All Chapters of あざとい女に夫も息子も夢中!兄たちが出動!: Chapter 221 - Chapter 230

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第221話

いつの間にか、彼ら三人の名前は何度もネットのトレンドに上がっていた。だから今回、真奈美が事件を起こしたことで、竜也の偽証の件も掘り起こされてしまった。【マジかよ?義理の妹を助けるために、偽証して奥さんに罪をなすりつけるなんて。夫がすることじゃないだろ?】【偽証したのは杏奈さんの息子だって聞いたけど、あんな小さい子が自分からやるわけない。絶対父親にそそのかされたんだよ。杏奈さんはかわいそすぎ。息子と夫にハメられるなんて】【刑務所で誰かに手足の腱を切られて、もう使い物にならない体になったって話だよ!】【そうそう、俺は彼女の患者だったんだ。3ヶ月前、手術室の前でその家族がわざわざ面倒を起こしに来てるの、この目で見ちゃったよ!】【そうなの?やっぱりお金持ちの家に嫁ぐと大変なんだね!】【まったくだよ。杏奈さんって、病院じゃゴッドハンドって言われるくらい有名な外科医だったのに。腱を切られて、もう二度と手術はできないなんて、本当にもったいない】【うん、それにさ、彼女の手足は本当は治るはずだったらしいよ。旦那が治療させないで引き延ばしてたせいで、タイミングを逃して、一生治らなくなっちゃったんだって】【ってことは、俺たちを救ってくれるはずのすごいお医師さんが、あのクズな男女のせいでダメにされたってことか?】【あのクソ野郎ども、きっとろくな死に方しないよ!】……ネットのユーザーたちは、かつて杏奈を激しく罵ったのと同じ熱量で、今はその憎しみを竜也と真奈美に向けてきたのだった。竜也が苦労して契約を取り付け、立て直したばかりの中川グループだったが、彼のイメージダウンによって再び影響を受けてしまった。そして、これらの罵詈雑言に竜也は険しい表情で目を通した。偽証のことも、杏奈の治療を遅らせたことも、どちらもごく内輪の話のはずだ。なぜネットの連中が知っているんだ?しかも、これほど詳しいなんて。この瞬間彼は、なにやらこの裏には黒幕がいるとようやく気が付いたのだった。何より、杏奈の行方が分からないこのタイミングでこんな騒ぎが起きたのは、まるで周到に準備されていたかのようだった。しばらく考え込んだ後、竜也は裕也に言った。「この件には一切反応するな。それより、中川グループが今年行なった​チャリティーイベントをまとめて、タイ
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第222話

健吾にこうして口説き文句っぽく言われ、杏奈は呆れてしまった。また始まった。鈴木家に帰ってきて数日が経ち、ここでの暮らしに慣れてくると、彼女はアトリエのことを思い出した。アトリエのことを考えると、健吾に借りた4000万円のことが頭に浮かんだ。2000万円は投資で、もう2000万円は個人的な借り入れだった。今はお金に余裕があるから、返さなくちゃ。「健吾さん、口座番号を教えて。お金を返したいの」「お金?」健吾は何のことか、すぐにはピンとこなかった。「忘れたの?前に4000万円で、祖母の絵を落札するのを手伝ってくれたじゃない」そう言われ、やっと記憶が蘇った健吾は、ふっと笑って言った。「あれはあなたのアトリエへの投資じゃなかったかな?」「投資してくれたのは2000万円でしょ。それに、アトリエはまだ本格的に始めてないから。だから先に、借りた分の2000万円を返すわ。2ヶ月分の利息をつけて2200万円でどうかな?」「あなたは今、ずいぶん羽振りがいいね。じゃあ、遠慮なくいただくよ」そう言って、健吾は杏奈に口座番号を送った。杏奈はそれを受け取ると、すぐにお金を振り込んだ。健吾は「受け取ったよ」と連絡すると、杏奈ととりとめのないおしゃべりを始めた。一方で、杏奈はイヤホンをしながら、寝室の壁に恵の絵を飾りつつ、健吾と話していた。「どう?鈴木家の暮らしにはもう慣れたかい?」「まあまあかな。兄さんたちがすごく良くしてくれるの」ただ、すぐにここの生活に慣れることはできなかった。彼女にはもう少し時間が必要だった。健吾は、杏奈が口にした「兄さんたち」という言葉に、少し引っかかるものを感じたようだ。「住所を教えて。湿布を送ってあげるから」「ここに来る前に、宮崎さんから湿布をもらったわ」「彼女はまた調合を変えたんだって。だから俺から送るように頼まれたんだよ」杏奈は少し不思議に思った。凪が調合を変えたなら、直接自分に住所を聞いて送ればいいのに。どうしてわざわざ健吾を通して送ってくるのだろう?でも、彼女はそれ以上何も聞かず、健吾に住所を教えた。健吾はさらに、竜也と真奈美の最近の様子を杏奈に伝えた。その話を聞いても、杏奈の気持ちは特に揺れ動かなかった。もう彼女の中で、自分と中川家や久保家とは何の関係もないのだ
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第223話

