遥真が問いかけようとした瞬間、柚香が先に答えた。「私だよ」遥真はわずかに眉をひそめる。そして、ほとんど反射的に否定した。あの人の太ももには、自分を助けたときにできた傷跡がある。だが柚香の肌は全身どこを見ても白くなめらかで、傷ひとつない。「何を疑ってるのかは分かってる。あの傷なら、大学のときに病院で消したの」柚香の声は静かで、感情の揺れはなかった。「信じないなら、そのときの担当医に聞けばいい」遥真は考える間もなく首を振った。「笑えない冗談だ」柚香は続ける。「玲奈は、あの日どんな服を着てたか答えられなかったでしょ?」「だって真帆にあの話をしたとき、そんな細かいことまでは話してないから。でも私は覚えてる。あの日、私はピンクのワンピースを着てて、髪もそれに合わせて結んでた。足の傷は、あなたを引き上げて岸に上がるときに切ったの」柚香は、あの日の出来事を一つひとつなぞるように語った。遥真が覚えていないはずがない。幼い頃の「命を救われた恩」にあれほど執着している彼が、細部まで忘れているはずがないのだから。「約束、大事にする人でしょ?」胸の重さを押し込めながら、柚香は淡々と言い続ける。「だから、離婚してほしい。今日から私のことには一切関わらないで。表でも裏でも干渉もしないし、見張りもしない。離婚以外のことで、もう私の前に現れないで」遥真は目を伏せたまま、その場に立ち尽くす。一瞬で心が押し潰されたようだった。柚香は込み上げるものをこらえる。「それが、私にとって一番いい形だから」時也と恭介が追いついたとき、二人が向かい合ったまま張り詰めた空気に包まれているのが見えた。柚香が無表情のままこちらへ歩いてくるのを見て、時也の胸がざわつく。「まさか、もう遥真に全部話したのか……」「様子を見る限り、そうでしょうね」その場から動かない遥真を見つめながら、恭介が言った。社長の立場で言えば、約束を重んじるのは間違っていない。でも柚香さんの立場で言えば、彼に傷つけられたことを思って離婚を望むのも無理はない。柚香が近づいてくると、時也はその前に立ちはだかった。「遥真に、何を話した?」「あなたが言えなかったこと、全部」言いよどむ時也に、柚香は隠さず続ける。「約束を守って、離婚してって言った」「彼がどれだけ君を大事にしてるか分かっ
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