げた。「稼ぎ終わるまで、私の前に来ないで」遥真は怒らなかった。そんな彼女の態度が、かえって本物に思えた。その後の道中、二人はほとんど口をきかなかった。一人はずっと窓の外を見つめ、もう一人はその「窓の外を見ている人」を見ていた。病院に着くと、遥真は完璧に振る舞った。礼儀正しく落ち着いた様子で安江と話し、容体を尋ね、体調を気遣う。終始、控えめで気の利く婿そのものだった。けれど安江は甘くない。いろんな修羅場をくぐってきた人間として、遥真のようなタイプは、昭彦よりもずっと厄介だと分かっている。ひと通りの気遣いが終わったところで、彼女は口を開く。「あなた、他の女性とただならぬ関係だって聞いたけど?」遥真は落ち着いた顔のまま言った。「玲奈のことですか?」安江ははっきりとうなずく。「そうよ」「彼女には恩があります。子どもの頃、命を救われたことがあるんです」遥真はゆっくりと続けた。「だから気にかけているだけで、それ以上の気持ちは一切ありません」「そのせいで、柚香を苦しめたでしょ」安江は言う。昏睡状態の間、柚香が毎日話しかけていた言葉は、彼女には全部聞こえていた。この間に何があったのかも、当然知っている。「それは俺の責任です。きちんと償い、謝ります」遥真は落ち着いて答えた。「あのとき彼女が離婚を切り出してきて、つい感情的になってしまって……冷静さを欠いた行動を取りました」「じゃあ、財産を移したとか、彼女の価値を否定したって話は?」安江は彼を見据える。「ただ怒ってただけで、そんなこと普通はしないわよ」「財産は移していません。あれは、離婚を思いとどまらせるためにわざと言っただけです。信じられないなら、いつでも調べてください」遥真は正直に言った。「彼女の価値を否定したのも、あれは売り言葉に買い言葉です」柚香が自分にもたらしてくれたものは、家庭だけじゃない。彼の世界で、たった一つ
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