怒ってるっていうわけではないが……ただ、なんだか騙されてたみたいで、あまりいい気はしなかっただけなのだ。でも、克哉は杏奈にとって憧れの人。その憧れの人が目の前で、心配そうに自分を見つめているのだから、これじゃあ、怒る気にもなれないよね。「怒ってないよ」「それならよかった」そう言って、克哉はすぐに杏奈の手を引いて、階段を上っていった。「君にプレゼントがあるんだ、見せてあげるから早く来て!」こうして、杏奈は彼に手を引かれるまま、階段を上った。三階にはとても大きな部屋があった。四方に窓があって風通しが良さそう。夜には月の光が差し込んで、明かりをつけなくても部屋の様子がはっきりわかるくらいだ。そして、壁際には本棚が並び、大きなデスクが置かれている。それに、ベッドのそばにはイーゼルと椅子もあった。克哉が部屋の明かりをつけた。明かりが灯ると、家具たちが生き生きと色づいた。無垢材の本棚とデスク、フローリングも木製だ。ドアの近くの棚には、絵の具がぎっしりと並んでいるのだった。それは機能的で、しかも居心地の良さそうなアトリエだった。「君が京市にいた頃からデザイン画を描くのが好きなのは知ってたよ。このアトリエは、デザイナーに頼んで急ピッチで仕上げてもらったんだ。どう、気に入ったか?」杏奈はこくこくと頷くと、胸がじーんと熱くなるのを感じた。「でも、どうして私が服飾デザインが好きなのを知ってたの?」杏奈が気に入ってくれたのを見て、克哉は心の底から嬉しくなった。そして、杏奈の問いに、彼は得意げに胸を張った。「君の好みを知りたいと思えば、いくらでも方法はあるさ」克哉がもったいぶって言うので、杏奈はすぐにピンときた。そういえば、前にインスタにデザイン画をアップしたことがあったっけ。きっと彼がそれを見たんだろう。克哉は急に杏奈の肩を抱き、アトリエの中へと促しながら、部屋のあちこちを説明し始めた。「この本棚と中の本は、豪さんが担当だ。彼は自分のセンスは一流だと思ってるからさ。それに、デザイン業界のすごい人たちに色々聞いて、この棚いっぱいの本を揃えたんだ。いろいろ読めば、きっと君の役に立つよ。この絵の具と絵筆は、空さんが買ったんだ。前に診てた患者さんに色彩の専門家がいて、その人の家にあった画材が、君にぴったりだと思
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第224話

