手遅れの愛、妻と子を失った社長의 모든 챕터: 챕터 371 - 챕터 380

466 챕터

第371話

「そんなに嬉しいなら、ご褒美くらいくれてもいいんじゃない?」遥真は柚香の手を引き寄せ、やわらかな声を少しだけ弾ませた。柚香は横目で彼を見る。遥真が、自分の本当の気持ちに気づいていないはずがない。こんな状況でそんなことを言うなんて、わざと気分を悪くさせてるの?「ご褒美なら、ちゃんと会社に戻って働いて稼いでくることね」彼女は一言だけ投げた。「稼ぎ終わるまで、私の前に来ないで」遥真は怒らなかった。そんな彼女の態度が、かえって本物に思えた。その後の道中、二人はほとんど口をきかなかった。一人はずっと窓の外を見つめ、もう一人はその「窓の外を見ている人」を見ていた。病院に着くと、遥真は完璧に振る舞った。礼儀正しく落ち着いた様子で安江と話し、容体を尋ね、体調を気遣う。終始、控えめで気の利く婿そのものだった。けれど安江は甘くない。いろんな修羅場をくぐってきた人間として、遥真のようなタイプは、昭彦よりもずっと厄介だと分かっている。ひと通りの気遣いが終わったところで、彼女は口を開く。「あなた、他の女性とただならぬ関係だって聞いたけど?」遥真は落ち着いた顔のまま言った。「玲奈のことですか?」安江ははっきりとうなずく。「そうよ」「彼女には恩があります。子どもの頃、命を救われたことがあるんです」遥真はゆっくりと続けた。「だから気にかけているだけで、それ以上の気持ちは一切ありません」「そのせいで、柚香を苦しめたでしょ」安江は言う。昏睡状態の間、柚香が毎日話しかけていた言葉は、彼女には全部聞こえていた。この間に何があったのかも、当然知っている。「それは俺の責任です。きちんと償い、謝ります」遥真は落ち着いて答えた。「あのとき彼女が離婚を切り出してきて、つい感情的になってしまって……冷静さを欠いた行動を取りました」「じゃあ、財産を移したとか、彼女の価値を否定したって話は?」安江は彼を見据える。「ただ怒ってただけで、そんなこと普通はしないわよ」「財産は移していません。あれは、離婚を思いとどまらせるためにわざと言っただけです。信じられないなら、いつでも調べてください」遥真は正直に言った。「彼女の価値を否定したのも、あれは売り言葉に買い言葉です」柚香が自分にもたらしてくれたものは、家庭だけじゃない。彼の世界で、たった一つ
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第372話

そう言いながら、安江はちらりと遥真を見た。そして、はっきりと後半を言い切る。「ここ数年で遥真が私の治療に使ったお金、全部振り込んであげて。うちはお金に困ってないし、あんなことで後ろ指さされるのはごめんだから」遥真「……」義母の怒りは、柚香以上に根が深い。「利息もちゃんとつけてね」安江は一度こうと決めると、とことん徹底するタイプで、柚香でさえ敵わない。「あとで揉めたときに、このことを持ち出されたら困るし」「うん」柚香はすぐに答えた。「そんな必要はありません。義母ですから。治療するのは当然の務めです」遥真は、柚香の性格が安江に似ているとよく分かっている。年長者を納得させない限り、柚香とやり直すなんてまず無理だ。「柚香があなたの妻だからって、離婚のときに法的に当然の財産分与まで、あんな言い方をする人でしょ?」安江は怒ると、とことん細かくなる。「まして私は赤の他人。身の程はわきまえてるつもりよ」そう言ってから柚香を見て尋ねた。「終わった?」柚香はスマホの画面を見て答える。「もう振り込んだ」美玖が安江のためにカードを再発行したとき、高額振込の申請も一緒にしていた。それで柚香はすぐに送金できたのだ。遥真のスマホに着金の通知が届く。その金額を見て、思わず眉がぴくりと動いた。「ほかに用がなければ、今日はここまでにしよう」安江の声はどこかよそよそしい。「柚香と美玖と、まだ話があるの」「では、ゆっくり休んでください」遥真はそれ以上居座らなかった。安江「ええ」遥真は立ち上がり、自分をかばうどころか送金にまで加担した柚香に視線を向け、軽く口を開いた。「見送りくらいしてくれない?」柚香「?」――一人で帰れないの?遥真はその場から動かない。見送らなければ帰らない、と言わんばかりだ。「ちょっと送ってくるね」柚香は安江に声をかけた。遥真がわざとだと分かっていたからだ。「先に美玖おばさんと話してて」「いいわよ」安江は止めなかった。二人が部屋を出た瞬間、扉が閉まるのを見て美玖がため息まじりに言う。「あなたの前でもあんなふうに柚香を脅すなんてね。裏じゃもっとひどいんじゃない?」安江の目がわずかに暗くなった。まさか遥真がこんなふうになるなんて思ってもいなかった。最初、彼と柚香が付き合い始めたとき、安江はどこ
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第373話

