杏奈は少し考えてから、過去のできごとをぽつりぽつりと話しはじめた。かつて、真奈美が久保家に戻った直後、冬馬が婚約破棄を申し出に来たこと。でも、冬馬は真奈美と結婚してたった1ヶ月で病死してしまった。それなのにどういうわけか、浩平は杏奈が冬馬を殺したのだと決めつけたこと。それから京市にいた間、浩平は杏奈にあらゆる嫌がらせをしてきたこと。そしてその嫌がらせは杏奈が竜也と結婚し、そして浩平もまたN市にいるようになって、離れ離れになってから、あの地獄のような日々がようやく終わったのだ。杏奈の話を聞き終えた啓太は、彼女のことをとても不憫に思った。でも彼は何も言わず、ただ杏奈の頭をなでて、一緒にクラブを出た。……一方、中川家。渉が亡くなった後、遺言により、中川グループは竜也の手に渡った。竜也の伯父一家はわずかな株しか相続できなかったことで、中川家の屋敷でひとしきり騒いだが、それでもどうにもならず、帰って行った。そして、竜也の父親の豊も海外での仕事が片付かず、渉の法事が終わるとすぐに発ってしまった。今回は陽子も、夫と一緒に海外へ向かったから、こうして広大な中川家の屋敷には、竜也と浩の二人だけが残された。だだっ広い屋敷は、今やしんと静まり返っているのだ。浩が階下に降りてくると、リビングの窓際で電話をしている竜也の姿が見えた。「役立たずが!もう2週間だぞ、影も形も見つけられないとは!あと3日やる。それでも情報を持ってこなければ、お前はクビだ!」記憶にある父親が、こんなに激しく怒ることはほとんどなかった。浩は階段の途中で立ち止まり、心配そうに彼を見つめた。そこへ使用人が真奈美を案内してくると、浩の顔に久しぶりに笑顔が浮かんだ。彼はすぐに駆け寄って、真奈美に抱きついた。「真奈美おばさん、やっと来てくれたんだね。パパの様子を見てあげて。ここ数日、すごく怖いんだ!」浩はそう言って真奈美を見上げ、その顔は心配と不安でいっぱいだった。真奈美はしゃがみこむと、優しく浩の頬をなでた。「大丈夫よ。ママが、ちゃんとパパをなぐさめてあげるからね」「ママ」という言葉に、浩は一瞬きょとんとしたが、すぐに嬉しそうな顔で彼女を見上げた。これでやっと、真奈美おばさんが自分のママになってくれるんだ。浩は真奈美が竜也の
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