それから、アトリエの見学を終えると、克哉は杏奈を連れて階下へ降りた。そこに他の三人の兄弟が待っていた。克哉と杏奈が降りてくるのを見ると、啓太は面白そうに、彼の顔色を窺った。しかし、克哉の顔色は明るく、前を歩く杏奈もなんのわだかまりもない様子だった。すると、啓太は少しがっかりした。ちぇっ、うまく機嫌を取られてしまったのか。杏奈が怒って、克哉が困っているところを見たかったのに。それか杏奈が怒って10日ぐらい彼を無視してくれれば、もっと面白くなったのになあ。一方で、豪も仕事用のパソコンから目を離して、杏奈を見た。この数日間、豪は杏奈がこの家に来たばかりで、まだ馴染めていないのを感じていた。でも、一緒に過ごすうちに、彼女が明らかにリラックスしてきたのも分かった。もう少しすれば、杏奈も本当にこの家の一員になってくれるだろう。「杏奈、君もこの家に戻ってきたんだから、そろそろ正式に家族として籍を入れよう。1週間後が大安なんだ。その日にどうかな?両親にも言っておかないと」そう思って、豪は杏奈に尋ねた。杏奈は頷いた。「それから名前のことだが、籍を入れる時に、名字を『鈴木』に変えないか?」「いいわ」鈴木杏奈。杏奈は口元に笑みを浮かべた。その名前が、とても気に入ったのだ。今日から、自分の人生は新しいステージに入るんだ。……一方で、京市。竜也は飛行機に乗り、自ら亮太の住む場所へと向かった。そして、亮太の前に一枚の小切手と書類を置いた。「この金があれば、お前の娘は一生食うに困らないだろう。学業から就職まで、あの子の将来は俺が保証してやる」亮太は、警戒しながら竜也を見つめた。「何をするつもり?」「警察に出頭しろ。そして、こう言うんだ。あの夜、お前の母は末期がんで、保険金目当てでわざと車に飛び込んだ、と」「ふざけるな!」それを聞いて、亮太は怒りのあまり、全身をわなわなと震わせた。ひき逃げは仕方ないとしても、一度偽証までしたんだ。これ以上、死んだ母親を貶めるようなことなんてできるわけがない。だが、亮太の激しい怒りを前にしても、竜也は少しも動じなかった。彼は亮太の前に腰を下ろし、その落ち着き払った目には、かすかな侮蔑の色が浮かんでいた。そして、竜也は淡々と口を開いて言った。
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第225話

「中川さん、あなたみたいな人間は一生愛する家族を持つ資格なんてないだろう」それから2日後。真奈美は釈放された。ネットでは、真奈美のひき逃げ事件について、新たな話題で持ちきりになっていた。以前は真奈美のひき逃げを叩いていた人たちも、みんな彼女に同情し始めていた。【だから言ったじゃん、真奈美ちゃんは濡れ衣だって。信じなかった人、今どんな気持ち?】【もうネットなんて信じない。久保家の姉妹が立て続けに陥れられて、結局は被害者の自作自演だったなんて。それじゃ今まで、私がネットで毎日悪口言ってたのは何だったの?】【でも、ひき逃げはひき逃げでしょ。たとえ被害者が自分から飛び込んできたとしても、人を轢いて逃げちゃダメだよね】【聖人ぶってんじゃないわよ。逃げなかったら、当たり屋にゆすられるだけじゃん】【そういう人たちってマジで頭おかしい。いくら被害者の計画だったとしても、推しがひき逃げしたのは事実でしょ。それでもまだ擁護するの?】【逃げずにその場でゆすられろって?正義感ぶって、心が広いこと!あなたがいつかハメられた時も、大人しく飲み込めばいいよ!】【真奈美ちゃんは事件が起きてから今まで、相手がわざとだったって少しも気づかなかったわけないよね?黙ってこの苦しみを受け入れて、山下って男にあんなに大金を払ったのも、きっと山下家を守るためなんだわ。真奈美ちゃんはなんて優しいの!】【そうだよ、それを聞いてようやくわかったよ!真奈美ちゃんの立場と力があれば、山下家のやり口を知ってたはず。それでも罪をかぶったのは、彼らが苦しむのを見たくなかったからなんだ。自分は名誉とお金を失うだけだからって、助けようとしたに違いない】【真奈美ちゃんのために泣いちゃう。世界にこんなに可愛くて優しい女の子がいるなんて】【真奈美のファン、無理やり持ち上げるのやめなよ。本当にそんなに優しいなら、どうして実の姉に身代わりになんてさせるわけ?】【自分の意志で身代わりになったに決まってるでしょ。じゃなかったら、杏奈さんが自分で出てきて説明しないなんておかしいじゃない】【そうだよ。真奈美ちゃんはみんなに愛されてるんだから、杏奈さんって彼女が傷つくのは見たくなかったはず!】……ネット上でのあからさまな、あるいは陰湿な言い争いが、静かにこの事件への注目度を高めて
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第226話