遥真は、黒い瞳でじっと柚香を見つめていた。柚香もまた、静かな目でまっすぐ見返す。空気は張り詰めたまま。どちらも口を開こうとしない。どれくらい時間が経ったのか、先に口を開いたのは遥真だった。彼は手を伸ばし、彼女の耳元の乱れた髪をそっと整えると、いつもと変わらない穏やかな表情で言った。「じゃあ、もう少し頑張って、君のお母さんに認めてもらえるようにするよ」柚香は適当に相槌を打つ。「うん」遥真の指先が耳から頬へと滑る。「じゃあ俺、帰るよ。病院でちゃんとしてて」「うん」「何かあったら電話して」柚香は淡々と答える。「わかった」「ずいぶん冷たいな」遥真は軽く彼女の頬をつまみながら、相変わらず甘やかすような口調で言った。「さっきお義母さんにけっこう怒られたんだけど、ちょっとくらい慰めてくれてもいいんじゃない?」「どう慰めたらいいかわからない」柚香は、好きじゃない相手にははっきりしている。「帰ってゆっくり休めば」遥真の視線は変わらない。「了解、柚香の言う通りにするよ」柚香はもう相手にする気もなかった。遥真も彼女の気乗りしない様子をわかっていて、これ以上無理に引き止めることはしなかった。「戻りな」「うん」柚香は一切迷わず、そのまま背を向けて歩き出した。彼女の背中がどんどん遠ざかり、やがて視界から消えても、一度も振り返ることはなかった。その瞬間まで穏やかだった遥真の黒い瞳に、ようやく感情が波立つ。冷えきった色に変わっていく。運転手がすぐに車を降り、ドアを開けた。遥真は無表情のまま乗り込む。まだ体勢も整えないうちに、隣に誰かが座っているのに気づいた。「やあ」時也がにやりと笑って声をかける。遥真はわずかに眉をひそめた。「なんでここにいる」時也は気軽に答える。「君の奥さんの実の父親が黒崎グループの社長だって聞いてさ、ちょっと野次馬しに来たんだよ。まさかこんな気まずい場面に出くわすとはね」こんな展開になるってわかってたら、車が発進する直前まで隠れてたのに。遥真は口を結び、目だけがわずかに冷たくなる。運転手が尋ねる。「社長、会社に戻りますか、それともご自宅へ?」「会社へ」「この時間から会社?」時也が時計を見て言う。「もう五時過ぎてるし、着く頃には誰もいないんじゃない?」遥真は答えない。
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第374話

