そう思いながら豪も、杏奈のために取り分けてあげて、彼女の目の前に置いてくれた。「杏奈、京市での用事はもう全部済んだ。京市の友達にはちゃんとお別れを言って。明日からは、俺たちも滅多にここへは来なくなるからな」豪のその言葉は、わざと健吾に聞かせつけるためのものだった。杏奈は今や鈴木家の大切な娘だ。健吾が気安く声をかけられるような相手ではないのだと、釘を刺しているのだ。それを聞いて、隣で面白そうに成り行きを見守っていた翼が、とうとう我慢できなくなったように杏奈の方を見た。「君は、本当に鈴木家の、昔いなくなったっていう末の娘だったの?」杏奈はこくりと頷いた。翼はさらに聞いた。「明日、もう京市を発っちゃうのか?」杏奈は、またこくりと頷いた。翼は箸を置くと、少し拗ねたような顔で杏奈を見た。「中川さん、俺たち知り合って結構長いし、もう友達だろ?なのに、黙って離れるなんて水臭いじゃないか。どうして一言も言ってくれないんだ?」「だって、まだ言うタイミングがなかったんですもの」翼は健吾を指差した。「じゃあ、なんで健吾さんだけ送別会に呼んでるんだよ?」「送別会って、これからもう会えないわけじゃないでしょう?」杏奈は眉間にしわを寄せて翼を見た。翼は、自分が失言したことに気づいた。健吾の顔がみるみるうちに険しくになっていくのを見て、慌てて自分の口を軽く叩いた。「わかった、わかった。俺が悪かったよ」彼は小さくため息をつくと、わざと冗談めかして杏奈に言った。「うちの会社に入って、チーフデザイナーになってくれるって期待してたのによ。まさかここを離れるなんてさ。残された俺と健吾さんはどうすりゃいいんだよ?」翼のその一言で、皆が意識しないようにしていた別れの空気が、急に現実味を帯びてきた。すると、杏奈は笑顔で翼を見つめた。「これからも、御社とは協力関係を続けさせていただきます。それに、自分のアトリエを持ったら、どうかお力添えをいただければと願っていますから」「それはもちろんだ」翼は健吾にちらりと視線を送ると、ニヤリと眉を上げた。「ま、誰かさんが寂しさで夜も眠れなくなるんじゃないかって、それが心配だけどな」すると、翼の向かいに座っていた健吾は、その言葉を聞くやいなや、テーブルの下で彼のすねを蹴り上げた。翼
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