一方で、健吾が真奈美の出所の知らせを聞いたのは、ちょうどN市への出張を計画していた時だった。洋介が彼に報告した。「社長、真奈美さんは竜也さんが助け出したようです。竜也さんはここんとこ、ずっと杏奈さんを探しているようです」健吾はスケジュール表を見ながら、静かにうなずいた。彼は、竜也が真奈美のためなら、これほど無茶なことをするだろうととっくに予想していた。「証拠は集まったか?」「はい、すべて揃っています。竜也さんが山下さんを脅迫した一部始終も、動画で記録済みです」健吾はうなずいた。「しばらくは持っておけ」今の竜也の側にはバークがいる。中川グループを潰すには、まだ百パーセントの勝算はない。だが、この恨みは必ず晴らすつもりだ。「それと、圭太さんもひそかに杏奈さんを探しているようです」圭太?健吾はそこで初めて顔を上げて洋介を見た。その目は一度険しくなったが、すぐさま鋭い光を放った。「そろそろ久保グループに手をつける頃合いか」……一方で、杏奈。いや、今は「鈴木杏奈」と呼ぶべきか。鈴木家の墓参りの前日、豪はすでに彼女を連れて戸籍を移し、正式に「鈴木杏奈」と改名させていた。そして今、豪と他の三人の兄たちは、明日の墓参りの準備で大忙しだった。杏奈が手伝おうとしても、止められてしまった。「君は、こんなこと気にしなくていいんだよ。楽にしていればいい!啓太がお菓子を選んでおいたから、ここでテレビでも見ながら食べてな。もし気に入らなかったら言えよ、別のを持ってきてやるから!」空はそう言って、湿布を貼った杏奈の手首を手に取り、様子を確かめた。「この湿布はよく効くな。君の手首と足首はひどい怪我だが、治せないわけじゃない。安心しろ、俺が必ず治してやる。君はゆっくり休んで、明日に備えるんだ」そして、空は杏奈の頭を撫でると、笑顔でまた準備に戻っていった。杏奈はふかふかのソファに座り、片手にお菓子、もう片方の手にタブレットを持っていた。家の中を忙しそうに行き来する兄たちの姿を見て、心が温かくなった。そして、杏奈は思わず微笑んだ。彼女はこの瞬間、ようやく家族というものの温かさを感じることができた。四人の兄たちは、本当に優しくしてくれているのだ。なんだか、現実とは思えないくらいだけど、それ
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第227話

彼は真奈美のためなら、本当になんだってするようだ。だが、今となっては、竜也と真奈美のことを目にしても、杏奈の心はもう波立つことはなかった。この二人は今の彼女にとって、ただの赤の他人に過ぎないのだから。それから、杏奈は睦月に、名前を変えて鈴木家に戻ったこと、そしてもう京市とは何の関係もなくなったことを伝えた。睦月は、心から彼女のことを喜んであげた。次の日の朝。杏奈は四人の兄たちと一緒にお墓参りに行き、先祖代々に報告を済ませると、正式に鈴木家の一員になったのだ。そして、豪は、真剣な手つきで杏奈の名前を家系図に書き入れた。「杏奈、今まで大変だったな。でも、もう家に帰ってきたんだ。これからは俺たちが君を守るから、絶対に悲しい思いはさせないようにするね」そう言われ、杏奈は目を赤くして、幸せの涙をいっぱいに浮かべた。墓参りを終えると、兄たちはそれぞれ忙しかったから、啓太以外の三人の兄は、みんな仕事先へ向かったのだった。一方残された啓太は、杏奈の隣に座るとこっそり聞いた。「杏奈、今日の午後カーレースがあるんだけど、行かないか?」そう聞かれ、杏奈は、思わず手首を動かしてみた。「でも、私はいまレースには出られない」「君に出ろって言ってるんじゃないよ。見に行くだけ。俺が友達を紹介してやる」ちょうど杏奈もアトリエにする物件を見に行きたかったので、その誘いに乗ることにした。「いいよ。でもその前に、一か所付き合ってほしいんだけど」「どこへ?」啓太は不思議そうに妹を見た。30分後。二人は、N市の商店街の中心あたりにある貸店舗の前に立っていた。そこで、啓太は驚いたように杏奈を見た。「君は、ここを借りるのか?」杏奈はうなずき、ふと尋ねた。「ダメかな?」「もちろんいいに決まってるだろ!気に入ったならすぐ借りちゃえ!金は足りるのか?足りなきゃ俺が出してやる」そう言うと啓太はスマホを取り出して、杏奈に送金しようとした。杏奈は、慌てて彼を止めた。「お金なら大丈夫。この前あなたたちがくれた分で、しばらくはやっていけるから」「あれっぽっちで足りるかよ。店を借りるってことは、アトリエを開くんだろ?最初は金がかかるもんだ。幸い、俺たちはお金にだけは困ってないからな。俺が応援してやるよ!」そう言って啓太は
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第228話