遥真は何も答えなかった。時也は心から、柚香はいい子だと思っていた。「最初から最後まで、柚香は君に悪いことなんて一つもしてないのに、何度も振り回してさ……あの子の心、壊れるのが怖くないのか?」「壊れたって、そばにいさせる」遥真は静かに言ったが、その言葉はどこか極端だった。時也は、彼が少しおかしいと感じた。「君……」あいつの件があってから、遥真の様子はずっとよくなかった。一見すると穏やかで控えめに見えるが、実際は、ちょっとしたきっかけでいつでも壊れそうな危うさを抱えている。柚香と一緒にいるようになってから、やっと昔みたいな明るさや生き生きした感じが戻ってきたと思っていた。その頃は、凛音と一緒に「もう立ち直ったんじゃないか」とさえ思っていた。しかし今となっては、立ち直ったどころか、むしろ前よりひどくなっている。「もし最後まで、柚香が君のことを何とも思ってなかったら?真帆たちに手を出しても、気にもしなかったらどうする?」時也は、あえて少しきつい質問を投げた。「気にしないってことは、俺のやり方が足りないってことだ」遥真は感情のない声で言った。「何だって、極端になれば必ず反応は返ってくる」「遥真……」時也は止めようとした。だが遥真は運転手に言った。「止めて」時也「は?」遥真は横目で彼を見た。「降りろ」時也はまっすぐ続く道路を見て言った。「こんなとこで降りて、どうしろってんだよ」遥真はうるさそうに眉をひそめた。「それは君の問題だ。俺には関係ない」「好き勝手やってろよ」時也は仕方なく車を降りながら、ぶつぶつ文句を言った。「いつかボコボコにされて動けなくなっても、僕に片付け頼むなよ」「片付けたくても順番待ちだな」遥真は冷たく言い放ち、そのままドアを閉めて去っていった。時也「……」時也は怒りで頭が沸騰しそうになりながら、凛音に電話をかけた。「迎えに来てくれ。位置送る。あの遥真ってやつ、本当にどうかしてる。もうあいつのことは一切関わりたくない」凛音はのんびりした声で言った。「それ、あなたが甘やかしたんでしょ」時也の頭に疑問符が浮かぶ。「は?ちゃんと説明しろよ」「頼まれたら何でも聞いてあげるんだから、それ甘やかしでしょ」凛音は車のキーを手にして、気軽な調子で言った。「たまに思うんだけどさ、もしかして
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第375話

「どうして急にそんなこと思ったの?」安江は、肯定も否定もしなかった。「お金を稼ぎたいの。お母さんみたいにすごい人になりたい」柚香はこれまで、母親のことをあまり分かっていなかった。いろんなことを隠されていたから。しかし今は分かる。母はお金を稼ぐのがとても上手い。人脈も広い。誰にも頼らなくても、自分の力で自由に生きていける人だ。「あなたに残してあるお金だけで、一生困らずに暮らせるのよ」安江は彼女にそんな苦労をさせたくなかった。娘を産んだのは、ただこの世界を見せてあげたかったから。「陽翔を連れていても、何不自由なく過ごせるわ」柚香は初めて、一つのことにここまでこだわった。「でも、やりたいの」安江「そんなに?」柚香はうなずいた。「うん!」安江はやさしい目で彼女を見つめ、その揺るがない表情を見て問いかけた。「離婚のときに遥真が言ったことが理由?」「それも少しはある」柚香は正直に答えた。この間に、ずいぶん成長していた。「でも一番は、自分もちゃんと力をつけたいから。家族に頼ってばかりの人間にはなりたくないの」今回のことがあるまでは、そんなこと考えたこともなかった。小さい頃から両親に守られて、毎月好きに使えるお金をもらっていた。結婚してからは遥真がいて、陽翔の世話と家のことだけしていればよかったし、お金のことも気にする必要はなかった。しかし、いろいろ経験して分かった。自分に力があって、お金も自分で握っていないと、本当の意味で安心して生きていけない。何かあったときも、自分でちゃんと対処できる。「あなたはもう十分すごいわ」それでも安江は、やっぱり娘に苦労させたくなかった。「ダンスもイラストも、お母さんにはできないもの」「それじゃ生活できるくらいにしかならない」柚香は今、自分が何を求めているのかはっきり分かっていた。「ちゃんと稼ぎたいの。何があっても動じない自分でいたい。だから、教えて」「すごく大変よ」安江は言った。「大丈夫」今の柚香は、苦労することが一番怖くない。むしろそれが自分を満たしてくれる気がする。そして、安江はついにうなずいた。起業の基本について、簡単に説明する。「まずは自分の強みを考えて、どんなことをやるか決めなさい。決まったら、企画書を書いてお母さんに見せて」柚香「うん」安江は続
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第376話

安江は千尋の顔を見た瞬間、動きを止めた。この顔、どこか似ている気がする。柚香はそっと安江の腕に触れた。「お母さん」安江は我に返り、彼女の耳たぶにある赤いほくろを一瞬だけ見たが、特に何も言わなかった。「座って」その後、修司と千尋は一緒に安江の体調を気遣った。千尋は終始礼儀正しく、落ち着いた話し方で品があった。軽い挨拶が終わると、修司の視線がふと柚香に向いた。柚香はそれに気づき、遠回しにせずそのまま言った。「何かお用ですか?」千尋は少し意外そうな顔をした。こんなにストレートに話すとは思っていなかった。「少しな」修司が言う。「何ですか?」柚香ははっきりしていた。今日ここに来た目的が母の見舞いじゃないことくらい分かっている。二人の関係はそこまで良くないし、ましてや遥真との関係がかなり険悪な今ならなおさらだ。修司は安江を一瞥した。「少し席を外して話せるか?」「ここでいいです」柚香は彼と二人きりになる気はなかった。「お母さんに聞かれて困る話なんてないでしょう」修司は言った。「君と遥真のことについて話したい」「いいよ、話してください」修司はまったく遠回しにしなかった。「陽翔と安江おばさんを連れて京原市を出るつもりだろ。それを遥真には言ってない」柚香ははっとして顔を上げた。その目には警戒が浮かんでいる。「最近、時也がかなり動いてる。想像は難しくない」修司は彼女を見つめた。「私なら手伝える。遥真に気づかれず、止められずに出ていけるように」柚香は疑うように彼を見た。「目的は何ですか?」修司の細い目は感情を読み取らせない。「必要なとき、あいつの命を見逃してほしい」「……?」柚香の中で、うっすらとした予感が浮かぶ。「誰のことですか?」「遥真」修司ははっきり名前を出した。「私の弟だ」柚香は戸惑いでいっぱいだった。そんなことを彼が言うなんて思いもしなかった。前にもこの話ははっきりさせている。彼が遥真を本当に気にかけているわけじゃない。なのに、なぜまた同じことを?「裏はない。ただそのままの意味だ」修司は彼女の表情を見て、考えていることを察した。柚香は信じなかった。修司のような人が、そんな優しいことをするはずがない。安江は様子を見て、そして意識を失っていた間に柚香が耳元で話していた内容も思い出し
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第377話

柚香は彼らが帰ったあと、病室のドアを閉め、少し納得いかない様子で安江に尋ねた。「どうして修司の条件を受け入れたの? あの人、本当にいい人じゃないよ。目的のためなら手段を選ばないタイプだし」「わかってるわ」安江は、修司がかなり計算高い人間だと見抜いていた。柚香はさらに聞こうとした。「じゃあ、どうして……」安江は落ち着いて言った。「ただの取引よ」柚香は少し思い返す。彼は自分たちを京原市から逃がす代わりに、自分は遥真の命を見逃す。しかし、遥真が自分の命を奪わないだけでも十分なのに、どうして自分が彼を見逃す立場になるのか。「彼の言葉は一旦置いておきなさい」安江は、柚香がその条件に引っかかっているのを見抜いていた。「修司と遥真の関係をよく考えてみて」柚香は頭を働かせ、ほとんど一瞬で答えにたどり着いた。「つまり、私が京原市を離れることに遥真の注意を向けさせて、その隙にグループの主導権を奪おうとしてるってこと?」「そういうこと」その理由を知った瞬間、柚香の張り詰めていた気持ちはすっと軽くなった。自分を陥れるためじゃないなら、それでいい。あの二人がどう争おうと、自分には関係ない。その日の夜。遥真は一度病院に来て、安江の様子を気遣ったあと、柚香に修司のことを聞いた。それに対して柚香は、「友達を連れてお見舞いに来ただけ」とだけ答え、それ以上は何も話さなかった。遥真はどこか腑に落ちない様子だった。「それだけか?」柚香は表情を変えずにうなずく。「うん」「今夜、家に戻る?」遥真はそれ以上追及せず、安江の前で柚香の手を取った。「戻らない」柚香はさりげなく手を引き抜き、すぐに断った。「明日の朝、お母さんはリハビリがあるし、行ったり来たりするのは大変だから」遥真は言った。「陽翔が今夜帰ってくる」「え?」柚香は驚く。「明日の昼じゃなかったの?」「おばあちゃんが目を覚ましたって伝えたら、すぐ迎えに来てほしいって言われてな」遥真は腕時計に目を落とす。「時間的には、あと一時間ちょっとで着く」結局、柚香は家に戻ることにした。陽翔と、離れることについて話さないといけない。先に少しずつ気持ちを伝えて、彼の考えも聞いておく必要がある。もし彼が一緒に行きたいと言うなら、すべてをひっそり整えなければならない。も
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第378話