1時間後。杏奈と啓太は次々と車を降り、「アロン・レーシングクラブ」と書かれた大きな門の前に立った。「ここは友達がやってるレーシングクラブなんだ。今日はここで、親善試合があるんだよ」「親善試合って?」「まあ、道場破りみたいなもんだな。賭けられてるのは、このクラブ全部だ」杏奈は目を見開いた。「そんな大きなものを賭けてるの?」それじゃあ、ただの道場破りなんかじゃないじゃない。相手は、ここのオーナーとよっぽど仲が悪いのかもしれない。そこで、啓太は頷いて言った。「俺のダチで松田哲也(まつだ てつや)ってのがいるんだけどさ。相手とはずっと犬猿の仲で、この間なんて女のことで殴り合い寸前までいってな。それで今日のレースが決まったんだ。このクラブも、賭けの一つってわけ」杏奈は呆れてしまった。「どっちもレーサーで、ライバルなんでしょ。レースで決着をつけたいなら分かるけど、どうして女の人を巻き込む必要があるの?」杏奈の軽蔑するような口ぶりに、啓太は返す言葉もなく、鼻を触りながら黙り込んだ。「お兄さん、私に何をしてほしいの?」そこで啓太は口を開いた。「前に君のレースを見たことがあるんだ。君は運転がうまいだけじゃない。レースの戦術にも詳しいだろ。だから今回は、君に哲也のチームの監督を頼みたいんだ」杏奈は眉をひそめた。「でも、ここのレーサーのこと、全然知らないんだけど」「だから、こうして事前に顔合わせに来たんじゃないか」そして、杏奈が状況を飲み込む前に、啓太は彼女の手を引いてクラブの中へ入っていった。それから、啓太は杏奈を連れて、バックステージの控え室へ向かった。ドアを開けると、中には五人の男たちが立ったり座ったりしていた。啓太は杏奈を中に連れて入ると、紹介した。「みんなに紹介するよ。俺の妹の鈴木杏奈だ」「妹?」五人の男たちはお互いに顔を見合わせ、不思議そうに啓太の方を見た。「お前に妹がいたなんて、聞いてないぞ?」「血の繋がった本物の妹だ。最近、見つかったんだよ!」啓太は得意げな顔で、杏奈の肩を抱いた。「マジか!よかったな、おめでとう!」五人の男たちは途端に目を丸くして、嬉しそうに言った。「杏奈ちゃん、初めまして。俺たちは啓太とマブダチなんだ」男たちは杏奈の周りに集まり、それぞれ自己
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第229話