だが、気持ちは落ち着けていないといけない。「執事さんの車、途中でちょっとした事故にあって、修理で止まってたの」陽翔がむくれた様子でそう言った。「あとどれくらいで着く?」遥真が尋ねる。陽翔は運転席の執事の方を見る。執事はナビをちらっと見てから言った。「だいたい一時間くらいですね。前のトンネルで事故があって、少し渋滞してます」「聞いた?」陽翔が言う。遥真は相手にせず、隣の柚香に目を向けて言った。「上で少し休んできてもいいよ。着いたら呼びに行く」「いい。ここで待つ。どうせやることもないし」柚香は断った。遥真はそれ以上何も言わなかった。通話を切ったあと、柚香はリビングのソファに腰を下ろした。手持ち無沙汰になった彼女はスマホを取り出し、興味のある業界について調べ始める。この期間中に企画書を仕上げたいと思っていた。もしうまくいけば、京原市を離れたあと本格的に動き出すつもりだ。「柚香」遥真が隣に座る。柚香はスマホから目を離さず、そっけなく返事をした。「うん」「今日が何の日か覚えてる?」遥真はじっと彼女を見つめる。その目には、彼女の心がここにないことがはっきり映っていた。柚香は彼を見もせずに言う。「何の日?」遥真はずっと彼女を見つめたまま言った。「二ヶ月前の今日、君が俺に離婚を切り出した日だ」柚香は一瞬言葉を詰まらせる。少ししてから、彼女は言い返した。「そっちは?あなたが堂々と玲奈を囲うって言い出した記念日でもあるんじゃない?」「まだ怒ってる?」遥真は手を伸ばして彼女に触れた。柚香は手を止める。スマホから視線を外し、遥真の顔を見る。そして、その底の見えない黒い瞳と正面からぶつかった。次の瞬間、彼女は真剣な声で言った。「私が怒ってるかどうかも分からないの?分かってるくせに、なんでそんなこと聞くの」「ごめん」遥真は体を少し寄せ、真っ直ぐな目で言った。「ずっとスマホばっかり見てて、俺のこと見てくれないから。少し構ってほしかっただけ」柚香は胸の奥に怒りを押し込める。遥真は優しいときは本当に優しい。自分の感情を全部わかって、それに合わせて寄り添ってくる。けれど、腹が立つときは本当に腹が立つ。まさに今みたいに。「黙って俺のそばからいなくなるな」遥真は言い争うつもりはないのか、もう一度釘を刺す
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第379話