そこで、啓太はコホンと咳払いをして言った。「俺が前に京市へレースを見に行ったとき、ある女の子の走りを全部動画に撮ったのを覚えてるか?」五人は頷いた。そして、哲也もはっと我に返ると、杏奈を指差した。「お前の言いたいことって、まさか……この子がその本人だってことか?」「信じられないなら、動画を開いて見比べてみろよ。本人かどうか」五人は驚いてスマホを取り出すと、保存してある動画を開いて見比べた。すると、運転席に座っていた女性は、ぼやけてはいるものの、顔立ちは杏奈とそっくりだった。それがわかると、五人は一気に興奮した。「本当に杏奈ちゃんだったのか!あのレースを見た時、この子の運転テク、マジで神だと思ったんだよ!しかも当時彼女はまだ成人したばかりだっただろ?それで何年も経験をつめば、世界チャンピオンも間違いなしと思っていたんだ!」「ああ、テクニックだけじゃない。戦術も完璧だった」「杏奈ちゃん、ちょうど今度の親善試合があるんだ。俺たちのために作戦を立ててくれよ!」……一方で、杏奈もこの五人がこんなに自然に自分を仲間に入れようとするとは思わなかったから、彼女は思わず兄の啓太の方を見た。啓太は杏奈の頭を撫でた。「君を連れてきたのは俺の一存だけど、ちゃんと君の気持ちも尊重するからな。もし嫌なら、無理強いはしない」杏奈は黙って啓太を見ていたが、心の中では呆れ返っていた。もうここまで来て、こんなに大勢に見られてるのに、断れるわけないでしょ?そして、杏奈が頷いて了承するのを見ると、啓太は興奮して彼女をソファに座らせた。「さあさあ、杏奈にそれぞれの状況と、相手チームのことを説明してやってくれ」……1時間後。杏奈は、各レーサーの状況をおおむね把握した。彼女は少し考えると、一つの作戦案を提示した。しかし話し終えた、その時だった。場違いな声がドアの方から聞こえてきた。次の瞬間、控室のドアが開かれた。控室のドアの前に現れたのは、見覚えのある姿だった。杏奈は驚いてその人物を見た。それは荒井浩平(あらい こうへい)だった。冬馬の従兄だ。浩平は冬馬と仲が良かったが、彼の一家と荒井グループはあまり関わりがなく、会社も冬馬の家から独立して別の会社を立ち上げていたからだ。浩平は幼い頃からレース
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第230話

まさか啓太がいきなり殴りかかるとは、誰も思っていなかった。殴られた浩平本人ですら、何が起きたのかわかっていないようだった。やがて彼は我に返り、激しい怒りに襲われた。だが、浩平はすぐに、啓太の言葉に引っかかるものを感じた。「妹?」浩平は啓太に視線を送り、それから杏奈に目を向けた。顔を殴られても、その性悪な口は治らないらしい。「へぇ?今度は兄妹ごっこかい?」「貴様、殺されたいのか!」啓太が腕を振り上げ、再び浩平に殴りかかろうとしていると、それをチームメイトが慌てて止めたのだった。杏奈も急いで駆け寄り、啓太の手を掴んで優しく声をかけた。「お兄さん、こんな低レベルな人の言うことなんて、気にしないで」一方で、自分がバカにされているのに気づくと、浩平の顔がみるみるうちに険しくなった。「杏奈、もう一度言ってみろ!」「あなたのことよ」杏奈は冷たく浩平を見つめた。「8年前からあなたはずっとゲスだったけど、今はもっと醜くなって口も臭くなったわね。結局、気持ち悪いところはずっと変わってないんだから」杏奈の言葉の一つひとつが、まるで鋭いナイフのように浩平の心をえぐった。浩平は、目から火を噴きそうな勢いで杏奈を睨みつけた。「クソ女、言えるもんならもう一度言ってみろ!」彼は杏奈を指さし、殴りかかろうとしたが、仲間に止められた。一方で、啓太も杏奈の手を引き寄せ、彼女をかばうように斜め前に立った。浩平には、なぜ啓太が杏奈をそこまでかばうのか理解できなかった。彼女はたかが旦那に捨てられた女なのに、それをまるでお姫様扱いにするなんて。「おい、そんな構えなくたっていいだろ。あなたの家柄には逆らえないってのはわかってる。でもな、今日はレースの日だろ。こんな恥知らずな女を連れてきて、気分を悪くさせるつもりなのか?」それを聞いて、啓太は自分の堪忍袋の緒が切れかかりそうだと感じた。そして浩平がさらに妹を侮辱し続けているのを耳にして、彼は狂気じみた笑みを口元に浮かべた。「哲也、今日のレースはぶち壊してしまうかも。埋め合わせはまた今度するからな」そう言われ哲也は、啓太の言葉の意味を飲み込めずにいたが、次の瞬間、啓太は勢いよく飛び出すと、浩平を蹴り飛ばしていたのだった。そして、彼は浩平を地面に押さえつけると、鋼のような拳を
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