柚香は遥真の手を振りほどき、一言も返さずに階段を上がっていった。 さっき言われた言葉を思い返すたび、不安がどんどん広がっていく。もし本当に、彼が衝動的なことをしたら……そんな考えが浮かんだ瞬間、母や真帆に言われた言葉が次々と頭をよぎる。――遥真の狙いはあくまで自分。自分が振り向かなければ、多少取り乱すくらいで終わるはずだ、と。でも、本当にそれで済むのだろうか。相反する思いに引き裂かれながら、柚香は苦しいまま一時間以上を過ごした。結婚して五年、遥真が自分に怒りをぶつけたことは一度もない。このところの行動は目に余るものがあるとはいえ、「怒っている」とは少し違う。だからこそ、彼が本気で怒ったらどうなるのか、どんなふうになるのか、まるで想像がつかなかった。「コンコン」ドアがノックされる。「陽翔がもう柚苑の入口に着いた。あと数分で来る」ドアの外から、遥真の声がした。柚香はドアを開けると、彼のほうを一切見ず、そのまま横をすり抜けていく。遥真は並んで歩きながら、関係を和らげようと口を開いた。「何も言わずに出ていくんじゃないかって思っただけだ。怖がらせるつもりはなかった」柚香は答えない。――言ったところで、どうせ行かせてくれないくせに。「気が済まないなら、俺に当たっていい」遥真は彼女の手を引き、離れず寄り添う。「一人で抱え込むな。怒るのは体に良くない」柚香は足を止め、はっきりと言った。「自分で、ずいぶん都合のいいこと言ってるって思わない?」「……どういう意味だ」「本当に『怒るのは体に良くない』って思ってるなら、そもそも私が怒るようなことしないでしょ」柚香の中には不満が溜まっていた。正直なところ、できるなら穏やかに離婚したいと思っている。遥真は逆に問い返す。「じゃあ、君はどうなんだ」まだ怒りが残るまま、柚香は言い返した。「私が何?」「さっきの言葉、本音はどれだ。残るって言ったけど、本気でそう思ってるのか?」空気が一瞬で張りつめる。二人は向き合ったまま、誰も口を開かない。そのとき。「ママ!」陽翔の弾むような声が響き、小さな足で駆け寄ってきて、柚香にぎゅっと抱きついた。「会いたかった!」その瞬間、柚香の張り詰めていた気持ちがふっとほどける。「ママも会いたかったよ。最近どうだった?楽しかった?」
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第380話

「僕にとって一番大事なのは、ママだよ」陽翔が思わず口にした。柚香はその小さな手を握る。「じゃあ、こっそり連れて行っちゃおうか?」陽翔はいたずらっぽく笑った。「僕の方からついていくんだよ」柚香は本音を伝える。「このことは遥真には言わないつもり。おばあちゃんの容態がもう少し良くなったら、タイミングを見て離れよう」「うん!」陽翔はうなずいた。「理由、聞かないの?」柚香は、こんなにすんなり受け入れられるとは思っていなかった。「もしパパに言ったら、絶対行かせてくれないよ。ママに離れてほしくないから」陽翔はまだ子どもだけど、いろんなことをちゃんと見ている。「でも今回は、パパが悪い」本当は、パパとママに離れてほしくなんてない。でも、ママはここで幸せじゃない。だから離れるのが一番いい。「ありがとう、いい子ね」柚香はぎゅっと抱きしめた。子どもに理解してもらえて、支えてもらえることが、彼女には何より大きかった。話し終えて間もなく、遥真が上がってきた。二人の視線を受けて、彼は少しだけ不思議そうな顔をする。この空気は……「さっきの電話、あのおばさんから?」その電話は柚香だけじゃなく、陽翔もちらっと表示を見ていた。「ちょっと片付けないといけない用事があってな」遥真は否定せず、手を伸ばして彼の短い髪をくしゃっと撫でた。「あとでちゃんとしてろよ。ママに心配かけるな」陽翔は聞いた。「行かないってできないの?」遥真は一瞬、言葉を詰まらせた。「僕、あのおばさん好きじゃない」陽翔がこんなふうに気持ちをぶつけるのは珍しい。出て行く前に、パパに少しでもいい印象を残してほしかったからだ。「あのおばさんが来てから、うちバラバラになった」柚香は思わず抱く腕に力を込めた。遥真は唇をきゅっと結ぶ。しばらくしてから、口を開いた。「悪いな。昔、俺が彼女に借りを作った。今は少しずつ返していかないといけないんだ」「行くなら、もう『パパ』じゃなくて『おじさん』だよ」陽翔が珍しく強い言い方をした。いろんなことは分かっているが、それでもまだ子どもだ。普段は無邪気に遊んで騒いでいても、いざ離れるとなると、やっぱり寂しさはある。パパはママの次に自分を大事にしてくれる人だから、本当はずっと一緒にいてほしいと思っている。「今だってちゃんと『パパ
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